【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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ストーリー悩んでたら遅れました。
次の投稿は5日後の予定。

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特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。

【【63】 僕と彼女の子供】:「今秋の豊穣祭」→「次の春の祭」に訂正しました。話の都合上、想定していたイベントの順序と変わった為。


【81】 大樹に潜む闇

 ケプ、と可愛いらしい音が鳴る委員長のお腹に載せられながら、パラパラと手元のよく分かんない植物の樹皮でできた書簡をめくる。

 多分紙より長持ちする素材なんだろうな、流石は森の賢人。

 

「ちょっと早いです、もう少しゆっくりめくって下さい」

 

 ん、ごめんね。

 僕の右肩に顎を乗せた彼女からの陳情に謝意を示しつつ、ページをめくる手が遅くなった分思考の方に時間を割く。

 

 

 ほーん、魔窟(ダンジョン)の内部は抉られた樹木とは思えぬ硬度に変質しており、世界樹という神聖なる木である事を除いても掘削による拡張などは到底できそうにない、か……。

 まぁ世界樹がデカい芋虫に齧られて弱っちゃってるよぉ……って時に、更に拡張工事して中にショッピングモール神聖なる大樹店作ろうってワケにゃいかねぇだろうからな。

 そもそも内部を積極的に削ろうとはしてないのだろうけれど、それでも壁を登る為の足場だの簡易的な階段だのも作れないってのは、わりかし探索が大変かも知れない。

 

 しかし、破壊不能の壁ね。

 これは『普通の武器じゃ駄目だがツルハシでなら掘れる』みたいな話じゃなく、きっと何をしたって傷一つ付かないみたいなレベルなんだろう。

 ダンジョンに潜った経験はまだリッチキングの時の一度しか無いのだが、あの時の地下墓地は別にそういった特徴を有してはいなかった。

 明音先輩の拳で、穢れた謁見の間に丸ごとヒビ入れられてたくらいたしね。

 つまりこれは世界樹ダンジョン特有の性質、という事になる。

 なおダンジョンがそういった特別な個性を持つのは、さして珍しい話ではないそうだ。

 

 今回のダンジョンアタックに伴いギルドの資料を山算金とあたった結果として、ダンジョンと呼ばれる穴ぐらはそれぞれに異なる特徴を持っているらしい。

 そもダンジョンとは精霊が過剰に集まってしまった末に魔力溜まりと化し、常道の物理現象ではあり得ぬ不可思議な構造と成り果てた地形の事を指している。

 例えば周囲と比べ明らかに高温且つ複雑に入り組んだ火山の洞窟であったり、例えば一種類の魔物だけが異様な数繁茂した洞穴だったり。

 精霊が過剰に集まる原因は、天候などによる自然現象の帰結だったり、特別な魔物の仕業であったりと様々だ。

 そういったダンジョンがこの世界には数多存在しており、それらは寄り集まった精霊のお陰か資源も非常に豊かで、その洞窟から様々な恩恵を人間たちは得ているのだとさ。

 たしかボゥギフトの近くにも、わんさか蜘蛛が湧く洞穴ダンジョンがあったと聞いた覚えがある。

 多分だが糸がいっぱい取れるんだろうな。もしかするとこの街に洋裁店があるのは、それが関係しているのかも知れない。

 以上、社会科の授業でした。各ダンジョンの主な特産品や輸出入の数値はテストにも出るぞ。

 

 

「社会、というか地理含めた暗記科目は青海君の苦手科目では?」

 

 おっとバレたか、その通り。だからこそ出題側に回るんだね。

 できない事はしないで済む場所に行っちゃうのが、賢い世渡りってヤツさ。

 テレパスで繋がった委員長が、読み取った思考に潜んだ僕の弱点を的確に抉ってくる。

 弱みが服着て歩いているような生き物だから、可能ならばオブラートに包んで優しく指摘して欲しいところだ。

 脇腹とか突かれても急所判定なんでね、くすぐったがりなんだよ。

 

「しかし受験は避けれませんよ。帰ったらキチンと一緒に勉強しましょう」

 

 いや僕は学費が無いから大学には行かず、独立し働いて家にお金入れると思うんだが……まぁそこは良いだろう。

 勉強して損は無いし、なにより委員長が僕の事を想って言ってくれた事を無下に断る理由が無い。

 

 ていうか放課後の図書室とか教室で委員長と机くっつけて勉強とか、スゲー良くない? 良い……。

 どうしても僕は彼女より集中力に欠けちゃうから、ふと参考書から視線を外した時にそっち見たら真摯に勉学に打ち込む正親さんの横顔があって、見惚れちゃったりするだろうし。

 授業中つい寝ちゃう僕と違って、まるで板書している先生の筆跡すら模倣するような彼女らしい緻密なノートの取り方に、愛おしさを覚えたりもするだろう。

 委員長は帰り道で買い食いなんて絶対に許さないだろうから、手作りのお菓子なんて持って行ってもいいかもな。

 もちろん委員長は歩き食べももっての他だろーし、河原のベンチに座って一緒に食べたりしてね。

 しかし僕が知ってるのは、こっちの世界の材料を使ったクッキーだの奮発したマフィンもどきだのだから、果たして地球の素材でそれを再現できるかをまず検証しなきゃだな。普通逆だろ、なんで地球で異世界知識チートやろうとしてんだよ。

 地球にいた頃に積み立てがなさ過ぎて、むしろ異世界で学んだ事の方が生活に活かせそうなのは我が身の不覚としか言いようがない。現代文以外の授業もちゃんと受けときゃ良かった。

 ま、だからこそその教訓を活かして、せめて帰還してからは努力してくかって話。手始めに焼き菓子の模索からだな。

 ツンデレ幼馴染がばんそうこうだらけの手で弁当箱差し出すのとは違うんだから、失敗作をお出しするワケにゃいかない。

 好きな人には練習した美味しいものを食べて欲しいのが人情ってもんだろ?

 

 まぁウチの家でそんな無駄遣いを現実的に許可してもらえるとは思えないので、全ては夢想の話であるのだが……けれど例えば、バイト先で余った材料を使わせてもらえる場合もあるかも知れないし。

 なんらかの別の形で実現できるか知れない以上、仮定の話を考えておくことはけして無駄じゃない。

 

 そしてそれはまさしく、今回のダンジョンについての考察にも言える事だ。

 

 憶測でも、邪推でも、妄想でも、『もしかしたら』を考えておいて備えるのは、僕ら全員の身の安全がかかっている限り無駄にはならない。

 備えあれば憂いなし、転ばぬ先の杖、買ってて良かった複勝魔券。

 身一つで生きていたなら面倒くさがって絶対やんなかっただろうけれど、今の僕はできる事は全てして、考えうる事は全て思案しようっつーモチベがある。

 僕の中で動機付けが執り行われるだけの、動機足り得る大事なものができたから。

 世はなべて事も無しと言える旅路を恙無く送る為に、慎重に下準備をしておかなきゃな。

 今の僕は製作者不明の石橋を発破してから、3径間2ヒンジ補剛トラス吊橋を作って、橋桁から眼下に広がる渦潮をみんなと見て大騒ぎしたいタイプなんでね。

 異世界打ち上げ旅行は淡路島も良いな、そこから四国にうどん食べに行こう。

 

 

 さて、本題。

 推測というか憶測の域を出ないのだが、恐らく今回の世界樹ダンジョンは、ソレを作り出した魔物の特質によって強力な特性を得たのではないかと僕は考えている。

 つまりは「不壊」と「魔封じ」だ。

 それらがどういう原理であるかとかは一旦棚上げするが、結果としてそういう特性を得たという想定をし、ダンジョン探索のみならずその後に用意されているであろうボスアタックについても入念に用意しておきたい。

 もちろん妄想を前提とした計画を建てるつもりは無いし、今のところ意味も無い単なる当て推量でしかないのは確かだが……。

 『恐らくあるんだろうなぁ』とぼんやり本章のシナリオ全体像が浮かぶ程度には、状況証拠が出てきちゃってるのでしかたない。

 作為的な構造物にその製作者の意図を見るのは極めて自然なコト、でしょ?

 こちとら現代文は得意科目なんでねぇ。

 

 今の状況からは『世界滅ぼした〜い』っつー魔王(作者)の気持ちが、痛い程見てとれるぜ。

 

 つまり仮定の一つとして僕が思いついたのは、今回の世界樹ダンジョンは魔王の走狗による被害ではないかって話。

 もしそうであるのならこの騒動の先には、今まで曖昧で不定形な概念として僕らと関わってきた魔王というモノが、厳然と存在しているだろうって事だ。

 ついにお顔を拝見……とまではいかずとも、相手がどういう意図で人類を脅かしているのかのヒントくらいは、この騒動の中で見えてくるのではないだろうか。

 

 無論、エルフさんたちがそんな風に魔王の関与を明言したワケじゃない。

 しかし僕らをわざわざ女神が呼び出す程差し迫った世界で、すでに何度も転移者が魔王の手先に接触している中、有史以来初めての事件が世界樹で起きたら……それはもう、メインストーリーのクエストで間違いないだろう。

 もしそうだった場合、事は単なるダンジョン探索では済まなくなる。

 僕らはクソ強いワーム君の群れと同時に、魔王という特殊な存在の悪意をも相手しなきゃいけないのだ。

 

 まったく困った話だよ。

 多少改善されてきたとはいえ、僕は人見知りだってのにさぁ。

 初対面の人(てか魔王)の相手をするなら、せめて場所は酒場にして欲しいんだけどね。なぁに、ココは僕の奢りで良いからさ。

 こちとら長者番付に名が乗りそうな成金なんだぜ。お札は勿体無いし、公園で拾った葉っぱに火をつけて足元照らしちゃおっかな。タヌキの成金。

 ま、その実態はベンチャーと名乗るのも憚られる虚業家なんだけど。

 いやヒモを虚業と呼んでいいのか? 確かに(カルマ)ではあるんだけど。

 というかドンドン手持ちの貨幣を使わないと、いつかバフ効力が落ちそうで怖いんだよね。

 今んとこ金額よりも情念が優先されてる気配を感じて、安堵と共に退路の無さを実感しているんだけどさ。

 

 

 

「目途はつきましたか?」

 

 彼女が話す度、生きた人間の呼気の熱量で襟首が熱くなる。

 あー気が狂っちゃいます。

 

「まだあんまり、かな。とりあえずダンジョン探索に必要な物は小金井さんを通して、商会の方で急ぎ用意してもらってるけれど、そういった王道なセオリー通りのモノだけで済むかどうかがちょっとわかんない。他にも色々と手配して備えておきたいんだけど、分からないことが多すぎてさ……自分が不甲斐なさ過ぎてやんなるよ」

「そもそも未だ現場を確認すらできていないのですから、それが自然な事なのでは」

 

 そりゃまぁそう。委員長らしい一点の曇りもない正論だ。

 けどこれまで僕を救った事が一度も無いように、正論はけしてみんなの身の安全を保障してくれない。

 だから僕は穿った視点の詭弁を展開して、不毛な『かもしれない運転』を続けてゆくぞ。車の下にニンジャがアンブッシュしてないか、毎回ボンネットをバンバン叩いて確認しような。

 差し当たり、僕のマキビシにロープでもつけて登攀用にできるかヒダルさんに相談してみるか。

 今時ルパン三世か怪盗キッドくらいしか使わなさそうな泥棒七つ道具だ。

 ついでに蝶ネクタイ型変声機も頼んでみるか? 宴会でウケそうだしな。

 

 ま、今から焦っても仕方ない。

 冬にむけて防寒着を作ったみたいに、できる事からコツコツとやっていけばいいんだ。

 今度こそ堅実に積み上げて、“今“という尊いものを守っていこう。

 みんなにその素養はあれども、少なくとも僕は主人公気質じゃないのだから、土壇場でなんとかしようなんて傲慢さは命取りになっちまう。

 僕の命ならまだしも、みんなの命はかけがえのないものなんだから。

 

「なぁ正親ィ、そろそろ良いんじゃねぇか?」

「そうですね、仰るとおりちょうど二分半です」

 

 そんな覚悟を新たにする僕を挟んだ二人のやり取りの後、むんとケツイをみなぎらせた身体がポーンと空を舞う。

 ひょぇ、タマヒュンした。

 

 爆弾ゲームの風船の如くみんなの間で僕が行き交っているのは、ひとえに先生がやってた事を全員公平に行う為である。

 別に魔車の対面に渡すんじゃないんだし投げる必要は無いんだが、委員長は完全に僕が膝の上でお手玉の玉にされるのがお気に入りだと思ってるフシがあるんでしゃーない。

 僕の喜ぶ事をしようとしてくれる気持ちが嬉しいので、結果的にお気に入りである事もあながち間違いじゃねぇしな。複雑な男心だ。

 

 まったくの無回転で座った姿勢のまま軽々と投げられた僕を、明星先輩ががっしりと脇に手を入れて受け止めてくれる。んへへ、こそば。

 実際こんだけ軽々と扱われると成長期終わりの男子として沽券に関わるのだが、ポートボールもかくやって感じのパス回しはお見事だぜ。

 見ての通り僕は根っからの体育苦手な運動音痴なので、例えボール係であっても集団競技に混じれたのがちょいと嬉しいのも本音である。沽券には泣いてもらおう。

 

「……なぁ、蒼は大学どこに行くんだ? その、オレ進学なんて考えた事も無かったんだけどさ、もしオマエが決まってんなら今からでも姐御に教えを受けて、頑張ってみようかなって……」

 

 いや僕頭はホントに自信がなくてですね。

 でも現実的かどうかは置いといて、一緒のキャンパスライフってのは正直すごく魅力的だと思っちゃいます。

 あー、みんなでサークル作るのもいいなぁ。

 なかなか僕らで共通の趣味ってのは見つからないですけど、なんかお題目適当に誂えてみんなで集まれたら楽しそうかも。

 

「そうかぁ? ゆうて共通点も結構あると思うぜ。まず同じ異世界帰りだし、同じ男を養ってるし、ママ友にもなるだろうし」

 

 明星先輩がとんでもないベン図の共通部分を指折り数え挙げる。どういう図形?

 あっちゃ駄目だろそんな公序良俗に反するサークル。

 軟派なテニサーも目を剥く脅威のモラルの無さだ。

 言うまでもなくこの場合、良識が無いのはもちろん養われている僕である。

 

「えぇい色ボケども! 日中の宿屋共有部でちちくりあうな! 我が家臣達が帰ってきたぞ!」

 

 と、そんな話をしていると我らがクラン(予定)きっての良識が、迎えに行っていたパーティの残りメンツを引き連れて宿へと戻ってきた。

 王城さんが現れた当初はとんでもねぇトンチキなのがやって来たなと思っていたのに、あれよあれよと言う間に僕らの関係と僕の職業の方がヤバい事が露呈。

 今じゃすっかり根のマトモさが顔を出し始めている。苦労をかけるね。

 そもそも放蕩状態の彼女でも自分の部屋でしか騒いでなかったからな。堂々とエントランスでやるこっちゃ無かったわ。

 

 ……いやホントに良くないぞ。

 最近ちょっとみんなのコミュニケーションが過激になるにつれ、僕も段階的に麻痺しちゃってたとこがあんね。

 もちろんみんなのせいにするつもりはない、これは僕ら全員の慣れによる緩みだ。

 反省してこれからは、各自の部屋以外ではTPOにあわせた節度あるペッティングに止める努力をしよう。ウチのクランの標語にもするぞ。

 ……掲げられた標語の額縁見たら、いよいよ王城さんが抜けちゃうかもな。

 

 

 言い訳のしようがねぇので僕らはそそくさと居住まいを正し、新たな同郷人を出迎えるのであった。

 

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