【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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続きは3日後。

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【60】 帝国付指定冒険者

 僕はこれまでこういった機会に恵まれなかったので知らなかったが、会合や集会というもので人が集まると、本当にガヤガヤというオノマトペに近い感覚の音が聞こえるのだなと、妙なことに感心してしまう。

 

 遂に訪れたグランダム様主催のパーティー当日。

 色鮮やかなドレスで着飾った彼女たちと、やっぱりかりんとう饅頭の擬人化みたいになった僕は、普段と毛色の違うこの戦場にて苦戦を強いられていた。

 

 

「これこそ、我が領を我が物顔で飛び回った鳥の肋です。まるでケルセデクの神樹と見紛うほどの大きさでしょう? 始祖に連なる血脈として再び竜へと至った我が娘が騎士団を率い、魔王の走狗を二度も討伐した金級冒険者と協力してようやく討ち取れたのですから」

 

 屋敷に入り切らずやむなく窓から見える庭に飾った骨を指し、グランダム様は招待客へと自慢気に語り聞かせる。

 もはやわざとらしいくらいの誇示だが、程度問題としてそれくらいが丁度よいのだろう。

 形式化されているというか、基本的なルールとして形が定められているというか。

 露骨にガッツリわかりやすく自慢しあおうという不文律が、貴族のマナーになっている感じ。

 

 ついさっきだって、まるで僕らがギギルガム家の御用冒険者かのように仰々しく紹介をされたものだ。

 いやみんなは良いのよ。

 森の賢人にして類稀なる剛力の騎士とか、神からの寵愛厚きボゥギフトの聖女とか、その小さな身からは想像もできぬ事にあの怪鳥を撃ち抜いた稀代の砲術士とか。

 多少装飾過多とはいえ適切に評価されていて僕も大満足なんだけどさ、「それら全てのメンバーを陰ながら支える代えの効かぬサポーター」とか僕まで紹介されたのが困りものなんだって。

 グランダム様の横に立って紹介された時の来客たちの顔ときたら、一様に「どういう事……?」ってポカンとしてたじゃん。

 そらそうよ。そんな奴までわざわざ言うの?ってみんな思ったこったろう。

 それにより変な立ち位置になってしまったせいで、なら一応あの人にもって感じで結構な数の偉い人に挨拶をされ、お貴族様のお相手などできようハズもない下賤な僕は終始タジタジでハチャメチャに疲れちったのであった。

 

 

 永遠に続くかと思われたウェーブがようやく落ち着き敵襲が収まってきたので、先程から泣きを入れてきていた腹の虫に餌をやろうとそこらの軽食を摘んでゆく。

 

 あ、シンプルステーキ! やったー! 二切れください! ンマーい! 

 これはなん? わかんないけど餃子に近い煮物かな? これもおいしいねぇ!

 はぇ!? 腸詰めにこれエビ入ってない!? 魚肉ソーセージLv100って……コト!? ぷめー!

 

 立食形式のパーティなので、各テーブルに設置されたとんでもねぇ美味飯の湧きどころを周り、宿のソレに勝るとも劣らぬ激ウマご飯でお腹を満たしてゆく。

 ここんとこあまりに美味しい物を食べ過ぎてて、地球に帰った頃に舌が肥えすぎてないかホントに心配なんだよな……。

 まぁお腹が空けばなんでも美味しく食べれるだろうし、要らぬ心配だとは思うのだが。

 

 お腹の方も一段落したので、深い新緑のミニ肉まんもどきを齧りながら、みんなの様子をうかがっていく。

 

 

 

「いえ私とて大怪鳥の噂は耳にしておりましたが、行きの魔車で実物を見て度肝を抜かれましたよ。あのような山の如きバケモノをいとも容易く屠るとは……いやはや、流石は賢人様擁する金級冒険者パーティですなぁ」

「え、えぇ……ありがとうございます」

 

 狸の獣人さんがまるで太鼓持ちの如く先生をヨイショしているが、聞いてるとあの人商人上がりとはいえ貴族様みたいなんだよね。

 先生も身分の差があるはずの相手にゴマをすられ、居心地悪そうに苦笑いしている。

 本日の先生のコーディネートは普段の逆バニー状態の鎧ではなく、ちゃんと布面積が広い翠のドレスだ。仕立屋の方もここまで大きいのは初めてで苦労しましたと言っていた。なにがかは知らないが、先生のサイズは異世界でも稀らしい。

 感想を言う時に「綺麗ですね!」と「健全ですね!」がほぼ同着で口から出かけたが、気合で後者を押しとどめた。

 

 そもそもエルフはこの世界において、ドラゴニュートなどと同様に種族として尊ばれているそうだ。

 エルフとは精霊との親和性が高い魂が選ばれて産まれるものであり、生きているだけで他の種族に比べ生命の精霊がより多く取り込まれる。

 つまり生きてるだけで強くなる、しあわせの靴標準装備のtier1種族ってコト。何一つ持ち合わせていない人間くんは泣いていいぞ。

 つってもその分数が少なく、南方の大森林に少数が暮らしているだけなので、レッドリストにバリバリ登録される希少な方たちなのだそうだ。

 他のエルフさんと会った事がないから、その辺りも感覚的にはよく分かんないんだよな。

 

 どうも生命の精霊との近しさがこの異世界の種族における強さをおおまかに決定づけているようで、帝国の皇帝様は人の血が混じっているとはいえなんと精霊族氷人種だそうだ。氷の精霊と人間が交わった存在。つまり最強っつー事っすね?

 竜は息をするように世界の法理を魔法で捻じ曲げるが、精霊族までいくともはや生命活動そのものが魔法に近い。比喩を超越して息が魔法。

 物理法則には原則縛られていないと考えた方が良いような、他の生物とは隔絶した存在。竜も大概ルール違反だったが、遊戯の盤面そのものを超越した存在だろうか。

 言ってしまえばケイ素生命体みたいなもん。もしくは……神とか。

 そしてそんなレベルの生き物ですら対策が取れないのが魔王という存在であるって話に帰結するんだよね。もう元の世界に帰ってええか?

 

 ……先生へ助け舟がいるかと見守っていたが、後ろに控えるようにファオルベルカ教の司祭さんが立っているし、彼女が困り果てたら適当に追い払ってくれるだろう。

 なんたって先生は聖女の拠り所だと認識されているのだ。

 普段から付きまとわれちゃ息苦しくて仕方ないが、こういう場では有り難いね。

 

 

「なぁ、ホントにこんなで良いのか……? オレ、偉い人との会話なんて何話せばいいかわかんねぇよ」

「無論です。聖女様はただどっしりと構えて泰然自若として頂けてこそ、世の人々は安心して今日を生きられるのですから」

 

 その奥では同じくファオルベルカ教の司教に付き添われ、明星先輩が所在無さげにキョロキョロしている。

 僕同様小市民な気質なので、こういう場所に自分がいること自体が違和感っつーか、慣れないからこっ恥ずかしいんだろうな。

 けれど着飾った装いはこの豪奢な会場や調度品にけして負けない輝きを放ち、周りの客たちもどちらかと言えば敬意から畏れ多くて話しかけられない感じ。

 むしろ話しかけられても困るだろうから、それで助かっている感じっぽい。

 彼女もいつもの改造修道服ではなく、金髪に合わせた金色のドレスだ。最近少しずつプリン化が進行しているが。

 先輩はそれを気にしているようだが、正直僕はあの混じった髪色可愛くて好きなんだよね。

 とはいえ彼女は結構ファッションには拘りが強いタイプだ。僕の好みを押し付けて本人が抑圧されても良くないやね。

 身体に害のない染髪方法がこの世界にあるかは、それとなく現地の知り合いに聞いておこう。

 

 

「つまり上位ポーションの製造には、神の恩寵が必要であると?」

「そうでしょうなぁ。上位より上は古代の遺跡からしか見つかっておりませんで。いや、これは未だ理論に過ぎませんがね。どうも人の身で単身それを成そうとしても、どれだけ素材や器具に金を注ぎ込もうと中位までしかできぬ、というのは紛れもない真実であります故。」

「であれば、神官による祈祷を製薬中にかけてもらうというのはどうなのでしょうか」

「……思いもよりませんでしたな、それは。しかし……いえ、論理や常識などを超えた先にこそ、新しい錬金術の地平はあるのです。ぜひ、このロートルにその考え、試させてはくれませんかのぅ」

「これはディスカッションです。私とあなたが相談し議論した結果を、どちらかが秘匿し独占するようなものでは無いと考えます。私も試してみますから、そちらも条件の異なるアプローチをお願いします」

「おぉ……! 素晴らしいお考えだ。昨今の術士はどれもこれも自身の功績にすることばかりが頭にあり、錬金薬学の発展やそれによる人々の救済など二の次三の次……あなたのような錬金術士が金級冒険者の一人であること、私は誇りに思いますぞ。もしよろしければ、ぜひ一度学術都市に来られてはいかがかな。この世の知が集約した象牙の都市は、あなたにも新たな知見をもたらすはずだ」

 

 なんかお髭を蓄えたダンブルドアっぽい爺ちゃんとお話ししていた委員長は、どうも次の遊びの約束まで取り付けたらしい。

 彼女に現地住民の知り合いが増えるのは大変喜ばしい。どんどん友達を増やしていこうな、僕もさしあたって今夜また飲み屋で増やしてくる予定だ。

 委員長の言う"試してみる"は恐らく僕に渡す金額や、支払いとして僕へ浪費される時間の多寡を変えてみるという実証実験の話だと思うのだが、学術都市のお偉いさんはそんな事露知らず感心しきりだ。

 しかし、そうか。神の恩寵ねぇ。

 ……聖女様の先輩に祈って頂いた上で僕のヒモバフを受けた天職の錬金術師たる委員長がポーション作ったら、とんでもない代物ができそうで協力するのが躊躇われるな。

 あんまり破格の薬効のを作り出しちゃうと、既存の権益を侵害してマフィアじみたギルド連中に襲われないかがちょっと心配なのもある。

 もちろんみんなの為にいざという時の常備薬は欲しいので、ウチのパーティだけの秘蔵で作る分には構わないだろう。

 統括ギルドの水晶玉みてぇに実験室が光り輝いて"正親 正道がエリクサーの製造に成功しました"って文字がワールドチャットに流れなきゃいいけど。

 もしそうなったら死ぬほどトレード申込が飛んでくるぞ。

 ちなみに委員長は最初青いドレスをお願いしようとしたそうだが、なぜか僕を除いたメンバーで話し合いが開かれ、結局赤紫に落ち着いたらしい。

 ……なんでかはよくわかんないっすねぇ、と言っておくのが精神衛生上良いだろう。

 あんまり自意識過剰な妄想は控えたいんでね。

 本人は派手過ぎると不安そうだったが、ビビッドな色合いと確かにちょっと派手めなデザインが大人っぽくて、とても綺麗だし魅力的に見えると伝えると、少し静止してから気にせず振舞うようになってくれた。委員長もみんなも元が良いんだから、少し冒険した服を着ても似合うんだよね。

 

 

 かたや僕は壁の銘菓と化していた。

 そらそうよ、お伽噺のごとく華々しい活躍をしたあんなにかわいい娘たちを前に、内容量減らしたんか?ってサイズのチビなかりんとう饅頭にはわざわざ声かけないでしょ。

 これがね、騒いで歌っての賑やかに楽しむだけの場所ならまだしも、この社交界というのはメンツと見栄と資産のマウンティング合戦会場なのだ。

 僕が賑やかにお酒を飲みつつ相手を笑わせると、そもそもココだと場違いで失礼な奴だと認識されてしまうのである。

 

 大人しくみんなの様子を見ながら、新たに手に取った軽食を一口齧ると眼ん玉見開くほど美味しかった。

 思わず手元のクソオシャレ惣菜パン(鹿野ちゃんが先程「野菜と燻製肉のピンチョスだー! トマト系の酸味ある野菜を風味豊かなオイルと少しのビネガーでマリネしてあるから、香辛料が多めに塗られてるベーコンぽいのをキチンと受け止められて、まったくクドくないッス! ライ麦系統のパサパサめなパンを、カリッと焼く事で食感もそれぞれ異なる調和が口内を満たしてバチャ美味いっすねぇ! シェフを呼んでくださーい! 褒めてあげるっすよ!」と評していた物。バカ舌な僕は仰る通りと後方腕組み頷きモブになる事で分かったフリをした)を二度見。

 ぜひこれは誰かと共有したいなぁと思ったのでまずは手近な相手へ、人に見られないように足元の影にパンを差し出すと、長い指がはしっとソレを受け取りとぷんと影の奥に消えていく。

 程なくして、グッと親指を立てた右手が、ターミネーターのラストシーン逆再生の如く影から浮かび上がってくる。

 気に入ってくれたようでなにより。

 

 ま、そんなワケなので、こうやって用意された豪華なご飯を摘みつつ、酔い潰れないようにちびちびと珍しいお酒を舐める以外やることないんだよね。

 はぇ〜〜……この大根の酢漬けに硬いの載ってるヤツ、果実のお酒と合いすぎますね。

 

「どうした、主役の一人がこんな端っこで」

 

 燃えるような赤毛の猫獣人の男性が、旧知の友かのような気軽さで話しかけてくる。

 身体にピタリと張り付くような、これまた赤い革製のジャケットを身に纏っていて、全身を彩度の違う紅で染めたその姿は、まるで炎が歩いているかのようだ。

 はて、見覚えが無い。

 バルツァンの飲み屋で知り合った人はもちろん、先程時候の挨拶みんな同じサイトでググったんかっつーくらい似た定型文で挨拶していった偉い人たちの中にも、この特徴に該当する検索結果は無かった。

 

「えっ……あー、すみません、僕は従者みたいなものでして……」

「知ってるよ、さっきの紹介を聞いてたからな。ちゃんと活躍をした事も、お前が自分の仕事をやり遂げた事も、グランダムのおっちゃんは声高に主張してた」

「そうでしたか? いけませんね、緊張しちゃって自分がどんな風に語られたかなんて、ちっとも覚えてやしない……お名前をお聞きしても?」

 

 僕への二人称、グランダム様の呼び方……そして今更ながらに気づいた、身に宿した生命の精霊の雰囲気。

 それら全てが、彼が只者では無いことを示していた。

 

「申し遅れました、パーティ“ショウヨウ“のサポート担当様。俺は帝国付指定冒険者、人呼んで『震える刃』のコールダウ。ま、今回はお抱え元の御用命で、ヒモなんていうお荷物を抱えたお前らが、はたしてどれだけやれんのかを見に来たってわけ」

 

 わざとらしくもある慇懃無礼さで、軽薄に彼は名乗りを上げる。

 あら~、僕がヒモである事までバレちゃってますわ~! なんか偉いとこ所属の冒険者らしいしそらそうか。

 これは冒険者特有のお前をナメてるよ〜という挑発じみたマウントで、こういった格付けを行うのはもはや習性みたいなもんだ。

 メンツで商売やってる冒険者はナメられたらおしまいだから、ガンくれあってタンカを切り小競り合う。

 ナメるなよボケとナメるのだ。己を上げる為の他人sage、僕はあんまり得意じゃないんだよね。ほら、僕ってマウント取れる長所がねぇから。

 足元の影が波打つが、爪先でとんとんと床を叩きなだめる。

 

 しかし帝国付指定冒険者っすかぁ……それはすごいっすねぇ……。

 案の定こちらの常識に疎い僕はまったく知らない単語であった。

 まぁ単語の意味合いから類推するに、冒険者ギルドの所属ではなく国に採用された、金級冒険者の更に上澄みの一握りって感じなんじゃなかろうか。

 最近の僕らの活躍を聞き及んだ国が、どんなもんよと観察しにこの人を派遣したって話であってると思う。

 

「それはそれはどうも……そんなお強い方がわざわざ来られてるとは存じ上げず失礼しました。どうです、今夜あたり歓迎会も兼ねて近所の酒場でいっぱいなんて。良い所を知ってるんですよ。いやね、僕もバルツァンに来たのは初めてなんですが、なにせ仰る通りヒモですから酒場にはめっぽう詳しくてですね」

「いいやぁ、別にそんなに気にすんなよ。俺もこっちに長居しようってワケじゃねぇ。なにせお前らみたいにヒマじゃあないんでね。ご命令通り、ちょっと試したらさっさと帰るさ。おっと、誤解しないでくれよ。別にここでおっぱじめようなんてつもりじゃ無いぜ? 当たり前だが、俺だってこんなお偉方の集まるパーティーで暴れたら、クビ……にはなんなくとも後でキツ〜いペナルティを食らっちまう。だから、そうだな……これくらいにしておくさ」

 

 瞬間、僕は彼に首を飛ばされ……かけて、足元の影の中へ全身が飲み込まれる。

 

 おわーーー! 初めて影の中入った!!! スゲー真っ暗だ!!

 ちょうど良かったので、渡そうと持っていた白いジャムの塗られたビスケットを先の見えない暗闇に差し出すと、恐る恐る噛り付いたような振動が指に伝わり。

 「……おいしい、です」という大好きな人の声が、耳元で囁かれた。ASMRだ、背筋ゾクっとしちゃった。

 なんかココ全ての場所に目黒さんが居るみたいだな。

 天国みたいな空間じゃんね、なんて呑気な事を思いながら残ったビスケットを平らげると、全方位から慌てたような雰囲気が伝わってくる。

 あ、ごめん食べちゃった。これやっぱンまいね。

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