【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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【8】 初めての激闘

 なんでかトビキイロオオフシトカゲの方からこちらへやって来てくれたおかげで、期せずして多少の誤差はあれどチャート通りの進行となった。

 後はこれを倒せば、予定はほぼ完遂である。

 

 ……一番の問題だけが残ってしまったわけなんだよなぁ。

 

 まぁ僕は昔から好物は最初に食べて、嫌いな物は最後まで残すタイプだ。

 盛り上がりは終盤に残さなくちゃいけないという配慮を常日頃からしてきた僕にとって、最後にモンスター退治して万事解決めでたしめでたしなんて流れは慣れたものである。嘘。たったあれ(スライム犬)だけでバケモンに慣れるかよ。死ぬほど怖い。

 

 どうやらみんなもそうらしく、誰もが冷や汗を浮かべながら、走り寄るトカゲを(すく)むように見つめていた。

 けれど、現実は止まらない。もたもたしてると亡くなっちゃう、僕ら(おいしい物)を待ってくれない、すぐに化け物の口の中。

 醜悪な獣は長い脚を振り乱して、その無機質な目玉に映る憐れな二足歩行の餌に走り寄ってくる。最悪のグルメレースに巻き込まれてしまった。

 

 刻一刻と近づくその時に向けて、先生が口火を切った。

 

「みんな、武器を構えて! 三匹来るわよ! 黒井さんと私が前に出るから、正親さんと鹿伏さんは後ろから援護を。青海くんはなんとかあの黄金色のアレ、あの波紋っぽい何かを全員に振り撒いて!」

「っ……わかりました! なんとか出せるよう頑張ってみます!」

 

 ジョジョ読んでるんですか先生! 流石に波紋は出せないっすよ!

 

 とはいえ弱音を吐いてもいられない。

 前衛二人が顔色を悪くしながらも、後ろを守るように前に出て武器を構え、後衛二人も鞄から砲と薬瓶らしき素焼きの陶器を取り出しているのだ。

 

 誰もが戦おうとしている。

 押し付けられた境遇の中で、己の生命の為に、何もかもから抗っている。

 

 臆病で、怠惰で、他人任せで、みんなの後ろで守られているしかない僕には、それがどうしようもなく眩しかった。

 ただ一人、異世界にまで来てもなお何もできない僕は、その姿に魅せられてしまう。

 

 だから、『何か』をしたいのだ。

 僕にもみんなの様に『何か』が出来るのだと、世界に叩きつけてやりたいのだ。

 

 両の腕を、目の前で戦列を組むパーティーに向ける。

 そうして、心の中で荒れ狂う行き場のない熱量を、手のひらからみんなに向けて放出するイメージを浮かべた。

 

 側から見ればそれはまるで、遥か高みに居る彼女らに追いすがるかの様で。

 なるほど(ヒモ)に相応しい、どうしようもなく情けない格好だ。

 だけど、そんな無様を晒す事で皆の助けとなれるなら、僕は躊躇いなくそうしよう。

 憧れる彼女らの、一助となれるのならば。

 

 

 恐らくーー恐らく、あの時のアレは、()()だ。

 

 先生に守られた時、確かに僕の胸は憧れに高鳴った。

 

 そも、ヒモとは夢に憧れるモノ。空舞う鳥を日々見上げ、何時の日かそうなることを夢見る、地を這う芋虫。

 

 ならば、その能力の根元とは。

 

 

 

 「憧れ」に他ならない。

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら違ったようだ。

 手から黄金色のアレは全く出ない。

 ウンともスンとも言いやがらねぇやクソがよ。

 

 後ろで両手を掲げて固まっている僕に、不審そうな目を向けている委員長と目が合った。目黒寄生虫博物館に誤って入り込んでしまった人の目をしていやがる……。

 

 僕が委員長にそんな目で見られている間にも、文明はどんどん発達し時間は進みトカゲは目前に迫っている。昔ネットに死ぬ程貼られたアスキーアートが僕の脳裏を過ぎった。こんな時になんて無駄な事にメモリを割くんだ僕の脳は。

 爆走するトカゲの口からポロリと誰かの頭蓋骨がこぼれ落ち、それをそのまま別のトカゲが蹴り上げて空の彼方へと吹き飛ばす。

 野蛮なスポーツの極北を目にしてしまった僕らは、面倒くさいのでダイスも振らずSANチェックして一様に正気度を軽く喪失した。

 

 

 ダバダバと這い寄ってきた変温動物どもは、キャロロロ……と喉を鳴らしながら、大ジョッキを丸々飲み込めそうなサイズの大口を開け、ついに先頭の個体が前衛に迫る。

 その口中に歯は見えないが、あんな巨体に食らいつかれればそれだけでタダでは済むまい。

 これが一番手頃な獲物ってどんなモンスターハウスだよこの異世界。やべーとこ来ちまったなオイ。

 

 見るに耐えない生きたグロ画像の接近に、鹿伏さんが躊躇い無く腰を落として砲を構えた。その様は老練のマタギが木の影に潜み、獲物を狙い穿つ姿の生き写しだ。

 え? 重四脚? ガチタン? なにその場馴れを感じさせるどっしりとした重厚な臨戦態勢は。

 

 

 が。

 

 

「どゥッおえぇえんやおッらああああぁぁぁ!!」

 

 その砲口が轟声を吐き出すよりも前に、およそエルフが口に出していい文字列ではない裂帛の気合いを挙げながら、先生が槍をブン回した。

 

 完璧な間合いだった。

 武に常日頃から触れている者だけが会得できる、己の(えもの)が最大限の威力を発揮する妙絶の距離感覚。

 

 確殺の間合い。たった一人の殺し間(ころしま)

 

 先生が天使から貰った槍はよくわからん赤っぽい金属でできており、どちらかと言えば鉾に近い。それは刺突が主体の槍と違い、切り裂くという動作を可能にする。

 天より賜った鉾の流線型を描く流麗な刃が、脆弱な人間種という身体感覚から解放されたエルフの聖騎士により、須臾の間隙を縫うに等しい一閃で振るわれたのだ。たかだか黄色いだけのトカゲに耐えられようはずがない。

 瞬きもせぬ内に、その体は袈裟懸けで真っ二つに切り開かれていた。

 

 

 うん、先生はめちゃつよドスケベ豪腕エルフなので当たり前だ。

 

 ……うん?

 

 

 ジョークか何かかと思って念の為二度見したがマジでトカゲが開きになっていた。正中線を十度ほどずらしたその剣閃は、より多くの臓器を致命的に抉り断とうと、無意識下で選出された太刀筋だ。恐らく殺す意思すら無く殺そうとしている。産まれ持ってのマーダー気質よ。

 この人だけ別の異世界から来てんじゃねえかやっぱり。

 そもそもこんな100人見れば100人が「えっちだ……」って感想が出る服着るわけないもん先生は。やっぱ自分を先生だと思い込んだ貞操観念逆転ファンタジーから来たエルフだろこれ。

 というかこんな丈の高い叢もある場所でそんだけ肌出して大丈夫なの? と思ったら、エルフだから平気デース!って感じらしい。なんだその生物、ナーフ必須じゃねぇか。

 

 とはいえ隣の黒井さんも黒井さんで、唐突に別ゲーをしているエルフにクソビビりながらも、短剣でトカゲとなんか対等にやりあっていた。

 

 「わっ」「ちょっ」「ぎゃっ」などなどクソゲボかわな声を挙げながらも、その華奢で色白な身体には一切触れさせていない。こちらもまた熟達した武の錬度を感じさせる体捌きだ。

 空手のとある流派には回し受けという技術が存在する。基本的な型でありながら円の動きにて極めて多様な受けの要素が組み込まれているそれは、相手の攻撃を受け流し絡め取る絶対的な防御の動きだ。

 黒井さんの動きはそれを型というものを無視し、腕の代わりに小刀を用いて行っているに等しい。つまるところ先達が「こういった時にこうする」とシステマチックに体系化してくれたものを、わざわざ己で判断して行うマニュアル運転。

 ステータスにものを言わせてテクニックを放り投げ、筆記0点実技200点で満点合格を叩き出すに等しい荒業を事も無げに行っているのだ。これこそが彼女が暗殺者として神より賜った身体能力の一端である。(民名書房刊:黒井目黒の異世界格闘術)

 もちろんわかっていると思うが僕は空手を全く知らないので全部口からでまかせだ。また一つ戦闘中に無駄な時間を使ってしまったようやね。

 

 

 そんな僕の懸命な無駄解説の傍らで、黒井さんの戦いは佳境を迎えていた。

 三節棍の如くトリッキーに立体的な軌道で襲い来るトカゲの長腕を、短剣を取り回しながら皮一枚の距離ですり抜けてゆく。

 見ればトカゲの長腕による攻撃は、歩行の延長線上にあった。呼吸の先にて発話をする如く、歩行の動作のままノーモーションで自然と腕が振り回されるのだ。回避行動と殴打の区別がつきにくく、全ての挙動がフェイント足りうる。シンプルながら厄介な生態をしていやがる。

 

 けれど、そんな事は彼女にとってまったく問題にならないらしい。

 攻撃に合わせ添えるように差し込まれるその透明な刀身は、まるで桂剥きでもするように黄色い皮を削ぎ落とす。

 丈の長い叢(くさむら)に、トカゲの紅い血が華の如く散った。打たせず、切る。熟練の剣客による、達人の間合いである。

 

 ……え? 新ジャンルファンタジー時代劇?

 お茶の間のご老人付いてこれるかなコレ。えちえちエルフをキャスティングは流石にあの年齢帯の人にはけしからんだろ。ゾーニング意識してこ? 

 

 

 つかこんだけやっといて何をビビってるんです黒井さん。おまビビ(お前の方がビビるわ)だ。

 なんであっさり人間サイズのトカゲと殺陣を繰り広げてるんだよ。

 既にビックリ人間(エルフ)である事がわかっていた先生より、あの大人しそうな黒井さんが、MMORPGでスキルを使った時みたいな回避率をしている事の方がある意味衝撃的である。

 

 

 と、そんな可愛さ余って回避倍率三倍状態の黒井さんに目を取られていた僕の耳が、とんでもない至近距離から放たれた轟音を捉えた。捉えたっつーか吹き飛ばされた。右耳から左耳の鼓膜が飛び出たかと錯覚する程の音圧だぞ。耳元フェス?

 

 突如発生したAVマニア垂涎の爆音に、使われたアンプのメーカーを確認しようと振り返れば、そこにはマタギと化した小動物系注意散漫ガトリングトーク後輩が砲口から煙を吹かせて佇んでいた。全ての要素が噛み合ってない。まるで矛盾塊だよ。カニでウニでタコでイカじゃん。女子高生を海産物で例えるのはマズいか? 昨今の倫理観はハイコンテクスト過ぎて人には少し難しいんだよな。

 

 彼女の構えた砲口の先およそ30mほどの場所には、酸鼻を極める様相の肉塊が転がっている。頭部が身体にめり込み、そのまま尾の方へと花開くように()()している。まるで頭から爪先まで、一本の芯を通されたみたいだ。

 

 正しく、()()()()たのだろう。

 

 これだけ離れた距離を、初めての戦闘で緊張していたであろうこの娘が。

 

 改めて自分たちに与えられた能力の異質さに、感じたことのない怖気が背中から這い上がってくる……かと思ったが全然来なかった。しょうがないじゃんね、だってヒモなんだし。異質っつったってそういう意味じゃねぇだろ。

 この娘がこうなんだから、僕も初めてのパチンコでも緊張せず右打ちから左打ちに戻せるくらいの能力はあるのかもしれない。最悪だ。

 

 鹿伏さんが構える『砲』は、いわば大筒。個人携帯用のグレネードランチャーの前身、持ち歩けるミニ大砲と言えばわかりやすいだろうか。仁王2で似た武器あったよね? あ、やってない? 面白いからやっときなって、モンハンに隠れてるけど名作よ名作。

 

 そんな女子高生が構えるには大振りな、あまつさえ小柄な彼女が持つと対比から本物の大砲にすら見えかねないソレを、鹿伏さんは慣れた取り回しで発砲後のメンテをしていく。まるで部活で普段から使っているかのようにすら感じる所作だ。すご、メタルギアで種子島のリロードした時みてぇ。

 あっ、はぇ〜、そんなトコがそんな風に開いて……思わず男の子の魂が疼いてしまうギミックが満載じゃん。

 でも僕ガンプラも組めないタイプだし不用意に触んないほうが良いかな。下手にランナーとか折ると怒られるかもだし。

 

 

 

 そんなこんなで目の前に差し迫った脅威は、流れるように制圧された。何もしてないのは僕と委員長だけである。

 つかなんでどいつもこいつもタツジンじみたワザマエを披露してくれてるんだよ。

 なんなのだ、これは!? どうなっているのだ!?

 いつの間にかカジュアルに地球人をやめていたパーティーメンバーに、呆然と固まってしまう。普通にちょっと引くわ。

 その振り回されるトカゲの腕に当たったら多分死ぬんだぞ……? マジでやってんの……?

 

 鹿伏さんも砲を構えた瞬間に歴戦の狩人じみた目付きになっていたし、先生は森の狩人っつーか人狩っぽい太刀筋だし、黒井さんはいつの間にか出血のスリップダメージで倒しきってるし、なんかちょっとみんな異世界に来て変わりすぎでしょ。

 よしんばその戦闘への慣れも、異世界に来て某かの能力を得た結果なら、僕にもなんか下さいよ。ヒモの称号以外に。

 

 もしかしてみんな高校に来る前は傭兵やってたの?

 一昔前のラノベ主人公じゃん。僕もヒモとしてハワイで親父に麻雀でも習えば良かったかな。

 

 

 今となっては僕の仲間は委員長だけだった。

 宿に戻ったら一緒に傷を舐めあおう、な!

 まったくどうなってんだよなぁホントよぉ~、みんなあんなになっちまってさ~。僕らにどうしろってんだよなマジで。あっちがおかしいんだぜ、普通できねぇってあんなの、なぁ?

 

 そう思いつつ同士である委員長へ親愛の目を向けると、ふと目についたのか足元に生えていた薬草をむしっていた。

 そういうとこだぞ! そういう緊張感とか無視して目的につい近づいてしまうとこが狂人だって言ってるんだぞ委員長!

 

 そんな目的の為なら手段以外の何もかもが無くなるタイプの委員長の目がふとこちらを貫き、丸く見開かれた。

 

 な、なんだよ……!

 間違ったことは言ってないだろ、アンタちょっとおかしいぞ。

 そもそも地球に居た頃もクラス全員の課題を集める為に、その日休んだ奴の分のノートを昼休みに作成して勝手に出してたの知ってるんだからな……!

 教師もドン引いてたろうが……!

 

 そんな僕の思いを知ってか知らずか。

 委員長は同年代より小さなその手に納められた素焼きの陶器を振りかぶり、僕の方へ投げつけた。

 

 え、という言語化以前の情動が口から漏れたが、それだけだった。

 ヒモ云々以前に、生来僕は運動神経が鈍いのだ。反射で目をつむるくらいが関の山である。

 

 地面に頭を埋めるダチョウの如く、ただ瞼の裏の暗闇に逃避した僕に、しかし衝撃はいつまでたっても訪れなかった。

 その代わり、真後ろからくぐもった奇声が上がる。

 

「危ない! 後ろよ!」

 

 絹を裂く様な上擦った声に振り向けば、白濁した粘体の何かに覆われたバカデカいトカゲの顔面が、僕の目前にまで迫っていた。

 

 んぎゃー!

 情けなさ極まる叫びが肺から吐き出された。腰を抜かしたまま四つん這いで、委員長らの方へ後ずさる。一番緊張感が無いのは僕だな?

 

 

 どうやら背の高い叢に隠れて、後ろから接近していたらしい。いち早く気づいた委員長が、咄嗟の動きでこのトリモチっぽい何かで動きを封じてくれたのだ。

 迂闊だった。前や後ろなんていうのは、このだだっ広い草原で何の意味も持たぬ定義だというのに。

 

 「オイオイ、なんだそのザマは。お遊びで来てるならお家へ帰んな」……と、脳内の嫌みな先輩冒険者が嘲った。

 なお昨日の飲み会でもそんな奴は居なかった。みんな気の良い人ばかりだ。テンプレキャラが居ないからって脳内補完する必要はないしそれどころじゃねぇだろ。

 あまりに突然降りかかった死の衝撃に、生命の危機に瀕し冴え渡った脳髄が、的確に現実からの逃避を行おうと躍動する。やめろやめろ! 生存確率をその場のノリで下げるな!

 

 もう滅茶苦茶だ。一人で戦闘中に何やってるのかわからんくなってきた。確実に混乱のデバフがかかっている。ステが高い代わりに戦闘中に勝手に混乱するキャラとか、結局スタメンから抜かれる定番の奴じゃん。しかも僕はステが高くないと来た! もーやだー! お家帰るのー!

 

 ヒモが冒険に出るなんてそもそも間違いだった。これからは家で内職して慎ましく暮らそう。昨日防具屋のお母ちゃんから、防具の錆び取りのバイトをもちかけられたのだ。初任給で皆に花でも買えばいい。いやこの思考はヒモつか主夫のソレだわ。

 

 い゛い゛ん゛ぢょ゛ー! だずげでー!

 思わず全ての言葉を濁音に変換しつつ、頼れる仲間に助けを求めて手を伸ばす。これから二度と冒険者は名乗らないでおこう。向いてないにも程があらぁな!

 

 そうして伸ばした手の先で。

 

 黄金色の光が、彼女へと放たれた。

 

 

 

 

 

 

 えっ、今ァ!?

 

 

 

「っ……! えぇ、任せて!」

 

 黄金に輝いた光が、彼女の分けられた髪から覗くデコに吸い込まれると同時、もう一本の陶器をトカゲへと投げつける。

 

 着弾した陶器が容易く割れると同時に、途方もない量の白煙が爆発的に噴出する。デロリアンがタイムトラベルした時くらいすごいスモークじゃん。

 おわー! めちゃくちゃすっぺー臭い! これ吸っていいヤツ!?

 

 効果は、劇的だった。

 

 トリモチにまみれたままのトカゲが、断末魔の金切り声すら挙げられずに、その()を喪ってゆく。

 

 解けていた(、、、、、)

 溶解し。分解し。崩解した。

 

 

 

 突然三解みたいな言い回しをしたが、結局溶けてるだけじゃねぇか。一解じゃん、一解では弱いよインパクトが。

 ……いや溶解してる時点で"だけ"ではすまねぇわ。大変大事だわ、トカゲ溶けてたら。やっぱ一解でも十分ヤバいよ。

 そもそも人よりデカいトカゲを溶かすとかどこのショッカーだよ。マッドサイエンティストでもやんねぇだろ。やる理由がねぇもん。

 

 てか絶対吸い込んじゃダメなやつだったよ今の煙、僕も今から解けちゃわない?

 なんつー劇物を素焼きの陶器に入れて持ち運んでんだこの女。職質受けたら秒でお縄だぞこんな薬品。一体なにするつもりでこの旅路に持参したの? 何かサイズのある骨を溶かす用事でもあった? 完全犯罪狙った事前準備とか、今時刑事ドラマでもなかなか見ねぇ強キャラ犯人じゃんね。

 

「た、助かったよ、ありがとう委員長」

 

 脳内で無限のツッコミが去来したが、もちろん命を助けてくれた委員長に感謝しかないのは当然である。

 目の前で起きた凄惨な猟奇映像にゲロが鼻辺りまで来ていたけれど、彼女を悪役にはしてはならない。人を助けた勇者がその力故に恐れられるなんて鬱のテンプレだ。委員長がそんな化け物を殺す優しい化け物にされるのはそら僕としても嫌なワケ。

 最後まで寄り添い、僕だけは貴方の事を分かっていると言い続けるポジションでいこう。それだと結局世間は化け物扱いしてんじゃねぇかよ。まぁそれもしょーがねーな、トカゲ溶かしてるし。

 

「うぉぇっ……ぎもぢわる……一体何をしたんですか青海君、流石に引きます……」

 

 人の気遣いと下心も知らないでコイツは……。

 

 しかしこの様子ではどうやら委員長にとっても、あの猟奇殺トカゲの結果は本意では無かったらしい。

 

「今回持ってきたのは目眩まし程度の、小さなダメージを与える程度の物です。入門書にも載ってないあんな強力な薬品なんて、まだ私には作れもしません……なのに、一体なんで……やっぱり青海君がやったアレのせいですよね……?」

 

 水が高きから低きへと流れるが如く一切の停滞無く責任を転嫁する委員長に、僕は「よしんば僕が罪に問われたとしても教唆止まりだよ!」と言い返そうとして、すんでのところで口を閉じた。

 助けてもらっといてその言い分はねぇなという気持ちがあったのと、恐らく実際に彼女の発言が()()()()なのだろうと僕も流石に気付かされたからだ。

 

 きっとあの薬は本来委員長の言う通りの効果しか無かったのだろう。

 それが僕の黄金の波動(便宜上)により、オオトカゲを解かすまでの劇薬と化した。

 委員長が言いたいのはそういう事なのだ。

 

 先生に使われた時は振るわれた膂力が増し、委員長に使われた時は制作し使用した薬の効果が激化した。

 つまるところ僕のこの"力"は、単純なステアップの効果だけではなく、もっと広い意味でのバフなのではないかという事だろう。

 

 無論、委員長が配合をミスってこの世で一番ヤベー毒物を作った可能性も候補に入れておく。塩素系と酸性の薬草を混ぜちゃったのかもね。

 僕は常に責任の所在は曖昧にしておきたいタイプなのだ。全員が自分のせいかもと思えば世界はちょっと気まずくて平和になるからな。終わった博愛主義だが全人類を愛してるのは本当なので問題はない。

 

 まぁそれに例え僕の能力がそうであったとしたところで、助けてくれとは申し上げたがオオトカゲを溶かせとは一言も言っておらず、意思のボトムアップ(比喩として上意下達という表現を用いようとしたがヒモを"上"という観念に位置付ける人類史初の男になりたくなかった為やめた)にミスが有った為、責任がむしろ僕に無いまであるのもまた事実だろう。だろうという言い回しはなんとなく根拠がありそうで強い。これからはよく使うことにしよう。

 

 できる言い訳はすべてしておく。練習でできない事が本番でできるわけがないからな。

 デキない男のハウツー本みてぇな人間性だ。

 我が事ながらコイツはここで殺しておいた方が良かったのでは?

 やだ~! 生きたい~!

 

 

 うーん、終わりすぎじゃんね……

 地獄の血の池を煮沸して人の醜さを結晶化してみたら最終的に僕の顔ができそうだなぁ……

 

 

 

 こうして草原は平和になったのでした。めでたしめでたし。

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