【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
そういうのお気に召されない方は読まなくても支障ありません。
別キャラの視点書くのもどうかと思いましたが、ifくらいの感じで見てもらえれば……。
本編更新は明後日くらい。
「そもそもロケットランチャーなんか日本で打ったら、即日逮捕じゃねぇか?」
「あー、まぁそこはフィクションですからねぇ。てかそういやあの人捕まってなかったんだ……法とは……」
オレは膝の上で縮こまっているヤツにむけて、いつもどおりのくだらない話を続ける。
こうでもしていないと、コイツは未だに緊張でカチカチに固まっちまうからだ。
まぁ、そういう初心なとこもカワイイんだけどさ。
話してるとすぐに力が抜けて、へたりともたれかかってくるのもイイんだよな。
ゼンプク?の信頼を感じるっつーか、いろんな事を忘れちまうくらい今が楽しくてしかたないみたいな気の許し方が、オレの脳内を変に弾けさせる。
今まで感じた事の無かった、不思議な感覚だ。
なんつーか、たぶんだけど、幸福ってのはこういうものを言うんだと、オレは初めて知った。
ま、こんな重いハナシ本人には秘密だけどよ。
今オレたちはエルフの国へ向かう馬車に揺られている。いやもう揺られてるってレベルじゃあねぇ。
馬車じゃなく魔車だったか?
こっちの言葉を日本語に変えてるからか、そのあたりなんかムズかしーんだよ。
なんかデケーワン公が引っ張って走るこの乗り物は、たぶん地球でやったら人死にが出るくらいに激しいじゃじゃ馬だ。
ロデオマシンってあるだろ? あのボーリング屋にあるヤツ。
改造して直列4気筒を搭載したアレに乗らされたみてーな、アオのスクルトがなきゃ数分も経たずケツの肉が痛くなる感じっていうか……表現がムズい。
取り敢えずオレだってこっち来て不思議な力を手に入れてなきゃ、正直御免被りたい代物でよ。
間違っても普段使いしようとは思わねーな。
……そんなヤバい乗り物なんだが、これに乗る時間はオレらのパーティじゃあわりと人気あるってんだから、笑えねーハナシだ。
その理由っつーのが、「コレがあるから」だぜ?
オレらもかなり、いやマジで相当ヤベーオンナになっちまってるや。
ボンヤリと上に向けていた視線を落とすと、小さな頭がある。
背丈も小せーし、それに合わせて頭もちっちぇ。つむじもなんとなく頼りない。押すと笑うんだよな。鹿伏と一緒だ。
パッとしない髪型に切り揃えられた頭髪は、ガッコの検査だって余裕で合格だろう。でもちと伸びてきてるかな。後で悪王寺とオレで切ってやるか。
間違ってもイインチョーに切られる前にやんねぇと。アイツ任せてくださいとか自信満々で言っときながら、カミソリで剃ろうとしやがったからな。流石につるつるじゃカワイソーだ。
膝に乗っかった体重は怖くなる程に軽く、太ももだって両手の輪っかに収まるくらいしかない。
オレがガタイの良い方ってのはもちろんあるが、それ抜きにしたってこの年の男にしちゃあ小柄だ。
貧弱って言っちまえばそれだけなんだけど……オレはそんな風にコイツを言い表したくない。
いつも筋トレ頑張ってるし、いざとなればやる時やるヤツで、本当に頼りになるオトコだと思ってるから。
青海 蒼。青海。アオ。ヒモ。
オレたちパーティ全員が入れ込んでいる、男の名前。ヒモはちげーな。
オレたちはどいつもこいつも、コイツに狂わされちまってる。
恋や愛なんて鼻で笑って軽く見てたオレが、こんな風になっちまうなんて……昔の自分なら信じらんなかったろうな。
最初はなんつーか、変なヤツだと思った。
こういうナリのヤツって大抵オレを見たら避けて通るし、目も合わせねーのがほとんどなのに、コイツは怖がんねーで嬉しそうにドラクエの話を振ってくるんだぜ?
オタクなんか? と思ったが、まぁ話して気楽でイラつかねーなら、別に文句は無かった。
今思えばオタクなのは間違いなかったぽいんだが、こっちがわかんねー話は一切してこないんだよな。まるでこっちが何を知ってて何を思ってるか見通してるみてーに。不思議なヤツだ。
それが職業を聞いてみればヒモだのなんだの言い始めて、好きな相手以外に粉かけんなと思ってたら全員キチンと遊びじゃなく好きっつーし、ガチでわかんなくなっちまったんだよな。
オマエ一体なんなの? って感じ。
そしてそれは、今でも変わらない。
オレはコイツがなんなのか、何を抱えて生きているのか、まったくわからないままだ。
自分の恥ずかしい話や失敗談なんかは笑って話すタイプなのに、その話にだけは絶対にコイツは触れようとしない。
人に言えない重りを、ハラの底に沈めてる。
そうしてそんな……なんつーんだ? ミステリアス? なとこのあるコイツに、いつしかオレは虜になっていた。
たぶんだけど、飲み屋で初めて守られた頃からもうオレは意識し始めてたかもな。
その前の小金井を庇ったあたりまでは、単なる「やる時やるヤツ」くらいの、チームでも何人か居たオトコくらいの認識だった。
でもさ、まさかオレまで守ろうとして、しかも喧嘩にもせずに済ませちまうなんて。
思っても、みなかった。
変なヤツからやるヤツになって、不思議なオトコに変わり、仲良いダチになったと思ったら……気づけば好きになってた。
ニッポンにだって背中を預けれるダチが居ねーでもなかったが、そいつらは全員心のどっかでオレをオンナとして狙ってて、そこがオレにどうしても一線を超えさせなかった。
チューガクの頃、先輩面したヤツが告ってきてなんとなく適当にOKしたトキあって、二日目にキスしようとしてきやがったからぶん殴って別れて以来……そーいう目が好きじゃなかったから。
なんとなく、そういう流れに乗っちまったら、きっとオレは今の家みたいにつまんねー場所を作っちまうと思っていた。
だーれも幸せになんねぇ、家族とは呼べねーナニカに、オレがまた取り込まれちまうのを……きっと、オレは怖がってた。
笑えるよな? 天下の朱の明星様が、お家作んのが怖いだとよ。
誰が聞いたって、たぶんわかってくんねーと思う。
幸せな家庭、なんて平凡でつまんねーモンが、オレの願いだなんて。
テメェでも信じらんねぇから、オレはそれを避けて生き続けてきた。
そうしてその果に現れた目の前のコイツは、好きだと全身全霊で振る舞いながら……オレみたいに、恋愛から逃げていた。
幸せを求めて、けれどそれを怖がって逃げてる。
一緒だと、思ったんだよ。
オレの求めていた、同じ場所に立つオトコ。
こんなの、誰にも言わねーけど。
たぶんコレが、初恋ってもんなんだと思うんだよな。
「そーいや、アオはこっちでも本とか読んでんのか? オレもブラックマーケットとかいろいろ探したけど、マンガは見つかんなくてよォ」
「あー、ね。マンガはたぶんこっちにはまだ無いんじゃないっすかねぇ。本はいくつか読みましたけど、めちゃ古い古典小説読んでるみたいな感じでした。国語の教科書より難解かも」
「うへぇ、じゃーオレには無理かも……不良モノとかないのかよ……」
「こっちの世界の不良モノって、もう完全に山賊や野盗とかになっちゃうんだよなぁ……先輩にオススメできる面白いのが見つかったら、またお教えしますよ」
漫画やゲームが好きらしいから、こっちから話す時ゃそういった話題を選んでいるけれど、実際なんの話でも嬉しそうに付き合ってくれるのは知っている。
テメェで言うのはこっぱずかしいけど、アオは好きな相手と話すのが好きだから。
内容なんてどんなものでも楽しいし、嬉しくてしょーがないんだろう。
でもよ、どうせならコイツが好きな物の話をしたいじゃねェか、なぁ?
好きな相手に喜んで欲しいのは、なにもアオだけじゃねーってコトだ。
■
その夜。
テメェの馬車に向かっていく知名を尻目に、オレは焚き火の傍でぽつんと座り込むアオを、昼と同じように胡座の上へ引っ張り上げた。
数多のジャンケンを勝ち抜きこの座に勝ち上がったってのに、なんだか気分良くねぇ話を聞いちまったもんだぜ。
二人で話す事があんならちと待っとくかとは思ってたんだが、なんだかコイツの背中がえらく寂しげで、居ても立ってもいられなかった。
迷子がいたら、だっこして親を探してやりてぇもんだろ?
……ま、会話の中身にまではオレが口を挟むようなもんじゃねぇ。
エラそーな物言いは鼻につくが、知名だって腹に据えかねるこたぁあるだろう。
イインチョーがどっちを選ぶかなんて、アイツが決める事だ。
そんな事よりも今のオレにとって大切なのは、腕の中の人間が泣かねぇようにあやしてやることだった。
コイツは時々、どーしようもねぇ暗い未来を考えてるっつーか、思い詰めたような雰囲気を出す。
まるで『いつかは自分の周りに誰も居なくなるんだ』って考えてるみてーな。
泣くのを我慢してるガキがダブって見える時があるんだ。
たぶん、それは……家族のせいなんだと、勝手に思っている。
オレはコイツといろんな話をしてきたけれど、日本にいた頃の内容をまとめると、薄々見えてくるものがあった。
そもそも高校生がガッコで起きてらんないほど朝も夜もバイト漬けってのが、あんまり普通じゃねぇ。
そんだけの金がいったい何の為に必要だったのか、聞かなくてもなんとなく想像はつく。
ウチのチームにだって家庭環境が悪いヤツはいくらでもいた。
言ったとおりオレだってそんなに恵まれた家じゃあねぇ方だし。
家出同然に飛び出したなんてあるあるで、暴力沙汰も数知れず、母親が連れ込んだ男に襲われかけたのだっている。
そいつらはみんなもう何かを諦めていて、オレと同じ場所に立つ気力が無くて、オレに縋りついて助けを求めていた。
疲れたら、誰かにおぶってもらいたい。それだって……たぶんフツーの事なんだ。
誰もがみんなテメェの足で立って、オレと一緒に歩いてくれるワケじゃーねぇ。
ヘッドであるオレが、みんなを引っ張って……じゃあ、オレは、どうなる?
……えっと、なんだったかな。
そう、だから結局、オレはアオが特別不幸だとは思わねぇ。
それでも特別な相手が不幸なら、幸せにしてやりてぇもんだろうが。
膝の上で固まっちまったアオの心を解すように、とっぴょーしもねぇ話をしてみる。
全部のお世話をする、なんてのは流石に冗談だが……黒井あたりは本気でやりかねねぇから怖いんだよな。
そんな事するより、オレはやっぱコイツが子供と一緒に遊んでる姿を見てぇかな。
二人してめんどくせぇ家から抜け出して、今度こそ幸せな家庭を作りたい。
オレらがたぶん人生で得る事ができなかった大切な時間を、コイツとやり直したいんだ。
金髪の染料を見つけたんですよ! と嬉しそうに報告するアオの頭を撫でながら、オレはそんな未来を思い描く。
俺の思う幸せな家族ってヤツは、もうどうしたってアオ抜きでは考えられなかった。
話してて楽しいコイツを、影に日向に支えてくれるコイツを、いざとなれば守る為に立ち上がれるコイツを、きっと泣いていたコイツを。
オレは幸せにしたいんだ。
誰にも言えない秘密なんて、みんな胸ん中にあるもんだけど。
でもオレは、ソレをいつか教えて欲しいと、そう思っている。
教えてくれればいいなと、願っている。
家族ってのは、ソレを分かち合えるもんだから。