【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

8 / 142
【7】 草原へ行こう!

 異世界に来たばかりの僕らを襲ったあの化け物、名前をフルードドッグと言う。

 

 ドッグとは名がつくけれど、その実態はかわいらしいわんことは位階を異にする、どえれぇ”クール”なバケモンである。

 あのレベルのクリーチャーがわんこ代わりに最初の町付近でわんさか居るなら魔王が居なくてもこの世界滅亡待ったなしでしょ帰っていい? と思っていたのだが、流石にそんな事は無かったらしい。

 実はアイツは僕らが最初に転移した「死の静寂と汚泥の森」の、生態圏の頂点に君臨するなかなかのパワープレイヤーなのだそうだ。根は凶暴だけど力持ちってタイプらしい。一番ヤバイやつじゃんね。

 

 つかもう名前が完全にアイツの為に付けられた地名じゃん。死の静寂をもたらす汚泥の主がアイツじゃん。

 ていうかよりにもよってそんな物騒な名前してるとこに僕ら落とされたの? 死って地名につくとこそうそうないよ? 死海くらいじゃない?

 なお名前負けせずここら周辺で一番ヤバい場所らしい。現代で言えば入り口に電飾きらびやかなバイクが停まりまくってる廃墟くらいヤバい場所である。そんなんもう踏み込めば死じゃん、名前通りかよ。

 

 その上森の主とは言っても無論一匹しかいないワケではなく、一つの群れがあの森に住み着いているらしい。よりヤベー情報を後乗せでサクサク提示するな。

 

 とはいえ、あの生き物は森林内の湿潤な環境でしか生きられない事もあり外には出てこないので、あんなのが近くに居てもこの街はなんとかやっていけているとの事だった。そらあんなもんが敷地内におさんぽして入ってくる街は人類の住居として致命的に適してねぇからな。

 そんな埒外のモンスターをブン回して霧散せしめたドスケベ豪腕エルフとは、これからのつきあい方について少し考えなくてはならないが、それはひとまず置いといて。

 

 つまりあの森は初見プレーヤーわからん殺しの台パンステージという事であり、わざわざアソコまで行って既にみんなのトラウマと化したスライム犬を相手にする必要は全く無い。

 

 というのが、パーティーとの夕食後おっとり刀で宴会へ駆けつけた僕に、酒場で仲良くなったオッサンどもが語ってくれた情報のまとめである。これぞヒモの力の見せ所だなァ!?

 元未成年なので(それは全成人がそうでは?)アルコールへの耐性が全く不明だった為、酒をアホほど薄めた物を飲んでんだか飲んでないんだかわかんねぇペースでやってただけなのだけど、秘められしヒモの力に目覚めたおかげで、僕は隣の泥酔したジジイと肩を組んで一回も聞いた事ねぇ歌を歌えるレベルで楽しんでしまった。

 なお代金は僕が席に着いた頃には既に酒場の皿洗いで話が付いていた。もーおやっさんホント人が良いんだからぁ~、駄目だよそんなんじゃ、奥さんに新しい服の一つでも買ってあげる為に稼がなきゃちゃんとぉ~。

 まぁ流石にパーティーの財布から交遊費持ち出せねぇよ、ヒモじゃないんだからさ。

 しかしそんな抵抗もむなしくヒモな模様。ヒモのパラドックスじゃん最早。

 

 

 

 そんなわけで草原に僕らは来ていた。

 草原って言葉にするとありきたりだけど、地球の現代日本じゃ絶滅危惧種よな。どこ探しても草原なんか無いぞ、あって河原くらいでしょ。こうしてマジで向こうの山まで続くだだっ広いくさはらを見ると、ちょっと感動してしまうわ。北海道じゃん。異世界です。

 

 この草原は町から北よりの西にちょっと行った場所に位置している。僕らが最初落とされた森は町の東にあるので、まぁほぼ逆って感じだろうか。でも地図もなしに北とか西とか言われても正直よくわかんなくない? わかる奴心の中に方位磁石でも飼ってんの?

 

 歩いて行くだけで数時間かかる遠足のような行程で、更にその場で野草を採取し獲物まで仕留めて帰るっつーんだから情操教育にもしこたま良さそうなプランだ。ただ小学生にやらせるのは死人が出るのでやめろ。

 つーか僕も死ぬかもわからんね、戦闘職でも生産職でも無いし。非生産職だし。その上前日遅くまで飲み屋で騒ぎその後粛々と皿洗いまでしたせいで少々寝不足だし。お、舐めプか?

 

 とはいえ、こればかりは必要経費として割りきる他ないだろう。異世界の初探索を舐め腐ってるわけではなく、それが必要なことだったから仕方なくやったに過ぎないってワケ。ヒモの本分たる言い訳が始まるから心して聞けよ。

 

 夕食時にもくもくと麺をすする黒井さんを眺めながら僕は、冒険者ギルドの二人の課題について狩りやすい獲物の情報が必要だと考えたのだ。

 冒険者ギルドに入る際に言い渡される課題が、毎回違うという事は絶対にあるまい。なら既にそれをクリアしている人間がいくらでもいるわけだ。

 例えこれが今年からの新しい課題であっても、この程度の難度であれば先達に話を聞いておけばいくらでも見繕ってくれるはずである。

 

 まぁはずであるっつーか実際そうだった。現役のトラッパーだという筋肉が雄々しい姉御に、草原ならトビキイロオオフシトカゲが狩りやすいとご教授頂いたのだ。すごい名前してんね。

 名前の通り、飛び跳ねて黄色くて四肢の関節がいくつかの節になっているちょっと大きいトカゲらしい。

 ホントぉ? ホントにそれ狩りやすいのぉ? ゼル伝なら最後から2つか3つ前くらいのダンジョンに中ボスポジで出てくるエネミーだよそれ?

 まぁわざわざ新人に嘘をつく感じの人では無かったし、ホントなんだろうけどね。

 

 

 そして委員長の課題に至ってはよく聞いてみれば、その野草を分布も自分で調べて見つけろとかいう無理オブ無理の無理難題だった。

 一応本人も書籍で調べたので、草原の辺りの日当たりが良く野生動物の糞が多い場所に生えているハズという事まではわかっていたのだが、その場所が草原のどこにあるかは手当たり次第探すしか……との事だった。動物の糞が多い場所に生えてる野草を何に使う気かは聞きたくないっすね。

 

 そしてそんな無理難題を課題として出されたなら、ヒントもしくは回答を事前に手に入れるべきだと臆病な僕なんかは思ってしまうわけだ。

 

 これが鹿伏さんなら「スゲー事思い付いたんすけど、生えてるとこ行けば見つかるんじゃないっすか!?」と言って、みなをその小さな一身で牽引しただろう。

 しかし、僕にそのバイタリティは無い。英語の試験でも、他の長文に答えの英単語載ってないか調べてしまうクソザコ怠惰ウジ虫だ。つまるところ答えを他んとこで見つければ良いじゃん、とかいうカンニング向きの性格をしている。そんなものに向くな。

 

 そして委員長もまた、バイタリティはそこまで無いが、砂漠から色違いの砂粒一つを探し出すタイプの根気がある。狂人との違いがちょっとよく分からないのが玉に傷だが、それは目的を達成するという点においては極めて有効な資質だ。

 恐らく放っておいても鹿伏さんみたく「キリンを冷蔵庫に入れる方法」バリのゴリッゴリの力業で解決しただろう。つまり『薬草を探す→摘む→必要数まで繰り返す』って話。

 ありえんほどコスパが悪い事や、日数や疲労などのそれによって生じる現実的な諸問題を全て無視しきって、そのどこから湧いてるのかわかんねぇ精神的位置エネルギーだけで問題をすり減らしてなんとかする。

 

 鹿伏さんの場合は途中で飽きるだろうけれど、委員長は天寿を全うするまで飽きが来ないまま探し続ける気がする。無茶も良いところだが、委員長にはソレをやりかねないだけの凄みがあるのだ。狂人かロボにしかできない手法を可能にするなよな。そういう事するのはRTA走者かTASさんだけで良いんだよ。

 

 でも流石に僕も寿命尽きるまでは付き合ってらんないし、委員長がそのせいで他のメンバーと関係を悪化させるのも見たくない。短絡的で刹那的に生きるのが得意なヒモのフレンズとして、彼女の金剛石みてぇなガチガチの意思力に水を差す形となってしまっても、答えを先に用意してしまおうと思ったわけだ。

 

 

「あっだーーー!! これっすよねセンパイ! ね、これ!」

「うん、鹿伏さんありがとう。今回は色が違うね、緑のを持ってきてね、これは黄色と紫のストライプだね。どこに生えてたのこれ、自然界にあっていい配色じゃないよこれ」

「あっちっす! いっぱい生えててー、なんか綺麗だなって思って」

「そっかぁ、鹿伏さん別の異世界にでも徒歩で行っちゃったのかなぁ。確かに綺麗だね、ありがとうね。じゃあ次はさっき見せたのと同じ緑のを探してみてくれる?」

「わっかりましたーでっす! あっ! 今の敬語、正しく使えてなかったっすか私!?」

「うん、そうだね、使えてたね。流石は鹿伏さんだよ」

「へっへー! まぁそう誉めないでくっさいよぉー! んひひー」

 

 別に僕は突然保育のアルバイトをし始めたわけではなく、これは単なる後輩との会話である。実は僕らの通ってた学校って偏差値やばかったの?

 

 手元で傾けたグラスからこぼれ落ちたビールを、空中で三回転させながら口に入れる宴会芸を披露していた水魔法使いの爺さんによると、課題の薬草は草原を日の沈む方に歩いた先の、小さな池のほとりに生えやすいそうで、まぁ実際その通りポツポツと生えていた。糞もよう落ちとる。何の糞かは考えないことにする。

 

 ただ、規定の量まではギリギリ到達しないかなぐらいなので、もうほんの少しだけ周囲を捜索する必要がありそうで、そのついでに未だに出会えないヤバそうな名前のトカゲを狩れたら効率良いので、そんな感じのチャートの予定である。ガバの気配がプンプンするが人生は再走できないので騙し騙しやってくしかない。

 

「……! 何か、来てる……近づいて……」

 

 言葉足らずを倒置法で補うのはコミュ障の同胞としてわかりみが深いぞ~。とか言ってらんねぇな、なんだなんだどうした黒井さん。ニュータイプみたいな振り向きかたして。

 その視線の先……視線は髪の毛でわかんないけど、まぁそれっぽい方向を見やれば、横幅はコモドドラゴンくらい、縦は三つ節のある長い足を入れて人の腰くらいの、大きな四つん這いの黄色い何かが、草原を掻き分けて迫ってきていた。

 

 間違いなくトビキイロオオフシトカゲである。

 この世界バケモンしかいねぇな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。