【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
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特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
2025/2/3:各所に加筆。
「ん……むぅ……」
瞼を貫く明るさと、耳に入り込んでくるびょうびょうという鳴き声に、深い眠りから精神が覚醒していく。えぇ……? 昔の犬居るぅ……?
窓の木板の間から、朝の清い光が闇に閉ざされた部屋に差し込んでいる。
その日差しの下でフチに降り立った真っ赤な小鳥が、文字通りびょうびょうと囀っていた。
小鳥たちは地球と変わらぬ朗らかさでまるで歌う様に、その小さな体躯から想像もつかねぇ太さの鳴き声で朝を告げる。声とナリのギャップがさぁ。……まぁでも楽しそうに歌ってるし、見てて悪い気はしないね。
僕も歌は楽しく歌うタイプなんだけど、周りの酔っぱらいどもの反応を見るに、どうやらあんま上手くないっぽいんだよな。ずっと笑ってやがるし。
いや、単にあの人らは酔いが回ってなんも分かんなくなってるだけな可能性もおおいにあるけどね? ゴードンさんの娘さんが間違えて、大匙で塩入れたと思しきスープも美味い美味いおかわりおかわりつって食ってたもん。死ぬぞ。僕も気合いで完食したが血管がキュンですとなり異様な発汗をした、怖い。
……そんな状態ですらあんま上手くないと思われる僕の歌は、いったいどのような物だというのか。正常な他人様に聞かせるのが恐ろしいので、飲み会以外で披露するタイミングは永遠に来ないだろう。日本に居た頃にカラオケに行く機会が無くて助かったぜ。ぼっちだった事で功を奏すな。
起こしてくれたことへの感謝に、昨日買ってあった野菜の種を炒った物をパラパラと窓縁に撒く。
わりと苦味があるが、それも塩気でなんとかなるギリギリのバランスを保った軽食だ。道端の子どもがぽりぽり齧ってたりする、この世界ではメジャーなお菓子。食べた事ないけど、ヒマワリの種ってこんな感じなのかもな。前に荷運びの魔獣へ餌としてあげようとしたら、横から飛んできた鹿野ちゃんに僕の掌ごと食べられたくらい人にも人気である。追い剥ぎは止めとこうね。帰り道でちゃんとあまあまやーらか団子も買ってあげました。
そんな種菓子をちぃとばかし撒いただけなのに、みるみるうちに鳥たちが集まってきて狭い窓のフチがパンパンになってしまった。昔の犬の囀りは既に拷問に変わって……じゃなく大合唱へと変わっている。
おわ゛ーー!!! びょうびょうびょうびょうびょうびょうウッサイねぇ!?
これどうすりゃいいの!?!? 朝からなんでこんな事になっちゃうんだよ!!
人にはちょっとおやつ過ぎるソレも、小鳥たちにしてみればごちそうなのだろう。
我先にと群がり、ほんの少し撒いただけの種はみるみる内に無くなってしまった。が、この程度で満足はしないらしく、次はまだかと小鳥たちはこちらをジッと見詰めている。ヒ、ヒッチコック……?
ちょっと命の危機を感じる事態にシナプス弾けさせながら数秒間考え、下に誰も居ないのを確認して十粒ばかし追加で地面へと落とす。
すると目敏い小鳥たちは、それを追いかけ階下へと散らばっていった。
やれやれ、朝からハードなミッションを熟しちまったぜ……。バードだけにっつってな、ガハハ!
多分これ複数回やっちゃうと糞害でヤバい事になるので、これっきりにしておこう。
「センパイは毎朝こんな愉快な事やってるんですかぁ?」
「いや、初めてやってみたら思いの外凄い事になっちゃって……おはよう山算金」
「えぇ、えぇ、おはようございます蒼センパイ」
背中へとしなだれかかってくる柔らかな肢体。顔も寄せてくれるけれど、二人とも口を濯ぐ前なのでキスは控えておこう。
つまりこれはいわゆる一つの朝びょうってヤツだ。それホントにいわゆるか?
こういった事は改めて語るものではないし、わざわざ言葉にしようとは思わないけれど、一生忘れない記憶になったのは間違いない。
そして……こんな風に言うのも野暮だけれど、彼女に救ってもらったなと、そう思う。
しかし……だけれども、だね。
どう……しよっ、かなぁ……。
「お、その顔は『これからみんなにどんな顔をして会えばいいのか分かんないな……』と思ってる顔ですねぇ」
さすが天性の商人小金井山算金、完璧な読心術だ。
しかし僕の心は基本的に著作権フリーで、今やパーティのみんなにとって青空文庫バリの気軽な読み物である為、この青海蒼に内心バレによる精神的動揺はそもそも存在しない! それ故にこれが負けフラグになることもないと思って頂こうッ!
なお現状既に打つ手がないのでフラグが無くとも僕の負けであった為、あえなくスピンしてコースアウト。ジュゲムに釣り戻されるもコインが足りなくて暗黒ローンの地下100階で無限に走らされる事となった。今思えば奴隷が地下で回してる棒って同じく発電機なのかも知れんね。
そんな僕の心象風景は、果たしてどういったイメージで彼女へ届いているのか……なんとなく山算金が「本当にこのバカには私が付いていてあげないとダメだなぁ(意訳)」と考えているのは伝わってくるので、ロクな内容ではない事は確からしい。
小さな鎖でできた指輪が、髪を掻き上げる彼女の左手薬指でキラリと輝いた。あげた覚えのないエンゲージリングがよう似合っとる。
もう慣れたもので、僕の中のヒモが勝手にやる事に狼狽える事すらない。
しかし本音を言うならば、そしてきっと彼女の想いを叶えるならば、改めて今度一緒に買いに行きたく思う。
それはそれとして、ってヤツさ。
どうせならあの二枚貝みたいにパカッて開くヤツで渡したいじゃんね?カッコつけたいワケじゃなく、物質的な証と同じくらい思い出も大事だって話。ついでに海と水族館とボゥギフトの外れにある湖と映画館と町で一番高い塔と動物園とゲーセンと春に白い花が咲き乱れるベールの丘とファミレスにもデートで行きたい。ファミレスはホントはダメらしいんだけど、でも山算金は常に高いお店に連れてって欲しがるタイプじゃあない。記念日でもないデートなら、普段通りの日常を一緒に送りたがるだろう。お金持ってる人ほどメリハリってもんを理解しているもんなんだよね。
……で、現実逃避はここまでにして、これからみんなにどんな顔をして会いに行けば良いんですかね……?
いやまぁ、みんなとキスしてた時点でもう十分ヤバかったのだから、いまさらと言えばいまさらだが。
けれど、そういった僕らの関係にて次のステップへの発展があった事と、もう一つ。
僕がみんなからの愛を……露悪的に言ってしまえば疑っていた、という点についてだ。
……こんな外道の選択をしている以上、愛想を尽かされる事は毎日覚悟している。
だから、もうほとほと嫌になった顔も見たくないと言われたら、本当にごめんなさいと謝ってどこかへと消えるつもりは、ずっと心の中に準備してあった。
それが今日かもしれないという重みが、一日たりと欠かすことなく僕の中でずしりと存在感を放ち続けている。
覚悟はしてもずっと震えている僕の心の弱さに、呆れて笑えてくるね。
そんな風に思わず自嘲してしまう僕を、なぜか山算金がジト目で見詰めていた。
な、なに? 山算金からその目で見られるのめちゃめちゃ久しぶりかも。僕が先生からお小遣いを貰ったとき以来か。毎回最悪のタイミングでちゃんと睨まれてんね。
好きな相手にはもっとカッコいい時を見せたいのだが、残念ながらヒモが本分を発揮している状態はあまねく人としてカスな時なので不可能なのであった。少し、ではなく多めに泣いておこうかな。毎回少し泣いてたらテンポ悪くなるし、今の内に先払いで。
「……次は『こんな事を考えていたのがバレたらみんなから愛想尽かされて、僕には可愛い可愛い山算金しか残らないだろうな』という顔をしています」
たった一人だけでも残ってくれる事が、僕にとっては奇跡みたいな話だとも思っているよ。
僕に関わってくれている人たちは、みんな僕には不釣り合いなほど良い人たちばかりだから。
「まったく、センパイはまだまだ他人からの愛を信じきれていませんね? ……まぁ、言われてすぐハイわかりましたと飲み込めるものではないですか。人格に深く根を張った部分でしょうし」
ため息をつきながら、彼女はぴしりと僕へ指を向ける。
下手人が僕である事がバレてしまったらしい。おとなしく両手を差し出しお縄について、謎が解かれた時のエネルギーも放出しておこう。
彼女は手首をくっつけて差し出された僕の両腕をかぱりと開くと、そのまま胸の中へと抱き着いた。
おわ゛わ゛わ゛わ゛!!! 鼻血出る!!!
「もっと凄いことしたんですから、いい加減慣れてください。賭けてもいいですが……おっと失言、賭けません。『ヒモとギャンブルをするべからず』──ヒモにおけるバフについての規則第十四項、つい最近議会にて提言された規定でした」
やっぱ僕もその議会入れてくれない?
絶対僕も知らない有益な法則を共有されてるって。いやヒモは有害なんだけど。
「ウチのパーティの誰一人、あなたから離れようとはしませんよ。……センパイが心配すべきなのは、そんな起こり得ない事への杞憂より、これから産まれてくる子どもについてとかではないですかぁ?」
そう? そっちはそんなに不安は無いかなぁ。
僕はまだ自信で一杯とはいかないけれど、子供のために何をしてあげれば良いかをきちんと考えている山算金は、間違いなく良いお母さんになれると思うからね。
僕らの子は、絶対に幸せになれるさ。
だから僕は頑張って、そんな君を幸せにできるお父さんになれるよう、迷惑かけちゃうかもだけど今から努力していくよ。
日本に帰ったらバイトで稼がなきゃだからアレだけどさ、こちらでなら使える時間は沢山あるから、いくらでも至らぬところを指摘してビシバシご指導ご鞭撻って欲しいかな。
だから山算金。君のして欲しい事を、全部教えてね。
絶対に、なんとしてでもあなたを幸せにしてみせるから。
「……興奮させるのはやめてください、朝からもう一回なんて流石に怒られます。というか普通、子どもができる話をされたら、男の人はすくなからず動揺するものだと思うんですけれどねぇ。ま、魔王の居る異世界で出産するほど胆力はありませんから、流石にこっちでは作りませんよ。昨日もちゃんと避妊してくれましたし」
いや僕はそもそもこの事態を想定してなくてそんな物持ってなかったから、山算金がたまたま持っていてくれて良かったよ。
安全な世界で、安心できる環境でじゃないと、どうしても怖いからね。
「ンン゛ッ……話を戻しますが、センパイはそんなに心配しなくても大丈夫です。基本的に現代日本において恋愛はゼロサムゲームですから、ホントは勝者の総取りといきたいところなのですが……これからずっと頭のどこかで彼女らを引きずるあなたの隣にいても、私は嬉しくありませんからね。それにヒモバフルールの共有に始まり順番決めなんかも含めて、これまで議会に助けられてきたのも事実です。そりゃあしょーじき良い気はしませんけれど……あなたの小金井山算金が、ひみつ道具でお助け差し上げましょう」
さ、山算金えも〜ん!
つ、つまり……僕は初体験の相手に、複数の交際相手への調停を頼むって事でいい……?
「……良いですか、センパイ。物は言いようです。私たちのこれからに影響を及ぼす問題をともに解決するのだから、つまりこれは夫婦円満の秘訣として家庭内の不和を避けようと、そういう話なんです。いいですね?」
いやまぁ勢いで猫型ロボットにしちゃったけれど、流石にそれは悪いよ。あんまりにも情けないじゃないか。
僕を起因として起きた事なんだ。山算金に任せるんじゃあなく、僕がちゃんと一人一人と相対して向き合っていくべきだと思う。
というか、そんな事からすらも逃げ出すようじゃ人としてお終いだ。
僕は僕という人間と接してくれている人たちからだけは、顔をそむけたくない。
だから、話すよ。
怖いけれど、それでも隠さずに、思っていたことについて話して……謝罪しようと思う。
「まったく、そういうトコはどうしようもなく真面目ですねぇ。誠実である事は商人としても好感が持てます」
ありがとう、照れるね。
片手の指以上の数の女性と関係を持ってるヤツに好感を持つべきではないという揺るぎない事実はさておき。
「けれど、今ばかりは任しておいてください。私が話した後、今日の余暇時間に誰かと話すってのは止めはしませんし。でもまずは、私がみんなと話させてください。……後輩のワガママ、聞いてくれますか?」
そんな風に言われたら、僕は二の句が継げなくなってしまう。
ただでさえチビなのに情けなさでさらに小さくなりつつ、僕はお願いしますと頭を下げるのであった。
下げた頭を撫でられると多幸感で狂うかと思った。こんなん黒粉より依存性高いでしょ。法規制される前にオキシトシン分泌貯めしとこ。
その後、身支度を整えてキスをしてから出ていった彼女に手を振って見送り、そそくさと自室へ帰宅。いつの間にか届けられていた朝から妙に重めの朝食を頂いた。ンマーい!
で、山算金に出禁(世にも珍しい出るのを禁止される方)を言い渡された為、部屋で護身術習得に向け筋トレをしていたら、結局昼時まで許可が出なかったのでフラフラになってしまうという思わぬアクシデントを挟みつつ。
ついに僕はみんなが待つ食堂へと歩を進め、修羅場の渦中まっただなかへと足を踏み入れる……事にはならなかった。
みんなまるで普段通りに、賑やかに話しながらランチを済ませ、予想に反してそのまま何の裁判も行われず解散となったからである。
被告人となって、アリバイやトリックを崩されながら徐々にボロを出してキャラ崩壊していく覚悟もしていたのだが、どういうワケだか僕の目の前にナルホド君は現れなかった。
ただその会話の中で、みんなが妙に左手の薬指を摩っていたような気がしたのは……たぶん気のせいではなかったように思われる。
い、いったい……どういう結論になったのですか……? 議事録を観たいわ! みんなの会話をみせてちょうだい! しかし残念ながら、ヒモにはセキュリティクリアランスがまったく付与されておらずその情報にアクセスする権限が無かったので、申請を受けた議会により無事Dクラスへ昇格される事とあいなった。やったね。
前回は先生が結論を教えてくれたが、今回彼女はまるで何事もないかのように自然と振舞っていた。
それはまるで、僕が何を考えていたかなんて全部最初から分かっていたかのようで。
未熟なガキの心配事なんて、いつだって大人の予測の範疇にあるとでもいうかのようだった。
ならば、きっと、話しかけるべきは僕からなのだろう。
質問をするなら、まずは手を上げましょうって事。
食事もあらかた終わり、ではまた夕食に集まりましょうかという空気を感じ取り皆が解散しようとしたタイミングで、先生へと声をかけに立ち上がりかけたその時。
「すみません! 統括ギルドからの使いです! "ショウヨウ"のセイリュウ様は居られますか!?」
どうしようもなく間の悪い僕は、新たな