【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
切り拓かれている……というよりはもともとそこだけ植物が生えなかったかのような道を、普通の馬車に乗り換えて進むと、簡素な丸太づくりのログハウスが建ち並ぶ集落へ出た。
はぇ〜、雰囲気あるねぇ。
いやまぁ実際この異世界では都市部以外じゃ大抵木造建築だから、別に人間種の村とそこまで変わるわけじゃ……いや、なんつーか、マジでまったく変わんないな。よー考えりゃ僕は全然普通の村でも雰囲気感じてたわ。現代人にはなんでも珍しいかんね。
人のお家に文句言うつもりは毛頭無かったが、しかしエルフさんと聞いて勝手に神秘的なまでに“超自然“的な町並みを想像しちゃってたから、なんとなく肩透かしではあるぜ。
勝手に期待して勝手に拍子抜けする自己中な感性は、なろう大好き転移者くんのholy shitな傲慢さだな。反省しとこう。
しかしぐるりと見回していると、ある事に気付いた。
そこまで大きい規模では無いので活気があるとは評せないが、ポツポツと人は出歩いており、普通に立ち話したりポヤーっと森を眺めたり穏やかな暮らしぶりの村。
そう、世界樹に異変が起きてるってのに、重苦しい雰囲気がここには無いのだ。
なんだか他人事というか……事態の緊急性を理解していないような、そんな呑気さがあった。
そしてそんな違和感は、もう一つの事に気付いた瞬間霧散する。
それもそのはず、そこに行き交う人々の耳は髪から飛び出していなかった。
中には頭頂部にぴょこんと突き出たフサフサの耳も見えんね。
つまるところ、ここにいるのはエルフではない種族ばかりなのだ。
「ここは外界との窓口となる外周集落でな。基本的に外の人間はここまでしか立ち入る事ができん。主に他種族との交流を生業とするエルフたちが、普段から彼らと取引や交渉を行っている。とはいえ……今はみだりに外部の者を呼び込むワケにはいかんし、この状況を外部へと漏出させるのも良くなかろう。立ち入り規制を知らず入り込んでしまった者たちには、事が済むまでココで生活する事を命じている状況だ。中でも条件を粛々と受け入れてくれた相手には、我々が手を回すことのできない狩りや採取を依頼し、対価を支払う形で暮らしてもらっている」
不思議そうな僕らの顔を見て、僕らの馬車に乗っていたヴェルナードさんが説明してくれる。ありがとねぇ。
ちなみに向こうパーティーの馬車にはラナスティルさんが乗ってるぞ。王城さんがアタックかけてないかちと心配だね。
しかしなるほど、つまりは入国管理局みたいな使い方をしてるのか。
たまたま悪い時に来たからつって軟禁されちゃうのは結構人権を侵害してる話ではあるが、この異世界ではかなり穏当な話と言えるだろう。なんてったって人権ってモンがまだ無い。
地球でだってちょい昔までは、怪しい他国の人間なんてさっさと牢に入れちまっても、なんならなにがしか罪状でっち上げて処分してもまったく問題無かったんだ。
そこをいくと相手に対価まで出してんだから、とても理性的な扱いだぜ。
エルフが排他的な種族とはいっても、もともと万人を受け入れないほどの塩対応じゃあなかったって事だろう。
ま、全方位敵対外交なんかしてたら、またたく間に滅ぼされるのがオチだからな。
知り合いのドワーフ親父もツンデレだったし、エルフさんもツンデレ種族なのかもね。
仲悪いのは同族嫌悪な可能性がでてきたな、新説だ。民俗学者にナメた口聞くなと張り倒されちゃう。
冗談はさておき、少なくともエルフさんとこの村にいる人たちは良い関係を築けているらしい。
歩いている人々の表情がその証左だ。
異国で軟禁されてるとは思えない程度に、みな暗い顔をしていない。
むしろ珍しい場所に長く居られて、ちょっと浮かれてるくらいの人も見受けられる。僕も気持ちはわかるぜ。この前の温泉旅行ですっかり旅行好きになっちゃったからな。
そんな呑気ぬかしてらんない緊急事態起きてんだが……まぁ、他国の他種族の話なら他人事にもなろう。
もしかすると彼らは、今回の危難を知らされてない可能性すらある。
「エルフの里に着いたら、ラナスティルさんとヴェルナードさんの時みたいに蒼君に頑張ってもらわないといけないかと思ってたけれど、この様子ならなんとかなるかも知れないわね」
なんの蟠りも無い生活の様子を見て、どこか安心したように先生がそう溢した。
もちろん唐突な強権に反抗した人も居ただろうし、その人たちがマジモンの牢獄にしまわれてたり、はたまた既にしまっちゃう(ガチ)されてたりも有り得るのだが──っつーかほぼ間違いなく有るだろうが──それでも、こうやって共に暮らせている実例もまた確かに存在しているのだ。
なら、まぁ、大丈夫だろう。
理解さえできれば、僕たちは仲良くなる事ができる。
どの国だって、どの種族だって、本質的な部分はそう変わらない。
少なくとも、今のところは。
「そうですね。でも、そもそもあのお二人はとっても良いエルフさんでしたから、僕抜きでもなんとでもなったと思いますが」
「むぅ……過度な謙遜はダメよ。自分の成果を褒められたら、素直に受け取るのも大事なの」
僕の素直な感想を受けて、先生は可愛らしく頬を膨らませて拗ねた様な素振りを見せる。
そのめちゃめちゃあざとい仕草に、呆れるほど単純な男子高校生である僕は一発でスタン値が溜まり完璧にノックダウン。
頭上にヒヨコを回転させながら「ハヒィ……」と呻くのを返答とした。ヤッター!
「……ま、少しずつ、ゆっくりお勉強していけばいいわ。各生徒の学習度合いに合わせ指導するのも、先生のお仕事ですから」
そこまではちょっと教職に求め過ぎな気もするが……当の本人の意気込みを否定するモンじゃねぇやな。
ここらへんの面倒みの良さと、超過労働を気にしない精神論的根性値は、先生に眠る"青龍"だった頃の
本人的にはなんとなく複雑なゾーンみたいなので、わざわざ口に出したりはしないけれど。
僕は聖さんのあの姿も、とってもカッコよくて大好きなんだよね。
「もちろん、先生としての責任以外の理由も、ちゃあんとありますからね?」
ハ、ハヒィ……。
と、止まることなく集落を馬車で通り抜けようとしたその時、僕の目の端に見覚えのある顔が飛び込んで来た。
「あ、マグニフィス兄弟!」
僕の飲み友達である覇剣と強弓のマグニフィス兄弟である。
南方に出稼ぎへ行くと聞いた直後からのこの騒動だったので、ちょと心配していたのだが、どうやら何事もなくココで生活できているらしい。
まぁ彼らとて銀級冒険者コンビなのだから、心配する方が失礼ってなもんではあるが……なにせ心配性なもんでね。
つってもあの人らホントにめちゃめちゃ強いんだよな。
大きな功績に巡り会えてないから銀なだけで、ムガクさんと全然タメ張れるし金級って言われても納得な実力だし。
だから心配無用なのは、そのとおりなんだけど……でも、冒険者って本当に命の軽い仕事だから、僕はいつだって仲良くなった相手の安否が心配なのだった。
空が落ちると騒いだ人を、まったく笑えない肝の小ささだね。
小さいしよく冷えるし、僕の肝はピノみたいなとこがある。希に星型が混ざるから引いたらラッキーです。
「マジ!? ピノあるんスか!?」という顔をした鹿野ちゃんが、僕の胸もとをはだけにかかる。あ、ごめん、違う違う違う。無い、無いよ、ピノ無い。僕のそこは星型じゃないから。んふふ、くすぐったいって。
「良かった、無事だったんだ……ん?」
彼女の手をいなしたり全然いなせずまさぐられたり、自然と横から手を伸ばしてきた悪王寺先輩にお腹揉まれたりしつつ、マグニフィス兄弟をよくよく見てみれば。
彼らが話しかけているのは、それぞれ別のエルフさんだった。
剣使いの兄は、果物がいっぱい入った籠を抱えて、エルフ族にしては発育の良いお姉さんへ、露骨に視線を下げながら爽やかな笑顔で話しかけている。もちろん相手にはバレていて、お姉さんの笑みが少し引きつっているね。
弓使いの弟の方は、枯れ枝を山ほど背負子に担いだ姿で、鹿野ちゃんと同じくらいの背丈のエルフの女の子へ、荷物を持とうかとキメ顔で手を差し出していた。ついでにあわよくば手を握ろうともしているのが、ここからでもわかるね。チビッ子も超警戒しちゃってんじゃん。
ははぁ〜ん、なるほど。
めちゃめちゃかかってますねぇ! レース後半でバテちゃうぞそのままじゃ!
僕の脳裏には、兄弟が二人してエルフ女をオトす方法を聞いてきた時の真剣な顔がフラッシュバックしていた。おバカどもめ……!
あの時僕が話した内容を、ホントにまったく完全に驚く程実践に移せていない舞い上がった姿に、小さくため息をつく。
いやね、僕がこんな偉そうに他人のコミュニケーションに口挟める程上等な人間じゃないのは承知してるんだけど、それでもあの二人が見てわかるくらいバッドコミュニケーション叩き出してるのは多分間違いなくて、それじゃあ二人の真の魅力が伝わんないからもったいなくてつい口出ししてるだけでさぁ……。
やきもきした僕は思わず飛び出して間に割って入り適当に理由付けて一時撤退、ロールプレイング研修を用いた再教育を経た上で、今度こそ二人の魅力がしっかり伝わる形で彼女らと向き合って欲しくなってしまう。
いや違うんだって〜! ホントはその二人は高い実力の冒険者にも関わらず、それを鼻にかけたりしない凄い気の良い人らで、同性の僕だって思わずときめいちゃうような素敵な人らなんだよ〜!
と、そんな風にエルフさんたちへ推しの布教をしたい衝動に駆られるが……しかし今の僕は流石にそこまでしてる時間的余裕が無い。
彼ら任命するところの指導教官たる僕は、不良生徒の蛮勇をせめてもの温情から見て見ぬフリする事にした。
でも後で顔出すついでに説教はするぞ。人を不快にさせちゃダメでしょ!
改めて教職というものの難しさを理解した僕は、理想的なまでにそれを成し遂げている聖先生へ、深い畏敬の念を抱いた。
無論その念はテレパスで繋がった彼女へ即バレて上機嫌となった先生の膝に載せられた僕は、ここまでの車中と同じく巨大で神聖な神の息吹を感じる何かの間に格納される運びとなり、ヴェルナードさんたちの里へ着くまでの僅かな時間も見逃さずしっかり気絶するのだった。パーティー毎の分乗で良かったすねぇ。
こんな不甲斐ない僕が果たして彼らになにを教える事ができるのか……。指導教官の懊悩は、深い……。
瞬くような頭のフットーから目覚めると、そこはメイプルストーリーのエリニアマップみたいな村であった。平成オタクの雪国?
おわー! テンション上がるねぇ! テーマパークに来たみてぇだ!
……パッと出る浅い引き出しに入ってるネトゲにしては古過ぎないか……? でも兄ちゃんがやらせてくれたゲームだから記憶に染み付いちゃってて……。
さっきまでの集落は、ほとんど人間種のソレと変わらない景観というか、物語的な幻想性までは無かった。
どっちかっつーと別荘地のロッジみてぇだったじゃんね。わかんない? 完全に偏見に満ちた個人の感想だからなぁ。別荘地なる物をそもそも創作物でしか見たこと無いし。
けれど今目の前に広がっているのは、紛れもなく僕らがファンタジーで触れてきたエルフの里!
なんとなーく思い描いていた、生きた大木をそのまま家としてる感じが現実として目の前に存在していると、それだけで無性に嬉しくなってしまう。
やっぱどうしてもこういう典型的ファンタジー見せられると、思春期男子としては興奮せずにはいられないよなァ!?
流石にそこまで樹上高くに家屋があったりはしないが、それでも木にくっつくように建てられた家の間に簡素な吊橋がかかってたりと、めちゃめちゃ"ぽい"のだ。
もちろん幹の中身をまるっとくり抜いて家になんかしたら木が枯れちまうから、恐らく植物の精霊を介して魔法的な手段で作り上げられてるんだろう。僕んとこの生命の精霊と違って働き者で羨ましいぜ。
でも僕に彼らは責められない。なぜなら僕自身も働いてないからだ。同じ身体を共有する者同士、傷を舐めあって生きていこうな? ウロボロスみたいになっちゃった。完全の象徴にしては随分不完全な人間だが大丈夫そ?
「フフフ……どうだアオ、凄かろう!」
いやマジで凄すぎますってヴェルナードさん!
いくらか旅はしてきましたけど、こんな景色見たことないですよ!
なんだかんだ言って、異世界来てからこういうもろファンタジックな光景をまだ見れてなかったから、正直なとこ感無量だった。
なんせこの前はドラゴンと一緒に空飛ぶクジラ倒したとは言え、場所は温泉街だったしね。普通温泉回はも少し先じゃない?
普段のボゥギフトの町並みだって、現代日本じゃ絶対に無い中世風の家々にどんなSFXよりリアルなファンタジー種族が目白押しではあるんだけど、それらとは別種のロマンが確かにここにはあった。
なんてったって日本人はエルフが大好きだからね。
「ハッハッハ、そこまで喜ばれると招待した甲斐があると言うものだな。ようこそ、我らが"枯れた蔦"の里へ!」
自分の故郷が褒められるのを素直に喜び胸を張る可愛いエルフ叔父さんに、むしろ僕らはホッコリしちまうとこだが……ふと疑問が鎌首をもたげる。
……今更だがヴェルナードさんはどういう立場のエルフさんなんだ?
だってラナスティルさんがここんとこの族長の嫡男なんでしょ?
じゃあそれよりなんとなくちょいちょい偉そうで、なおかつ年若い感じを出してるヴェルナードさんの立ち位置が分かんないのよ。
「ん? そうか、まだ言ってなかったな。俺はラナスティルの年下の叔父に当たる。つまりは族長の弟だ! とは言ってもアオもウチのミドルネームが付いたら親戚だから、遠慮はいらんぞ!」
あ、あん? ん? んぁ? あー、え?
つ、つまりお兄さんトコにラナスティルさんっつー子供ができてから、その後ラナスティルさんのお爺さん達がヴェルナードさんを産んだって事か……?
……いや、まぁ、そう、そうね。
人間でも昔ならギリありえなくは無いし、長命種たるエルフでならそれこそ違和感の無い話かも知れない。
その場合、族長の継承権とかが複雑極まりなくなりそうだが、そも世襲制なのかもわかんないしな。
余所様の政治に首突っ込んでもロクな事にはなるまい。つか突っ込める程出来た人間じゃないので。
とりあえず、お二人は近いご親戚って事なんすね? やっぱ通った鼻筋が似てんなとは思ってたんですよね〜。
種族間にまたがる大きな価値観の違いを突き付けられるも、しかしまぁ気にする程のもんでもないかと受け流した僕は、新しくできた大好きな親戚の叔父さんとの会話へ意識を向けるのだった。