【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
僕の返答を聞いた知名君は片眉を跳ねさせた後、数秒ほど瞑目し、その後ツイと眼鏡を押し上げた。クール過ぎん?
目は悪くないけど僕も眼鏡かけてみたくなっちゃうな。データキャラの対極に居るクセに。反知性の僕が知性の象徴をかけたら対消滅しちゃうかも。知性の象徴のイメージが眼鏡なのも馬鹿過ぎる。終わりや。
「……聞き間違いか?」
ジロリ、とこちらを睨めつける彼の眼差しからは、憤怒にも近い激情が見て取れる。
好きな子が軽薄で不埒な卑劣漢に惑わされてんだから、そのリアクションは満点の正解だ。
僕だってそうなったら……正気では居られないと思う。
彼女らを送り出した後に、バカみたいに泣き崩れるだろう。なんでなんだよ~と言いながら、お墓に入るまで引きずったに違いない。
そこで感情のベクトルを怒りに向けられるだけ、知名君は強い人だとすら感じるぜ。
「なぜ僕がお前に命令という形式を取ったか、わからない程愚かなのか」
「うーん、まぁ、多分知名君の想定よりも愚かなのは確かなんだけど、それでも一応はわかってるつもりだよ」
身に宿した生命の精霊の総量、いわゆるレベルの高い冒険者は、相対した相手の力量を容易く看破する。
僕らパーティほどの山あり谷あり温泉ありの大冒険ではなかったとしても、彼らとて幾度と無く修羅場を経験してきた銀級冒険者だ。
僕と彼の間に隔絶した実力差が厳然と存在する事を、彼は理解している。
なんで死線潜り抜けて僕だけ初期ステのままなんだよ。オワタ式? 強制縛りプレイやめてね。……もしかしてまだ僕のINTは1だったりするんですか?
「近くにパーティメンバーがいれば、手を出されないと思ったか。虎の後ろに居るだけの狐が、狩人の前に立ってなおその虚勢が通用するとでも?」
「まさか。この世界に来てからいつだって、街の外に出る度に死ぬかもなと思ってるよ。でもそれと同じくらい、今君から直接的に害される事は無いだろうとも考えている」
「根拠は」
「僕なんかと比べ物にならないくらい賢い君が、目的を忘れ後先を考えないワケないから」
別に彼に殴られたり、なんなら魔法の一発でもぶっ放されたりしても、正直文句を言う資格は無いんだけど。
それでも彼がそれをしないと思う理由は、僕の思いつくような事は当たり前に彼が思い至っているからだ。
例えそれがまったく相応しいと思えない相手でも、付き合ってる相手をブチのめされて気分の良くなる人間が居るはずが無い。
つまりは虎の威を借る狐よりも醜い、飼い主を盾にしたヒモの完成だ。魔法でいっそ消し飛ばしてくんないか?
そうなるとこの場では話し合いにて雌雄を決するしかなく、だから彼はあえて強い言葉で場の空気を掌握しようとした。それでいて弱く見えないんだからビビるぜ。知名君どっちかっつーと藍染だもんね。
つまり今の彼は、本気で僕を物理的手段によって排除しようとは考えていないのだ。
……まぁ、昂りきった人間にとって理屈なんてなんの障害にもならないが、知名君の声からはそういった抑揚を感じなかった。
心の底から怒ってはいるが、しかし彼の強固な精神は、怒りの中でも我を忘れる事を許さない感じかな。
どんな時でも自分を見失わないのは、パーティのIGLとして極めて優秀な素質だ。よくはわわとか言ってる僕と大違いでやんなるな。
男子高校生が現実ではわわって言う機会ある事の方がやんなるかも。ネットスラングをリアルで使うのは大罪ですぞ。はわわ断ちの決意。
「……解決策の中で、最も早いルートが潰えただけだ。お前が惰弱で高圧的な命令に対しノーと言えない人間であれば、これだけで決着がついた」
「うん、他の事だったらそうなっただろうね。でも申し訳ないけれど、こればっかりは譲れなかった。君の考える通り、譲れない事が女性関係の痴情であることは、ホントにカッコ悪い話だけどさ」
「……わからない。なんなのだ、お前は。他者を見透かしたような事ばかり……」
「まさか。第三の目でもなけりゃ、他者の心なんて覗き見れやしないよ。世界から輪郭で区切られた僕たちは、互いの間にある行間を、背景描写から読み取る事しかできない。少なくとも、君はそう考えている。だからあぁまで精細に、正親さんに自分の身の上を語ったんでしょ? あ、これは普通に雑談の中で流れで聞いちゃった話でさ、デリカシー無い物言いになっちゃうんで嫌だったんだけど……ここで得ている情報を伏せるのは、誠意がないと思うから」
こうして面と向かって会話をした今ならわかるよ。
君は己のバックボーンを伝える事で、彼女による情動の類推精度を上げようとしたんだ。
己の思考ルーチンを彼女に当てはめて、自分自身を読解問題とし、彼女が読み解けるように解法へ導こうとした。
同じような思考ルーチンであるという察知が本能的な勘だったのか、それこそ僕にはわからないような論理的推察により導かれたのかまでは知りえないけどね。
正直僕は二人の考え方がまったく同じだとは思わない。
知名君は問題意識とその解法で世界を観測するけれど、彼女は問題と解答で世界を完結させていた。
無限遠の努力を積み重ねられるタイプでも、前者は自他への厳しさ故で、後者は設定した目標を達成する解法を選ばぬ故という個々の違いがある。
その証左に君は異世界へ来ても、着実に目の前の問題をクリアしようと非現実的な現実に対応して努力を積み重ね、マジックキャスターとして一廉の人物にまで成長しているが、一方で彼女は当初からずっとこれが誘拐であると主張し、日本の法による裁きを求め抗議していた。
どちらも正しいけれど、その正しさは別の物だ。
でも君のしたことはけして的外れではない、彼女にも通用する期待値の高い方法であるとも僕は思う。
惜しむらくは、まだ彼女がそういったコミュニケーション能力の応用にまで至っていなかったことか。
世間話シークエンスから解析された個人情報を、ファイリングして纏めておくことはできても、知名君の自己同一性を作り上げるプロファイリングには用いれなかった。
そこらへん知名君はある程度柔軟に流用できるんだけど、正親さんは拡張子変えたりとか器用にできる方じゃない。
多分、それをするにはサンプルが足りな過ぎたんじゃないかなぁ。
君と同様の事を行ってくれる人間がもう何人か居れば、きっと彼女も前に進めた気がする。なんてったって正親さんは稀代の努力家だからね。
地球に居た頃に僕がその一助となれなかった事が悔やまれるぜ、後悔先に立たずとは本当によく言ったものさ。
その点で言えば、間違いなく僕は君の後塵を拝している。
でもまぁ実際のところ、本当に知名君と正親さんは似てるよ。
僕の立ち入る隙など無いように思えてしまうくらいには。
「お前は、お前は、何を……なぜ、そこまで……いや、違う。そんな事はどうでもいい……今は、お前が、複数人の人間と付き合っているのが、それが、問題なんだ!」
「あ、はい……それは仰る通りで……」
僕の長話を聞き終えた彼は、これまでとは打って変わり目に見えて感情を露わに大声を出した。その声量に普通にちょっとビクっとしちったわ。話つまんなかったかな? ごめんね。
肌寒い時期だというのに額に汗を垂らした彼は、泳がせていた眼を徐々に落ち着かせ、再び僕を見据える。
その瞳を染めていたハズの怒りは薄れ、違う感情が顔を覗かせている。
「……僕は正直なところ、お前を相当低く見ていた。脅せば退く臆病な卑怯者か、もしくは口先だけの小賢しい凡愚だろうと、そう見積もっていた。多数の婦女を誑かす不逞の輩など、おおむねそういった人間性であろうと。例え普段ならばその手の相手を一顧だにしない正親さんと言えども、異世界などという非常な環境に置かれ、不安定になった心に漬け込まれる事も無いとは言えまい。しかし、いざ話していればお前は……"覚"の如く、相手というモノを理解する……化け物だった」
彼はそう言って眉を顰める。
不可思議なモノを見る目で、理解のできない薄気味の悪い何かを観察する。
冷静沈着じゃなくなった彼の瞳に映る僕は、ひどくいびつでゆがんでいた。
「お前の……お前の目的はなんだ? 現状の不合理さも、暗澹たる先行きも、潜在的なリスクも、承知せぬ程愚かではないだろうに。何を目的として、なぜそんな事をしている?」
「なぜかと言われれば、僕がどうしようもなく弱いからかな」
貧弱さ故に誰かの肩を借りてしかこの世界で生きて行けず。
そうして、そんな相手に何かを返したいと思わずにはいられない程気弱で。
手を取ってくれた人を余すことなくみんな大好きになってしまうような意志薄弱さ。
もし僕が人の手を借りないどころか誰かを助けられるぐらい強く、貸し借りをお互い様だと思えるような過不足ない精神を持ち、心に決めた一人へ想いを貫ける一途さがあったならば。
たぶん誰も不幸にならなかっただろう。
「……そんな問答の答えにならん曖昧な回答では、部分点すら与えられんだろう。……不愉快だ。不愉快極まる。理解できない事などこの世に無いとは言わんが、ここまで理解できんモノなどあってたまるものか。……しかし今は時間切れだ」
彼の視線が僕の顔の横を通り過ぎ、その先にある何かを見つめる。
振り向けば、そこには馬車から降り立った明星先輩がいた。
先程まで寝ていたという話だったのに、まったくそんな素振りを見せず平素通りな様子で、こちらへとやって来る。
僕なら絶対寝ぐせついてるタイプの登場シーンなんだけど、こんな時でもキチンとプリン頭が整えられているのは流石女子高生って感じがあるよね。
あ、そういや後でラナスティルさんから聞いたあの話を言わないと。
「おーぅ、ちと遅れちまったか。なんだァ知名、オメェも見張りやんのか?」
「いえ、僕は3組目ですので。では、これで失礼します」
そして去り際に、ボソボソと僕だけに聞こえる声量で彼が呟く。
「これはけして議題が終わった事を意味しない。他の手段を順次試してゆく……絶対に、お前を彼女から引き離してみせる」
そのままこちらを見る事も無く、彼の影は自分のパーティの馬車へと消えていった。
彼の後姿を見送った後、隣に座った先輩は僕をヒョイと持ち上げると、自身の胡坐の上に降ろした。はわわ~~~~~!!!!!
学ばないバカである証明をまた一つ積み重ねた僕の頭頂部に、先輩の顎がコンと載せられる。
「なーんか、面倒な事になってんな」
「やっぱり聞こえてました?」
「こちとらレベル上がった上でアオのバフまで効いてっからな。馬車乗ってた時から、全部丸聞こえだわ。つっても武闘派じゃねぇイインチョーと小金井にゃ、さっきの大声以外聞こえてねぇだろうけど」
「やっぱ、そっかぁ……みんなに、嫌なとこ見せちゃいましたね」
本来ならば知名君にしたような一方的な押し付けなんて、僕はしたくないんだよね。
だって仲良くなりたいのなら、相手を幸せにしたいのなら、逆効果にしかならないのがわかっているから。
目の前の大事な人が望む物や考える事をできるだけ推察して、その上で相手が幸せな気持ちになれるように図らったり、楽しい気分になれるように笑いあうべきなのであって。
それら全てを詳らかに開示し暴き立てる事には究極何の意義も無く、頬を叩くような暴力と変わらない。
それでも今回は別だった。
彼と同じ相手を好きになり、その人を含めた複数人と交際をするなんていう軽薄な裏切りをしている僕が、どんな顔をして彼と仲良くなろうとできるもんか。
だから、見せた。
僕の思考を開陳し、自分自身を曝け出して、彼と対峙する事を選んだ。
少なくとも今は、彼と友人となる事を諦めた。
「あァ? いや、あのな……どんな思いだろうと"命令"なんて言ってきた相手に、多少言い返したくらいで嫌もなんもねぇだろうよ。……オメェは気張り過ぎだ。もっと肩の力抜いてよ、オレらに色々任せるくれーで良いんだぞ? 一日ベッドから降りないで、身の周り全部オレらにお世話させてみるとか試さねェか?」
おぎゃぎゃ、勘弁してくださいよぉ。
最初の頃は宿屋に泊まるのすら、家事やらない状態が所在無くてソワソワしてたんスから。
まぁ、みんながやりたいって言うなら、そりゃもちろんやらせて頂きますけど、むしろ僕がみんなのお世話を全部する日があってもいいくらいで……いいな、それ。
ベッドに寝っぱなしってのは不健康だからアレだが、みんなのご飯も掃除も全部僕がやる日を作るのは超良い。充実感で絶対頭ヘンになる。なんか考えたら気分アガってきた。即効性が高すぎる、新手のドラッグか?
この旅から帰ったら突発で開催するぞ。抜き打ちお世話だ。メイちゃんにバレたら本当にヤバい事になるかも知れないので、どうにかギミック考えないとな。
「……オマエがそれで良いなら良いけどよォ……なぁ、なんでヒモの事言わなかったんだ? 理由を聞かれた時にアオの
ええー? ホントにござるかぁ?
ポロッと委員長のヒモだって溢したら、それこそマジで魔法ブッ放された気がするんですが……。
まぁそれはそれとして。
「僕はバフの為にみんなを大好きなワケじゃないですからね。彼が本心をぶつけてくれた以上、僕だって自分の心だけで向き合いたかった。納得しやすいだけの小賢しい理屈を、彼の前に持ち出したくなかったんです。大事な人への想いを伝えるために、そんな建前は不純で……なにより、彼に不条理過ぎるから」
それに、ヒモだのなんだのなんて、畢竟この話には関係が無いのだ。
もしも正親さんが知名君と共にあると決めても、僕はどうにかして彼女へバフを届け続けるつもりなのだから。
例え違う場所に居ても、好きな人の幸せを願わない人間なんていないでしょ。
「あ、そうそう! ラナスティルさんに聞いたんですけど、なんでも風精国には金色の染髪料あるらしいですよ先輩」
「え、マジ!?」
「どうもハーフの人が髪色違ったりすると社会的に不便なんで作られたっぽいんですよね。エルフさんが言う『昔からある』ヤツなんで、数千年単位で安全性は保障されてるっぽいですし」
「よく見つけたー! えらいぞ! おりゃおりゃおりゃ」
「へへへ、なんてったって先輩の一の舎弟ですからねぇ」
大きな手で頭をワシャワシャと撫でられると、なんだかボーっと思考がボヤけてくる。これが多幸感ってヤツか?
なるほど鹿野ちゃんがこれをお気に入りな理由も、なんとなく理解できる気がするぜ。
……なんだかだんだん視界まで白んできたんだけど、揺れの勢いで脳がゆすられてるだけじゃないだろうな?
これクセになっちゃまずいわ。ストップ、ストップです先輩。
あ、ちょ、ホントに。オチ、オチちゃうから! 寝ずの番でつい寝ちゃうとかじゃなく、気絶でオチるってこたないでしょ!
焚火にくべられた生木の弾ける音を聞きながら、僕らは交代の時間までのんびりと四方山話を続けるのであった。