【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
さて、目黒さんの支配する影の中。
ここからは外の様子が窺い知れないので、顔を出して確認するしかない。
上下左右もわからない闇を揺蕩いながら、多分こっちが上だろという方向へ手を伸ばすも、その手をゆらめく暗闇が絡めとる。
「もう二度と外に出なくても良くないですか……?」という目黒さんから伝わる思考に、でも僕らが育ててる
彼女が心配してくれてるのは嬉しいし、普段のなんでもない時であれば数時間くらい、暇な連休なら数日でも、もしあなたが本心からどうしてもと望むのなら永遠にだって居ても良いのだが、今ばかりは外がどうなってるか早く確認しなければならない。
「そっすねぇ。無限暗闇お昼寝大会はまた今度で。上は逆、こっちッスよ〜」
「あ、ありがと。ごめんね目黒さん、次の機会はのんびり一緒に過ごすから」
いつの間にか存在していた鹿野ちゃんにベルトを引っ掴まれ、行こうとした方向と真逆へ引き上げられてゆく。
彼女はまるで勝手知ったる我が家のように、何も見えない闇を掻き分けて正しい場所へと泳いでいる。これも彼女の極めて高度な感知能力の成せる業なのだろうか。それとも、大好きな友達のお家だからか。
橙色の少し丈の短いドレスが、彼女の活発さとあわせてまるで妖精みたいに可愛らしい。全員褒めるとこしかない。すごすぎ。
さっき姿が見えなかったのは、どうやらここにご飯を持ち込んで目黒さんと食べていたかららしい。
僕が影を経由してご飯を渡してたのは大きなお世話だったかもな。
仲良しな二人の時間を邪魔しちゃってたなら申し訳ねぇ。
普段から目黒さんがこんな風に影を十全に使えているかというと流石にそうではなく、今日は何があってもいいようにと銀貨三枚分の強めのバフをみんなにかけていたからである。
つまり僕の財布には人数分×3の銀貨が入っている事になるな。最近は財布持ち歩くのが怖くなってきてんのよ。スリもビビって返しに来る額だぞ。
だからってこの前みたいに、財布盗まれないように宿屋の金庫に入れて外出したら当然のごとく一文無しで、一緒に出てた小金井さんにご飯代から土産代まで全額出してもらったりを繰り返してたら悪循環が極まっちまう。
一旦取りに戻るっつってんのに言い包められてショッピング続行、見た事もない笑顔で色んな商品を勧めてくる彼女に僕は一抹の不安を抱いたものだ。一抹で足りとるかねコレ。もっと不安になったほうが良くないか?
とにかく今回、事前にパーティ全員と僕はバフで繋がっている。
僕のバフは筋力の強化や、天職の力を底上げするだけでなく、なんでも頭の回転や記憶力なども磨きがかかるらしい。
らしいっつーのは自分にはバフの効果が無いからだ。不遇職では? ヒモが不遇っつったら有職者に殺されるぞ。
しかしIQが20違うと話が合わないなんて俗説もあるし、僕の頭の悪さに付き合いきれずパーティ追放されたら、泣きながら東大を目指すハメになる。異世界転移してやる事がZ会の宣伝になったら目も当てられんな。
勉強もしなきゃ……いや今んとこ戦闘訓練に護身術に勉強もしないとみんなから置いてかれちゃう状況なんだが、僕はもうどうしたらいいんだよ。
劣等感から卑屈になって精神を病み社会で働けずみんなに養ってもらうハメになったらどうしよう……と息苦しい想像で未来を憂いたが、現状とほとんど変わらなかった。ヒモは足踏みが得意。
まぁ僕が終わっているのはともかく、ひとまず今の僕らの間に黄金の架け橋は繋がっており、そして今やそれら全てに銀の鎖が絡まっているのは確かである。
……いや、まぁ……えーっと、うーん……ぜ、全員銀の鎖が……? な、なんで……? つかアレ結局エンゲージ的なヤツでいいの……?
個別で思い返せば、各々が何故か僕をハチャメチャに好いてくれているというのは重々承知せざるを得ないのだが、改めて「全員ですよー!」と証拠付きで言われると、なんでこんな事になっちゃったのか一切わかんないぜ。
一つ一つ積み重ねた日々のコミュニケーションの結果に押し潰される事ある?
おかしいな……コツコツやれば良い方向に向かうと信じていたのだが、まさか良い方向行き過ぎると破滅してしまうなんて……学校では習わなかった社会の真実だ。
……激ヤバ問題は一旦置いといて、つまり僕の窮状とともに、僕が無事である事もみんなに伝わっているのだ。
いや何回大きめの問題を横に置いてんだよ。
そうやって先送りにし続けた結果が今なんじゃないか?
いつかどこかで精算しなければならない負債が、僕の視界外に堆積しているのをヒシヒシと感じる。
責任は取ろう。しかしその責任が僕の支払い能力を超過した時、果たして民事再生法が適用されるのかどうか……。判決は司法に委ねられる事となった。
横道に逸れまくって本題がどっか行っちまったが、結局僕が言いたいのは、みんなだって僕が無事なのをわかっていればそんなに無茶な事はしないだろうって話だ。
それになにより、彼からは一切の殺気を感じなかった。
なんかよくわかんねー刃物的なのが僕の首元へと疾走ったのは確かだが、しかしそこにオメーを絶対ブチ殺すっつー鋼の意志が微塵も感じられなかったのである。
そうでもなけりゃ、流石に殺されかけた後にのんびり影の中で目黒さんとイチャついたりはできない。
これは別に僕が武に精通していない、脳天気な一般人くんだから察知できなかったわけじゃない。
こう見えて死線を幾度か潜ってはいるんでね。
ホントにリッチキングの時と、先生の部屋で午後のイケナイ授業を受けた時はヤバかったぞ。意味合いが変わるが極限状態だったのは一緒です。
ガチで殺されそうになるとね、相手からムシケラと思われてようと、思考のない獣との対峙だろうと、生命の危機を感じて寒気がするし首筋が突っ張るように引き攣るんだ。指先は痺れるしね。あと脚が震える。よわよわ貧弱くん過ぎてワロけんね。
実際に味わった感覚なので、それを間違えることはない。
つまるところ、彼は本当に腕試しというか、様子見で剣気を放ったみたいな話だと思うんだよね。
あのほら、遠当て?みたいな?なんかオーラっつーかさ、現代に生き返った宮本武蔵がやるヤツです。
非戦闘員の僕にそれをして何を見たかったのかは本人に聞かないとわかんないけれど、もしかすればヒモという職業に秘められた何かを確認したかった……可能性もあるかも知れない。
って事なんで、そうそうヤバい事にはなってないと思うんですが。
果たしてその結果やいかに!
安心感に包まれた影の空間からひょっこりと顔を出すと、パーティ全員によって完全に鎮圧されたコールダウさんがそこにいた。
……ま、まぁ、めちゃめちゃ穏当な方か?
意識はなさそうだが生きてはいるし、なにより周囲の来客たちがまったくその事に反応せず、先程までと変わらない賑やかな歓談が続いている。
つまりは今この場所は。
「緞帳の中、だね」
清らかな白地に銀のラメが入った、まるで普段の服と同じ生地を使っているかのようなドレスを着た悪王寺先輩が、いつの間にか僕の背後に立ちこともなげにそう言い放つ。
そういう服飾の文化など無いのに、先輩のドレスがスパンコールのように輝いているのは、何故か本人が着たらそうなったかららしい。無から煌めきを生み出すうえきの法則?
「万一の為に会場は事前に調査してたし、今日も挨拶回り以降は気配を消して潜伏してたからね。キミの気配が消えてみんなが走り出す前に緞帳を降ろせて良かったよ」
「で、でもこんな大人数を前に、コールダウさんや護衛の騎士たちも高レベルなハズなのに、大丈夫なんです……?」
「そこはまぁ、ほら、ボクも覚悟はしてても、やっぱりキミの気配が消えると気が動転しちゃってさ。なんていうのかな、火事場の馬鹿力っていうか……一皮剥けたってヤツ? とはいえ、長くは保たないよ」
彼女は耳を朱に染めて照れながら、ポリポリと頬を掻く。
こんなわけわかんねぇタイミングで壁を超えられたら、クジラやリッチキングが草葉の陰で泣いていると思うのだが、まぁ先輩が成長した事を喜ぼう。おめでとうございます。
「いやでもビックリしたよ、みんなごめんね」
「んだよー! そんなの気にすんなって! 他人行儀だな青海はァ。で、コイツどうする?」
足の下で気絶した赤い猫人間さんを、ちょっと強く踏みつけながら明星先輩は今後の動きについて問いかける。
今コールダウさんは明星先輩に背を踏みつけられ、原理は知らないが立ったままの先生に掴まれた腕を極められており、小金井さんの金棒で両足を押さえられている。
別室にてバルツァンの商業ギルドと会談をしていた小金井さんも駆け付けてくれていた。
黒のドレスの背に銀髪のポニーテールがサラリと揺れて、幻想的な美を醸し出している。さっきも言ったけど本当に似合ってんね。
軽く思考を読み取った彼女が、にまにまと笑って軽く手を振ってくれた。ファンサ尊過ぎて横転します。
この状態でわかる通り、僕らの中にコールダウさんを過剰に害そうという意識がある人は居ない。
まぁ僕以外のみんながビキバキにブチキレてるのは事実だが、それでも誰も彼に怪我すらさせていないのは、ひとえにこれからの僕らの未来を狭めない為だ。
国が雇っている相手を怪我させたり……下手な事しちゃったりすれば、それが例え攻撃に対する防衛によるものであっても、難癖をつけられたら手に負えないからだ。
この世界の公権力ってのは、人道に悖る事を平気でできちゃうくらい強大な存在なのである。
別にホントにヤバくなったら国くらいほっぽり出して夜逃げしても良いんだが、たったこれくらいの事でそこまで大事にしてもしょうがないしね。
そもそも彼がなぜこんな事をしたのか……は、すでに大体察しているし、それもみんなにはある程度伝わっている。
だから、まぁ。
「委員長、トリモチある? じゃあ詠唱できないように口と、あと手足を……おぁ、すご、そんな目や耳まで」
「危険人物ですので、厳重に拘束するのは当然かと」
「あー、まぁ、うん、そうね。そいじゃ目黒さん、ごめんけどこのまま影を経由とかして宿の部屋に放り出したりできる? ちょっと力足んない? そか。じゃあ、どうしよっかな……え? はい、手を出す。おわーー!!! ちょ、これ銀貨何枚!? あ、これでイケる……じゃあ、お願いします……」
と、いうワケでそういう事になり。
抱え上げた明星先輩が彼を闇の中へと放り込むと、緞帳が上がり僕らはまたパーティへと戻っていった。
突然姿を現した事を全員「ちょっと骨見に行ってました〜」と全力でトボけたけれど、たぶんみんな薄々なんか有ったんだろうなとは思われただろう。
でもまぁ多少失礼というか変な事しても、僕らは冒険者であり貴族や商人とは違うんだから、ちょっとくらい許してくれるだろう。
「なんと……! その様な事があったとは……すまない、これは主催たる私の責任だ」
とはいえ念の為、グランダム様にだけは事の顛末を報告しておく。
ヒート嬢が迷惑をかけた程度では出なかった謝罪の言葉が、初めて彼の口から漏れ出る。
まぁ本気で殺すつもりは無かっただろうけれども、そもそも貴族やら協会の有力者やらが山ほどいるパーティーで、本日の主役のタスキをかけられた僕らに喧嘩を売るのはあんま良かないよなぁ。
「いえいえ、そんな。まさか国から派遣された冒険者が、あのようなマナーも弁えぬ人間である事など、普通であれば想定の仕様もないことですからねぇ。けしてギギルガム様の責とは、少なくとも私たちは思いません」
「む、むぅ……これは釈明のようになってしまうが、コールダウ殿と言えば鉱脈纏の山百足を叩き斬った、我が国きっての高位冒険者だ。それ以来帝国付となり、様々な任務を幾度と熟してきた男なのでな。彼とてこういった催しに足を運ぶのは一度や二度ではない。そんな彼がこの様な暴挙に出るなど……なにか、理由があったとは推測できる。しかし事が事だ。きちんと国には苦言を呈しておく」
小金井さんのちょっとした嫌味に顔を歪めつつ、彼は不可解そうにそう締めくくった。
帝国付の冒険者が、まるで何かに駆り立てられたかのように、そんな事を仕出かしてしまう理由。
その言葉がなんとなく、僕らの先にある暗雲を示唆しているように思えた。
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「……ぷぁ。ようやくお帰りか? できればさっさと両手両足の骨を治させて貰いたいんだがね」
椅子に座らされ、口周りのトリモチを剥がされたコールダウさんが、ウンザリしたように言う。
お、折れてんの!? 大丈夫!?
「痛み止めをトリモチの間に流し込んどきました。数時間は効果があるでしょう」
「このまま放り出されたら、数日で骨バラバラのままくっついちまうって……さっきの件は謝るからよ。治療だけはさせてくれ。オマエらも国なんて面倒くさい集団の相手はしたくないだろ?」
「アホか。喧嘩売った相手にバック語って脅しなんて情けねぇヤツ、誰が助ける気になるかよ。勝手に前衛彫刻みてーになってろ」
「シスターの言葉とは思えねぇなぁ」
無事にパーティーをなんとか乗り越えて、宿屋に帰り着いた僕らは気疲れしてさっさとベッドに飛び込みたい気持ちを押して、更なる面倒事と対峙していた。
なんでも明星先輩が目黒さんの影へと彼を放り込む際、“たまたま“両手両足の骨が折れてしまったらしい。
数時間そのまま放置されていたとは、正直ちょっと同情しちゃうレベルだ。
しかし、なんつーか、向こうも事情をそう易々と話してくれそうには無い。
たぶんそうじゃないかという推測はあっても、それの答え合わせをしてもらわないといけない。
けれども、そら国のお抱えが機密事項を簡単に漏らしはせんわな。
つってもさぁ。
僕はともかくみんなに危害が及びかねない以上、頑張って聞き出す他無いんだよね。
彼の前の椅子に座り、目を瞑って息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
先程の出来事を思い返す。
僕らが危険かどうかを判断されねばならない事情を思い描く。
例えば僕なら、なぜそういう事をするか。
別にパーティー会場でやる必要は無い。でもやった。
人前だから、祀り上げられていたから、天狗になってそうだったから……だから、あそこでやる必要がある?
……うーん、これはダメっすね、あんまり意味が無さそうだ。
頭の良くない僕がいくら考えた所で、「一回休み」のコマと似た効果しか無い。
いくつか弾き出された意味の無さそうな思い付きは、脳の隅っこに掃いて置いておく。
ならばやっぱり、知ってる人から聞く方が間違いなさそうだ。
話すべき言葉を考える。
彼の立場を推測する。
目の前の人に意識を割いて、正面から彼を見詰める。
この人を好きになる為に、なんでも知りたい大事な人を増やす為に。
「ねぇ、コールダウさん。僕は先程グランダム様からあなたの来歴を軽く聞きました」
「……お、そうかい。あの人はなんか言ってたか? どうせ未だに金属付いたムシ倒した話くらいしかしなかったろ。どうしてもここらは情報が帝都より遅れるからな」
はぐらかしている。未だ本気で取り合っていない。
「あぁ、仰る通り。なんでも鋼より硬い山のように大きな百足を切り伏せ、その功を買われ国が召し抱えたとか。まるで物語のような話ですよね。冒険者として、やっぱり憧れちゃいますよ」
「ハハッ……冗談キツいぜ。魔王の走狗を二体討伐し、今回は比喩抜きで山のように巨大な大怪鳥を叩き落としといて、今更俺なんかのどこに憧れるってんだ?」
呆れ。そして馬鹿馬鹿しさに紛れた本音。嘘をつく必要の無い部分。
けれど余裕がある。それは自分がまだ奥の手どころか、実力のほとんどを見せていないから。こんな青二才どもにはまだまだ負けねぇよという自尊心。
「えー? だって僕らそれだけやっても国からなんも言われて無いですよ? つまりその大百足は、僕らの倒してきたのより危険だったからじゃありません?」
「あぁ? んなこたなぇよ。マジでお前らのやった事の方がスゲェ。アイツを倒せたのは俺の力が向いてたからだけどよ、お前らはまったく別種のバケモノを三度も倒してる、なんつーか、俺みたいに特化してるのよりなんでも熟せる方が評価されやすいもんさ。……なによりさっき負けてるだろ?」
真剣。僕らは評価されている。先程自分が簡単にノされた事を含め、素直に受け入れているのもその表れ。
少しずつ誤魔化しと本当の言葉が混じり始めている。とはいえまだまだ言っていい範疇だからだ。言葉をちょっと交わしただけで、気を許すほど甘い人が国には召し抱えられない。
「あれはまぁ、ちょっとした不意打ち的なもんでしたしね? あ、いや、コールダウさんの事を言ってるワケではなく」
「いいよ、俺だって不意打ちなんだから。ま、分かってるだろうけど、マジで殺す気なんか無かった。アレも剣じゃないし、寸止めするつもりだった。完璧に避けられた以上、それが真実かどうか証明のしようがねぇから言い訳にしかならんが。オマエからなんかやり返したいなら、一発くらいなぐってもいいぞ?」
紛れもない本音。
知り合いへ暴力を振るう気は無いので、困ったように眉を下げて、中指だけ立てておく。
これでトントンって事にしといてよ。
「あぁ、そういえばこちらには来たばかりなんでしたね。実はボゥギフトの友人の為に土産をいくつか買ってまして、よければ一杯いかがですか。あぁ、いやいや気になさらないで。どうせ何本あってもすぐ飲んじゃうんですあの人ら。一、二本程度なら誤差ですし、なんなら買いたしゃいい話、でしょ? あ、大丈夫大丈夫、盃は僕が持ち上げます。いやすいませんねご不便かけて。僕はもう気にしてないんですが、如何せんこの弱さだ。仲間には心配をかけられなくて」
みんなは目配せをしつつ、バフを通じて彼と自室で二人きりにさせて欲しいと伝える。
最初は渋っていたみんなも、脳内会議(なんと脳内なのに僕一人によるものではなく、この額のバフ強度なら全員参加で行えるようになっているのだ。discordみたいなもん、便利です。便利で済ませていいのかコレ……?)で、気配を消した悪王寺先輩が傍に隠れている事でなんとか合意に至り、それぞれの部屋へと戻っていった。
「オイオイ、良いのかよ? 口を開ける俺に、この程度の拘束が意味を持つと思うか? またオマエに襲いかかるかも知れねぇぞ?」
「またまたぁ。さっき自分で仰ってたでしょ? もとから殺す気は無かったって。……僕も、そう思います。貴方はそんな事を好んでする性格ではない。なにか僕らに言えない事情があったのでしょう。ま、それがなんなのかとかは置いといて……単に先輩冒険者さんから、お話を聞きたいだけなんですよ」
彼に背を向け部屋の片隅に置いてあった酒の甕を取り出し、蓋を開けて備え付けのカップに注ぐ。
果物と麦が合わさったような、独特な芳香が鼻腔を満たす。
まず僕が少し傾けて唇を濡らしその味を確かめて、毒や薬が入っていない事を見せてから、彼の口元へとカップを運ぶ。
「冒険者としての心得や、帝国お抱えになるまでの冒険譚に、旅人が一つは持ってる笑い話……さっきのパーティは偉い人ばかりで堅苦しくて、なんだか疲れちゃいましてね。バカな話でもしながら、酒を飲みたくて仕方ないんです。あ、もちろん、僕も話したい事がたくさんありまして、実はね、こう見えて結構バクチもやるんですよ。え、知ってる? あ、ヒモなのバレてますもんね。そうそう、ボゥギフトで流行りの賭け事、ご存知です? そう! 僕はね〜、その競魔が滅法好きなんですよ。見たことは……えぇ!? あのフライングスパイダーオークケンタウロス見たんですか!? 今でも話題に上がる超欠陥合成魔獣を実際にぃ!? いやボゥギフトじゃね、まだあれ全然熱い話題で……」
見張りの悪王寺先輩が目黒さんと途中交代する中で、まるで旧交を温めるように僕らはのんびりと、夜が更けても他愛ない話を続けるのだった。