【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
続きは3日後。
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
※:27日 途中一行書き漏らしがあった為、ここすきを動かさない様に追記しました。
カポーン……と、ここが温泉であると明示する為の謎の擬音が響く。
何の音なのか気になって隣で身体を洗ってた爺ちゃんに訊くと、なんでも露天に入りに来る鳥の鳴き声らしい。奇跡的な音ハメだったんだコレって。
時は日暮れ。
場所はバルツァン温泉街にて、いくつか開放されている露天混浴温泉。
地元民は税で賄われる為無料で、観光客は有料だが払えば誰でも入れる。
ちょっとした塀を作ってくれてるので、外から覗こうなんて不届き者も現れない……つーかそもそも混浴なんだから、普通に入れば見れるしね。
で、そんな場所に僕と悪王寺先輩は来ていたワケなんだけど……一つ目のこの温泉は、かなり男性も入ってたので先輩が入浴前からちょっとNGって事で、ボクが払った分も入ってきてよと言われ一人温泉に浸かっているのであった。
二人分入ってたら逆上せちゃうよ、それにあんま待たせらんないしな。
悪王寺センパイと入ったら、僕の頭がおかしくなり破滅するとこだったから助かったとも言えるのだが……。
しかしまぁ、その、この異世界って結構文明度が中世だからさぁ。
「えー! 黄金の湯殿に泊まってるんですかー!? すごーい! あそこって一泊で銀貨3枚とか飛んでくんですよね!?」
「あ、やっぱそれくらいするんだ……もう総額を計算するのが怖くなっちまうな。いや、僕らはご領主様のご厚意で泊まらせて頂いてるんでね」
わりと普通に女性も入ってくるんだよね。
スゲースゴいなこれ。
僕が空飛ぶクジラを倒した英雄の仲間ということもあって、女の子たちがキャーキャー黄色い声をあげて近寄って話しかけてくる。
オッサンやジジイもいるが、邪魔すると女性陣から文句言われそうとでも思ったのか、遠巻きに温かい目で見てくるばかりだ。僕としてはそっちに混ざりたいんですけどね。
「金級なんですよね! 見えなーい!」
「あ、こら失礼よ!」
「あぁ、いやいや、慣れてますんで……それに僕は戦闘要員じゃないから、雑用係みたいなとこもあるんで」
もはや言われ慣れたギャップの指摘には、特に冒険者としてのプライドがあるワケじゃない……っつかプライドがそもそも無い人間性をしているので、笑顔で受け流しておく。
あんまり筋肉バキバキって感じじゃないね、なんて声も聞こえたがそっちはがっつりショックだ。これでも肉付き良くなってんだけどねぇ。頑張って鍛えます。
いや、これが酒場だの町中だのならね、僕だってみんなやヒート様を上げつつ楽しくお話しさせてもらうんだけどさぁ。
こっちの世界に来てからというもの、コミュニケーション能力に関しては改善されているのだが、しかしこういう異性と接触するようなボディコミュニケーションは未だ慣れていないのだ。魔車で好きな子たちに抱えられる度に緊張してるしなァ!?
今だってこれ、この、これ、みんな裸で、僕も……ぐげげげげ……。脳内CPUがあまりの過負荷に超高熱を記録、グリスは揮発しパキパキに乾燥。煙を吹き出しながらマザボまで焦げて、BIOSが起動しなくなり無事オシャカとなった。十年以上使ってんだから買い替え時ってコトか。
ただ、悪王寺先輩は絶対悔しがるだろうなコレ。僕としてはちょっと苦しいくらいなんだけど、彼女はむしろこういうのこそ好きなタイプだからな。
それを良いとも悪いとも評することはできない。人の欲を喝破できるほど、僕は清廉な人間ではないからだ。だって見ないようにしても見ちゃうもん……。”もん”じゃねぇが。
オイオイ、この目の前に浮かんでいるモノは一体なんだ?
天国にいちばん近い島はニューカレドニアではなく、こちらの方なんじゃないかと邪推するのだが違いますか?
極限状態で研ぎ澄まされた14兆個のシナプスが名推理を弾き出す。人間追い込まれるとこんなもんだ。
あまりにも強い刺激に、もはや脳が混乱し始めているらしい。強炭酸が行き過ぎると苦く感じるようなものか。そうなのか? わかんないれす……。
実際こんなん市中の風紀が乱れちゃいますよ。しかしあのグランダム様がこの営業形態を認可している以上、それはそれ込みでOKとされているのだろう。まぁ実際祭りの日とか結構いろんなとこではっちゃけてる人見るしな……。
僕らの世界ほど堅苦しくないと言えば聞こえはいいが、言っちゃうと前時代的な奔放さが、この異世界には存在するのだ。こっちに転移してきた我が校の風紀委員も大忙ししてることだろう。エッチなのはいけないと思います!
僕はあの人にだけは見つからないようにしないと、校内における校則違反者の見せしめとして磔刑に架けられる可能性がある。たぶんだが校則にも「本校の生徒は基本的に複数の人間と家庭を築いてはいけない」と書かれているだろうし。
いくら周りに女性や男性が入り混じって普通にお風呂しているとはいっても、まじまじと見てしまってはジッサイタイヘンシツレイに当たる。
古事記にそう書いてなくても、おそらく道徳の教科書などには記載があるハズだ。いや無いかもな。混浴のシチュを道徳に載せるのがもう道徳に反してるもん。記憶まで曖昧になってきちょる。
とりあえず、僕の行動でみんなの評判や品位を貶めるワケにはいかないのは確かである。
出来るかぎり目玉を上に向けて見ないようにしているので、今まで存在すら意識したことの無い眼筋が攣りそうだ。ここ攣った場合どこ伸ばせば良いんだ?
そんなこんなで、しなだれかかったり妙に距離感が近いお姉さんやお子さんをどうにか穏便に切り抜けて、身体を落ち着かせてからほうほうの体で湯船を後にするのだった。
■
「ふぃー、極楽極楽ゥ! どしたの助手クン、そっぽ向いちゃってさ」
「いえ、ちょっと、目が攣っちゃって……」
「おーおー、照れとる照れとる。あのねぇ、湯浴み着を着てるんだからほとんどプールみたいなもんじゃないか。キミがそんな調子じゃあ、ボクまで恥ずかしくなっちゃうよ」
そうは言われてもね。
好きな人の水着だってそもそも直視したら照れちゃうってのに、一緒に風呂入ってたら大抵の人間はこうなるでしょ。
人気の無い温泉にて、僕とセンパイはゆったりと同じ湯に浸かっていた。
彼女は僕より頭一つ半くらい背が高くスタイルが良いので、僕だけ段差に座ってちょうど同じような座高になるのである。
これに関しては僕がチビっつーよりも悪王寺先輩の高身長を褒めるべきでは? 先生しかり明星先輩しかり、転移した人ってなんだかんだフィジカルエリートが多いよね。
男としては大変難しい感情を抱きそうなものだが、しかし僕は根っからの敗北者気質であり、全然自分より大きな背の人もカッコよくて好きなのだ。こうやって並ぶとドキドキしちまうぜ。
もちろんちっちゃい子も可愛らしくて好きだし、同じくらいの背の人も並んで歩く時に歩幅がちょうどよくて良い。
なんでもいいワケじゃなく、つまり僕以外の全員に良いところがあるって話。僕にも一個くらい良い所があると嬉しいんだけど、今のところ自分じゃ見つけられてないのだ。
街の端にあるこちらの混浴温泉には先客が居なかった。地元民は大抵あっちに入るから、観光客の少ない今はこちらまで利用しに来る人は少ないのだろう。
これ幸いと悪王寺先輩も持参した湯浴み着を着用し一緒に入る事になったんだけど、しかしこれじゃ当初の目的の可愛い女の子探しはできないんでは?
「キミもあんがい鈍……いや、キミが鈍いワケ無い。ははぁん、これ分かってて言ってるな? ボクはキミとお風呂に入りたくて、立て付けの理由を繕って誘っただけ。キミはボクの口からそれを直接言わせたかった……実に初歩的な推理だよ犯人クン。まったく、欲深いワトソンを持つと探偵は苦労するね」
いやいやそりゃ冤罪ですよホームズさん。
相方役を犯人にしちまうと、視聴者によっぽどネタが尽きたんだろうなと思われちゃうからな。
将来の発展性も犠牲にした身の切り売りだし、シーズン物なら禁忌です。
ま、可愛い子探そうっつって男である僕を混浴に誘っといて男多めはNGということは、つまるところ僕と自然にお風呂に入れる必要条件を満たしたらこうなったって話だろうさ。
けどねぇ、半ばそうだろうという確信はあれど、しかし完璧な自信をもってそう思い込めるほど僕は自惚れていないってこと。
なにより会話相手の論理矛盾に関して素知らぬフリをしておくのもマナーだからね。そして、そもそも。今日の明星先輩の態度はともかく、最近の悪王子先輩の態度は少し不可解というか、不思議ではあったのだ。
……それに、可愛い子を物色したいというのも、真実悪王寺先輩の欲求の一つではあるだろうし。でしょう?
「ま、そりゃ否定しないよ。ボクは可愛い子が好きなんだ。好きな物に囲まれたいと思うのは、人間の欲望としちゃスタンダードだろう? そういう意味なら美少女でいっぱいのお風呂なんて、言わば札束風呂にも等しいヒトの夢じゃないか! せっかく異世界に来たんだから、日本じゃ倫理的にできなかった事もやらなくちゃ。ボクはそこでしかできないレクは、とりあえずやっとくタイプなんだ」
両手を広げて天を仰ぎながら、彼女は少しも悪びれずそう言い放つ。
うーん、それをヒトという巨大な主語で語るのは語弊が出そうっすねぇ。
これを言ってるのが絵画の如き絵になる美女でなければ、間違いなくこのご時世総スカンを食らう論法だぞ。
両手を天へと広げた際に湯を叩いた、主語と同じくらい巨大な何かから必死に目を逸らしプレイエリア外へと追いやりながら、僕は脳内で読経を開始した。
「でもそれと同じくらい、ボク"も"キミとお風呂に入りたかったってのもホント。……多分目黒さんと、鹿野ちゃんも気付いてたよ? あの二人はこんな風に、じゃあボクもとは言わないだけで」
あー……まぁ、それは、そうっすよねぇ……。
だからこそ、埋め合わせなんて意識じゃあないですけど、できるだけそれぞれの好きな事を一緒にするようにしているんですけど……まぁそれは完全に僕のやりたい事だから、償いかといわれると微妙かぁ。
やっぱり、どうしてもそういう部分は出てきちゃうし、こんな複数人との関係は無理があったのかもしれない。
「んーーーー……無理とかじゃなく、なんていうかなぁ。別にね、ボクも嫉妬に狂ったとかいうのじゃあないし。そう……羨ましいから、ボクともしてよって感じ? ま、青海クンはちょっと重く考え過ぎなんじゃないかな。学生の恋愛なんて、もっと適当でおちゃらけて気楽に、好きかどうかも曖昧なまま楽しめばいいものだろう?」
それは個人の恋愛観によるものですよぅ。
まぁこれは口には出さないが、そもそも家庭を築く話をされている状態を学生の恋愛ってカウントにしてていいのか……? つか学生ではない人もいるわけで……。
……なにより僕単体としては、そういった将来的な話というのを、正直夢みたいに幸せな話だと捉えているのだから。
と、そんな風にお話ししていると、にわかに脱衣所代わりの小屋の方が騒がしくなる。
その音に一瞬身を固くした先輩を、そちらから遮るように立ち上がろうとして……すぐにもう一度湯に浸かり、そそくさと隅っこへと泳いでいこうとして、先輩に肩をガシリと掴まれる。
あっ、ちょっ! か、囲まれるのはセンパイだけでいいじゃないですか!
「なぁに、レクは気の置けない相手と楽しみたいタイプでもあるのさ」
バタンと開いた扉から若い女性のグループが姦しくおしゃべりしながら出て来て、僕らを見つけると甲高い悲鳴が上がる。
これは流石悪王寺先輩といったところで、僕なんかはまじまじと凝視されて「もしかして……」なんて確認から入ったくらいなのに、彼女は顔を見ただけで一発で大騒ぎだ。
「あぁ、ありがとうね。え? いやいや、キミも華のように綺麗だよ。ほら肌だってこんなに艶やかだ。やっぱり日ごろから温泉に入っているからかな? ボゥギフトにも欲しいくらいさ。……もちろん、キミも欲しいけれど」
カッコ良すぎるだの綺麗だの足長ーいだの、女の子5人に囲まれてチヤホヤワーキャーと持て囃され、たいへん上機嫌に肩に腕なんか回しちゃって受け答えしている。
もう片方の腕は僕の肩に回されているので、自然僕もその輪の中に入ってしまいはわわわわ……!! 近い近い近い!!! 頭ぐわんぐわんするし鼻血も出そう!!!
周りの女の子もそうだけれど、僕が一番緊張するのはほぼ肌着しか着てない悪王寺先輩に肩を組まれている事のほうなんだよな。これに関しては、女の子を貶める意図はなく関係性の勝利だ。
僕が接した相手をすぐに好きになっちゃうのは、相手の魅力的な部分にすぐ魅了されるからであって、べつに発情期だから誰でもいいってワケじゃあないんだよね。
無論それは今何人もの人と将来を誓っている事の言い訳にはならないんだけど……。
そんな風に目をグルグルにしつつ黄昏れる事で現実を逃避していると、周囲の女の子たちによって、あからさまという程ではないが流れるように、悪王寺先輩の隣から押しのけられる。
あ、邪魔、そらそうね、僕もそう思うもの。
受け答えすらも芝居がかった麗人と、顔真っ赤にして目を回し何も話さない等身大さるぼぼもどきじゃ、比べるまでもなく人気が偏るのは当然の話であった。
満員電車で人混みに流されるが如く、逆らうことなくスルスルと輪から押し出されようとした僕を、しかし誰かの手が再び輪の中心へと連れ戻す。
そうしてその手の主は、手繰り寄せた僕を膝の上へと座らせて、握った手の甲に軽くキスをされる。
「ごめん、ウチの大事な子なんだ。あんまり蔑ろにされると、ボクも辛い」
一瞬の静寂の後、割れるような黄色い悲鳴が響く。もちろん僕も一緒にきゃーと叫んだ。
お、王子様過ぎ……! 攫われてもいい……! あっ、やっぱそう思った!? ねー! 禁断の恋が始まっちゃうってー!
先程とは打って変わり、好きな物を同じくする同志たちとなら仲良くなれぬハズも無く、この場に同担拒否が居なかったことも幸いして、周りのお姉さん方とすっかり仲良くなってしまった。
場のボルテージは最高潮で危うくモッシュまでしかけたが、お風呂場でやると危ないので自重する。
なにより今の行動のインパクトがあまりにも凄すぎて、もはやちょっとお互い裸なのがどうこう言う以前の、そういう表層を取り払った剥き出しな人間性に、僕らは目を奪われてしまっていた。つまり人間は中身って事だなァ!?
左隣のおっとりした茶髪の年上系お姉さんが、悪王寺先輩が普段どんな生活をしているか聞いてくるので、もちろん部屋で日がな一日寝ているだの可愛い女の子を漁りに店を回っているだのは言わず、ギルドからも仕事を回され様々な業務を完遂している事をちょい過剰装飾気味に伝えると、まるで祈るように胸の前で手を握り至ってしまう。わかるぜ……本当に尊いモノに触れると人はそうなるからな……。
周囲の子たちも、悪王寺先輩に直接群がる勢と、膝の上に乗せられた僕に彼女の話を聞き出そうとする勢に別れ、各々きゃいきゃいと楽しくお話を始める。
そうそう、案外パーティメンバー全員で食事とかも行くんだよ。あ、へー! あの酒場の? 僕一人でだけど、一昨日行かせてもらったんだ。良いお店だねぇ。
え? あー、そうだなぁ。悪王寺先輩は斥候職だから、直接的な戦いよりも影に潜み相手を欺く感じかな。え、いやー、僕はもうホントに雑用とか、従者みたいな……えー? いやいや、僕はファンだからさぁ。そんな、ね?
目の前に陣取った気の強そうな吊り目のウェーブがかった金髪の女の子から、先輩とどこまで進んでいるのかさっきみたいなキスはされるのかと聞かれ、一応そういう関係じゃないという風な受け答えをしておく。
なぜなら実際僕と悪王寺先輩は今のところお友達という関係までしか進んでいないからだ。
……いや、単なる友達と混浴には来ねぇよという事は理解しているが、言葉も行いもその先まで明確に歩んではいないので、こっちが勝手に恋人面をするワケにもいかないじゃんね。
しかしこの熱量は凄まじいな。やっぱり悪王寺先輩の魅力は世界を跨いでも当たり前に通ずるらしい。
奥ガルギンで思い付いたファンクラブを作るという計画もあったし、ここはひとつこのバルツァンに悪王寺先輩ファンクラブの第一支部をだな……。
「あっ! アレは一体ィ!?」
な、何だぁ!?
思わず誰かが指さした方向を見上げるも、そこには何もなく。
そして今の声が僕を膝に乗せた人の物だった事に気づいた時には既に。
『緞帳』
「ごめんだけど、今日はここまで。また会ったら仲良くしようね、ボクの可愛い小ネコちゃんたち」
あ、ホントに自分の追っかけを子猫ちゃんって呼ぶ王子様系女子って居るんだ。
そうして打ち鳴らされた指の音とともに、僕らは幻影の中へと紛れていた。