【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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本年最後の投稿。今年はありがとうございました。
カクヨムコンテストに一作出したいなと思っているので、来年一月の投稿は少し間隔が開くかも知れません。
10万文字書くだけなのでそこまで時間もかかんないとは思うのですが、その間こちらが週一投稿くらいになる可能性はあります。

感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。


【69】 大惨事スーパー飲み会大戦

「なぁ、ちょっとオレらよぅ、いいように無理矢理働かされ過ぎじゃないか? 偉い奴がご指名です、なんて言葉で逃げ道封じられるんじゃ、自由な職業冒険者ってのも聞いて呆れるぜ。なんでこんな断れない仕事が次から次へと舞い込んでくんだよ」

 いやホント仰るとおり……こればっかりはマジでそうなんだよな。 

 なにもね、ふんぞり返ってるから金と飯持ってこいとは言ってないんよ。でもヒモって結構そういうもんなイメージあるか、説得力ねぇな。

 たださぁ、拒否権くらいはくれても良いんじゃない?って言うね。

 ……っぷぁ。勘弁して欲しいですよ、ガチで。

 

 慰めや現実逃避の為の一杯のハズが、あれよあれよと言う間に僕らは完璧に出来上がってしまっていた。

 絵に描いたようなくだの巻き方で、僕たちは顔を赤らめながらジョッキの酒を流し込む。ンメぇ〜わ……。

 あんまこういう場面って味云々言わないイメージがあるが、僕はいつだって飲食するとウマがっちまうのさ、こんな時も変わらないただ一つの正直。

 ここのはねぇ、なんかぁ、ちょっと甘みがあるんだよねぇ〜。なんでかなぁ〜? 直前の現実が苦かったからかなぁ……?

 

「……あのなぁ、大人ってのは常にそうなんだよ。どーしたって拒否できない、テメェが拭くしかねェ他人のケツが、列をなしてやってきやがる。ダリぃし、やってらんねぇとも思う。けどな、アタシらがやんなきゃ、だーれかが困んだよ。じゃあ、やるしかねぇだろ」

「姐御ぉ……ハァ〜……もー、やってらんねー。姉ちゃん! ビールもう一杯! あぁ、バーガルか、もうなんでもいいからよ」

 

 聖さんのその言葉は、先輩へ諭すというよりも、どこか自分自身に言い聞かせるような響きも持っていた。

 ジョッキを二杯空けてから、先生はすっかり聖さんへと変わっている。久々に見たけれど、僕はこの状態の彼女もスゲーカッコいいのでやっぱり大好きである。

 

 しかしまぁ、含蓄のある言葉だね。

 現役の大人から聞いたんで大人になるのがやんなっちゃいそうな発言だが、実情ってのはたいていそういうもん。

 僕はこう見えて「ずっと子どもでいたい」とは思わないタイプなんだけれど、でも「早く大人になりたい」とも思えない。

 だから、むしろ……「今が永遠に続けばいいのに」。

 なんて言っちゃうと、モラトリアムにありふれた全能感の錯誤と見られるのだろうか。

 俺達は最強、僕らならなんでもできる……そういった類の勘違いからくる痛々しい現実逃避だと、そう思われるのかな。

 しかし全能感って僕からもっともかけ離れた言葉だし、それになにより。

 逃げたって現実からは逃れられないことなんては、嫌というほど知っているのに。

 

 

 酔いの回った頭に、普段考えないような益体もない事が過る。

 良くない酔い方だ。ペースも早けりゃ会話もおざなり。日頃の僕の飲み会からは想像もつかない、楽しむ為ではない飲酒になってしまっている。こーいうヤツって明日まで響くんだろうな~という、嫌な予感だけはヒシヒシと感じる。二日酔い限定のニュータイプだ。超人的な直感力をそんな事に使ってると新人類滅びるぞ。

 

 僕は自分ってものがねぇからさ、ついついみんなにペースや飲み方を合わせちゃうんだよな。

 けして自分の醜態を誰かのせいにするつもりは無いが、それでも今日みんながなんもかも嫌んなってわざと悪酔いするような、ストレス発散じみた酒のかっくらい方をしてるのは確かに事実ではあるだろう。

 ……まーでも、たまにはこういうのもええか。

 彼女らにストレス発散が必要なタイミングなのだから。

 もっと良い形でそれをご用意できれば最善だったが、しかし毎回最善の道を選べるほど僕は気の利いた人間じゃねぇのは変えがたい事実ですし、お寿司、美味し。これは酔いのせいです。

 だから、どうしようもなくなって、あんまり良くないよなって事をみんながついやっちゃう時がきたら……僕も一緒にそれをするんだ。

 ウンザリする彼女らの横で僕も同じくウンザリして、みんなで愚痴を言い合って、できたばっかの傷を舐めあって慰める。

 

 良き人間で在れるように共に歩むのが模範的なパートナーだとしても、僕はそんな完璧な人間にはなれやしない。

 ダルくて憂鬱でやる気出なくてダメになりそうなその時に、隣で同じだけ堕落してあげるくらいしか僕にはできそうにないのだ。

 案外、ヒモとしてはこれが模範解答なのかも知れんね。

 神の示した天職がいよいよ正当性を帯びてきちまった、改宗の時は近い。

 ま、みんなは肩肘張らずに気楽に生きて欲しい、どんな道だって僕はついていくからさ。ピクミンみたいなもんだ。金槌なんで色は青じゃなく白とかかもだが。毒も別に無いんだけど、なまっちろいから。

 

 

「いいかぁ? まず相手には先に殴らせるな。全てこっちが先にやれ。半端な輩かそうでないかは殴り心地で判断がつく。慣れてそうなら相手が膝を突くまで続行、一発で芋引く相手ならケツでも蹴っ飛ばせば終いだ。ただ、殴って良いのは不良(ワル)だけだからな? ……明音にはこんなの、釈迦にセッポーかも知れねェが」

「いや、勉強になるっす! あざます!」

 聖さんが先輩へ喧嘩論を語っているのを興味深く聞きながら、微笑ましく彼女らを眺める。

 先生と生徒という形ではない二人の関係は、きっと聖さんにとってとても懐かしく嬉しいものなのだろう。

 多分明日になったら結構後悔するだろうから、今から慰めの言葉でも考えておかなきゃな……と、どれだけ酔っても冷静な部分で考えてもいるけどね。

 まぁお酒の失敗の一つくらいやんなきゃ、いくら聖職者でも人間味がねぇやな。それくらい愛嬌の内だろう?

 

 よくよく考えれば、先生は異世界にやって来てからずっと仕事モードのままだったんだしなぁ。

 たまの休日だって、僕らの悪評に繋がりかねないと思い自由に振る舞えてはいなかっただろうことは、想像に難くない。

 溜まりに溜まった日々のフラストレーションが、今回の解決策のわからない一件で爆発した感じ。

 ……でもきっと彼女は、その貯蓄に“ストレス“という名前はつけないのだろう。

 生徒たちの為に動く事が、ストレスであってなるものかという、鋼の如き精神性。

 しかし、硬いものほど折れやすいのは世の常だ。要所要所で休まなきゃいつか破断してしまう。

 それに気を張りっぱじゃ効率も落ちるしね、メリハリが大事なんだ。長くやるならポモドーロ式集中法みてーにやってかないと。ちなみに僕は50分勉強したら反動で2時間寝るので向いてなかった。

 

 まぁ、そういう意味じゃ結構ギリギリだったんじゃねぇかなぁ。

 愚痴を聞く飲みの場の僕の前以外では、ほとんど酒を口にすることの無かったあの先生が、今日は席に着くと同時に僕が全員分バーガルを注文したのを止めなかったのだから。

 おっとボロ出しちゃった。いやでもさぁ、もうなんか飲みたいなって雰囲気だったからさぁ。気が利く僕はついつい、ね?

 

 

 ……恐らくだが、生徒の問題で今回の面倒事が起こった場合、彼女はこうはならなかっただろう。

 自分を原因としたアクシデントに、僕ら生徒たちを巻き込んでしまった事。

 そしてそれを単身ではどうしたって解決できないという事実が、今日の先生の荒れ方の理由なのだろうなと、なんとなく思う。

 

 責任感のある人というのは得てして、他人に肩を貸すのは慣れていても自分がみんなに支えてもらうのには慣れていない。

 誰かに迷惑をかけるという行為そのものが、彼女らを自責の念によって圧し潰してしまう。

 「誰かの支えになる事」が支えである人間というのも、たしかに存在するものなのだ。

 つっても僕は16年ぱかししか生きてない若造だから、実例を知ってるワケじゃあねぇ。

 知った風な口をきいたが、なんでも知ったかぶりをしたい年齢ってコト。

 これは単に脆くて壊れやすい欠陥製品人間たる僕が、自身の耐久値の低さを他者にも当てはめて考えただけの話だよ。ちなみに耐熱性も低いから電子レンジは500Wまでしか対応してないぞ。食洗機にも非対応なんで手洗いで頼まぁ。

 

 

 無論、そんな軟弱芋虫(はらぺこあおむしの2Pカラー)な僕の常識なんて鼻で笑い飛ばすような、何があろうと全然へこたれず無限のタフネスとメンタルで永遠に重荷を背負える人間だって、もしかしたらどこかには居るのかも知れない。

 けれど、自分の大好きな相手に、そんな苦行をわざわざさせたくないのは言うまでもない事でしょ?

 

 だから彼女が背負った荷物を下ろす時間を、どうにかして捻出しなきゃいけなかった。

 皮肉な話だが、このアクシデントは奇貨となったとも言える。

 こうでもしなきゃパージできなかった重圧を、荒療治で無理矢理引っぺがしたみたいなものだ。

 日々生活の中で貯まる負荷、気を抜けないプレッシャー、そこに今回の厄介事、指折り数える程に先生が追い込まれていた理由は多い。

 

 ……後は、あとー、あとまー、そのー、そのさー、えー。

 ……たぶん、昨日の事も、ありますし……?

 

 

「……それでぇ、どうらったんだよ、アオぉ。あー? とーぼーけんなぁ、昨日だよ!きのー!」

 

 カパカパ酒が進み宴もたけなわ。

 周りも誰一人周囲の客の話など聞いてない時間帯に突入した頃、先生が突如正面から大上段にぶち込んできた爆弾発言に、僕は鼻からバーガルを吹き出した。

 え、えーっとぉ、そのぉ昨日はー……そう! 実は競魔でまたガッツリ負けちゃったんですよ! いやあのサラマンダースコーピオンは絶対間違いないと思ったんですけろ!

 

「そんなん知ってらぁ。なんもねー昼間にめちゃめちゃバフかかって、うっかり教会のドアノブ握り潰しちまったからなぁ」

「……いーや! えらい! それは偉いぞアオ! アタシはうれしい! オマエがちゃんとアタシの金でギャンブルできて、誇らしいよアタシゃあ!」

 

 苦情を垂れ込んでくる明星先輩とは対照的に、聖さんは腕を組み深く頷いて、少しの感動からか鼻まですすりながら感じ入っている。

 どういう心理状態なんだよ。酔っ払いは愉快でいいね。

 

「いやそれがっすね? そもそもサラマンダースコーピオンってのは僕とめーちゃめちゃ因縁が深い魔獣なんすよ!「ほーん?」「なんでよ」なんでかっつーと、実はサラマンダースコーピオンの因子抽出元のレッサーポイズンワイバーンってのが、僕が初めて勝利したレースの魔獣なんす! これはラウ爺さんっつー知り合いの勧めで、えいやとばかりに勇気を出して銅貨10枚の大勝負に出た当時の、熱い記憶と痺れるような快感を今でも思い起こせる話でぇ「あー、あったなァ……あれが忘れらんなくてつい小遣い多めに渡しへるもん、アタシ」「そんな良いんスカ?」「あー! 明音オマエまだ味わってないのかァ!? オメー損してるってぇ~! 悪い事言わねぇからさ、一回多めに渡してみろ。勝てばアオの喜びが流れてくるし、負けるとバフと一緒にアタシの金で遊んでるっつー実感が湧いてさァ」あー! これ初めてだけど出資者前にしてギャンブルの話ってスゲー話しにくいかもー!「あ、ゴメンゴメン。な、いいから続けて続けて、もっと損した話聞かせて」聖さん、実は僕の事めちゃめちゃバクチ下手だと思ってますねぇ!?」

 

 上手いこと話を逸らすのに成功した僕は、そのまま競魔について熱く語り始め……。

 ついにはてっぺんを少し超え閉店の時間を迎えて、お開きとなるのだった。

 

 

 しとどに酔いきった僕らは、互いに互いを支えにしつつヘロヘロな有り様でなんとか『斑猫の尾』へと帰りついて、すでにオチかけている明星先輩を部屋のベッドへと放り込む。

 酔っぱらい慣れている僕と違い、日ごろそこまで深酒しない先輩が先にダウンしちゃった感じかな。

 僕はなんなら夜道を歩いて、ほんの少しだけ醒めたし。とはいえ全然眠いしゲロ吐きそうだけど。

 

 次は、意識はあるもモニャモニャと聞き取れない言葉を呟いている先生を、同じく彼女の部屋へと肩を貸し運び込む。

 もう僕の服は彼女らのよだれやらなんやらでべしょべしょだ。

 せめて服は軽く洗っとかなきゃ、明日凄い事になるかも知れん。

 つまり今夜は裸で寝なきゃいけないって……コト!?

 僕普段は裸族じゃないから、なんか素肌で布団ってドキドキしちゃうんだよね。

 

「ふん、ぐぐぐ、ぐぎぃ……っとぉ」

 部屋の入り口にてついに曖昧になり始めた先生を、渾身の横抱きでなんとか抱え、ベッドへと倒れ込む。

 ホントは女の子を抱える時にこんな声を漏らしちゃいけないのだが、僕もたいてい泥酔してて力入んないんで許してほしい。

 

 

 その姿勢のまま肩で息をしていると、突然ガバリと背中に手を回して引きずり込まれる。

 

 はわ゛わ゛わ゛わ゛!! ヒレツなアンブッシュに、僕は思わず野太いきらら漫画になった。

 ま、前もこんな事あったかもー!!

 

 ぐちゃぐちゃに乱れた布団の中で、真っ暗な視界の中唇がふさがれる。

 

 数秒間の静寂の後、ゆっくりと離れてゆき。

 パサリと、布団が捲れあがった。

 

 

 窓からの月明かりに浮かぶ彼女の顔は。

 トロンと緩んだ優しげな垂れ目によく似合う黒ぶちメガネの、黒髪をゆるく纏めた大人の女性。

 

 

 唇を名残惜し気に舐めた彼女が、少しずつ目を閉じながら、言葉を溢す。

 

「こんな状態でオマエとの初めてなんて、もったいないだろぉ……今日ーはー、ダメ! 次こそ……次こそ、しあわせに、するんだ……だから……アオ……」

 

 

 うわごとのようにそれだけ呟いて、眠ってしまった彼女をよく見れば。

 見慣れた長い耳と流麗な金髪の、いつもの姿だった。

 

 

 すぅすぅと穏やかな寝息を立て始めた彼女へ布団をかけて、僕は静かにベッドの縁に座る。

 

 “次“が誰の事で、じゃあ“その前“には何があったのか。

 生きているだけで、人はいくつもの傷を抱える。僕もよく何もないとこで転けてたから、生傷が絶えなかったしね。これは単に間抜けなだけ。

 そうしてその傷は、それからの人生でずっと痛み続けるし、乗り越えた気になっても急にぶり返したりする。

 傷を治すには、いつかどこかで上書きしなくちゃならない。

 擬似的にでも代償行為でも構わないから、自分はもう大丈夫なのだと心から納得する為に、そうしなければならない。

 ばんそーこーみてぇなもんさ。

 不幸な傷は幸福の皮膜で上塗りして、見えない場所へ沈めていくんだ。

 思い出す事もない程、深い記憶の底まで。

 

 だから、もし僕の大事な人が、未だ癒えぬ傷に苦しんでいるとしたら、その場しのぎでもいいから幸福にしてあげたい。

 彼女があまりにも簡単に僕を受け入れたその日から、それは僕の目的になっていた。

 寂しい誰かを愛したいという難儀な傾向のある優しいこの人が、ちゃんと裏切られる事なく報われて欲しかった。

 それが叶うなら、僕は代わりで良いと思った。裏切らないぬいぐるみで良いと考えた。まさしく絆創膏のように代えの効く消耗品でいいと、本当に心の底から納得していた。

 

 僕はラオウ様ほど自信に満ちてねぇからさ、誰を愛しても最後に自分の側に居ればそれで良いとは、どうしたって言えやしない。

 傷のなくなった綺麗なあなたが幸せで居てくれるならば……それが僕以外の誰かの隣でも良かったのだ。

 

 ……僕はもちろん、それで良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 なんて、数日前の僕ならそう言って部屋を去っていた。

 というか今もそうした方がいい気はしてる。

 

 けれど、僕には。

 相手と向き合う勇気を持てと、叱ってくれた人が居るから。

 

 

 ちょいちょいと先生をベッドの奥へとズラし、よだれ塗れの上着だけ脱いで、そのままモソモソと布団の中へと潜り込む。

 夜遊び監視の為にこうするぞって、この前ご本人が言ってたんだ。

 ならまぁ……添い寝くらいしたって、多分怒られやしないだろう。

 なんだか人肌恋しいこの夜に甘えてもたれかかっても……もしかしたら、許されるのかも知れない。

 

 ボヤけた頭でそんな風に言い訳をしてから、僕はずっと襲われていた泥のような睡魔に身を任せた。

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