【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
03:47 追記 入れるはずだった一文が抜けていた為、最後付近に追記。まぁ読んでなくても影響は無い一文です。
「おぉ、来てくれたか! 帰って来て休む間もなくすまない。どうも事が事でなぁ」
「いえいえ。統括ギルドマスター様のお呼び出しとあらば、冒険者としては何を置いても駆けつけなきゃ。でしょう?」
「なんだ、お前も来たのかヒモ……ハハハ、冗談だ! アオミにも来てもらわなきゃ困るとこだった。なんてったってお前らんとこのパーティは、お前が頷かなきゃ動かないだろう?」
今やしっかり酒場で飲む仲となったライオン獣人の統括ギルドマスター、リアスさんに豪快に笑いながら背を叩かれ、絶賛筋トレ期間中のひ弱な只人くんたる僕は肺腑から全ての空気を放出し息ができなくなった。気軽に死の危機に陥んないで。
ゲホッゴホ……いや〜……? んなこたぁ無いですけどねぇ。
確かにみんなは仕事らしい仕事をしない僕もパーティの一員として尊重してくれてはいるが、だからといってなにも僕が全てを取り決めているワケじゃねぇし、ワガママ放題の独裁者みたいな傍若無人が通るような意志の弱い人たちでもない。ってかそもそもそんな事をできる胆力が僕にはねぇ。こちとらリアスさんもご存じの通りヒモだからな、できるだけ腰は低くして生きていく所存だ。もう会ってる相手が自分をヒモと知っている事前提のコミュニケーションに慣れてきちまってんのが怖いよ。地球帰るまでにこのクセは矯正しとかなきゃマズいぜ。異世界来て染みついていい習慣じゃないだろ。
なにはともあれそんなワケだから、僕は一構成員として提案を出すのが精々だし、もしそれが間違った判断だった場合は、キチンとみんなが反対意見を出してくれるハズさ。間違っても、僕が言うからって理由で目に見えた落とし穴に一緒にハマっちゃうみたいな、そういう盲信をされているとは思わない。
まぁ幸いにして、今んところそんなに致命的に破綻した意見を僕が出しちゃった事は無いっぽいようだが。
「確かに、アオミが居てくれっと話が早くて助かんだよな。コイツが間違ったコト言ったためしがねェし、みんなも気軽に賛成できっからすぐ決まっからよ」
先輩???
登ってた梯子が突如足元から消え去ってfails compilationの面白映像のごとく空中へ放り出された僕は、静かに落ちた石田さんとは違いホゲゲ〜と叫びながら虚空へ落下してゆく事と相成った。勇者の道にヒモは相応しくなかったか? いやアレ社不の集まりだから実情としてはめちゃめちゃマッチしてんだけどな。
異世界に転移しちゃうっつーアクシデントのせいでなし崩しでバイト辞めてから、いつ地下労働施設に行かされるか自分でも気が気じゃないんだよ。別に借金抱えてるワケじゃないけど。僕は帝愛の事を働いていない人間を攫いに来る怪異か何かだと思っている節がある。
しかし……今の明星先輩の発言に関しては、ちょっと良くない傾向かも知れんね。
先生を除く何人かの中で、僕という虚像の比重が肥大化し過ぎているきらいがある。
先生はちゃんとこのやり取りを苦笑して見てくれているから大丈夫そうだが。
立派な大人たる彼女からすれば、僕はまだまだ手のかかる問題児。危なっかしくて手放しで任せっきりにはしてらんない事だろう。
歩けるようになったばかりの幼児から目を離せないみたいなもんか。
ちょっと日中僕から目を離した隙に、噂のヒモをバカにしに西町から来たチンピラと、へべれけになって肩を組み宿屋へ帰ってきた経験が、先生をこうさせているのかも知れない。ごめんなさいとしか言いようがねぇ。
いや、これは僕に頼るなと言っているワケではなくてね?
もちろん僕は頼られれば喜んでいくらでも手を貸すし、どんな雑用も一手に引き受ける雑用チリトリみてーな人間ではある。おつかいだろうと部屋の掃除だろうとどんなことも頼んで欲しいし、みんなの為ならなんでもしたいのはマジ。むしろそれくらいさせてくんないと僕のメンタル的に良くないんだよね。このままじゃホントに精神までヒモに染まっちゃうから。てか好きな人たちのお願いを聞くなんてのは、むしろ嬉しい事だからね。僕はどっちかっつーと犬気質なんでな、相手が喜んでくれる事は僕にとっても幸福だ。この前も先生の伝言を届けに行った孤児院でついでに明星先輩宛のお荷物を受け取って、付近の屋台で鹿野ちゃんが好きそうな焼き菓子を買いながら山算金が前に言ってた市場調査を済ませ、その流れで会った悪王寺先輩と子女調査をした帰り道で委員長が前から探してた薬効のある虫の抜け殻を発見、木に登り採取すると視線の先に目黒さんが育ててみたいと言っていた親指くらいのトカゲまで見つけた時はヤバかった。とんでもないチェーンコンボが決まり幸福度が指数関数的に増大、危うくオーバーフローを起こし一周回ってガンジーが核を撃つが如く「ヒモも良いかも……」と思っちまうところだった。
実際これは自虐や謙遜ではなく、僕なんてのは間違えた選択をする可能性が十二分にある青二才だ。
これはヒモとかの力があっても変わらない真実で、どんな人間もずっと正解を選び続ける事は出来やしない。弾いたコインがいつか裏を示すように、人間の意志に則った選択だっていつかは裏目に出る。
誰だって間違いをおかすし、その間違いから学びを得て次の試験に活かすのが学生の正しい在り方でもあるワケで。
なによりせっかく僕らはパーティなんだ、それぞれの意見を戦わせより良い指針を導き出せるのが強みでしょ?
ちょっとそこんところを今一度みんなに再定義してもらう必要がありそうだな。
今度なんかどうでも良いタイミングでハチャメチャに間違った決断を下し、みんなから得過ぎた信頼値を調整する必要がある。
別に嫌われようってんじゃない。みんなに「いやコイツに任せてたらエラいことになる時もあるぞ」と認識してもらいたいだけ。
カルマ値の調整みたいなもんさ、僕はどっちかっつーとLight-Chaosなんでね。変にLawの方に行っても餃子になっちまうし。
なんか適当な理由つけて二日間くらい僕の趣味に付き合わせてみてもよさそうだ。
真剣な顔でどの魔獣に賭ければいい?とか相談したら、等身大の僕を見てもらえる気がするぞ。
ただデートで連れてくと期待してたろうに退屈させちゃって可哀想だから、なんかもっとカジュアルなお出かけの時に流れで行く感じにしとくか。
……なんか今から普通に楽しみになってきたな。
趣味に付き合わせるのは申し訳ないが、みんなとあの空間を共有できるのはちょと面白いかもしれんし。じゃあこの作戦失敗なのでは? ……ままエアロラ、試してみないとわからんさ。
今日ギルマスの所へ来てるのは僕と先生、それに明星先輩である。
人数がそろそろクランと呼ばれるくらいに多くなってきたのもあり、全員で出向くとちょっと邪魔になっちゃうからだ。
大体のパーティも3,4人程度ならまだしも、それを超えれば代表者が話を聞く形式になるらしいしね。
本当は僕と先生だけだったのだが、ちょうど教会から帰ってきた明星先輩に出くわしたところ、「お供しますぜ姐御ォ!」と仲間に加わったのだ。
お使いクエストもきびだんごも無しになかまになってくれる聖女とか最強お助けキャラじゃんね。wikiでも序盤にやるべき事の欄に間違いなく書かれていることだろう。次に「ヒモを預り所へ送れ」とも書かれてるかもしれん。
僕も一緒に居てくれる好きな相手が増えてたいへん嬉しかったのでwin-winである。
思わず差し出された先輩の手を取って、おてて繋いでここまで来ちまったくらいだもん。
先生が入れて欲しそうにしていたので、無論逆の手を差し出した。こういった時の為に僕の手は2本あるんだからな。しかしその理屈で行くともう5本ほど必要なのではないですか? グリーヴァス将軍のネタコラみたいになっちゃうよ。
先輩が僕に手を伸ばしたのは半ば無意識だったらしく「やっちまった」って顔をしてたし、先生の微笑ましい物を見る目に先輩はムズ痒そうだったが、こういうのは恥ずかしがるから恥ずかしいんですぜ。
自分の行動を阻害する要因は、たいてい己の心の内にあるものさ。
僕なんて結果的に二日連続で別々の組み合わせの女性四人と、両手を繋いで歩いてるのを町の人に目撃された事になるのに、ちっとも恥ずかしいという気持ちにはなんねぇもの。
これはもうちょっと恥ずかしがった方がいいな? 恥じらいがある方が唆るだろうし。僕は一体誰を誘ってるんですかね……?
つってもよぉ、ヒモなのは町中にバレてるし今更じゃんねぇ。
そろそろヒモのスキルレベルが上がって開き直りを覚え始めたようでさ、こういう態度も取れるようになっちまった。あくタイプの道をまっしぐらだな。
これからどんどんタチの悪いわざを積んだ害悪ポケモンとして、環境を荒らし回っていくからランクマ勢は覚悟しておいてくれや。ヒモっけアオミゴーリと呼んでくれ。
なお時間稼ぎはしても別に能力が毎ターン上がったりはしない。悲しい生き物になっちゃったな。ステ上げられるのは他人のだけだから、精々ダブルバトルで使ってほしい。
「で、リアスのオッチャン。今回はなんだってオレら呼ばれたんだよ」
「んん、まぁ、それがだな……言うまでもないが内密に頼むぞ?」
「たりめぇだろ。誰も依頼の詳しい内容なんてベラベラ他言しねぇよ」
オイオイ、今までこんな風に確認された事なんてねぇぞ。
言外にこうばしく香る厄介事の香りに、これから語られる恐らく重大な話の重みが段々増していくのを感じる。
どんどん聞きたくなくなってくるなァ? 悪いけどこの後赤い洗面器を頭に乗せて歩く予定があるから帰っていい?
妙に意味深な念押しの後、リアスさんは言いにくそうに重々しく口を開いた。
「つい先日、南方大森林を擁するケルセデク風精国のエルフより、帝国へと密使が馳せ参じた。耳聡い者ならばすでに知っているだろうが『世界樹に異変アリ。これまでに無かった珍事であり、世界の存亡にも関わる異変だ』とな。これまで常に新緑を纏い続けていたあの神樹が、なんの予兆も見せず翳りを見せ始めたそうだ」
世界樹に異変、ねぇ。
こちとら世界樹なんて言われても潜るならアリアドネの糸持ってけとしか思い浮かばない現代人だが、こちらの世界の人々にとってみればとても象徴的なモノである。
それは今も昔も変わらずに南方大森林のエルフの国首都に生えていて、天を貫く様にそびえているそうだ。の割にゃあこっから見えないんだよな。この星も丸いって事か?
なんでも昔『無形の魔王』と呼ばれるとても巨大なスライムが居たそうなのだが、ソイツを倒す為に風精国中の賢人が集まり首都に生えた世界樹その物を杖とし超々大規模魔術をブッパなしたらしい。
その着弾の余波で南方大森林の一部は大きく拓かれ、それが今のケルセデク風精国の外国人居住区として建築物などが建てられるようになったとか。
以上すべてあのキュレーションサイト本からの情報でした。ちょと不安になるな……。
つまりはキングスライムの亡骸の上に建てられた街が余所者用の出島って事、家庭菜園の肥育が良さそうな立地だね。
で、そういった経緯があるのでエルフにとって世界樹は首都のランドマークであるだけではなく、祖先が魔王を討ち滅ぼした種族の誇りでもある事は想像に難くない。
そうでなくともエルフってのは誇り高いのが相場らしいしね。
これはフィクションに犯されたラノベ脳が出した結論ってだけじゃなく、ちゃんと排他的でプライドが高いのはこの世界でも共通認識であることは確認済みだ。
つまりそんな彼らが、自分たちのアイデンティティの支えでもある神樹の不調に際し、初っ端から大々的に他国へ救援を求めはしないだろう。
しかしながら枯れる世界樹、手詰まり、魔王の台頭、なにも起きないハズが無く……。
時がお寿司になる前に、なんとか他国へと救援を出せただけ、この世界のエルフさん達はとても理性的だと言えるくらいさ。
「どうも八方手を尽くし、禁呪から貴重な資源まで全部試してなお何もできず、こちらへと泣きついてきたようだ。無論、使者はそこまでは言わなかったがね。彼らの性格を鑑みれば、簡単に推測できる話だろう?」
リアスさんは肩をすくめ、呆れるようにそう溢す。
この世界は種族差別が限りなく少ないとはいえ、その種族ごとの特性自体が消え去っているワケではない。
ドワーフのヒダルさんはウワバミだし、ヒート様はドラゴンらしく実は宝物に目が無く、近所の孤児院のシスターポーラの根菜好きは兎獣人特有の物だったりね。
表立っての差別は無くても、その特性を揶揄する時くらいは存在するのも道理だ。
どんな種族にだって善人と悪人がいるように、どんな時代にだって愚痴をこぼしたくなる時くらい存在するワケ。
で、なんでそんな隣のお国の重大事を、またぞろ僕らなんかに持ってこられたんです?
別に金級冒険者じゃなくて、帝国付のもっとお強い冒険者さんなんていくらでも居られるでしょうに。
「そこだよアオミ。お前の言うとおり、帝国にはそりゃお前らより長く冒険者を続け、国家所属として信用のおける実績を積み上げた冒険者が何人も居る。……けれどな、依頼主から特別な要望があれば話は別だ」
なるほど? 話は読めてきた。
まーた、魔王の走狗を倒したっていう僕らの噂がお次は国を跨いだってところでしょう。
いやはや、あまりにもパーティが強すぎるというのも考え物で
「まったく呆れた話だが、彼らはこの期に及んで他種ではなくエルフをご所望なのさ」
…………………。
……あ、へぇーーーー……。
「いかな大モルマギア帝国とはいえ、金級冒険者のエルフなんざ片手で足りる程度しか居ねぇし、そのほとんどはハーフエルフだ。風精国の人々から排斥とまではいかずとも、ハッキリと区別される身分を嫌い故郷を飛び出した、たった数人だけ。そんな彼らに依頼を持ってったところで、到底受けちゃくれんだろう。だからこそ……金級冒険者かつ純粋なエルフであるセイリュウ様に、今回の依頼が回ってきたワケだ」
……ほーーーーーーーん……。
「真なるエルフであるあなたに、全てのエルフの故郷たる大森林へと赴いて世界樹に起こっている問題の調査を頼みたい。ハーフでもないエルフが大森林から出るなんてのは正直ほとんど聞いたことが無いし、とても深い事情があって出奔したのだろうが……あなたの故郷が滅びかけているんだ。どうか、お願いできないだろうか」
なるほどねぇ、話はわかりました。
お断りしてもよろしいですか?
無論僕はヤバ過ぎてずっとチビリかけていた。
名誉の為に申し上げるが他の二人はチビっちゃいないだろうが、しかしこれまで長い付き合いのある僕には、彼女らの「やっべ」という心境が手に取るようにわかった。
なぜなら、先生はその真なるエルフとやらではまったく無いからである。
先生は垂れ目の(少なくとも僕らの前では)温厚な現代文教師であり、エルフとしてのバックボーンなど一切皆無なのだ。
なんかこっちの世界に拉致られた際、精霊とやらとの親和性の顕著な高さが作用して、後ミュータンジェンとケミカルXと放射能を浴びた蜘蛛に噛まれた事により、細胞の組成構造が組み変わってしまって目が覚めたら身体の一部が膨らんでしまっていた! っつー複雑な経歴があるだけの、一般成人女性なんだっての。
それがどう回り回ったら真なるエルフとやらとして、エルフの国から直接のご指名を受ける事になるんだよ! 先生がメイドイン神界の偽造エルフである事がバレたら国際問題待った無しじゃねぇか! 異世界転移→エルフ変異→冒険者→国際指名手配犯だとォ!? そんなピタゴラスイッチの即死ハメがあってたまるか!
耳がマジで長いハーフじゃないエルフが森の外に居るのは珍しいらしく、何度かそれとなく事情を訊かれた先生も「過去の話はしたくないの……」という無言のオーラを纏う事で、これ幸いと周囲からの詮索を全てシャットアウトしていたフシがある。
そんな僕らの
一国の存亡に関わるとなれば無下に断る事もできず、「一度持ち帰らせて頂きます……」と善処するよう前向きに検討させてもらう旨を伝えて、冷や汗ダラダラでギルドマスターの部屋を後にする。
その背にかけられた「先に帝都へ向かった使者も、一週間とかからずにボゥギフトへ到着するハズだ。それまでに決めてくれればいい」との言葉でしっかりタイムリミットが設定され、画面左上に続編作られ過ぎた24かよっつーくらいクソ長いタイマーのカウントダウンも始まってしまった。
……なんだよぉおおお、もぉおおお、また断れないクエスト依頼かよぉおおぉぉおおお!! ワンパターンなんだよこの異世界のストーリークエストはよぉぉおおお!!!
気疲れしまくりでもうほとほと面倒になった僕らはギルド前で立ち尽くし顔を見合わせ、ほぼ無言のままその足で酒場へと向かうのだった。
の、の、飲まなきゃやってらんねぇや!!!
へへへ……姉ちゃん、お酌させてくれよ……!