【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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バタバタしてて遅れた割に話は一切進みませんでした。
次の投稿は5日後の予定。

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特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。


【80】 瞼に描く面影

「昨日あの後一体何があったのだ……?」

 

 あくる朝。

 朝食の席でなぜか先生の膝に乗せられている僕を見て、王城さんが戦慄したような顔でボソリと呟いた。もうこれ軌道修正無理だろ。

 なにがあったんでしょうね、こっちが聞きてぇや。

 ただでさえ先生はとある事情で机との間にスペースが無いってのに、そこに腐っても男子高校生な僕がねじ込まれてるのでもはや身動きが一切取れない状態である。

 こちとらふんばるずじゃねぇんだぞ。

 先生はとんでもない胸囲を抱えながらも、その驚異的なインナーマッスルによって背筋まっすぐじゃないっすか。

 そんな貴方にふんばる僕は必要ないんじゃないだろうか?

 

「ううん、蒼君は不要なんかじゃないわ。あなたは私にずっと必要な被扶養者です」

「……それはごめんなさい。でもずっと養われている必要は無いと思うんですけどね?」

 

 なんか知んねーが朝からほぼ最大強度テレパスで繋がりっぱなしな先生に、普段じゃ通じない細かなニュアンスまで伝播したらしく、悲しげに注意されたので普通に軽口を謝罪。これは全面的に僕が悪い。

 

 

 なんでか知らんが、朝みんなが食堂に集まったら開口一番先生が「蒼君にはこういった触れ合いが必要だと思うの」と言って、頑として譲らなかったのだ。

 女将さんとメイちゃんには悪いが本当にご飯どころではない。

 この状況で食が進む奴は三大欲求パラメーターの関数を書き換えられている可能性がある。

 昨日のエルフさんたちとえれー仲良くなり過ぎちまった会食の帰り道、渦中の人となった気疲れからか何話しかけても上の空だったのだけど、翌日になったら急にこれだからマジでちよっと心当たりがないっピ……。

 テレパスから読み取ろうにも、僕に波濤の如く流れ込んで来るのはいつにも増して強力な「子供を導く」という教師たる彼女に相応しい想いだけ。

 何がどうなってその考えがこの行動に繋がっているのかは、正直ちょっと分かんない。

 いや、嬉しいは嬉しいっていうか、モリモリとMPとSANと謎の数値が増幅していくような感覚はあるっていうか、照れくさいながらも愛されてる実感があって幸福なんだけど。

 

 今まで他のパーティの面子の前ではこんな風な露骨な接触を各々避けてたハズなのに、一体何がどうなってこんな事を……?

 

 突然の事にみんなの間の空気がちょいと硬くなってるしなぁ。

 みんなが僕の事を好いてくれている事はもはや疑わないし、なんとなーく議会で決め事してるみたいな話をそれとなく察してはいたのだが……どうもそれに逸脱した行為を先生は行っているっぽい。

 無論僕ら人間がルールを常に破らずにいる事などできないのは当然で、どうしたって起こり得るこういったシチュエーションにも対処できるようにしてかなきゃならんと思ってはいたのだが、しかしこれは……どうすべきか。

 

 先生は理由なくこんな風に自分から和を乱しに出るタイプじゃねぇので、きっと彼女なりの考えか都合があっての事だとは思うのだ。それを否定はしにくい、と言うかしたくない。

 これで聖さんが満足して満たされるというのなら、強制的にやめてもらうなんて選択肢を取る前にもっとやれる事があるハズだ。

 となると僕にできるのは、それによって発生したみんなの緊張や不安・不満を解消に動く事だろう。

 

 取り敢えず今の衝動が治まるまではこのまま続行。

 なにがしかの契機で先生が普段通りに戻ったら、彼女とてそそくさと僕を降ろし世は事もなく日常へ回帰するはずだ。

 で、食事後にでもこれからこういう事をするなら二人っきりの時にしてもらうようにお願いしてみて、その後なんとなくモヤってるみんなにそれぞれ不満の穴埋めをさせてもらうのが堅いか……?

 

 そしてこれが最も重要だが、先生にヘイトが向くような展開にだけはさせたくない。

 あまりにも自意識過剰ってか、口にするのもおこがましいのでこんなことは言いたくないのだが、僕を取り合って争わないでって話。マジで言ってんのか? 事実は夢小説より奇なり……。

 まぁ本来であればありえる事も無かった懸念なのだが、実際既に僕が7股しているという非現実的な事態なのだからもはや目を逸らすワケにもいくまい。

 まずはその根本的なねじれから解決すべきと言われれば返す言葉も無いのだが、喫緊の問題は目の前の事象なので今は横に置く。

 そろそろ横に置かれた問題の標高が高尾山を超えそうだ。観光名所となる日も近いぞ。

 

 とりあえず、そんな同一平面上かつ交わっているにも関わらずねじれの関係にある僕らの中で、恐らくあるだろう淑女協定を破った先生に、みんなが良くない感情を抱いて欲しくないのだ。

 幸いにも僕らのパーティは今までそんな仲違いをするタイミングは無かったけれど、しかしそれはみんなが古今稀に見る程に良い素晴らしい性格をしていたから且つ、異世界に来てもきちんとルールを守り互いを尊重し感情的にならないという、現代日本人として素晴らしい民度を維持できていたという理由がある。

 そんな奇跡的なバランスを保っていたこの集団内において、僕がサークルクラッシャーになっちゃうワケには断じていかぬ。

 どうして異世界来てヒモの次になるのがサークラなんだよ。正統進化と言われればそうなのか? このまま進化系統樹進んだ先に魔王ねぇだろうな。

 僕のせいでみんなが不仲になるくらいなら僕は潔く町を出る……程無責任では無いので、どんな手段を使ってでも仲を取り持って前と同じ尊い関係を取りもどしてみせる。が、しかしそもそも仲が悪くならないのが一番である。

 つまるところ僕は「抜け駆け」みたいな悪いイメージを先生に付与せずに、この状況を脱せねばならないワケだ。

 僕が雄叫びだの挑発だののヘイト集めスキルを持ってれば、朝飯食べながら雄々しく叫ぶ事で先生へ向く分含め一手にヘイトを買うのだが、悲しいかな僕にできる事と言えば精々パーティの資産をギャンブルで溶かす程度の物だ。十分ヤバい。しかもそれでヘイトを買わないってのが一番ヤバい。

 

 とまれ、みんながどう出るかによって盤面が大きく変化する以上、最終目的地のみを定めて臨機応変にいくしかねぇ。

 何がどうあっても僕なんかの為にパーティ内で不幸な行き違いを産ませない、という結果を最後に引っ張ってこれればそれで良い。

 

 そうと決まればこの場は有耶無耶にして穏便に流すぞ。

 今この時ばかりはみんなにゃ悪いが、なんもかも誤魔化しにかかる。これからはもっと上手くやってみせるのでどうか許して欲しい。

 なんせこの道はまだまだ初心者でね。どの道?

 

 

「先生ー! ウチもセンパイ乗せたいっス! そういう限度超えた受動側のスキンシップされてるセンパイって〜、なんかカワチーんすよねぇ〜! ある程度までならホーロー力?」

 包容力かな? 惜しいねぇ。

「あ、それっす! ソレで優しく受け入れてくれるんスけど! 行き過ぎるとタジタジになって、どうすりゃいいかわなんなさげに膝の上で手遊びするとことか〜!」

 おっと、それを言われると照れちゃうね。

 もちろんとても魅力的な提案だけど、冷めちゃう前に朝ご飯を食べるのが先決じゃないかな?

「それもそーっスね! ここの朝に出てくる獣感が強い斑模様の腸詰めとトマトみたいな焼き野菜は、どことなくイングリッシュブレックファストを思わせてウマいッスからねぇ〜! それにゴワみがあるパンってのがまた欧州感を漂わせ、なんだかそっちに旅行に来たみたいな気分になってサイコーっす」

 そうだね。いやごめん見栄張った、全然分かって無い。正確には"そうなんだね"だわ。

 

 

 僕の杜撰な計画立案も空しく、めちゃくちゃ心当たりのある事を言いながら、鹿野ちゃんがピンと手を上げ看過できない発言をした。

 キチンと手を上げてから先生へヒモ受け渡しの提案をできて偉いねぇ。義務教育の勝利であり社会通念の敗北だ。

 流石に僕の胸までくらいのサイズしかない女の子の膝の上に乗るのは、魔車移動の時以外許されない……っつーかそもそも場所限で許されてるのもおかしいしな。司法が出張ってきた時の覚悟は日頃からしてます。

 

 けれど正直これは良い流れだな。

 純粋な鹿野ちゃんが私もっつって手を挙げてくれたから、先生の行為そのものが単なる"一番手"に成り代わった。

 一旦食事を口実に躱しはしたものの、順番に座ってけば少なくともヘイトは発生しないだろう。

 

 

 ……でもタジタジになんのはしゃーないでしょ。

 どうやって生きてきたら、机と森の賢人様のスーパサイズミー(意味浅)で挟まれて人体切断マジックもかくやという拘束状態に慣れれるんだよ。朝ご飯前から味が濃すぎる。

 

 まぁそうでなくとも、そろそろ初心は卒業してくんねぇかなぁとは我ながら思ってるんだけどね。未だにメーターは健在で、ガリガリ音を発しっぱなしだ。

 しかし慣れきってしまってもむこうの楽しさが減っちまうか?

 ハッキリと見て取れる弱味ってのは、人間関係において必要とは言わずともあると心地良いスパイスにもなりえる。

 Weakポイントがあるザコの方が、ジオハメがしやすくて(対戦)相手からも好かれやすいっつー事だ。

 それを意図的にするのは冷める過剰演出だけど、自然と発露する分にはけしてマイナスばかりじゃあねぇ。

 

 一つ問題があるとすればそんな事を気にしなくとも、僕には目に見える弱点が山ほどあるという事だ。

 何打っても4倍弱点なんだから、わざわざタイプ別相性表を確認しなくて良いのは便利だね。なにせ昨今のゲームはエンドコンテンツ以外平易な攻略がトレンドだし。

 ルイージがゴールフラッグまで一直線に駆け抜けてくれるように、僕もオートで親愛度がMAXになっちまうチュートリアルキャラとして、みんなに都度都度達成感と攻略報酬をお渡ししていく所存だぜ。

 

 

 現実逃避はこれくらいにして、鹿野ちゃんの発言により更に混迷を深めちゃった盤面の推移へと思考を移す。

 彼女の発言によって、今までは様子見がてら静観の姿勢を取っていた悪王寺先輩と山算金の間で「いや、順番を決める為にまずじゃんけんでは……」というアイコンタクトが行われ始めている。

 こうなってしまえば先生にヘイトが向くことはなさそうだから、もういっそ僕が朝ご飯を諦めて朝食の間中みんなの上を緑甲羅の如く横滑りしてれば円満解決な気がしないでもないのだが、せっかく用意されたご飯を冷ますワケにはいくまい。

 僕は小売店の廃棄がもったいなくて目が虚ろになるタイプなのだ。

 せめてスライドするのは朝ご飯の後がいい、というのは紛れもない本音ではある。

 

「青海君としても、そういう風な姿勢で食べるのがやはり望ましいのですか?」

 

 今まで朝食を取る手は止めぬままに、一時も視線を逸らす事無くじっと(モルモット)を観察していた委員長が疑問を溢す。

 他人の考えを読み取るのがあまり得意ではないという自認があるから、彼女はこういう他者の理解し難い行動を目の当たりにした時、まず相手の思考を確認する。

 これは彼女なりの自発的な学習であり、そのデータの積み重ねによってより正確な人間の情動の理解を深めようと常に考えている頑張り屋さんなのだ。

 であるからこそ、ここを適当に誤魔化すのは頂けない。

 

「いやぁ、鹿野ちゃんの言った通り、どうもいつまで経っても慣れないもんでさぁ。今も嬉しいんだけど照れちゃって、ご飯の味があんまわかんないかも」

 

 なので、これから彼女が同じパターンに遭遇した時に誤ってない答えを導き出せるよう、嘘じゃないまっとうな回答を伝える。こんなレアケースに再度遭遇してたまるかという気持ちはあるが。

 

 実際マジで脳のCPUが8割方触覚の処理に持ってかれているせいで、僕にしては珍しく全然思考に「ウマい」の文字が挟まっていないのだ。

 さっきからなんか七面倒臭い事をゴチャゴチャ考えていたのも、お腹が机に押し付けられ胃が圧迫されてご飯を全く食べれておらず手持無沙汰だったからだし。

 ちょくちょく先生にあーんされている分はなんとか嚥下しているが、それもなんとなく胃に至らず食道で堰き止められている感じがある。

 そもそも食事スタイルとして完全に破綻してんね。

 

「あら、それはだめね。せっかくの朝ご飯、美味しく食べないと大きくなれないもの……ごめんなさいね?」

 

 と、僕の現状をようやく理解したらしい先生が正気に戻り、左右に動けない僕を膝の上からズポリと縦に引き抜いて隣の席へと座らせてくれた。

 もう成長期はかなり終盤に差し掛かってる気はしないでもないが、期待をかけられて悪い気はしねぇ。今に3mくらいになるんで見ててくださいよ。

 

 それに、まぁ、なんていうか。

 なんだか懐かしくて……とても嬉しかったのは、噓ではないから。

 

 みんなも「なんだかよくわかんないけど後で同じ事をして良いらしい」と理解したらしく、それぞれ隣席と話したりしつつ食事へと戻ってゆく。

 こうして事態はなんとか収束し、僕らは何気ない日常のレールへと再び着陸を果たした。

 

 

 

 

 

「……お前らは毎朝飯の度にこんな事しとるのか?」

 

 いや、違くて……ホントに誤解なんだよ……。

 

 『朝飯を食べた』と書くだけでこの厚み? とでも言いたげな王城さんの、もはや絶対に挽回が不可能そうな領域へと至った自身の評価をなんとか回復させようと、僕は焼きトマトを載せたパンを齧りつつ懸命な釈明を続けるのであった。

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