【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
「なーんか、変わっちゃってたね、めちゃめちゃ」
ぼーっと天井を眺めながら、悪王寺先輩がそう呟く。
ま、みんなが話してた感じの人かって言われると首を傾げるくらい、型破りな素行をされておられましたねぇ。
「うん、そうだね。恥ずかしい話、ビックリしちゃって止めにも入れなかった。あんな風に人を下に見るような言い方はしないし、初対面の見目麗しい相手にいっそ下品なまでに直截的なお誘いをかけないし……少なくとも、彼女の一人称は余じゃなかったよ。異世界デビューにしちゃド派手にやったねぇ」
そりゃまぁ地球いた頃から一人称が余なら、流石の僕も知ってたと思いますんで。異世界に来て自分の事余って呼ぶ人に出会ったと思えば、それが王族じゃなく同じ学校の人な事あります?
僕の言葉に「そりゃ違いない」と先輩は笑った。
斑猫の尾に帰り着いてからの自由時間。
たまたま居合わせた僕と悪王寺先輩は、食堂でなんとはなしに世間話をしていた。
鹿野ちゃんはつい先ほどまで王城さんについていたが、今は彼女の分もおやつを買ってくると走っていったばかりだ。
どうも王城琥珀さんは、こちらの世界へ来てから性格がガラリと変わってしまったらしい。
元々の彼女を知らない僕からすると、ハチャメチャにトンチキな奴が来ちゃったなくらいの感覚だったが、知ってる人たちからするとそのあまりの変わり様にちょっとショックを受ける程のようだった。
それが嫌だとかそういう話じゃなく、本当に驚いてしまう程の心変わりなのだろう。相手フィールドのモンスター1体のコントロールをエンドフェイズまで得られちゃいそうなくらいに。
連れ込み宿でヤる事ヤりまくって苦情が来てたっつー話は、万が一間違いだった場合シャレになんないので僕が握り潰してみんなに伝えてないから、みんなはムガクさんとの諍いもワケあっての事だと思っていただろうし。
……彼女が変わってしまった事が良い事なのか悪い事なのか、それは誰にも断じれない話だ。
異世界に転移しちゃうなんて超々非日常体験の中では、人の精神など容易に変容しうる。
つか僕が実際その良い例でしょ、元々の僕はこんなに社交的じゃないし。
たぶんだけど女子だけのパーティなんか入った日にゃ、胃酸で五臓六腑をまるごと溶かしちゃうわ。むしろ僕の場合はヒモになったおかげで、突然体のど真ん中から溶解し始めた男子を見るハメになったであろうみんなに、無駄なトラウマを植え付けなくて済んで良かったとも言える。僕が内側からどろどろになるのはしゃーなくとも、みんなの気分を害しちゃ悪い。
なにより、僕のヒモ同様天職に由来している可能性もある。
僕は元々労働意欲にだけは満ちた嫌青年(好青年の逆、ぶつけると対消滅する)だったのが、ヒモという天職を得た事によって見るも無残な職無し穀潰しギャンブル好き、(場酔いしながら薄めた酒を)飲む(負ける為に博打を)打つ(大切な人へプレゼントを)買うの三拍子揃ったクズとなってしまった悲劇的な過去を持っている。
とはいえ平凡な人生歩んできた僕にも、バックボーンに悲しい過去の一つくらいあった方がキャラが立っていいか? ピンチをチャンスに変えていくぞ。
話が逸れたが、つまり僕と同じ事が彼女に起こっていてもおかしくはないのだ。
天職が『暴君』だったりして、それに精神が引っ張られているとかね。
そこに関しては僕だってまだわからない。
彼女と目を合わせて話し、ひととなりを知って、友達になりでもしなければ、その真意を知る事はできないだろう。
だから、まぁ、とりあえず。
正確な話は今もなお目を覚まさない彼女が起きてから聞くしかないってこと。
あの後起きる気配が微塵も無かった王城さんは、ただいま僕の部屋のベッドを占領中だ。
先生が責任を取って自分の部屋で寝かせておくと言ったのだが、あんまりな直前の言動にみんなが反対し、結局僕のに放り込む事に決まったのである。
本来は一番避けるべき異性の部屋なはずなのだが、彼女が男と女どっちが趣味なのかわからない以上、むしろその方が安心なのではという結論に至ったってワケ。
別にみんな偏見も無けりゃ人の好きなタイプに口挟む程常識知らずじゃない人たちだけれど、しかしあれだけ軟派なとこ見た上で自分たちのベッドを提供するのは難しいわな。そうでなくてもみんな魅力に満ちた女の子ばかりだから、自衛の意識がしっかりあるのが立派とも言える。
その点魅力を実家の子供部屋にでも置いてきた僕は、たとえ彼女が男もイケる口だとしても襲われるに足る人間ではないという完璧な手だ。
みんな複雑な顔をしていたが、渋々ではあれど納得した以上道理の通った最適解だったと自認しているぜ。
「彼女に話す気があるのなら、起きてから聞いてみましょう。もしも単にイメチェンしたいだけなら、それはそれで受け入れてあげるのも優しさですから」
「……助手クンは、わかってるんじゃない?」
「まさか、買い被り過ぎですよ。エスパーじゃないんですから、人の精神はそんなに簡単じゃありませんって」
どこか拗ねたような、イタズラっぽい目付きの彼女の言葉に、僕は肩をすくめる。
まだ一言だって話していない相手の事なんて、当然の事ながらわかるハズもない。
だから僕のこれは、未だ下衆の勘繰りに過ぎなかった。
みんなからの前評判と、今の彼女の言動から、誰でも思いつくような妄想をしただけ。
褒められた話じゃなさ過ぎて笑えてくるな。
「そうかい? じゃあそういう事にしておこう。キミが言わないって事は、今言うべきじゃない理由があるという事だ」
いやいやそんなミステリの名探偵じゃないんですから、ストーリーの都合上もったいぶって解決編まで話さないみたいな事はしませんよ。
ただ他人様の事情に踏み込んだ話になりかねないのに、確証も無く吹聴するなんてデリカシー無いにも程があるんでね。
あてずっぽうの陰口なんて、聞いてて気分のいいものじゃあないでしょう。
……ていうか先輩のソレもヒモにはちょっと重い信頼では?
みんな僕をもう少し疑ってかかってくれても一向に構わないんですけど。ていうかそうしてくれないといざという時の失敗が怖いっていうか。
元来その場の思い付きで入ったご飯屋さんが食べログ☆1.2だったりするタイプですよ僕は。
「その時はさっさと詰め込んで、店から出たら一緒に笑おう。……あのね蒼、ボクらは自分の好きな人を信用しているだけなんだ。こうなって初めて知ったけれど、恋する乙女っていうのはホントに盲目だ。だけどなに、心配する事は無い。少なくともボクは、もしキミが判断を誤ってしまっても、フォローできる人間でありたいと常々心掛けているとも。……その時が来れば、存分に惚れ直してくれて構わないからね?」
凛々しく胸を張って歌うようにそう宣言する先輩に。
僕は完璧にやられてしまい、手で顔を隠しながら消え入るように了承の返事をする事しかできなかった。
で、最近僕に筋肉付いてない?って話から僕がちょっと盛り上がった力こぶや薄っすらついた腹筋を見せたり、恐らく増えたであろう体重を自慢したり、軽々とお姫様抱っこされたり、男としてのプライドがそこに無ければ無いですねという話をしたりして時は経ち。
じゃあまた後でと先輩と別れて帰り着いた僕の部屋で、王様はベッドにうつぶせに寝ころび肘をついて『魔王という存在』をぺらぺらとめくっていた。
「ん、ここはお前の部屋だったか。どうりで香しい匂いがしないと思った。あと本の趣味も悪い」
「それは完全に同意しますが、風評被害でもありますね。そりゃ僕の趣味に適った物じゃあない」
僕だってキーアイテムと思って買った本がそんなキュレーションサイトオチだなんて、無料インディーゲーのユーモアかと思ったくらいだ。これで最後に情報商材を売るSNSアカウントに繋げられたらキレてたかも。
「キーアイテ……? まぁよくわからんが、騙されたという事か。重要そうな部分だけ立ち読みでもすれば良いものを、要領が悪いな」
あそこがブックオフならパラパラめくったでしょうけど、流石に個人店の高価な本を立ち読みは気が引けちゃいましてね。いやブックオフでもホントはダメなんだけど。
「体調は大丈夫そうっすね。想定より長く起きてこなかったので、先生も少し心配してる感じでした」
僕の言葉に、王城さんはわかりやすく不機嫌そうにムスッとした顔をする。
表情がよく変わる人だ。それも快より不快の方を顕著に曝け出す。
取り繕わなくていいからか、それとも冴えない男の部屋がお気に召さないか。
「あの程度で余が何時間も気絶するハズがなかろう。単に三撤してたから、そのまま睡眠へ移行してしまっただけだ……先生? エルフの君は教職についているのか!? そこんとこもっと詳らかに! というかお前あの方に手取り足取り教えてもらって……!? なんだなんだ、ズルいぞそんなエッチな! 余も混ぜろ!」
「うわっちょっ勢いスゴッ、わか、わーかーりーました! 説明しますから! 説明するから胴体鷲掴んで縦に振るのやめて」
「……軽いな、男子たるものもっと食わんといかんぞ」
「余計なお世話じゃい! えーっと、王城さん、王城……先輩? いや違うな、明星先輩を先輩と呼んでたから同じ二年か」
「む、お前も二年なのか? 一応同学年はほとんど顔と名前を知っていたつもりなのだが」
おっと傷ついた。言うのやめちゃおっかな。
「ええいめんどくさい、いいから言わんか。ナイーブな男子高校生など需要が無いぞ」
僕がそっぽを向いて口を噤むと、王様は王族らしからぬ余裕の無さでブーブーと文句を垂れた。まぁ王族じゃなぇからな。
なんつーか、接しやすい人だ。
それはきっと彼女がずっと本音で話しているからだろう。
別にみんなが接しにくいとかじゃなく、この人は自分の言いたい事を隠さず言って、自分のして欲しい事を無垢に望み、自分の不機嫌を押し込めない。
人間ってのは社会的な生き物だから、純粋に見える鹿野ちゃんだってそういった機微は当たり前に存在している。
好きな人には悪い所を見られたくないし、みんなといる時は不調をつい我慢しちゃったり、ワガママもなんとなく言えないでいる日もある。
それを察してこちらから満たしたり、言い出しやすいように誘ったりするのが、僕はかなり好きな方でやってて嬉しいんだけれど。
それはそれとして、そういった気遣いを一切必要としない相手というのも、また気兼ねせず話しやすいというのは道理が通った話である。
みんなが言っていた美徳とは違う部分において、僕はかなり目の前の人が好きになっていた。
友人として遊んだら、きっととても楽しいだろうな。
それこそ競魔だったり、僕が木札を手慰みで作り始めた『冒険者と魔物』だったりを一緒にできれば、友と遊んだ日として最良の思い出になるだろう。
だから、このままなんにも言わず友達として付き合っていってもいいんだけどさ。
やっぱ息苦しいまんまじゃ、心から楽しめないと思うんだよね。
「まぁ居ない者として扱われるのは、僕の態度が悪かったせいなんでしゃーないか。じゃあ知ってるよね、聖生先生。現国の」
「あぁ、あの大人しめで眼鏡で垂れ目でカーディガンの良く似合う愛らしい」
「そうそれ、その愛らしい人。わかってんね王城さん。なんていうかさ、大人の女性なんだよね。落ち着いてて、悪い事はキチンと窘めてくれて、揺らがない」
「そうそうそうそう、流石性欲に脳を支配された男子高校生は女をよく見ているな」
「連れ込み宿から文句が出てるアンタに言われたかないけどね」
「え……ホントに?」
「声が大きすぎるから注意してくれって、受付の素敵なお姉さんから言われたよ。大丈夫、ウチのみんなには言ってないから安心してね」
「お、おぉ……恩に着るぞぉ……はぁ、嫌な汗が吹き出た」
「ふーん、それがバレるのは嫌なんだ?」
「む、そうは言っておら……いや、嫌、かもな。なんというか、知己にそこまでの話を聞かれるのは、気分の良いものではない。ちょっと……難しい」
そうだね、そうだろうとも。
王城さんは嘘をつきたくない。
もう我慢もしたくないから、好きな事をやって生きたい。
自分に嘘をついて、顔に貼り付けた仮面で世間を騙して、誰にも知られない己を内に秘めるのは真っ平ごめん……そうでしょ?
けれど自分に嘘はつきたくないってのは耳障りの良い言葉だけど、その実意外と辛いもんだよ。
少なくとも僕にはできやしねぇ。
自分をやっすい嘘で誤魔化せないなんて、考えるだけで息苦しいじゃないか。
人はどこかで醜い欲求を持ち、我を通し切るには脆く、全ての望みを叶えられるほど万能じゃない。
傷を見て見ぬフリして、痛みを麻痺させて、手に入らなかったブドウを酸っぱいと思い込まなきゃやってられない日が必ず来る。
だから今だって王城さんは自己矛盾に苦しんでいる。
前の自分を知っていてなおかつ嫌いではない人たちに、知られて恥ずかしくないと思える醜聞にも限度があるからな。
いや、良かったよ。
奔放だと思われる覚悟はできていても、そんなとこまで知られるのは嫌ってくらいに、彼女らの事を好ましく感じてくれていて。
もし本当にみんなの事を鬱陶しく思ってたら、僕にもどうしようもなかったからね。
いくらなんでもラインを超えた部分は恥ずかしい。恥ずかしい事を知られるのは嫌だ。嫌な事は金輪際したくない。しかし嘘をつくのも本当に嫌だ。
やりたい事としたくない事と望んだ事がてんでバラバラで、どこに行くにも引っかかる。
……がんじがらめの生活から抜け出したハズなのに、次は自縄自縛で身動き一つとれやしない。
「……お前、名前は」
おっと、ようやく僕を見てくれたね。
はじめまして王城琥珀さん。
僕の名前は青海蒼。
エルフになった聖生先生率いるパーティのお荷物としてヒモをやらせてもらってるよ。
「青海……え? エルフ? 聖生先生? おにも、ヒモ? ちょ、ん?」
そんな複雑な事情がある王城さんに、僕から一つ提案だ。
色々とウチの仲間に言いたくない事もあれば、知られたくない事もあるだろう。
だから僕が手を貸そう。
嘘をつくのもごまかすのも話を逸らすのも僕がやる。
そうすれば王城さんはこうやって苦しまないで済む、でしょ?
「お前は何を、いや、どういう……お前は一体、何が望みなんだ……?」
一気に開示される胡乱な情報の濁流に動揺を隠しきれない彼女の言葉に、僕は満面の笑みを返した。
相手を安心させるように、この会話に罠が無いと証明するように、僕は味方だと認識させるように。
それがどういう風に彼女の瞳に映るかは、当人じゃあない僕にはわからないけどね。
あぁ、どうしたんだ、そんな怯えた目をしないでくれよ。
どういうもクソも、端から僕の目的なんて一つしかないに決まってるだろうに。
だから安心してウチの子たちと、前みたいに仲良く遊んでくれっつってんの!
悪王寺先輩も鹿野ちゃんも寂しがっちゃってるでしょうが!
あ、でも先生を口説くのは手伝わないからね? あの人が悲しんじゃうからさ。
そんな僕のちょっと考えりゃわかるだろう至極まっとうな要求を聞いて、王様はポカンと呆けたように口を開くのだった。
カクヨムコンテストにヒモと新作を出してます。
もし良ければ読んでもらえると幸いです。
「異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話」
https://kakuyomu.jp/works/16818093093267659916
「人見 鱗は怖くない~陰気で馬鹿な大学生が最恐の"何か"を呼び出して怪異や悪霊を消し飛ばす話~」
https://kakuyomu.jp/works/16818093093257635394