【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
続きは3日後。
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
「オゥ青海ィ、ちぃと面貸せや」
「はいはいなんですか」
朝食後、自室にて鹿野ちゃんを腹の上に乗せのんびりと寝ころんでいると、明星先輩がやって来て開口一番ヤキ入れられそうなお誘いを受けた。
彼女は理由もなくそういう事するタイプじゃないのは知っているので、鹿野ちゃんに一言謝ってどいてもらい、ホイホイついていく事にした。まぁ理由あれば明星先輩からならヤキ入れられてもしゃーないし。
そうして先導する明星先輩と楽しく鈴蘭高校最強ランキングについて議論していたら、気付けば街から出て街道に来ていた。はぇ?
いやいや先輩、僕今日円盾もナイフも持ってきてないっすよ。
門から出てそこまで来ていないとはいえ、この世界の街の外は普通に魔物とエンカウントする危険地帯だ。DQだって街から一マス動くだけで出くわすでしょ。
「あん? いいよそんなもん。どうもよ、こんなに身体動かさない日が続くと鈍っちまってさぁ。今日はオレが動くから、オマエはバフと話し相手になってくれりゃそれでいい。心配すんなって! オマエにゃ傷一つつけさせねぇからよ」
嬉しそうに屈伸しながら、あっけらかんと先輩はそう言い放つ。
……ま、ええか。
出発前にもってこいと一言言ってくれればいいだけだし、不測の事態を思えば最低限の自衛手段くらい持っておきたいのは当然なのだが、やっちゃった事をとやかく言うつもりは無い。
これがみんなに危険が及ぶ話ならともかく、なんかあっても被害が僕だけなら気にする程のもんでもなかろう。
「わかりましたー。とはいえ見てたら僕も動きたくなっちゃうし、次は武器防具持ってきますよ」
「あー、そらそうか。今回は我慢してくれや」
「あーい。後ろで応援しときます」
責めるのではなく納得をさせる言い回しで、念の為釘を刺しておく。これを他の人にやっちゃったら大変だからな。……つっても、今や委員長ですらトカゲくらいなら拳一発で爆散させれちゃうんだけど。
指先で弾かれた銀貨を両手でなんとかキャッチすると、僕と彼女の間をしっかりとした黄金の光が繋ぐ。
一度繋がったオーラはバフが消えるまでの間、光らせ続けるか見えなくするかのオンオフを選べるので、最近なんてちょっと部屋暗いなと思ったらみんな僕に銅貨一枚を渡すようになってるからな。
その程度の額なら僕も貰うのに罪悪感が無くなってきたぞ、親の手伝いして小遣い貰う追体験みたいなもんだし。でもこれに慣れるとなんか良くない気がします。
ルンバでバフ自販機で蛍光灯で従順なロボットでもある僕は、やはり一家に一台欲しいと大変好評を博している。目黒さんから2台目も予約できないかと真剣に相談を受けた。ごめんけどまだ増産の予定は無いです。
先生や悪王寺先輩、明星先輩らからは肩揉みも100点花丸ですと太鼓判を貰ってるし、そろそろマッサージ機も兼任できそうだ。
バーチャルアシスタントには到底できねぇ現実世界での作業は、どうぞ僕にお任せください。OK Google、ヒモに負けた気分はどう?
そういやさぁ、ここんとこみんなちょっと僕にお金じゃなく物も渡してくるようになってんだよね。
昨日なんか「青海先輩に似合うと思ったので」って小金井さんから、青く染まった革の小物入れ貰っちゃったんだよなぁ。めっちゃ気に入っちゃってんのコレ。カッコよすぎる。これに似合う男になんなきゃな。
とはいえ悪いよこんな高そうなのっつったんだけど、「でしたら売ってお金に変えてもらっても良いのでバフの為って事で」なんて言い包められちゃってさ。僕も女の子からプレゼント貰った経験ほぼ無いから、内心ハチャメチャに嬉しいし強くは返せなくて。
でもこれスゲー良いもんなんだよ多分。だってその後の小金井さん、ボス戦くらい光ってたもん。
そんな未確認発光商人となった彼女を、バッチリ悪王寺先輩に目撃されて後からチクチク突つかれ、根掘り葉掘りなにがあったか聞き出そうとされたし。
偉大な相手だから輝いて見えた可能性もある、という言い訳は通用しなかった。まさか本当に眩しい理由の方を訊いてこられるとはね。お手上げや。
いろいろと言い逃れに釈明にごまかしを重ねに重ねる事で、なんとか今夜一緒に混浴を巡り可愛い女の子を探す旅に出る約束で許してもらえた。もっとヤバい事になっちゃったねぇ。
いや、うん、大丈夫。自分でもこれはホントにマジで絶体絶命になってしまったと思っているから。ワイは一体どうしたらええんや……?
心の中のやきうのお兄ちゃんたちも答えは持ち合わせていないらしくレスは無かった。未来は己の力で切り開くしかないようだ。しかしなにくそヒモの本領を発揮してやらぁとも言えんのよな。なぜなら普通ヒモはそんな事態に陥らないからだ。
……まぁ、なんとかしよう。詳しくは今夜の僕の頑張りをチェックだ。
それまでにハンサムのポルナレフが突如反撃のアイデアをひらめくと期待する他無いってこと。
明星先輩に繋がるバフは、そんな小金井さん程までとはいかずとも、地下墓地に潜ってた頃に比べればかなりハッキリとした光度になっている。暗い寝室で見ると眠れなくなるスマホくらい明るい。
これは金額の多寡もあるけれど、たぶん僕らの仲の良さや信頼感に伴う強化だと思うと、頬が緩むほどに嬉しい。
この人の為になにかができているのだという実感が、僕の胸を満たしている。
彼女、明星 明音にはそういった人を惹き付け従わせる魅力がある。
この人の為に動きたい、褒められたい、認められたい。
それは
多分だけどこの魅力は、彼女が聖女になってからいや増しているように思われる。
肩書が人を作るなんて「にんげんがさき 肩書は後」とみつをに説諭を受けそうな言葉もある通り、なんつーか使命感や責任感みたいなものを自然と明星先輩は帯びており、その姿勢・意気込みが天性のソレを更に引き立てているのだ。
彼女が笑顔で褒め言葉をかけてくれるなら子分たちは、別のチームに特攻をかけるくらい喜んでしてしまうだろう。
日本に帰れば「朱の明星」率いるチームは勢力を拡大していくに違いない。ガチでクローズみたいな世界観になってきちゃったな。
ウチの高校あんま賢くないとはいえ、そこまでヤバい偏差値はしてないと思うんだけど。
彼女自身はその追従やみんなの期待を「便利な道具扱いとどう違う?」と考え始めていたようだが、きっとほとんど全てのメンバーは本当に心から彼女を慕っていたように思うので、そこはまぁリーダーが乗り越えるべき葛藤というヤツだろう。
飲み込んで乗り越えるか、嫌んなって放り出して好きに生きるかは明星先輩の選択次第だ。
ま、何もかも嫌んなった場合も、僕はツーリングでもゲーセンでもなんなら漫喫でも釣り堀だろうと付き合いますよ。ただ免許は無いんでケツに乗せて貰うことになっちゃいますけど。
「あー……それも悪くねぇかもなぁ」
バフで繋がってるから断片的に通じちゃったらしい先輩が、こっちを見てニンマリと笑う。
へへへ、任せてくださいよ。先輩の一の舎弟はこの僕青海が務めさせて貰いやすんでね。通称"ヒモの青海"だ。無い方がまだマシな二つ名付いちゃった、鈴蘭ならパシリ確定だぞ。
でも僕こう見えてそこらの木の棒と落ちてたワイヤーと針金と虫で、よくわかんない魚を釣って焼いて食った事もあるんですぜ? 冒険少年にも出れるかもしんない経歴でしょ。流石にもう安い竿買ったけど。
「いや釣りも良いけどさぁ、オマエ免許とか取んねぇ? ニケツも良いけどよぉ、やっぱオトコだったらテメェのマシン欲しいだろ」
「うーん、良いとは思いますけど、免許とバイク代がやっぱキツいっすねー……」
「あぁ、それはそう……。ウチにもさぁ、どうしてもクルマのカネねぇからってカツアゲで集めようとしたバカが居てよぉ。そりゃちげぇだろってブン殴って返して回らさせたかんな。汗水垂らして働いたカネで買うからいーんじゃねぇか、なぁ?」
そんな風にヤンキー座りでダラダラ話しこんでいると、僕らの前の藪がガサガサと揺れ、ぬぅと頭部は鹿で熊の体に尻尾は猪の頭なバケモノのおでましだ。大ゴマの隅に「!?」という表示もある。マガジンで連載されてるんだこの世界って。
……いやバケモノ過ぎる。なにこれ?
せめて尻尾はヘビみたいな細長いのにしとけよ。
汚い話だがその位置に動かせない頭あると毎日いろいろ辛いだろ。食後が憂鬱になっちまう。
全然知らないキメラの出現に頭を真っ白にして固まる僕を庇って、明星先輩がそのバケモノの前に立ちはだかる。
「ハン! 初っ端から幸先良いじゃねぇか! 一発でオチてくれんなよ?」
握りこんだ指を大きく鳴らしファイティングポーズを取ると、トントンとフットワークを刻んで彼女が小刻みに跳ねる。
明星先輩の戦闘スタイルはまさしく我流と言うか、喧嘩殺法と呼ぶべきソレである。
本人曰く動画やテレビや漫画で見た格闘技の技術を、喧嘩の時に有効そうなタイミングで適当に使っているらしい。
しかしそれは並のグラップラーにできることではない。
その言葉通り、墓地で浄化の光を飛ばす時はシャドーを繰り返しジャブで放っていたし、がしゃどくろを蹴飛ばす時は空手の後ろ回し蹴りで巨大な手骨を砕いていた。
野盗を伸す時は普通にヤクザキックや、上段からの叩き付けとかだったので、別に流派やスタイルに拘っているワケでもない。
彼女にとってそれら全ては相手をぶん殴る為の動きであり、等しく便利な道具に過ぎないのだ。
そして今も自分より少し大きく、そして遥かに分厚い体躯の野獣を前にして彼女は意図してか否か、力ではなく俊敏さで闘おうとスタイルを選び抜いた。
ギリギリ声帯は鹿なのか、バケモノは図体に似合わぬ妙に高いケーン!という鳴き声をあげて、その間抜けさに見合わぬ破壊的な剛爪が振るわれる。
一般的な人間であれば致命に足りうる埒外の一撃を、しかし明星先輩はダンスのような足捌きとスウェーで軽く躱すと、その反り返った姿勢から腹筋を使い深く前に屈み、追撃の角の振り回しも難なく避ける。
そしてガラ空きの胴体……ではなく首筋へ、大地を強く蹴りつけ踏み締めた反動をそのままに、打ち上げるようなアッパーをブチかます!
ゴムのチューブが千切れるような鈍い音が響き、鹿の口元から多量の血液が吐き出された。
おそらく気道がズタズタにイカれたのだろう。
息がうまく吸えないのか、身悶えするように身体を振り回している。
そりゃ見るからに頑強でタフそうな熊の身体よりは、太くはあれど弱点丸出しである鹿の首の方がヤワなのは間違いない。
「オイオイ……これじゃ運動にもなりやしねぇなぁ」
軽やかなフットワークを維持し飛ぶように近寄った彼女が、未だ立ち上がろうとするキメラのどてっぱらへ、今までのボクシングスタイルから流れるように喧嘩キックを放つ。もしも格闘技を齧った相手であれば、それすらもフェイントになる奇襲じみた一撃。
無論、ひ弱な人間種が生み出した武術などなくとも己の肉体だけで自然の闘争を勝ち抜いてきたフィジカルクリーチャーのキメラは、そんな理屈など知る由もないだろう。
けれどそんな相手の無知すら関知する事なく、彼女の強靭な脚力は理外の運動エネルギーを爆発させ、一切の抵抗を感じさせず熊の胴体を破裂せしめた。お前が知らないことなど、知ったことではない。
文字通り身体の屋台骨である背骨を首と腹にてグチャグチャにされたキメラは、当然の如く糸の切れた人形のように倒れ込むと、生存競争の勝者へとその生命の精霊を還した。こういった循環こそが、この異世界を巡る生命の形なのだ。
おわー! スゲー!!
技術や膂力の全てにおいて圧倒し、およそ人が敵うハズのない獣を二撃決殺した彼女に、僕は戦隊ヒーローショーを見ているガキのように輝いた眼で歓声を上げる。
こりゃ大物だぞぉ。バルツァンも流通が再開したとはいえ、新鮮な肉はまだまだいくらあっても良いだろうからな。喜ばれるに違いない。
ただギルドの解体班は主力がクジラの解体で現地へ駆り出されているんで、残った新人で果たして対応できるかって問題が残るが、そこは彼らの腕前に期待といこうか。
んじゃ姉御、僕はひとっ走り街へ戻って台車を取って来ますよ!
「あいよ、頼んだわ……っ! 待てッ!」
へ? ボォゥエッ!!!
腹部にハンパない衝撃が奔った刹那、世界が滅茶苦茶に回転すると肩から木に叩きつけられる。
完全に目が回っているし肩は恐らく脱臼です。おぼろろろ。ゲボも出ちゃった。
ふらふらと回る頭で周りを見回す。自分がどこからどこへ吹っ飛ばされたかもわからないので、どっちを見ればいいのかわからないのだ。
頼りなく揺れて明滅する視界の中で、明星先輩が直突きで毛玉みたいな何かを消し飛ばしていた。
たぶん、走り出した僕の横からアレが突進してきたのだろう。
完全に油断していた。せっかく先輩とおでかけして来たのに、カッコ悪いとこ見せちゃったなぁ。
喉から込み上げる何かに咳き込めば、吐しゃ物とは違う赤いなにかが出た。
「蒼ッ! 蒼、大丈夫か!? スマン、悪かった……! すぐに治してやるからな……ッ!」
「ゴホッ、ごめ……センパ……」
「あぁ、あぁ……! 喋るな! すぐ治すから、すまない……!」
妙に汗をかいた先輩がこっちより辛そうに、倒れた僕を汚れも気にせず掻き抱き胸に手を当て、真剣に目を瞑って神へと祈りを捧げる。
淡い光が木々の間に満ち。
黄金の湯殿のベッドシーツくらいやわらかな布で僕を包むように神の加護が一撫でしてから、吹き抜けるように消え去った。
それだけで、まるで焼けるようだった腹部の熱が、嘘のように引いていく。
喉に詰まった血でまだ咽て咳き込んでしまうが、もはや痛みはほとんどなかった。
改めて自分にやられて実感するけど、いくらなんでも凄すぎる。
「ッ゛あ゛ー……ン゛ンッ……ふへぇ、助かりましたセンパイ。いやぁ、油断しちゃって。いけませんね、みんなと同じパーティなのにこんな」
「な、何言ってんだよ!! ……これは、オレが悪い。連れ出しといて、護るって言っといて……武器も持たないオマエを、みすみす傷つけさせちまった……ワビのしようもねぇ……すまん……」
「えぇ? いやいや、だってこんな街の敷地の外まで出たら魔物が出るのはわかりきってるんだから、警戒を怠った僕が悪いですよ。それにこんなアクシデント、武器あろうと防具あろうと僕単体じゃ結局防げないんで……一緒に居てもらったのが明星先輩で助かったくらいっす。そうじゃなきゃヤバかった」
言ってて情けなくなっちまうよ。悪いけどこれを機に明星先輩にも格闘術とか教わろう。せめて受け身くらいはとれるようにならんと。
「でも……でも、よぉ……オレ、オマエに……良いトコ見せたいなって……そんな、ガキ見てぇな理由で……こんな怪我させちまって……そんな風に思ったの、初めてなんだ……こんな近くで、オレを怖がらず、信頼しきって、なのに利用もしない……オマエは、初めての……」
結果的に膝枕をされている状態の僕の顔に、先輩の流した雫が垂れる。こんな先輩初めて見た。
たぶん、誰も見た事のないであろう彼女の表情に、背筋に甘い痺れが走る。おっと良くない感情だ。封印しておこう。
そんな先輩から語られる今回のイベントの発生理由に、僕は思わず声を出して笑ってしまった。
でもそれはバカにした嘲笑なんかじゃあなくて。
「じゃあ、成功ですよ。僕、めちゃめちゃカッコいいと思ってましたから」
力の誇示と表現してしまうと少し露悪的に思えるかもしれないが、これはどちらかといえば「オレにはオマエを守ってやる力があるんだ」とアピールしているようなもので。
つまりは明星先輩なりの僕への親愛の表現なのである。
嬉しくないワケないのでニヤニヤしちゃうね。
だから、どうか。
そんなにションボリしないでくださいよ。
「け、けど……」
「センパイはいつも堂々としてて、僕みたいな小心者と違って物怖じしなくて、あなたが笑うだけで嬉しくて、話してるだけで憧れてしまう。明星先輩は……明音先輩は、僕にとってそんな人なんです。だから……僕にセンパイのカッコいい所、これからももっと見せてください」
未だ涙の筋の残る彼女の頬に手をやって、ゆっくりとその水跡を拭い去る。
巌の如き体躯を奮い、濁流のような暴力で敵を打ち倒す彼女の頬は、しかしあまりにも女の子らしい柔らかなものだった。
ぽかんとした顔の明星先輩があまりに僕を見つめるものだから、少し照れてはにかんでしまう。
陰キャなチビのぽたく君が照れてもマイナス査定か? マズったかも知れん。
すると、彼女は一言も言葉を発さずに。
ゆっくりと顔をこちらへと近づけてくる。
それは、いつまでたっても止まらず。
そのまま。
「あ、いや! センパ、今はちょっ、僕口元汚れて……!」
「いい。気にすんな」
彼女のあまりにも漢らしい言動に、カッコ良過ぎポイントは青天井でスコアを伸ばしていくのだった。
そろそろオーバーフローして僕が大変な事になっちゃうので、ほどほどにするようお願いしておこう。