【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
どうやらあの黄金色の文字は、見る者の知る言語へと自動的に訳されていたらしく、ギルド中にキチンと僕がヒモに向いている事は周知された様だった。なんだそのハイテクな追い詰め方は。
「……その、ごめんなさいね、青海君。私、あなたの事を疑ってしまって」
「いや、良いんだよ委員長」
「あなたは紛れもなく真実ヒモだったのに、それを私あんな風にホントは普通に職業を持ってるんだろって決めつけて」
「本当に良いんだよ委員長!」
死体に下小キックを放つな。
とりあえず各々が所属するギルドへの登録を済ませた僕らは、再度集合して夕餉を共にしていた。
なお「ギルドっていうかご自宅で職務を全うされてはいかがでしょうか」と親切なギルド職員さんに案内を受けた僕は、ヒモ向けのギルドがないか町中を這いずり回ってたら気付けば約束の時間になっていたので、とぼとぼとここまでやって来た次第だ。お、なんだ? モンスターに殺される前に社会的な死か? ん?
自分の目が孤独死していくのを自覚しつつ、テーブルに並べられた何枚かの大皿から、適当な料理を取り分ける。なんだっけこれ、スプーンの上でシットリと濡れた身が脈動してるけど活きの良いお魚かなにかかな? ポロリロのシッヒキャ蒸しとかなんかそんなんだった気がする。頼んだの誰だ、なんでこの名前の料理をチョイスしたの? 結局なんなんだよこれうめぇな。
僕が名前のごとくポロポロと崩れるような白身の食感を楽しんでいると、右頬に視線を感じた。視線を感じたというか鼻息も感じる。ちょ、ち、ちっ、近い……んもー、わかったわかりましたぁー、話を伺いますぅー、わかりましたぁー。
「どうしたのかな、鹿伏さん」
「えっ!? なんで私が話したいってわかったんすかぁー!? ハッ、それがヒモの能力! ですか!」
「いやまぁ実際ヒモするならそういう能力もいるだろうけどね、これはちょっと違うかなって。で、どうしたの? 何が聞きたいのかな?」
「結局ヒモってなんなんすか?」
なんで急に殺しに来たの?
思わず黒井さんに助けを求め、縋るような視線を向ける。長い髪を振り乱しておもいっきり狼狽えてくれた。啜っていた麺を少し吹き出してる。かわいい。
「ぶぇっ……げほ……! な、わ、わ、私……? えっ……なんで……!?」
「ううん、大丈夫、心配しないで黒井さん。僕だけで、なんとかするから」
「えっ、えっ、えっ」
「えっとね鹿伏さん、ヒモって言うのはお仕事をしてる異性の人の寂しさを、辛くないようにお家の中で癒やしてあげる職業で」
「他人の稼ぎを搾取する寄生虫(パラサイト)なクズの事です」
「えっとね委員長、オブラートって言うのはお仕事をしていない無職の人のやましさを、刺激しないようにお口の中で包んであげる表現で」
委員長????? 委員長もしかしてヒモの事嫌い??????
まぁ世の中探し回っても扶養者(飼い主)以外で好きな奴いねーわな。
「えー? どっちなんですかぁー?」
「えぇっとね、青海君の言ってる事も正親さんの言ってる事も間違いでは無いかしら……」
流石に僕の手前で委員長の意見を全肯定するわけにもいかなかったのだろう。そういうとこだぞ、いい先生だなぁと思うのは。
しかしこれは全ての生徒に配慮する仏の如き先生の社交辞令的気遣いなので、ここで「ヒモに一定の理解があるらしいので養ってもーらお」とか調子に乗ってはいけない。誰が乗れるんだその調子の波濤に。成りたてのヒモには高難易度過ぎる。
「……それで、みんなギルドはどうだったの?」
僕は話を転換する事がこの世でホヤの次に苦手だけど、生きるか死ぬかの瀬戸際で好き嫌いは言っていられない。
もうこの場所には戻ってこないようにどんどん転がしていこう。
「私は無事錬金術ギルドに登録できました。……初心者向けの書物を一冊借り受けましたが、詰まることもなくスラスラ読める辺り本当に天職なのかも知れません。あの誘拐犯の言葉を真に受けるのは癪ですが、生活を前にして意地を張るのは愚かしいですから」
僕も初心者向けのヒモ読本が欲しい。いや、欲しくはない。欲しくはないんだけど、必要になると思う。だってこの感じだとマジで僕ヒモしか道残ってなさそうじゃんね。「はじめてのかけごと」とか「やさしいおかねのかりかた」とか、読んどかないとこれから困りそう。多分読んだら読んだで僕の周囲の人が困るんだけど。
「本を見ている感じですとマナポーションやライフポーションの作成、または戦闘におけるバフデバフを担当するのが錬金術師の主な仕事のようです。いろいろと潰しの利く職業みたいで、こういうのもおかしいですが助かりました」
穀潰しである僕に対する嫌味かな?
「えー、先輩カッコいいー、いいなー! 私なんか弓渡されて的に撃ってみろとか言われて、そんないきなり言われてもムリっすって言ってんのに聞いてもらえなかったんすよ!」
「……でも、天使さんから貰った砲で……的バキバキに壊せてた……から……」
「そーなんっすよね! なんか初めてなのに全然そんな感じじゃないっていうか、全然撃てて! それに黒井センパイもナイフスコココココって! 板に! スコココココ!」
うーん、凄い。鹿伏さんが何を言っているかわかる。オノマトペって強い。
つかなに二人して転生チートポイント高めなイベントやってんの?
僕なんかヒモ向けのギルド探しの最中、聞き込みした飲み屋のオッサンと仲良くなっただけの時間を過ごしていたのに。
今度一緒に飲もうって言われた。
未成年に飲酒勧めるのかって話だけど、まぁ飲み屋にも明らかティーンエイジャーっぽいの居たからこっちでは大丈夫なんでしょ多分。
「あ、あれは……私の力って言うか、その……なんかできるように天使様にしてもらえたって……感じで。私なんかが、あんなの……できるはず無いのに……」
あー、だぁね、そうだよね。そこら辺やっぱ考えてしまうところだよね。
精神の貴族ならぬ精神の奴隷である僕らルサンチマンの塊魂は、自身の低い能力を嫌と言うほど心に刻み込んで生きている。そんな中で急に貰いもんの力でテコ入れされても、正直困惑っつーか困っちゃうって話。
つまり僕も彼女もヒトという種族の三角形の底辺に位置する劣等感の塊どもなので、急に力を持たされてもこんにゃの経験した事無いのほぉ~あへぇ~ってなってダメれしゅう~ってなっちゃう。
ついみさくら語が心の内から漏れ出てしまったが、なにもできねぇ奴が突然努力とかの裏打ち無しになんかできるようになっても、そんな力扱いきれるはずねーわな。
それは異世界に限った話ではなく、例えば料理や運動なんかにおいてすらもそうで、『自分にはそれができるのだ』という自信こそが、能力を行使する際に最も必要な素養なので仕方ない。半信半疑でやって何かが上手くいくはずがないんだよね。
その能力と自信のギャップで、黒井さんは戸惑っているのだろう。
かわいい。エモい。
しかしもちろん僕はそういう葛藤とは無縁である。なんたってヒモだ。地球に居た頃と変わらずなにもできやしない。死ぬべきか?
そんな僕の想いを察してか否か、委員長は大皿からピザっぽいパンを一切れ取って口に含み、その思った以上の熱さにわたわたした。察してないわこれは。
「私は教会でこの国の宗教についてお話を聞いてきたんだけれど、正直なところ困ってるわ。だって今まで全く知らなかった神様や教義を、天職だから信仰してって言われても……」
「そりゃまぁそうですよねぇ」
ごもっとも過ぎる。
『聖騎士向いてるから今日から神を信じますね!』ってそれ信じてないでしょ完全に。現世利益が過ぎるわ。向いてないよそんな奴は聖職者に。
「まぁでも生活の為ですから、なんとか頑張っていこうと思ってます。それに奇跡とやらもこの世界では目に見えて実在するようですし、目の当たりにすれば本当に信仰心も湧いてくるかも知れませんしね」
そこまで話して、全員がはふぅと息をついた。
単なる食休みである。珍しさも手伝って頼みすぎかな?っつーくらい注文しちゃったのに、大皿は全て空っぽになっていた。
みんななんだかんだとこっち来てから、肉体的な活動してばかりなのでそりゃお腹も空くはずなんだけど、それでもかなりの健啖だ。
体重計の無い世界に来て、みんなもう怖いものも無いのかもしれない。これを口に出すと純粋なまでの濃度の死と憎悪を味わう事になると思うので、賢明な僕はもちろん口にはしない。この気配り上手さが僕にヒモを招いてしまった原因なのか? 多分違うな。
「で、明日はどうしますか? 私は錬金術の素材をいくつか採集に、町の外に出ようかと思うのですが」
「そうなんすか? 私たちもなんか訓練だか講座だかで、獲物を三匹ずつ採って来いって言われてるんすよ」
「なら、明日はみんなで探索に行きましょうか。それぞれ自活するのは望ましいですが、あんな場所に単独で出るのはまだまだ危険です。しっかり準備をして、信頼できる人だけでパーティーを組んで行きましょう。……その際力仕事などもありますし、青海君も来てもらえれば有難いのですが、大丈夫ですか? なにより、あの力はいざという時私達の生命線になると思いますので」
自衛も難しそうな僕を置いていくべきか、それとも一人孤立させてしまわないように連れて行くべきか。
考慮の末に先生は後者を選択してくれたらしい。
他の面子も先生の言葉にある程度納得しているのか、まぁ一様に渋々頷いたり制服の端に零したソースのシミを気にしたり前髪で顔が隠れて何を考えてるかわからなかったりしている。納得してるの委員長だけじゃないこれ?
みんなの納得はともかく、僕にとっても先生からの提案はありがたかった。
実際僕が初回で置いてかれてたら、なぁなぁでずるずると時を過ごし冒険も仕事もしない無為に日々を浪費するだけの役立たずな粗大ゴミへ変貌を遂げるのは目に見えていたし、早々に堪忍袋の緒が切れた委員長にスラムへ投棄されて、ヒモどころか浮浪者として就労しちゃうまでが容易に想像できてしまったからだ。
僕は地球に居た頃から、そういう息苦しくなり胸が痛くなる未来のビジョンを思い描く事に関してだけは、他の追随を許さなかったのだ。この世で一番いらない才能を持ってるな?
それでもやっぱり先生から言ってくれなきゃ、無能なヒモである僕が自分から探索への同行なんて言い出せないじゃんね。
だって「メリットはマジで不明瞭であるかどうかすら全く確約できないけど、一緒に探索付いてっていいでしょ? ヒモって名前に恥じず、ホントクソの役にも立たない可能性は大いにあるけど別にいいでしょ? ねぇいいでしょ? ねぇ? 連れてって? お願い? ね?」とか言った日にはその場で廃棄されてもやむ無しだ。いやこれは単に言い方が悪い。
まぁ、そういった僕の境遇云々を置いといても、探索に付いて行きたかった事自体も事実だった。
それはなにも異世界に来て浮かれて冒険者の真似事がした~いってわけではなくて……いやそれも全く無いとは言わないんだけど。だって正直凄いエキサイティングなこの展開に心が全然踊らねぇみたいな、根っからのシャイな日本人がディスコに紛れ込んだ時レベルで全く踊らないみたいな、そんな人間の方がレアリティ高いじゃん、そりゃしょうがないよ。血湧き肉躍る冒険譚を少しばかり心の何処かで期待しちゃうのは最早人情だよ。ヒモだってディスコで踊りたい時もあるさ。ちょっと思考がゴチャっちゃったけど、ディスコに紛れ込んだヒモっていよいよヤバくない? そもそもディスコってなにする所? 僕小学生の頃はエッチな場所だと思ってたんだけど。
ともかく、あの時の力について知る為に、僕は探索に付いて行きたかったのだ。
きっとあれは、町中で安穏と暮らしていては発揮されない類のモノだと思う。
発動条件や詳しい効果まではわからないが、あの”黄金色の軌跡”は確かに僕から先生へと向けて放たれた物だった。
それを契機として、先生曰く「腹の底からフンバリが湧いてきた」事により、僕らはあの窮地を脱せたわけである。
先生の言い方がどこか昭和の元ヤンくせぇ事はともかく、あの時先生になにがしかのバフがかかった事は紛れもない真実だろう。
であれば、もしかすれば僕には。
みんなの冒険の一助となる能力が、隠されているかも知れないという事なのだ。
……まぁ、先生側の「他者から何かを借り受ける能力」だった可能性も否定できないんだけど。僕の一縷の望みを初手で墓地へ葬るのはやめろって感じなのでその可能性は見て見ぬふりしていこう。
自分に都合の悪い情報からは積極的に目を逸すというライフハックだ。本当にそれで人生のクオリティは上がるんですかね?
フッ、今夜も(自己嫌悪で)忙しい夜になりそうだぜ……。