【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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大変待たせました、反省。
HR90いきました、満足。

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特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。


【78】 世界樹の今

「事の起こりは、今から5年……いや、20年……? 私の姪が生まれてからなので、少なくとも150ほど四季が巡るよりは後の事ではあるのですが……」

 

 のっけから振れ幅がとんでもなさすぎる。

 オギャーつって産まれた子供が元服迎えるくらいの年月はまったく誤差じゃねぇし、150年の間の出来事なんですがって言われたらもはや世界史の授業になっちまうよ。

 しかし長命種のエルフさんたちにしてみりゃ、数百年くらいは瞬く間なのだからしょうがないのかも知れないなぁ。いやしょうがなくはねぇや。こちとら世界の危機ですよプロデューサーさん!

 

 つっても覚えてないもんはどうしようもないのもまた事実だ。

 暗記科目がのきなみ赤点をフレーム回避している身としては、他人様の記憶力に物申す事はできねぇぜ。

 へへへ……短期記憶が苦手な者同士、相手の非を責めず慰めあって生きていきましょうや、旦那。

 

「7年前だよ、ヴェルナード。すみませんセイリュウ様、ショウヨウの皆様。詳しい説明は私からさせて頂きます」

 

 と、勝手に同じ穴の狢として居候宣言したところ、ヴェルナードさんが曖昧にボカした数字を、指折り数えたラナスティルさんが訂正してきた。

 おっと、曖昧になりがちとされる時間の感覚すら向こうに軍配が上がるようじゃ、本当に僕に勝てる部分が無いぞ。生まれてこの方負け続きな僕の白旗の在庫は品切れ寸前だ。

 どうも長髪のラナスティルさんが、年若いヴェルナードさんに対する年上のお目付け役といった感じらしい。多分ヴェルナードさんですら僕らの何百倍と生きておられるんでつが……。

 

 

 あの後随分長い時間平伏して会話にならなかったのだが、ギルマスのとりなしや先生直々に事情説明を頼まれたのを受けて、ようやく彼らは落ち着きを取り戻して今回の依頼についての話が始まったのだ。

 しかし、7年ねぇ。

 こう言っちゃなんだが随分と経ってるな。

 7年放置して大丈夫なら、もう気にしなくて良いんじゃないかという気すらしてくるくらいだ。

 事は世界樹っつーエルフさん達にとっても心の拠り所かつ故郷のシンボルマークみたいなもんのハズだってのに、異変が起きてから周囲に助けを求めるまでがあまりにも悠長な気がしてしまう。

 

「よくそんな細かな時間まで覚えていられるものだな……」

「一年ごとに何があったかの手記を付けるようにしているのでね」

 

 日記ならぬ年記ってコト? スケールがちげぇね。

 絵年記なんか描いてたら、描き終わる前にそのまま次の年行っちまうぞ。

 しかしそんな曖昧な時間の感覚で語られると、逆に年月以外の部分もちょっと内容怪しく感じちゃわない?

 いつ起こったか覚えてない事は、何が起こったかもあやふやで然るべきな気がするんだけど。

 ……ま、今は正確性よりなにがあったかの概要を聞くのが目的だかんね。

 実際現地に行けば、ラナスティルさん著の年記なり詳細な資料は残されていることだろうし。

 いや文句をつける気はないんだ、どうぞ続けてくれ。

 

 無論こんな長考は口に出していないので、僕が続きを促すまでもなくエルフさんはさっきから止まらず話し続けていた。

 マズいな、心中でツッコんでて大事なとこ聞き逃したか? 我ながらアホ過ぎて泣けてくるぜ。

 

「今更このような事をお伝えするのも憚られますが、風の方もあまりに永く森を離れておられました。念の為、今の我々の認識も詳らかにしておくべきでしょう。我らがケルセデク風精国は世界樹を擁する、大陸南方の聖森に存在するエルフによる統治国家となっています」

「いくつかの氏族ごとの集落による合議制で運営され、決め事は氏族長のお歴々が満場一致で軌を一にするまで、いくつの昼と夜に渡ろうとも話し合われるのです。そして、最終的には全員の決が揃った指針が執り成される。それ故に我らは、一度決まればそれがどのような決定であろうと従います。己の氏族の長が合意したのであれば、間違いなく我らの利となると考えぬいての事であるから」

 

 そりゃまた気の長い話である。

 村落くらいの規模でそれをやるならまだしも、国家の運営でそんな呑気な事やってたら人間くんはみんな先に寿命を迎えちまうぜ。

 確かに有権者が天寿を全うするまで政策を一切決めなければ政策を批判されることは無いという無敵の論法が成り立つが、その屁理屈を騙る頭が胴体から切り離されちゃう諸刃の剣だぞ。

 

 ……とはいえ、それはもし叶うのならば理想的な国家の形ではあるのだろう。

 自身の上に立つ指導者達が、その下にいる同じ一族、ひいては国の為に真剣にいつまでも議論を戦わせ、最後には全員が同じ方向を向いた結論を出してくれる。

 国民にしてみれば、これ程までに信頼の置けるお上もないかもな。

 つっても、流石に国全体が一枚岩とまではいかないだろう。

 首を縦に振っていても心ではどう考えているかなど、生活費を恵んでくださる扶養者相手でもなけりゃ分からないものなのだから。

 

「……しかし、この度はその形態が裏目に出た、とも言えるのやもしれませぬ」

 

 伏し目がちにそう溢す彼の瞳からは、忸怩たる思いが見てとれた。

 

「ある日を境に、世界樹の生命力が衰えを見せ始めました」

「天を貫く幹はまるで山と見まごう程に大きく、全てのエルフが手を繋ごうとも足りぬその全周は、ともすれば下手な村や街よりも長い、まさしくこの世そのものに深く根ざした精霊たちの宿り木」

「我らを産み落としたその母なる大樹が、徐々に力を喪いだしたのです」

「最初は見かけ上の変化は有りませんでしたが、少しでも精霊に近しい者であればハッキリと知覚できるほどに、生きる力が目減りしておりました。そうして時を経るごとに周囲の森の実りが目に見えて無くなり、溢れる力を糧としていた精霊獣は減り、そしてついには葉の中に枯れた物が紛れ始めた始末……」

「なにもかも、前例の無い事です。どれだけ記録を遡ろうと、最も年経た長が保管してきた分け記憶にも、それらしい記述は一切見受けられなかった」

「何かきっかけがあったという事もありません。まったく唐突に、なんの予兆も無く、ある日突然そうなってしまったのです」

 

「その異変に際して、我ら風精国の長たちは速やかに集い、議論を始めました」

「まずは議題となったのは『この異変に対し我々エルフが動くべきかどうか』……そして恥ずべき事に、この議題の結論が出たのは、異変が起きてから四季が五度巡った後の事だった」

「自然の摂理を捻じ曲げる事を良しとしない氏族、これが神の思し召しによるものならば我々が触れるべきではないという氏族、今すぐにでも原因を究明し再び世界樹に命を取り戻すべきだと主張する氏族……」

「各々の在り方に則った思考を持つ長たちによる議会は紛糾し、幾日が経とうと結論が出る事は無く、日を追うごとに朽ちていく母なる緑を目の前にして、私達は足踏みしかできませんでした。誰一人として、長の議論を待たずして行動に出られなかった」

「……私は、決して我が国を嫌っているワケではありません。ケルセデクの民として、聖森を護り、恵みを受けて共に生きてきた事は、紛れもない誇りです」

「けれど我々は、我々という国は、差し迫った危機というものに対して、あまりにも鈍重に過ぎた」

「対処すると決まりようやく世界樹の調査に取り掛かった頃には、幹には虫食いのような空洞が幾つもできていたのです」

「我々は本来であれば、急いで異変の原因を調査し、被害が少ない内に対策を講じるべきだった」

「今ではそう思っています。……きっと、私以外の多くの者も同じく。末裔がこのような醜態を晒してしまい、尊き風の方には本当に顔向けもできません」

 

 唇を噛んだ彼の言葉は自分たちの愚かさを呪い、非力さを嘆いた血を吐くような思いの丈だった。

 後悔しても覆らない過去が、目の前に暗澹たる惨状として立ち塞がる。

 目を逸らす事の出来ない現実として存在する己の罪の証。

 

 『オイオイ他種族を下に見た高慢なエルフ様方にしちゃあとんだ失態じゃねぇか』と、口さがない批判をするのは簡単だが、僕は到底そんな知った口をきく気にはならなかった。

 

 ラナスティルさんの深く悔いるように伏せられた顔には、やりきれない想いが滲んでいる。

 同族の恥を己の恥と思い、恥じ入るような謙虚さと思慮深さが彼にはあるのだろう。

 そんな彼の姿を見て、どうして何一つしていない部外者が大きな口を叩けるものか。

 自分の失態も笑って誤魔化すタイプの恥知らず代表としては見習いたい実直さだぜ。

 

 そもそもエルフなんつー美貌あり精霊あり長命ありのスーパー上位存在さんが、持たざる者たる僕ら只人たちと相対したら、そら見下ろす形になるのはやむをえない事だ。

 ペットのワンちゃんやヒモを人間として扱う方が特殊な例なのは言うまでもねぇことなのである。

 飼い犬は人じゃなく犬だし、ヒモは人じゃなくヒトデナシだろう。

 

 エルフさんはそんな事言われても気休めにもならないだろうけれど、いざ人間くん達がその立場に立たされたとしてもきっと似たような経緯を辿ってたと思う。

 僕は寡聞にして踊らない議会を知らないからな。

 どんな種族であったとしても、それが満場一致を旨としない通常の会議であったとしても、紛糾してぐだぐだになるのが世の常なのだ。

 まぁ過ぎた事はいいよ、建設的なこれからの話をしよう。

 内々で隠し建てして葬り去ろうとしなかっただけ、彼らエルフという種族が高潔で誠実であると理解できたくらいだ。

 彼らがなんとかして欲しいって言うのなら、手を貸してあげたいと思える程には、ね。

 

 

「世界樹内部の空洞はまるで魔窟のように曲がりくねり、調査に向かった者たちを惑わしました」

「しかも最悪な事に、その空洞の内部には醜悪な魔物が蔓延っていた」

「細長い体をおぞましく波打たせ、身動ぎしながらこちらへと忍び寄る、牙を持ったワーム」

「恐らくはそれらが世界樹の衰亡の要因であろうと、誰もが一目で理解できる造形です。果たしてどのように潜り込んだのかは不明ですが、まず間違いなくヤツらを全て駆除しなければこの事態は好転しないでしょう」

「そんな化け物が空洞にある横穴のいたるところから、調査に出た者へ襲いかかってきた」

 

「そして……これが最も恥ずべき恥部であるのですが……我々ではそのワームを掃討できなかったのです」

 

「ご存知の通り私たちエルフは弓と精霊魔法に長けた種」

「けれど狭く曲がりくねる木のうろでは、普通の弓は使い物になりません」

「とはいってもやりようはあるハズでした。音響にて感知した魔物へ飛ばした矢を、風精に任せ誘導してもらう事くらいはエルフならば容易い事だった」

「なのにその場に居た先遣隊の全員が、魔法を使う事ができなかった。普段ならば力を貸してくれるはずの精霊にコンタクトが繋がらず、不発に終わってしまう」

「これも、前例の無い話でした。そもそも世界樹の中に入った事のある者が居ません。世界樹の樹皮の内にて魔封じを受けるかどうかなど、誰にも知りようが無かったのです」

「精霊魔法が使えなくなった事に気付いた彼らは、任務を放棄して一目散に里へと逃げ帰った」

 

 魔封じ。

 今まででも十分にセンセーショナルだった話の間静観していたリアスさんが、その言葉を聞いた途端ピクリと反応した。

 

 この異世界において魔法はとても身近なものだ。

 ボゥギフトくらい大きな街であればそれこそ数百人単位で職業としての魔法使いは存在するし、なんなら魔法使いと名乗っていない人間でも位階が高ければ軽い魔術くらいであれば唱えられたりする。

 魔法灯が都市部の主な光源として取り扱われている事も、それを灯せる者の多さを物語っているだろう。

 むしろ僕らみたいに、金級にもなりながら一切魔法使いが居ないパーティの方がレアケースなくらいだ。

 例えばだけどコールダウさんが僕を威嚇した時のアレも、魔法に近い技巧だったと思う。

 

 だからこそ、それを封じられるという事は。

 僕ら魔法を有さない世界の人間からは想像もできない衝撃なのだろう。

 

 

 難しい顔で黙りこくっていたヴェルナードさんが、おもむろに口を開く。

 

「エルフでない者には分からんだろうが、精霊と交信できぬというのは他種族で言えば舌を捥がれるようなものだ。彼らが怯懦に呑まれた事を責めるエルフは、氏族には一人も居なかった」

 

 それはこの場に居るエルフでない全員へと向けられたもので、内容は任務を放棄してしまった同胞を庇うものだった。

 部屋から漏れ出た会話内容からは横柄で粗暴にすら思えた彼は、しかしその実同族に対してはひどく慈悲深く寛容なのだろう。

 ハーフへの差別や他種族を下に見る傲慢さが打ち消されるワケではないけれど、本人が居ないところでも仲間を擁護できるのは紛れもない本心からの発露なのだと理解できる。

 身内を庇える相手は、自分以外の何もかもをぞんざいに扱う者よりもよほど好ましい。

 指導者の血縁としては、重要視すべき事を理解できていると褒められていい素養だろう。実際そうかはわからない、邪推でしかないけれど。

 

「えぇ、むしろ報告を受けたケルセデクの民は、更なる混乱に陥ったくらいです」

「呪文も唱えられない、弓の弦を引く事も叶わない。そんな状態で、いったいどうやってあの魔物の群れを討ち滅ぼせるだろうか」

「魔窟という物は、そもそも聖森内に存在しません」

「だから我々には、入り組んだ狭い窟の中にて弓以外の武具で魔物と対峙するノウハウなど、何一つありはしなかった」

「ようやっと対策に乗り出したはずの我々が、次はあっという間に暗礁へと乗り上げたのですから」

「……本当に、笑えない話ですよ」

 

「その後も様々な手段でアプローチをしました。けれど儀式魔術もシャーマンの呪法も、そして古くから戒められていた禁呪すらも、事態を好転させるには至らなかった」

「世界樹そのものに影響を与えないように、その内に潜んだ忌々しい蟲どもを一掃する冴えたやり方は、我らエルフの長い歴史の全てをもってしても見つからなかったのです」

 

 

「そうしてなにもかもをやり尽くし、打つ手が無くなって……我々は助けを求める事にしたのです」

「精霊魔法も十全に使えぬと今まで見下していた、外界に流れ冒険者となり魔窟にも精通しているであろうハーフ達を」

 

「本来であれば、なりふり構わず種族を問わず冒険者へ依頼を出すべきです。国家存亡の危機であると、世界滅亡の嚆矢であると訴えて、全ての国へ救援を求めるべきです」

「けれど、エルフという種族は事ここに至ってなお、他種族に世界樹の現状を知られる事を嫌った」

「このような状況になっているというのに、可能な限り隠し通しハーフさえいればなんとかなると欺瞞するように、私も父から申し付けられているのです」

「……いえ、むしろここまで来てしまったからこそ、なのかも知れません」

「なんと虫のいい話だと、一笑に付されても我らは何一つ文句は言えない」

 

「……だから、この廻り合わせはきっと、運命なのでしょう」

「己たちの罪業のなにもかもを詳らかにして、世界から断罪を受けよと。そうして、始祖に申し訳のたたぬお粗末な生き様を首を垂れて詫び、慈悲に縋るのだと」

「風精の女王が、その様に思し召しているのでしょう」

 

「なにもかもが終われば、この身の責任において教会へと申し出て、全ての顛末を知らしめます。エルフが抱えた傲慢の代償をファオルベルカの女神へ懺悔し、裁きを受ける事を誓います。ですから──」

 

 

「ケルセデク風精国"枯れた蔦"の氏族長アラノスが嫡男、ラナスティルが伏してお願い申し上げる」

「風の方よ、その徒党の皆様よ」

 

 どうか我らの母を、身の内に巣食う蟲どもから救って頂きたい。

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