【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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【79】 優しい暗がり

「ふむ、その意気や良し。あいわかった! 余たちも力を貸そう! なに、大船に乗ったつもりでいると良い。余の力は本物である」

 

 お、そうだな。

 ラナスティルさんの悲壮なまでの覚悟を受けて、この場で唯一の部外者である王城さんが王としての懐の広さを遺憾なく発揮した。

 彼は「おぉ……!」と感嘆の声を上げるが、ギルマスはおおいに困惑しとる。

 無論『これからクランを組む別パーティのメンバー』として同席の許可は取ってあるが、最初から「なんで居るんだ……?」って顔してたからな。

 その反応は正しいぞ、自信持ってくれ。

 

 しかし、余の“力は“本物ね……。

 まるで自分自身は偽物みたいな言い方じゃねぇか、なァ?

 ……ま、僕はガキの頃から好きな子にはイジワルしちゃうタイプじゃなく、どっちかっつーと物貢いじゃう性質だったんでね。わざわざ口に出したりはしない。

 

 

 人型ところてんくらい部外者だった王城さんによる鶴の一声で趨勢が勝手に決してしまったが、この場の大半が王城さんと同じ気持ちみたいだし、実際のとこたいした問題じゃなかった。

 みんなの顔を見回しても、「なんか大変そうだし手伝ってあげよっか」っていう肯定的な意見が過半数を占めている。

 リアリストの小金井さんからは「そんなリスキーな話は様子見してから手を出したいが、ここで断ったらエルフにもギルドにも良い顔されないし、向こうで特産品仕入れてブルーゴールド商会(我が子)を大きくするかぁ……」という諦念が伝わってきた。

 乗り気ではなさそうだが、子育ての一環として前向きに捉えてるようだし水を差す必要もなかろう。てかやっぱ僕にもなんかさせて欲しい。子供に構わせてくれよ〜頼むよ〜。

 

 なお悪王寺先輩からは「エルフの国を救えば、先生並に美形のエルフっ子に囲まれて一緒にチヤホヤされ放題なんじゃない!? 右に助手クン左にエルフ娘!? 気が狂っちゃうかも!! いつ出発する!? 私も同行しよう!!」という怪電波が飛んできている。

 先輩も大概王城さんの事言えないっすねぇ。ま、同族だからこそ目に付くってのはあるのかな。

 素敵なお誘いは大変嬉しいのだけれど、すでに現状で僕が取れる責任の飽和量をゴリゴリにオーバー済み。

 責任飽和水溶液の死海ばりの浮力により身体プカプカのハズが、幸せ家族計画×7セットの責任の重みでつむじまで将来設計にどっぷり浸かってる状態なんで、更なる深みへの誘いは謹んでご遠慮させて頂く。

 しかし僕に届くとわかった上で、ガッツリこの内容考えて送り付けて来るんだからすげぇや。素直な彼女の欲求をストレートに届けてくれる事が、親愛の証としてとても面映いぜ。

 

「そうね、今回は王城さんの言うとおり。私たちにできることなら、やらせてもらいましょう」

「あぁ……ありがとうございます、ありがとうございます……! 貴方様が戻って下されば、里の者も、国も、みな救われます……!」

 

 己が故郷と種族の尊厳の為に詰め腹切ろうって言ってる相手に、手助けを懇願されてすげなく断れる程、僕たちも先生も情を知らぬワケではない。

 快諾した先生に、ラナスティルさんが再び縋りつくように頭を下げる。

 ヴェルナードさんの方は未だ葛藤の中といった感じだが、ラナスティルさんに関してはもう完全に覚悟ガンギマリなようだ。

 

「あー、いえ、戻るっていうか……それに国とかまではちょっと、責任取れるかわからないですけれど……まずお話しなければならない事もありますので……」

 

 困った風にわたわたと手を振る先生が、目を泳がせた後にチラリとこちらを見る。

 きっと無意識だろうその動きに、思わず頬が緩んでしまった。

 咄嗟に手を伸ばす場所に僕を置いてくれている実感に、心が暖かくなる。

 

 そもそも先生はメイドイン神域の純正風精100%どスケベ逆バニー重鎧エッチな聖騎士エルフなだけであって、その最も古きエルヴンとかと同一人物ではないのだ。

 なのでそこらへんを致命的じゃない程度の誤魔化しや、誰も不幸にしない嘘を混ぜつつなんとか軟着陸させなきゃならないってワケ。

 

 あいよ、任せてくだせぇ。

 毎朝新聞咥えて取ってくるみてぇに、飼い主の意を汲んで動くのもペットの役割の一つだからな。

 ちょうど使い先を喪った充填済みの気合を、揮発に任せてエネルギー損失させるのも勿体無いなと思ってたんでね。

 

 なにより、なんたる偶然だろうか。

 たまたま僕も目の前の彼らと、友人になりたかったところなんですよ。

 

 

「まぁまぁ先生、詳しい話は聞いてみないとわかりませんから、ね。ところで、お二方は宿はもうお取りになっておられます?」

 

 一言一句聞き逃すまいと長いお耳を立てて傾聴しているエルフさん方が、先生のお言葉を受けてどういう事だと怪訝な顔をしたのに合わせて割って入る。

 大事なお話の腰を折っちゃって悪いが、なに、そちらさんにも悪い話じゃないと思うんで許して欲しい。

 

 

 種族の為に身を投げうつ覚悟? 

 すごい事だ、人一倍責任感がある相手は尊敬できる。

 そんな好漢のラナスティルさんが、自分を捨ててもいいと思える程素晴らしいエルフという種族に対する愛や誇りをぜひ聞かせて欲しい。

 お国自慢だっていいし、武勇伝なんかも最高だ。好きな唄を教えてくれれば、一緒に歌えるかもしれない。僕はこう見えて知らない歌を歌うのも結構得意なんですよ。

 僕は、貴方が知りたい。

 

 こうなってなお他種族を頼らず、ハーフを見下す傲慢さ?

 さっき言ったとおり僕は理解を示そう、これは種族間の性能差がある以上やむを得ない話だ。

 けれどその思想は、ヴェルナードさんにまだエルフ以外の友人が居ないからという理由もあると僕は思う。

 閉じられた世界に住む人は、そのクローズドサークルの中の価値観以外を知らない無垢さを持つ。それをもって悪と断ずるのは、それこそが傲慢なんじゃないか?

 だからこそ僕は、彼らの国を飛び出してきた勇気ある彼に、僕が好きなこの街の人々を好きになって欲しいと思わずにはいられない。

 例え相手が能力的に劣っていようと友人にはなり得るし、きっと彼ら程の賢人であれば友となった相手を通して、エルフ以外の種族に対する色眼鏡を外す事だろう。

 僕は、貴方に知って欲しい。

 

 目の前の二人のエルフの存在が、僕の中で膨れ上がる。

 好きな人に頼られたからではなく、自分自身の欲求として彼らと仲良くなりたいと心から思い始めていた。

 

 ……しかし、知って欲しい、ね。

 これまでは相手を知りたいだけだったのに、いつの間にやら相手にまでそれを望むとは。

 日本にいた頃は誰の事も知ろうとしなかったクセに随分と傲慢になったもんだな、笑っちまうぜ。

 人の欲望には限りが無い。なるほどエルフ様に醜いと看破されるのも納得だ。

 

 

「あ、あぁ……『鵞鳥の宝卵亭』というところを、統括ギルドが手配してくれていてね」

「おぉ、それはなにより。良い宿ですよ。流石はギルドが手配しただけはある」

 

 微笑んで返答を待つ僕に、ラナスティルさんが戸惑いながらも答えてくれる。

 彼の意識の対象が、初めて先生以外の物へ移った。

 なぜならそれは僕が彼女から話を継ぐ事を許されたからであり、すなわち強い信頼関係のある相手だと暗に示されたからに他ならない。

 そこまで言語化されておらずとも、極めて尊敬する相手が重用している物を粗雑には扱いにくいってだけの簡単な話。

 

 そして厚顔無恥な僕は、履かされた下駄は存分に使いまくるタイプだ。

 なんせチビなもんでね、図書館でも上の方の本取るのに土台が必要なんだよ。

 

「いえね、これから僕らは風精国へ先生のパーティメンバーとして伺うワケですから、そこで失礼があっちゃいけないでしょう。なにしろ先生はまだしも、僕なんかは只人のガキでして……僕自身が侮られる分には良くても、先生に恥なんかかかしちゃいけないじゃないですか」

 

 そうして僕は話し始める。

 心底の懸念を、本心の不安を、恥ずべき憂慮を、自然な要請を、誰もの為の計らいを。

 

「なのでよろしければ今夜辺りにでも、今のエルフの方々の礼儀や習俗なんかについて、食事を交えながらご教授願えませんかね? 実は美味いホーンボアの肉を出す店を知ってて……あ、もしかして先生以外のエルフの方って肉はあんまり?」

 

 事前に立てた計画通りに人生を進められるような頭も要領も良い物語の主人公みたいな人間じゃない僕が、それでもなお大切な誰かに何かを求めてもらえたのなら、なにをしたって成し遂げよう。

 手段と目的を混淆し、順序を入れ替え本末をすっ転げさせ、全てをごちゃ混ぜにした上で、どさくさ紛れになぁなぁで話をまとめちゃおう。

 スマートさの欠片も無い、けれど僕にできるたった一つの、冴えないやり方。

 あまりの間抜けさに愛想を尽かされないかが心配だね。

 

 

 おっと、やっぱりお肉はあんまり……そうでしたか。

 しかしこうなると、なおさら色々とお伺いしておかねばなりませんね。

 先生も今の風精国の方々のご事情や文化を知悉してらっしゃるワケじゃないようですし、こういった些細な差異から致命的な行き違いが発生しては、双方が不幸になるばかり。でしょ?

 とはいえゾロゾロこんな大人数で押しかけるのもなんですから、今日のところはそうだな、積もる話もあるでしょうし先生に小姓の僕が付かせてもらう形で、えぇえぇ、邪魔者一人は余計かも知れませんがエルフ同士昔話に花を咲かせて頂ければ……。

 

 

「なんでアイツは自然な流れでご飯に誘っとるんだ……? エルフになった恩師を餌に男のエルフをナンパ……?」

「しーっ、助手クンの仕事を邪魔しちゃダメだよ」

「ナンパが仕事……? ていうか何の助手なのだ……? 一体余はどんなパーティに呑み込まれようとしている……?」

 

 突然セカイ系に巻き込まれた主人公みたいに現状に取り残された王城さんの中で、あらぬ誤解により僕がとんでもないバケモノに仕立て上げられようとしていた。

 また僕何かやっちゃいました? ただエルフの特使をご飯に誘っただけだが?

 何が一番ヤバいってそのあらぬ誤解があながち誤解と言い切れねぇ事なんだよな。助けてくれんか?

 

 や、やめろ! こんな僕を見ないでくれ……!

 しかし見て良い姿をしているタイミングが異世界来てからこの方一時も無かったので、今この場を凌いだところでいつかもっと致命的な形でバレるのが目に見えていたので諦める事にする。

 どこ切り取ってもスキャンダルになるなら、それはもう素材の問題だ。

 

 

 僕だって握った剣でみんなを守りたいのだが、剣を握ったままでは盃を酌み交わせないのだ。

 肉体そのものを武器化できる最強格闘王さんには、なかなか理解し難い苦悩かも知れんなァ? なァじゃないが。こんな事でちっちゃいカタカナを使うな。

 まるで他の職業の人になら理解してもらえるかのような口振りだが、無論理解ある飼い主さんたち以外には今の所理解してもらえた事はないのは僕たちだけの秘密だ。

 

 さしあたり今夜ご飯から帰った頃には、彼女のとんでもない認識が飼い主様たちの努力により改められている事を祈っておこう。

 

 

 

 

 

 

「ふぃ〜……」

 部屋に帰り着くと、限界OLの如く荷物をポポイと放り出してベッドにごろんと寝転がった。

 魔法灯が照らす室内の、現代でも「この部屋間接照明なんで」と言えばギリ押し切れる程度のほの暗さが心地良い。

 ちょっとばかし疲れてしまったので、寝る前のナイトルーティンを何もかも放棄しこのままシームレスに眠りに落ち「おつか、れ……です、か……?」「んー、ちょっとね」かけたところで誰も居ないハズの耳元で囁かれた声に、しっかりと返事を返す。

 相手によっちゃ完全にジャンプスケアな演出ではあるが、話しかけてきてくれたのが大好きな人だったらもちろん話は別だ。むしろ嬉しいサプライズまであるな。

 

 部屋の隅の暗がりから伸びた影より顔を出していた目黒さんが、ずるりと夜闇を抜けだして僕の隣へと身を寄せる。今日も良い†ドゥンケルハイト†だね。

 例えそれが壁に遮られていようと、あまねく影と闇がある場所はすべて彼女の領域なのだ。

 

 そういや王城さんはどうだった? あの後ちゃんと理解してもらえた?

 

「はい。きちん、と……あぁやっ、て仲良くなる、のが、お仕事だから……そ、その証拠に、パーティの財布から、お金も出してい、ると……みんなが、伝えてい、ました」

 

 どうやら祈りは届かなかったらしい。

 まぁ神様も魔王相手にすんのに手一杯で、たかだか人間一人の願いなんて聞いてられんわな。

 明日以降はパーティの金でナンパする狂人として彼女と接する事になるが、まぁ明日の僕が上手い事やるだろう。

 

 

「……あま、り、上手く、いきません、でした、か?」

 

 いや、ハチャメチャに上手くいったよ。

 先生が所謂"最古のエルヴン"では無い事は理解してくれたし、それでも新たな精霊の愛し子である事は断言してもらえて、だからなんていうかな、風精の女王様の御遣いみたいな立ち位置で受け止めてもらえたし。

 それに僕らが先生の教え子として、里に行っても他種族だからという理由で差別を受けにくいようにお触れ出してくれるって太鼓判もらえたからね。

 ただまぁ、ホラ、なんせ当初は『糾弾される先生の立場を確固たるものにしてみせるぜ』っていう意気込みで、あの会談に向かったからさぁ……。

 

 あまりにもギンギンに入れ過ぎてた気合いを流用しちゃったせいで、ちぃとばかし張り切り過ぎて仲良くなり過ぎてしまったのである。そんな事ある?

 

 まぁ救援の要請に来た以上、そんな浮かれまくっての大宴会にはなんなかったけどさ。

 なんかもう酒も入ってないのに、先生の言葉を聖書の如く必死に書き記そうとするのはまだしも、なんでか僕まで男泣きしながら肩をバンバン叩かれるわで、なんか流れで里に戻ったらミドルネーム貰う事にまでなっちゃったんだよね。

 

「どうし、て……そんな、事に……?」

 

 どうしてなんですかねぇ……。

 なんていうかな、エルフさん達って本当にその、僕らからすれば途方もない時間を生きてるんだけど、その分なんていうか……短命種の更に子供の感性なんて、もうほんとちっちぇ幼児くらいに感じてるっぽくてぇ……。

 これまで歩んできた冒険とかを色々と話したんだけど、それが種族云々を超えた"大人"としての琴線に触れちゃったらしくてさぁ。

 なんかこれこのままいくと僕ら全員を保護しそうな勢いだなって思って、その話はそこそこに切り上げたんだけど、そっからは完全に近所の子供を見る目で見られてたもの。

 

 ……これは目黒さんには言わないけれど、ヴェルナードさんにしつこく聞かれてやむなくボカしながら育った環境の話した時マジでヤバかったんだよな。

 いくら育ててもらった恩の話をしても通じないから、叔父さんに申し訳なくなっちゃったくらいだ。

 流石に地球までは変な噂が伝わることは無いんで、迷惑をかけないで済むのが救いだろうか。

 

 

「どうしよこれから僕が青海=アルバストル=蒼とかになったら、子供にも同じように引き継がれるのかな。そんな貴族みたいな新入生が来たら担任の先生もビックリしちゃうよ」

「青海君、との、子供なら、大丈夫だと、思い……ます。パ、パパに、似て……利発な、子、だろう、から……」

 

 そう言って彼女は愛おしそうに自分のお腹を撫でる。

 

「うーん、それはなかなか自分じゃ頷きにくいけれど……目黒さんみたいに、人の話を嬉しそうに聞いてくれる優しい子なら、少しくらい名前が人と違ってもやっていけるかな」

 

 神話じゃないので流石に因果無くして結果が現れる事はないのだけれど、まぁそんな事はわざわざ言うような事じゃあない。

 

 コンパスが違う僕たちは、誰もにそれぞれのスピードがある。

 隣の誰かが進んだからって、無理してそれに合わせる必要は無い。

 彼女が望む歩幅で、彼女が望む速度で、彼女が望む道を一緒に歩けばいいのだ。

 手でもリードでも好きな方を繋いでもらって構わんぜ。

 

 大好きな人の道行きに付き添わせてもらえる幸運を、僕はみんなに教えてもらった。

 それだけで、僕の人生の全てを捧げるには十分に過ぎるだろう。

 

 もはや途切れる事もなくなった感応からなにかを読み取った彼女が、ゆっくり僕と自身を覆う様に影を広げる。

 呑み込まれた真っ暗で静かな闇の中、重力から解き放たれた僕らは、溶け合うように微睡へと落ちていった。

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