【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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続きは3日後。
これからも3日に一回投稿ペースでいくと思います。

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特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
2025/2/14 追記:「今秋の豊穣祭」→「次の春の豊穣祭」に訂正しました。話の都合上、想定していたイベントの順序と変わった為。


【63】 僕と彼女の子供

 空飛ぶクジラを堕とし、期せずして大金持ちになった僕らだが、その使い道の一つは既に決めてあった。

 これが僕だけではなく、パーティの大半が相談することなく自発的に決めていたあたり、相当手堅い投資なのは間違いない。

 それは、小金井さんの新商会立ち上げ資金にする事だ。

 税理士に聞かれても良い顔されるだろう、節税にピッタリな使途だぜ。

 

「ふむ、そうだな。それで良いだろう。こちらとしても、こういった形の方が都合が良い。わざわざ他の街から火事場泥棒に来る欲の皮が突っ張った爺どもの相手をするより、我が領を救った英雄と気分の良い取引をしたいのは当然の話だ」

「えぇ、えぇ、仰るとおりかと。どうも長く生きた商人というものは、まるで戻らぬ時を買い戻せるかのように、要らぬ欲をかいてしまいがちでして。あぁいう手合は相手にするだけ損というもの。老舗も悪くはないですが、今ばかりは既存の物より新たな枠組みが必要な時でしょう。手足は勝手に動くものより、自前の方が都合が良いのは当たり前ですから」

 

 と、僕らメンバーの前でなんだか老練な会話を繰り広げた後。

 グランダム様の認可を受け、摘発により潰れた多くの商会の後釜として、小金井山算金を会頭とした『ブルーゴールド商会』は立ち上げられる事と相成った。

 

 先日のパーティーにてグランダム様を交えバルツァン商業ギルドと会談を行い、この度正式に設立する運びとなったそうだ。

 僕が美味い飯を肴に高い酒を飲んでいる間に彼女はしっかり働いていたと知り、ハチャメチャに自己嫌悪で憂鬱になったんだよね。

 これじゃまるで僕がヒモみたいじゃないか……! そうです、しっかりとした自覚が養われてきたようやね。

 

 

 空飛ぶクジラ討伐に破格の報酬を初めから提示していたグランダム様は、端からこれを想定していたのかも知れない。

 彼女曰く、「私が言い出した時、彼は「ようやくか……」と少しホッとしたような顔をしていた」というのだから、まったく青い血の貴族というのは恐ろしいものである。

 つまるところ、金級冒険者パーティとして訪れた僕らの中に居た小金井さんを見た時点で、そうなるだろうと予測していた事になるのだから。

 方法や手段までは知らずとも、この少女が温泉街に巣食った病巣を快刀乱麻に切除するに違いないと、そうわかっていた。

 それこそが、人を見る目というものなのだ。

 

 とはいえ小金井さんは僕らパーティの一員なので、こちらに一人残るわけにもいかない。

 しかし領を跨ぎ貿易を行うような新設の商会の会頭が、他領に居るようでは誰もそこを信用はすまい。

 うーん、これは困ったなぁ……。やぁ、何かお困りかい? あ、貴方様はァ!? グ、グランダム様!! 話は聞かせてもらった、ならば彼らを使いなさい。

 と、そんな流れがあったのかどうかは定かではないが。

 そういう事ならばと、領を救った英雄の一人へとグランダム様が格別の配慮をくださり、彼女が不在時の代理となる人員を手配してくださった。

 会頭代理として派遣された人間が、都度都度定期報告で小金井さんへ指示を仰ぎながら運営していくという形を取るそうだ。

 丁稚や番頭など、その他ほとんどの人材も彼から紹介を受けた人物である。

 ここバルツァンに本店を置き、帰還後にボゥギフトでも土地建物を買って支店を置く事を既に予定しているらしい。

 

 ま、そういう事。

 つまりはマッチポンプというか、大義名分を用意して領主様の息のかかった人間だけで構成した機関を作り出したみたいなもんさ。

 

 よっぽど今までの悪徳商人共の専横が鬱陶しかったのでしょうねぇと、小金井さんは憐れみすら見せて笑っていた。

 そんなブルーゴールド商会は、バルツァン商業ギルドにはかなり好意的に受け入れられている。

 なんてったって幾つもあった大店が小金井さんとグランダム様によってぶっ潰されてるので、彼らがなんかやるっつったら媚売らざるを得ないってのもあるが。

 しかしそうでなくても、今潰れてない以上過度な違法行為には手を染めていない店ばかりで、あくどい犯罪を繰り返す彼らに嫌気が差していたのもまた事実なので。

 あとは彼女の商会がちゃんと真っ当な商売をやっていれば、ほどなくして完璧にこの街に馴染むに違いない。

 

 

 そういった経緯もあり半分ギギルガム家所有みたいな状態ではあるが、小金井さんが利用されて終わりなハズもなく、一定以上の権限は手中に収めている。

 ちゃんと最大出資者は僕らパーティであり、グランダム様の意向を無視はできなくとも、言いなりになる必要はない。

 そこらの綱引きは、言われるまでもなく彼女ならちゃんとやってみせるのだろう。

 まぁ、あんまりやり過ぎて昔を思い出したグランダム様に癇癪起こされないように……ってのも、釈迦に説法か。

 これで彼女は正式に立場と権力を得たのだから、僕らに入用な物を用意するのも容易くなり、金銭面でも困る事は少なくなるだろうし……なにより情報がストレートに入ってくる。

 僕らが今求めている魔王の情報と……そして、同じ高校の転移者たちがやらかした重大事の内容を、探ってもらう必要があるのだ。

 商業ギルド所属のヒラ冒険者と、商会を保有する会頭では知れる情報の権限があまりにも違う。

 彼女が出発前に大怪鳥の被害を聞けなかったように。

 

 

 これはまだボゥギフト商業ギルドには伝わっていないが、しかし彼らにしてみれば寝耳に水の出来事だろう。

 そもそも今回彼女がギルドから派遣されている以上、ボゥギフト商業ギルドとしてはグランダム様に認可された小金井さんの商会を無視はできない。

 なにせ報酬の内として設立を許可した形なのだから、身内が賜った貴族の褒美を無視したらそらもう首が飛びかねない。ボゥギフトに支店を建てるよと言われても、良い顔はしたくないが笑顔で祝福する他無いだろう。

 彼らに類稀な資本力があったとて、帝国でも有名な領地貴族に表立って反発できるほど権力があるわけではない。

 貴族による完璧な後ろ盾を得た金級冒険者の実力がある小金井さんに、単なる一介の金持ち商人程度がなにかできるワケもない。

 もはやこうなっては、ボゥギフトでふんぞり返っていた火事場泥棒どもも、後塵を拝することになったのを歯噛みするくらいしかできないだろう。

 ま、ギルド員として多少足元を見られたりはするかも知れないが、しかしそれがストレートにグランダム様に伝わるとなれば無体はできない。

 出発前に煮え湯を飲まされたボゥギフト商業ギルドを、彼女は完璧にやり込めた形となったのだった。

 

 

 様々な書類にサインをし、数多の打ち合わせを終えて帰って来た小金井さんは、僕の部屋へとやって来ると自慢気に胸を張る。

 

「ンフフ、どうですこの店名。我が子には二人の名前から一文字ずつ取るつもりだと、共犯者サンは言っていましたものねぇ? 湯水の如く金が湧く、というのも私たちにすればあながち誇張でもないですしぃ」

「……僕の子にしては出来が良さそうだから、父親としてなにができるか不安になっちゃうよ」

「おやおやぁ、青海センパイも案外わかってないですねぇ。子供ってのは愛して構って褒めて叱れば、それだけで良いのですよ。私が保証しましょう」

「ん……じゃあまずは、子供の前に君にそれをしてあげようかな。……よく頑張ったね、すごいよ山算金」

 

 そう言って、目の高さを合わせて頭を撫でてあげると、驚いたように目を見開いて……顔をくしゃくしゃにして彼女は笑った。

 ……きっとそれは、彼女自身がして欲しかったことなのだろうから。

 

「え、えへへ……いえ、そんな、ねぇ? 私が頑張ったというか、みんなでお金を出し合ったものですしぃ? そんな、へへ……んへへ」

 

 周りに誰も居ない僕の部屋の中、仮面を外した彼女が無邪気に振る舞う。

 その顔を見れるのが僕だけである事に、仄暗い悦びを見出してしまうような醜悪な人間が、彼女に釣り合うはずもない。

 いつか誰か、この人に相応しい素晴らしい人間が現れた時。

 小金井山算金は、ずっと仮面を外して生きていけるようになるのだろう。

 

「あ、ただぁ……そのぉ……」

「ん? どしたの?」

「色々話し合った結果、青海センパイからのご融資は却下されましてぇ」

「へ……?」

「ほら、センパイが設立に際しお金出しちゃうと、私や商会から渡すお小遣いが株式配当という形で処理されちゃいかねないって意見が出たんですよぅ」

「株式配当」

「そうなるとセンパイへの貢ぎ……じゃないや、扶養に入らなくてバフが効かない可能性が考えられるって、委員長先輩が仰ってて。なんでぇ、センパイはそのお金を好きな事に使ったり……好きな人を口説く為に使って下さいね。例えば可愛い後輩にプレゼントなんか買っちゃったり?」

「……あい」

 

 そうなるとつまり僕の種じゃない子供(商会)ができたって事になんない? という疑問が脳裏を掠めたが。

 でも僕の大好きな相手の子供なら関係無いし、むしろ不純物入ってなくてお得じゃんねと気付いたので、何の問題も無いのだった。

 

 彼女たちはバフの都合上(それ以外の理由がある気もしないでもないが)僕へお金を使いたがるし、例えばご飯代やギャンブル代は軒並み出してもらっているのだが、それはそれとしてプレゼントを僕が買ってあげたりすると、心の底から嬉しそうにしてくれる。

 

 ま、当然だよね。

 渡してばかりじゃ対等じゃない。

 片方だけが受け取り続ける関係は、いともたやすく崩壊するもんさ。

 なおヒモと飼い主はそもそも対等ではないという根本的理屈はこの場合考慮しないものとする。

 

 付き合いのある誰かから贈り物を貰って、嫌な気分になることはそうないからな。……こう言うと自惚れなので、『好きな人から』という言葉は除外しておくが。

 一応僕だって、バフがかかってないのでみんなより程度が落ちるとはいえ頭を使って、送る相手に似合いそうな物や、大好きな人が喜んでくれそうな物を選んでいるからね。

 しかし直感や理屈それぞれの面を考慮しても絶対に喜ばれるという事が分かっているのだが、鹿野ちゃんに噛んでいいボールの玩具は渡せてないし、先生に生地の薄い布地の服はプレゼントできていないし、目黒さんへ僕の首にピッタリハマるサイズの首輪に繋がったリードを差し出せてはいない。

 相手の欲しい物がわかっても、果たしてそれを渡した結果何が起こるかを推測すると渡せない場合もあるんだね! 人付き合いって難しすぎないか?

 

 

 そんなこんなで小金井さんに先日披露した宴会芸をイジられていると、部屋に備え付けられたベルの魔導具がチリンと音をたてた。

 お、なんだなんだ。

 今まで使われたことの無かったアメニティの突然の反応にビビりつつ、ベルを確認すると「来客時に鳴らさせて頂きます」との事。

 インターフォンか内線電話っつーことね、便利だねぇ異世界も。

 

 小金井さんにつっつかれ引っ張られじゃれてるうちに何故か乱れた僕の衣服を直しつつ。

 いそいそと出てきたエントランスで僕らを出迎えたのは、今をときめく龍の血を継ぐご令嬢ヒート様であった。なにっ。 

 

「おわわ、ヒート様じゃないですか。お待たせしてしまいました」

「いえ、先触れもなく訪問したこちらの不作法ですわ。気にしないでください。しかし、ちょうど師匠も居られたとは、都合が良かったですわね」

「おや、私にもご用事ですかぁ?」

「はい、ですが……ここでは少々」

「なるほど、なるほど……ではセンパイの部屋でも良いですかねぇ?」

「そうですね、よろしければ」

「可愛らしい弟子の頼みです。否やはありませんよ」

 

 あれよあれよと僕が承諾する間もなく、僕の部屋で策略師弟の会談が行われる事に相成っていた。

 まぁもちろん拒否するつもりはなかったしいいんだけどね。

 なんなら僕が邪魔なら外出てても良いし。

 

「師匠、この度のブルーゴールド商会創立、おめでとうございます」

「いいえぇ、半ば以上に貴方のお父様が手を貸してくださったおかげですよ」

 

 スッと、小金井さんの目が細まった。

 およその目的を察知した彼女が、目の前の生徒が果たしてどのようにそこへ達するつもりなのかをテストしようとしている。

 その為にどういった論法を用いて、どんな利益を提示し、どれくらい譲歩を引き出して、目的地を引き寄せるプランなのか。

 出来の良い生徒が先生に対して持ちかけた商談を、シビアな商人として値踏みする。

 

「ですが、師匠はボゥギフトへと帰られる」

「そうですね、グランダム様より信用のおける代理を派遣して頂く事になっています」

「けれど、それでは周囲から父の首輪付きと見做され、自由な商いが難しくなるかと愚考します」

「そうでしょうか? ご領主様お墨付きであるという信用は、新設の商会にとって代え難いメリットに感じますが」

「例えば師匠が冒険者としての目的に迫る為やりたい事があったとしても、我々の意に沿わなければそれが叶わぬ場合も考えられます」

「私はグランダム様がその様に狭量な事は仰らぬとは思いますが、たしかに我々が目指す場所を事前に共有していない以上……なるほど、無いとは断言できませんね」

 

 途方も無い難敵に挑む様に、手を膝の上で握り締めながら額に汗をかいたヒート様の言葉を、小金井さんは鷹揚に頷いて首肯する。

 お、ヒット出たっぽいね、わかんないけど。

 

「しかし、私は師匠のパーティに恩があります。師匠は言うまでもなく、アオミさんにはこの血に眠る力を開放して頂きましたし、ヒジリ様やアカネ様には大怪鳥を屠って頂いた。カノちゃんやシノさんにも良くして頂き、今まで居なかった歳の近い親しい友を得たような気持ちでしたわ。……ですからその恩義に報いる為に、私にできることはさせて頂きたいのです」

「……それはそれは、有り難い話です」

「私が会頭代理になるのは現実的に難しい話ですし、私がその人物を指定するのもできそうにありません。けれど、父が雇うであろう者の中に私のシンパを紛れ込ませる事はできますし、なにより……私がブルーゴールド商会の外部顧問となる事は問題ありません」

「それをグランダム様が許しますか?」

「正式に爵位を得ているわけではない跡継が外部顧問となり、利を享受した前例は存在します。言わば御用達の任を得る為の対価、賄賂にならず金銭を受け取れる抜け道のようなものですわ。それくらいならば、お父様も口煩くは言わないでしょう」

 

 それきり二人は口を開かず、僕の部屋に静寂が訪れる。

 急に始まった問答を前に、部屋の主は完全に蚊帳の外だ。やっぱ出ていっといた方が良かったんじゃないか?

 こういうM-1の敗者復活発表みたいな空気は得意じゃないんだよな。

 幼少期以降、失格以外の判子が押された事の無い人生が、僕に試験そのものを忌避させる傾向を植え付けた。

 悲しいかな、悪い事ってのは連鎖するもんなのさ。

 ハムスターのカラカラよりよっぽど、悪循環ってのは回りやすいからね。Plan.Do.Collapse.Afraidの終わったPDCAサイクルだ。

 

 息詰まるような無言の時間が過ぎて、ヒート嬢がそろそろ緊張から目を回して幼児退行しそうになってきた頃。

 

「なるほど、それは素晴らしい提案です。いやぁ、そんな事を仰っていただけるとは、私共には身に余る光栄でございます」

 

 笑顔で手を打ち合わせた小金井さんが、恭しく頭を下げた。

 どうやら合格点だったらしい。

 知らず身を硬くしていた僕もヒート様と同時に胸を撫で下ろし、溜まった息を吐く。

 

「しかしヒート様。あなたはギギルガム家令嬢なのですから、もっと強引に要求しても良いですし、そのような自分の風聞が悪くなりかねない立場を自ら取る必要はありません。今回は私共から外部顧問に就いていただくよう打診し、それをヒート様が寛容にも受け入れたという形を取りましょう」

「い、いえ、ですがそれでは……」

「良いんですよ。どうせ紐付きだと思われるくらいなら、こちらから貴族へ繋がりを求めたとでも思わせた方が相手も納得しやすい。貴族に気に入られている相手は扱いにくいですけれど、貴族に気に入られようとしている相手なら鼻で笑って受け入れやすい。庶民の嫉妬は恐ろしいものですからねぇ」

「……有難うございます。勉強になりましたわ」

 

 そうして頑張った生徒の為に譲歩してあげて、貴族らしからぬ丁寧さで平民へと頭を下げた彼女を、小金井さんがまた窘めると。

 小金井先生によるヒート嬢への講義は幕を閉じるのであった。

 

「あ、そうそう。本日これとは別にアオミさんにもお願いがあって参ったんですわ」

 

 あぁ、そうか、そういや彼女は僕の部屋のベルを鳴らしたのだった。

 つまるところ、たまたま一緒に居たから小金井さんへこの話をしたのであって、本来の用件は僕の方にあったワケで。

 はいはい、どういったご用事ですかね?

 帰りの魔車で言ってた故郷の遊びの話でしたら、まだまだネタがありますからいくらでも……

 

「次の春の祭、皇帝陛下に竜化を披露しに帝都へと行くのですけれど、その時に一緒に着いてきてアレをかけて欲しいのですわ!」

「へ?」

 

 それは奇しくも、昨日コールダウさんが帰っていった場所と同じ。

 異世界人を敵と認定し、僕らを異世界人だと疑ったお偉いさんが居る……この国の首都へのお誘いであった。

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