【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
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感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
「こりゃまた沢山狩ってきたねぇ。んじゃ、人間族男性用のが3つ、人間族女性用のが2つ、子供用が1つ、それにオーダーメイドが5つでいいんだね?」
「はい、お願いします。すいませんね、そんなに一気に」
「なに、仕事貰って嫌はないさ。それに今から作るなら、まぁ雪の初めには間に合うだろう」
店主のマルチネスさんは穏やかに笑って、ぽんと太鼓腹を叩いた。
恰幅の良い狸獣人のおやっさんなのだが、この人を表す言葉がたぬき親父になっちゃうのは日本語側の問題である。
ご本人はとても気の良い好人物であり、動く信楽焼さんが微笑んでお腹を張る姿は、もはや国民的映画のワンシーンみてぇだ。
鹿野ちゃんが「ウチの部屋に欲しいっす!」と視線とテレパスで伝えてくるが、無論の事現実はマイクラではない為村人は宿に持ち帰れないので諦めてもらった。
今回は声に出さなくて偉かったねぇ、教育の賜物だ。
そうでなくとも鹿野ちゃんは生きてるだけで偉い為、僕から飴のスパチャが飛ぶ事となった。
先回りして手を拭いてからなんかの花の蜜を練った飴を差し出すと、鹿野ちゃんがいつもどおり指ごと口に含む。人読みでメタ張っちゃって申し訳ないね。申し訳ないのかコレ?
ライオン獣人のギルマスをサファリパーク扱いした際に、人間という生き物の多様性と同時に情報リテラシー教育も行った甲斐があるぜ。
ただ僕らパーティの中に鹿野ちゃんを鞭打てる人は居ないので、飴と餅でなんとかお勉強してもらったんだよね。
その時に彼女が生み出した、砕いた飴を餅に混ぜ込んだ創作菓子「une lumière veloutée」は、完全に宿の名物料理となっている。な、なんて?
ごめんけど未だに完全に聞き取れてないです。雰囲気でもにょもにょ読んで誤魔化してるのがいつかバレるんじゃねーかとヒヤヒヤしてんだよね。
ただ飴の砕きが甘いと、手に纏ったグリースにガラス片を着けたドリアン海王の拳のように餅がなってしまい、喉をズタズタに切り裂いちゃうんで良い子は真似しないほうがいい。
マルチネス洋裁店は、ボゥギフト東町で最も市民に信頼されている服屋である。
この街は人の流入が半端なく多い割に、冬がしっかり厳冬する珍しいタイプの交易都市なので、新参者に対して防寒具を用意する店は多い。
毎年雪も冬も大した事ねーべよ!と侮ったバカが、冬本番直前に大わらわで冬支度を始めるからだそうだ。どうしても南方から来た人は、季節の移り変わりを軽視する傾向にある。
とはいえ街に一つあるだけでも珍しい洋裁店がいくつかあるなんてのは、ボゥギフトほどの大きさの都市だからこそと言えるだろう。
解体された大玉雛の素材を持ち込んだ僕らは、防寒着を王城さんのパーティ分含めて依頼させてもらった。
ちなみにこの街のメジャーな防寒着は、もこもこの白いダウンジャケットじみた服である。
めちゃくちゃ未来先取ってんじゃんね。
スライムの皮膜がクッソ簡単に手に入って安価なので、それに羽毛を詰めた物を更に生地で包んで……みたいな感じらしい。
普通にすげー暖かいし、デザインなんかも可愛らしいしで今から楽しみだ。
もこもこに着込んだ女の子が好きな僕は、この異世界にグーグルマップで☆5評価をつけた。
こういう防寒着はわりと高価な代物だし、店に在庫なんか置いとくと強盗だの物取りだのが恐ろしいんじゃ……?と思うのだが、きちんと店頭に現物があったのは、流石ヘイルニヒト家の統治下と言ったところか。
まぁスリ程度ならともかく、強盗なんか入ったら衛兵や巡回騎士に絶対に首切られちゃうんでね。
不正を嫌い精強で魔法の鍛錬すら取り入れた騎士が護る街は、そうそうこの異世界にも無いそうだ。
そして、そんな強い騎士を追い返せるような強者なら、物盗むより魔物を狩った方がコスパもタイパも良いっつー話。
初期リスガチャで神立地引いたのが今更になって身に沁みてくるぜ。スライム犬……? はて、なんの事やら……。
ただこの世界に生きる人々は種族がてんでバラバラなのもあり、冬なら確実に売れる防寒着であっても普遍的に多く暮らしている種族の標準的なサイズ以外は、オーダーメイドになりがちだそうで。
人間族女性の平均を遥かに超えた身長をしている悪王寺先輩、目黒さん、明星先輩、王城さんと、エルフ女性の平均を遥かに超えたなんやかんやをしている先生はオーダーメイドとなった。
ま、どう作るとかどういう構造かとか詳しくはわかんないけどね。
家庭科の授業は調理実習以外、半分寝てたような不出来な生徒だったんでなぁ。
異世界転移知識チートしたいなら、やっぱ学校の授業は真面目に受けとくべきだったぜ。リアリストなんだか理想主義者なんだかわかんねぇな。非リアであった事は間違いないんだけど。
「余はともかく、彼奴らの分まで買ってもらって良かったのか?」
何故か自分は棚に上げつつ、王城さんは申し訳無さそうに眉をひそめた。
彼女は王なので自身に関する事については傲慢であるが、しかし常識的な部分はきちんと備えているので仲間の事については謙虚である。良い性格してんね。
ま、多少図太いくらいが世の中渡ってくには丁度いいか。
「どうせ必要なんだから構わないわよ。例え違うパーティであっても、翔葉高校の生徒に違いはありません。なんならパーティのお財布ではなく私が買っても良いくらいです」
そしてもちろん先生は生徒のことであれば身銭を切る事も厭わないし、先生だけにそんな事をさせるつもりもない。
そもそもおんなじ学校の生徒の為ならこれくらいは全然許容範囲内だ。
幸いにも僕らは今のとこ、とってもお金持ちだしね。
「うーむ、申し訳ないな。彼奴らが帰ってきたら身体で返済させよう。いくらでもこき使ってやってくれ。金はあるにはあるが、余裕があると言えるほどではないのでな」
「ホントに気にしなくていいのよ? あんまりおおっぴらに言う事じゃあないけれど、私たちこれでも結構稼いでるから」
「無論、その好意はありがたく。しかし余も彼奴らも借りは好まん。余の分も含めて、この程度すぐ返させるさ」
先生は本当に気遣って言ってるんだろうけれど、王城さんは頑なに固辞する姿勢を崩さない。まぁそうだろうなって感じだ。
独り立ちという事に拘っている人が、現状の保護責任者たる教師からの施しをすんなりと受け取るわきゃ無い。
まぁでもそういう反骨心にも似た気持ちも、先生は大人への新たな一歩と暖かく見守ってくれる事だろう。
つか異世界来てまで保護責任を負ってる先生側があんま普通じゃないんですけどね。
ほんとに僕らはこれから一生先生に頭上がんないだろうな……。
しみじみと改めてそう思った僕を見て、先生はおかしそうにクスリと笑って下げた頭を撫でてくれる。あ^〜、溶ける〜。
「“ショウヨウ“の皆様」
そうして無事に採寸を終え店を出た僕らを迎えたのは、つい先日も見た顔であった。
どうやらは終わりらしい。
「統括ギルドマスターより招集がかかっております。使者が参られた、と」
そんな仰ぐべき恩師の為に、僕は僕のできる事をやってやろうじゃねぇか。
向こうが何を言ってきたって、無為徒食でいつづける為の口車のドラテクで、ヒモと飼い主が元鞘に戻るが如く丸く収めてみせるさ。
この場を除いて他に存在しない、口だけ野郎の腕の見せ所ってヤツだ!
へへへ、舌が鳴るぜ……! ベヨヨヨ……!
突然奇怪な舌音を鳴らしだした僕を見て、目黒さんは「ペヨヨ、ヨ……」と自分も頑張って鳴らそうとするのだった。推せる。
えっとね、上顎と舌をほんの少しくっつけて、そのまま息を……え? 見た方がわかりやすい? んあ~~……そうそう、上手いっすねぇ!
■
「して、リアス殿よ。そのセイリュウとやらはまことにエルフなのであろうな? 過去2000年に渡って、ケルセデクよりエルフが聖森より出奔したという記録は無い。此度の事は、我らもそやつが
「疑われるのは心外ですな。私たちがすぐ露呈する虚偽を申してなんになるというのです」
「……フン、まぁいい。幻術にて耳を伸ばしているのかは知らんが、エルフにそのような誤魔化しは効かぬ。精々我らを騙った罪を働きで贖わせてやろう」
「やめんかヴェルナード。我々は自分たちでは手に負えん仕事を、より詳しい専門家の同胞へ依頼しに来たのだ。外界ならばハーフと言えどエルフはエルフと呼ばれるのが自然な事でもある。礼を欠いた言動は避けるべきではないか」
「なんだと! 我々がハーフより劣っていると言いたいのかラナスティル! ただ手が足りんから手伝わせるだけだ!」
扉の前まで案内された僕らの耳に入って来るのは、侃々諤々の議論っつーよりは丁々発止な口喧嘩であった。
この異世界に来てから実質初めてともいえるガッツリした種族差別に、なんとも言えない緊張感がみんなの間を走ったのがわかる。
堂々と差別をする人間に、現代日本でそうそう巡り合う事はねぇからな。
ありていに言えばそんな野蛮な相手にはたしてこちらの話が通じるのか、どんな無体な要求をされるのかという不安が鎌首をもたげた事だろう。
しかし僕は、これを聞いて安心してしまった。
この分ならば、例え先生がハーフ扱いされようと空から降ってきたマジで謎の超絶美麗エルフ認定を受けようと、なんとでもなると思ったからだ。
感情があり、思考があり、理屈があり、矜持があり、偏見があり、目的がある相手は、それらの数だけ解決へ繋がる橋が架かっている。
とっかかりが一切無い真円を掴む事は困難だが、凹凸や棘や鱗のついた心はその一つ一つが手中に収める手段となりえる。
なるほど相手は一見高圧的な差別主義者かも知れない。
けれど、そんな相手を恐れる必要も阿る必要も無い。
狼狽は隙を生むし、追従的な態度は増長を招く。
話す相手と同格でいたいならば、対等であるという姿勢を崩しちゃいけないのさ。
相手は他者を見下すかなり高圧的な真なるエルフだ。それが?
僕らの先生は向こうの記録に無い為疑われている。それで?
なにもかも、僕らには関係のない話だ。
っつーか国の進退、ひいては世界の衰亡にすら関わるような問題の解決の為に手を取って動こうってんだぞ。
それを理解しなきゃいけないのは相手も一緒だってのに、こんな体たらくじゃ助かる物も助かるまい。
なのにあんな態度を取るのなら、それには必ず理由が存在する。
ただでさえファオルベルカ教の教えにより種族差別の少ないこの異世界において、それでもなおあんな態度で今に臨んでいる理由はなにか。
……あぁ、あぁ。わかるさ、わかるとも。
不安なんだろう。怖いんだろう。人の100倍だか1000倍だか生きてきたその記憶にない緊急事態に、戦慄し浮足立っているのだろう。
知的生命体は逃げられぬ不明な危機に瀕した時、殻に籠るか牙を向ける。
自分たちの生まれという殻に籠って、優れた種族としての優位性に任せて他の全てに牙を剝く。
なんともわかりやすく
だから僕なんかに、こんなにも理解されてしまう。
相手の気持ちが理解できたなら、望んだものが提示できる。
欲しい物を提供できる僕らと、望みが叶うあなたがたは、互いにわかりあえる。そうだろう?
「また変な顔をしておるな……」
「そう? 僕はあの悪い事する子供みたいな表情、結構好きだけどね。なんにつけ自信があるのは良い事じゃないか」
「なんだか悪王寺先輩はアイツの親みたいな目線でお話しされますな」
「……どうかな。親って言っても色々あるからね」
全部聞こえている僕に都合悪そうなヒソヒソ話は、意図的に難聴しておく。
こういう難事に挑む際は自分を騙すのも大事なんでね、雰囲気で心中を塗り替えるのも大切な準備運動だ。
無理だと思った事は出来ない。
相手を呑むには、自分で大きく口を開けなきゃならないのだ。
さぁて行こうか、決戦のバトル・フィールドへ!
「"ショウヨウ"の皆様をお連れしました」
「おぉ、よく来てくれたな。紹介しましょう。彼らこそが我がボゥギフトの誇る金級パーティ"ショウヨウ"です。みな、このお二方はケルセデク風精国よりの使節の方々で……」
威風堂々と鬣を撫でつけたリアスさんの向かいに座るのは、なるほどまったく想像する通りのエルフらしいエルフさんだった。
深い緑に染まった衣をまとう身体は線が細い。片方は肩まで、もう片方は腰まで届くストンと流れ落ちるような金髪からは、先生と同じく長い耳が突き出ている。
そしてご尊顔もマジで先生とタメが張れるくらい堀の深いイケメンだ。アカン、負けかも。
あまりの生物としての性能差に、纏った気合いがボリュンと身体から剥がれ落ちかけるも、大事な人の今後にかかわる事でつまずくワケにはいかない。
先手必勝とばかりに快活な笑顔でご挨拶をさせて頂こうとして、彼らがこちらを向いた姿勢のまま固まっている事に気付く。
そんな超イケメンさん達の視線は、僕の隣に立つ先生へと注がれていた。
次の瞬間、彼らは異様な風を巻き上げながら、凄まじい早さで膝を突いて頭を垂れる。
まるでそれは、彼ら自身の歓喜を周囲の風精が表しているかのようだった。
「おぉ……おぉ……! なんたる、なんたる僥倖か……! まさか、まさかやつがれなどがお会い出来るとは……!」
長髪のイケメンさんが、本当に滂沱の涙を流しながら心よりの崇敬を胸に、感じ入るように呟く。
短髪さんに至っては、言葉も出ないのかただ平伏して瞑目し祈りを捧げている。
土に縛られぬ一人目、最も古きエルヴン、精霊の愛し子、風の方よ。
どうかこの蔦纏いども、地に汚れた我々の願いを、どうか聞いては頂けませぬか。
そうして彼らは帝国語ではない、どこか謡うような聞き慣れぬ言葉で、大絶賛困惑中の我らが先生へと願い奉るのだった。
……なるほど、僕の覚悟も意気込みも全部無駄に終わったが結果オーライって事だな?
エルフ語まで自動翻訳が効いて良かったぜ。
これで先生が一切内容わかんなかったら、危うくすれ違いコントが始まるとこだったぞ。