【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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【85】 大森林へ

「おわー、デッッッッカいっス!!!」

 

 止まった馬車の幌から身を乗り出した鹿野ちゃんが、これまたデッカい声をあげる。

 いやしかし、それもむべなるかな。

 あんな物を見たらそりゃ大きな声くらい出るだろう。

 シシブセ、あれを見てみろ!という前フリがあっても良いくらいの衝撃映像だし。映像っつーか現実なんだけど。

 あんなサイズの自然物を見た事は、もちろん地球でも無い。デカ過ぎんだろ……。

 

 なだらかな丘陵に跨った街道の先、鬱蒼と広がる大森林。

 そこらに生えている木々すら、日本であれば巨木と評されるだろう森林の遥か先に、ソレは薄っすらと浮かび上がる。

 ここからでは豆粒のように小さく見える鳥の影が、バサバサと羽ばたくその背景にある、遠近感が狂ってしまう程に飛び抜けて大きな一本の木。

 靄のようなものがまとわりつき霞がかった、天を貫く超巨大樹。

 僕たちはついに、世界樹の麓までやって来たのだ。

 スゲーや、聖剣伝説みてぇ!

 

 あんな規格外の大きさなら、ボゥギフトからすら見えてもおかしくない。

 なのにこれだけ近くに来るまでその存在に気づかなかったのには、なんらかのカラクリがあると見ていいだろう。

 

「なるほど。つまりあの大木は普段は地下に格納されており、射出の為に今出てきた、という事ですか」

 

 うん、惜しいとこ行ったね委員長。

 棒状の物体が突如出現するという条件から既存の例を抽出した結果、核ミサイル発射阻止系サスペンス作品が参考されたんだろう。世界樹でそれやるの、かなりSF(サイエンスファンタジー)でそれはそれで見たい展開だぜ。

 けど、今回はきっと、そっちじゃあなく。

 恐らく周囲の靄が、見る人の認識を妨げているんではなかろうか。

 それがエルフさんたちによるものなのか、それとも異変によるものなのか、もしくは世界樹そのものの力なのかはわかんないけど、魔術的ななにがしかで姿が見えにくくなっているんじゃないかな。

 文字通り神秘のヴェールってこと。

 ヘビースモーカーズフォレストじゃん。僕ほんの少し前まで本当に実在する場所だと思ってたんだよねアレ。

 

「おぉ! 流石はその齢ながら、冒険者として大成しているだけはあるな! アオの言うとおり、アレは我らエルフによる欺瞞の霧だ。氏族長の縁者に認められ、その上で風精国にまで足を運んだ者だけが、あのお姿を見る事ができるのだ! ふむ、そういえば我が里の近郊にとても良い景勝地がある。そこからなら全景を見渡せよう。うん、そうだ、後で記念にみなを入れた絵を描かせるのもよいな!」

「……なぁ、んな悠長してて良いもんなのか? その世界樹がヤベーっつーからオレら来たのに」

「うーん、やっぱ助手クン仲良くなり過ぎだねぇ……甥っ子を歓迎する外国の親戚って感じだよ」

 

 悪王寺先輩らが小声で評する通り、すっかり親戚の金持ちな叔父さんぽくなってしまったヴェルナードさん。

 僕の雑な推理まで嬉しそうに褒めてくれるものだから、ちょっとこそばゆいや。僕は助手なんだから、本来雑な推理して探偵に呆れられるのが仕事なんですがね。

 あんなにエルフ以外の種族やハーフを蔑んでいた素振りはどこへやら。会食明けに再会したみんなが「誰この人……?」となっていたのもしょーがない変わり様だ。

 しかしもちろん柔らかくなってくれた事に文句はねぇ。クロコダインだって後半のほうが人気でしょ。いやおっさんは仲間なってからが本番だから話が別だが……。

 

 ともかく、思っていた通り彼はとても聡明な人だったワケだ。

 友人……と言うには、少し保護対象として見られちゃってる気はしないでもないが、別種族の親しい人ができたら、またたく間にこんな風に変貌した。

 外向きかなりキツい性格をされているが、身内にはどうもダダ甘らしい。

 つっても、そこも含めて氏族の頭領に向いている性格と言えるんじゃないかな。

 仲間を守る為には、相手に牙向けなきゃなんない時もあらぁな。

 誰とでも仲良くできればそりゃ一番だけど、世界樹食い荒らすワーム君と仲良くできるハズも無いしね。

 

 この分なら、もしかすると彼はハーフエルフさんともまともに対面した事が無いのかも知れんな。

 エルフの社会ではハーフは居場所が無いと聞いているし、絶対数はかなり少ないだろう。ならば位の高いエルフである彼が、その人たちと人となりを知れる程の接点が無かったとしても不思議ではない。

 ま、希望的観測だけどね。

 知り合いの上でバリバリ差別してる可能性も依然存在はする。

 人間にはいくつもの側面があるもんさ。

 

 

 しかし、絵か。

 意味合い的には記念写真の本格版みたいなもんだとは思うんだけど、本音を言うと正直そういうのにはちょっと憧れがある。ちょっとだけね。

 形に残るものは、いくらあっても良いタイプなんだ。

 置物、写真、絵、アクセサリー……どんな形であっても、思い出を残せておけるならば、それに越した事は無いっていうか。

 のこされたのが記憶だけでは、時々寂しくなっちゃうからさ。

 ホントならそこまでしてもらわなくてもつって、遠慮するべきとこなんだろうけれど……でも、ココはちょっと甘えちゃおうかな。

 

「それは……素敵ですね。みんなでこの危難を乗り越えた暁には、ぜひ思い出に残る一枚を描いてもらいましょう」

「おぉ、おぉ、そうかそうか! よし、任せておけ。氏族一の名匠に筆を取らせよう! ……しかし、本当にお前たちも登るのか? 無論、風の方が教導なされたその実力を疑うワケではないのだが……いや、頼んでいるのは我々で、今更何を言っているのかという話ではあれど、なぁ」

「そうだな。道理の通らぬ心だが、気持ちはわかるよヴェルナード。打つ手が無くなり頼る先が、まさか年端もいかぬアオたちになるとは……年長者として恥ずかしいばかりだ」

 

 ヴェルナードさんの妙な問いかけに、ラナスティルさんも苦笑しながら首肯する。

 矛盾した物言いだが、やはり優しい人たちだ。ちとチョロイン過ぎて詐欺とか引っかかんないか心配もしちゃうね。

 そして、そんな人たちだからこそ助けたいと、僕は心から思えるんだ。

 世界の危機とか言う前に、気の良い友人が困ってたらなんとかしてあげようと思うのが人情ってもんじゃないか。

 どうしてか複数人から「お前が言えた事か……?」という思考が飛んできたが、僕はチョロくはあれどヒロインじゃないのでカテゴリ外だぜ。

 

 

「なんだか少し意外であるな。青海はそういった集合写真など、あまり好まんタイプだと思っておったが」

「そう?」

 

 いつの間にやら向こうの馬車から降りて来ていた王城さんの言葉に、僕は小さく首を傾げる。

 そんな孤高の一匹狼気取ってたつもりは無いんだが、ヤレヤレみんなにはそう見えちゃってたって事か? もしくは寝たフリぼっち君。二択でこんなtier差出ることないだろ。

 悲しいかな、その実態はバイトで疲弊しきってマジで寝てるだけのぼっち君であった。いじわる問題だ。この場合いじわるなのは出題者ではなく社会です。

 

 ……ま、そうは言っても実際バ先には感謝してるんだ。こんなアホちゃんを働かせてくれるだけホワイトだもん。むしろ社会貢献活動にすら等しいぞ。HPに植樹とかと同じく記載してもらっても構わない。

 ホントね、働かせてもらって金銭的にマジで助かってたんだよ。

 世にも珍しい高校生に夜勤もさせてくれるコンビニが近所にあったのは、幸運としか言いようがない。多分違法ベースですね。人手不足とはかくも世を蝕むものなのだ。

 そこのオーナーがこれまた苦労人でさぁ、何度飛んだバイトの代役を頼まれたことか。

 

「確かに、向こうじゃ一緒に写ってくれる人が居なかったからね。クラス集合写真の登場率が低かった事は否定しないよ」

「いや日本では顔を見た覚えも無かったから、そっちの事は知らんが……。なんだかお前は達観したきらいがあるからな。物より記憶だなんだと言いそうなものではないか」

「……いやいや、そりゃ買い被り過ぎだよ王城さん。そりゃ思い出も大事だけど、思い出の品も同じく欲しいじゃんね。僕は目に見えるモノを尊ぶ、即物的なステレオタイプ現代人だよ」

 

 こればっかりはホントに買い被りだ。

 僕は大切な人との思い出を、できるだけ形として残したいと思っている欲深い人間です。

 こっち来てからは日記もつけてるくらいだしね。時々絵も描いて絵日記にしてるぞ。

 ジェイスが楽しそうにお絵描きするもんだから、僕もやってみたくなっちゃってさ。空いた日は一緒に町中で座って写生したりもしてね。

 

 でもお察しの通りもちろん絵も上手くないんだよな。一体僕には飲酒と博打以外の何ができるんですか?

 その証拠に委員長の私物に施したアシナガトゲアリナメクジの刺繍は、メイちゃんから「可愛いオオトカゲさんですね!」という過分な評価を頂いた実績を持つ。どちらも『なんかデカくてイヤなもの』というジャンルではあるので、ほぼ正解と言っても差し支えないな?

 似顔絵とかも描ければ良かったんだけど、絶望的に似ないんだよね。

 後から見返して自分でも「なんだこのスプーは……?」ってなったら、思い出もクソもないじゃん。

 だからこそヴェルナードさんの提案は、正直渡りに船だった。

 欲しい物にはついつい釣られクマしちゃうヒモらしさが、また顔を覗かせちまったなァ?

 

 ……本当は王城さんの言う通り、「形に残らなくても記憶の中に在ればそれで良い」と言えるのが出来た人間なんだろうけれど、信じられない事に馬鹿な僕は、どんな大事な記憶も徐々に忘れていってしまうのだ。

 顔だって、声だって、本当に、本当に少しずつぼやけて、おぼろげになってゆく。

 だから僕は楽しい時間の証を、少しでいいから形ある物として持っておきたかった。

 いつか僕の傍に誰も居なくなった時に、かけがえのないこの時を思い出せるように。

 

 今の家に引き取られる際に、昔の写真が随分と減っちゃったので、なんていうか……そういうのをどうにかして残しておきたいという、強い執着が僕の中にあるのも確かだった。

 まぁそりゃ家族の誰も写ってないアルバムなんか持ってこられちゃ邪魔になるのは言うまでもない事なので、処分する事は今考えれば妥当な話だったのだが、幼い僕はかなりワガママを言ってしまった覚えがある。悪い事しちゃったね。

 

 喪失を幸福と同じだけ愛するなんて欺瞞じゃ、自分を騙せない日もあるということを、ホントのところ僕は嫌と言うほどわかっていた。

 いやホントに、ガチでいつか誰も居なくなった時詰んじゃうんじゃないかな……。

 どうするハッチーまで愛想尽かしてどっかの農家さんとかに引き取られて、農協から「私が寝取りました」って書かれた生産者シール送られてたら。どうするもクソもどうしようもない。無いifを作るな。

 

 

 ……つっても、こういう思い出作りみたいなのも、悪あがきに似た無駄な抵抗ではあるんだよな。

 何があってももう取り戻せないものの方が、現実にはよっぽど多いのだから。

 例えば、人は嗅覚で記憶を想起する。

 匂いはその時々の記憶と密接に関係していて、その時に嗅いでいた香りをトリガーとして思い出が蘇る事もままあるのだ。

 そして、最も忘れやすいのもまた匂いであり、声や顔と違い記憶媒体に保存できない物の代表例でもある。

 多少残ってる写真や動画で声や顔を思い出せても……大事な人に抱きしめられた時の香りや、もうどこにも無い我が家の匂いの記憶が消えていくのは、もはやどうしたって取り戻す事ができないのだから。

 剣と魔法の世界へ来ても、過去を持ってくることはできないんだから、夢の無い話だ。

 リッチキングであっても、骨の身体が関の山なくらいだしね。

 

 

 

 と、以上が僕が記念の品を欲しがる理由なんだけど、これは絶対にここでは口にしない。

 なぜなら言ってしまえば最後、100枚くらい絵を描かれる事になるからだ。なんなら僕の宿屋の部屋が置物と絵とみんなの私物とお小遣いで埋め尽くされる恐れすらある。

 

 鈍い僕も流石に傾向と対策を把握し始めているんでね。

 過去問ではけっこう赤点食らって、いろいろと過保護されてきたがもう間違わねぇぞ。

 みんなの琴線がどこにあるのか、納得はできずとも理解できるようになってきたってコトよ。

 つまりなんとなく寂しそうに見えるのがNGなんでしょ?

 そりゃそうよな。僕だって誰かが寂しそうにしてたら、間違いなくアクションに出る。

 我慢ならんつってその隙間をなんとか埋めてあげたくなるのは人の性だ。

 それとだいたい似たような事を、みんなが考えてくれていると思えばいいっつーワケよ。

 

 ……ムッズ。自分がやるのは簡単だが、自分がどういう状態の時にそう見られるのかちょっと想像がつかん。

 そもそも実際のところ、今僕にはみんながいるので寂しくないのだ。

 なのにそう見られたり感じ取られたりするんだから、ちょっとみんなサイドのアンテナ感度が良すぎるんだよなぁ。

 むしろ僕自身を変える作戦で攻めるか。

 つまり寂しくなさそうに見えればいいワケだから、常に笑顔のフェイスペイントしてみるとかさ。ピエロ誕生前夜?

 

 

「……ウチの家臣が、なんだか迷惑をかけておるようだな」

「うん? いやいや、迷惑かけてんのはこっちの方。王城さんもごめんね? 変な不和をそっちのパーティにまで持ち込んじゃって」

「変である事は否定せんが、火種がこちらにある事くらい理解しておる。……知名は口煩いし他人に厳しいし偉そうだしスカしておるしなんでも知った風なツラをするし実は協調性も無いが、本当は悪いヤツではないのだ」

 

 想像の百倍くらい言うじゃん。

 

「想像の百倍くらい面倒なヤツなのだ。だが、性根の底から腐ったような男ではない。お前らにもなんらかの都合がある事は理解しているが、どうか破局より手前で落とし所を見つけてやってはくれんか。こちらからも、それとなく言ってはみるのでな」

 

 そう言って王城さんは、申し訳なさそうに目を伏せた。こ、ここにも苦労人が……。

 そりゃこんな事ばっかやってたら、自由に飢えちゃうのも当たり前の話なのかもなぁ。

 

「ん、わかった。約束まではできないけれど、頑張ってみるよ」

「助かる。とはいえ、お前に折れてくれと言っているのではないからな。喧嘩自体は思う存分にするがよい。拳を合わせねば分かり合えぬ部分と言うのは存在するぞ」

「いやぁ、魔法使い対ヒモのマッチアップは、多分僕が花火みたいに爆発して即終わると思うんだけど」

「馬鹿者。戦う前から負けた時の話をするでない」

 

 

 のんびり話をしている僕ら一団の前に、目の前の森から数人の人影が歩み寄ってくる。

 

「オイ、お前たち! ここから先はケルセデク風精国の領土、神聖不可侵の大森林である! 一体どこの……ヴェルナード様、ラナスティル様!?」

 

 斥候か見張りと思しきスリーマンセルのエルフさん達が、二人を見て即座に弓を下ろした。

 そんな彼らに向けて、ヴェルナードさんがどこか誇らしげに僕らへ手を向けてこう言い放つ。

 

「あぁ、今帰ったぞ。協力者を連れて、な。まずは"枯れた蔦"の里へご案内する。他の氏族へもそう伝えておいてくれ」

「ハッ! 行くぞ、お前たち!」

 

 一連の流れの登場人物全員、ビックリする程イケメンしか居なかった。

 いくらなんでも僕が場違い過ぎる。

 帰らしてもらってもよろしいですか?

 

 空間内美男子濃度の急激な上昇に酸欠となった僕をよそに、魔車は深い森へと車輪を進めて行くのだった。

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