【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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普通に投稿日明日だと思ってた。謝罪。
次の投稿は一週間後の予定。

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特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。


【87】 それぞれの神

「父上、ただいま戻りました」

「う、うむ……あー、よ、よう戻ってきたな、ラナスティル。そ、それで、その……そのお方は、もしや……」

 

 エルフさんには珍しくお髭を蓄えた、威厳たっぷりな"枯れた蔦"の里長──つまりはラナスティルさんのお父さんは、長旅から帰ってきた息子を目の前にして、それどころではないって感じの動揺を見せていた。

 新作ゲームソフト発売日に学校で授業受けてる小学生みたいっすね。

 

 それもこれも、彼の目の前に逆バニー重鎧を纏いし超豊穣(意味浅)のエルフ聖騎士が原因だろう。

 まぁ大抵の男はそんなのが目の前にいたらそうなる。

 とはいえ、そういう俗物的な理由でエルフの里長がガキのようにソワソワしているワケじゃあない。

 彼女が全てのエルフの始祖、ピュアエルフ、風の精霊のみによって形作られた始まりの一人……と同じ組成をしているからだ。

 

 へへへ、ようやく異世界転移らしくなろう作品お約束展開がちょくちょく出てくるようになったじゃねぇか。

 コレコレ、こういうのを軟弱な現代人は求めてんのよ。

 控えおろう! このお方をどなたと心得る……つってね! 現代人が求めてるっつーには古めの作品リスペクトになっちゃった。

 むろん僕の役どころは前から言ってる通りうっかり八兵衛だ、だんだん板について来たよなァ!? 

 助さん格さんは悪王寺先輩と明星先輩にお譲りしよう。

 

 ……しかし戦闘力ランキングだと、水戸黄門たる先生が今んとこ一番高いんだよな。印籠握り潰しちゃうよ。

 なんせウチのちりめんどん屋のボ隠居様は、先祖返りしたドラゴニュートとタメを張れるかんな。

 ……あまりに親父ギャグ過ぎたか? 口には出さないでおこう。

 まぁ原作でもTier表では水戸黄門がたぶん一位だろうし、あながち間違いでもない。権力は剣より強しっつーこと。

 

「えぇ。この方こそが此度、世界樹の危機に立ち上がってくださった援軍……風の方でございます」

「なんと……! まさかとは思ったが……この様な年若い身がお会いできるとは、恐悦至極! 私は"枯れた蔦"の里長、アラノスと申します」

 

 若いの? 十分貫禄ある様に見えるけどなぁ。

 

「670で若いは無理がありますよ、父上」

「えぇい! 煩いぞラナスティル。まだまだ俺は若いのだ!」

 

 あ、そんな感じの話ね。

 桁が違うだけで人間種と変わんない事言ってんの、親近感湧いちゃうぜ。

 

「先触れから聞いてはおりましたが、まさか本当にこの危難に現れてくださるとは……これは議会も黙ってはおらんでしょう。風精国そのものを揺るがす程の重大事となりますぞ」

「うーん、そんな大事にしてもらっても、正直私は困ってしまうのですが……」

「こ、困るぅ!? 風の方を困らせるのは言語道断ッ! 全ては内密に行いますッ!」

「あ、いえ、それはそれで迷惑かけてしまうのでは……」

「いえ! 迷惑だなんてとんでもない! 風の方の為なれば、我らは犬馬の労を厭いませぬ!」

 

 あん? 先生の犬は僕なんだが?

 危うくエルフ族対僕による先生の忠犬の座を賭けた戦いが勃発しかけるも、流石に種族対単騎の闘争は分が悪いと判断したかしこい犬アオミンタールは、毎朝の新聞を取りに行く業務の独占で手を打つ事にするのだった。

 へへへ、まぁわんこ同士仲良くやろうや。

 まずは兄弟ちゅーる盃を酌み交すぞ。

 

「あ、えーっと、では……この子たちは今回の調査依頼を受けた、私も所属する冒険者パーティとなります。エルフの里ということで勝手の違う事もあるでしょうし、何卒ご配慮頂ければ」

「はい、里をあげて必ずや」

「えぇ……そこまでは……」

「何を仰いますやら。風の方に対してならば、それくらいは当然のこと」

 

 なんか知らんが里をあげて下等種族たる人間くんたちへ配慮してもらえる運びとなったらしい。やったね。

 とはいえ下等なのは僕だけで、他のみんなは人の枠に到底収まりきらぬ才をもってっから心配はしてなかったが、この調子なら僕すら悪い扱いはされなそうな勢いだ。

 

 ……な、なに? 先生はエルフの里最速攻略RTAしてらっしゃる?

 これもう僕ら何しに来たのかわかんねーぞ。

 もう後はメガトンコインさえ売っとけば安心だ。だから先に魔王の走狗を倒しておく必要があったんですね。

 

 我ら犬馬の労を厭いませぬって、主君へ絶対の忠誠を誓った忠臣だけが言う言葉だろ。なんで依頼主が冒険者に言ってるんだよ。

 この一場面だけ他のエルフさんに見られたら勘違いされちゃう……と思いきや、何故かエルフさんは先生を見ただけで格がわかるらしく、一様に同じオチとなり結果的に勘違いは加速するのであった。

 

 ここまでくると、もはや「風の方を迎えた」という事実の精神的バフだけで、世界樹の異変をエルフ族単身でなんとかしちまいかねない士気を感じるぜ。

 現実はのぶやぼと一緒で士気が合戦の行く末を左右するからな。

 体育祭でもやる気ある運動部が居る方が勝つ。

 

 にしても、ちょっと真なるエルフの肩書が便利過ぎるな。もう全部せんせ一人で良いんじゃないかって言われちまうよ。

 しかし言うまでもなくコレは諸刃の剣だ。濫用は控えた方がいい。

 海外のFailed compilationを何個か見た事のある僕は、両刃の刃物は迂闊に振るべきでないと知っているのだ。かしこい。あとスケボーも乗らない。おくびょう。

 

「すみません。これからの行動予定の確認なのですが、我々はこの後世界樹へすぐに向かってよろしいのでしょうか」

「む……いや、すまんがそういうワケにはいかん。まずは議会へ皆さまを紹介し、その後満場一致の認可を経て改めて出発してもらう事になる。風の方にこのようなお手間をおかけするのは、大変に心苦しいのですが……この掟は風精国建国当初からの定め。どうか、平にご容赦を……」

「あ、いえいえ……ホント、お気になさらないでください」

 

 相手の態度でブレる事の無い委員長が、一切の遠慮会釈無しに里長さんの平伏をぶった切り話題の進行を正道へと引き戻す。

 こういう事にかけて彼女の右に出る者はいないだろう。

 悪い事じゃないぜ、実際先生も突然の崇拝に気圧されてたからな。

 当たり前だが一般的な現代文教諭は崇拝される事に慣れていない。僕にとっての神なのでいつも崇拝はしてるんだが、信仰は胸に秘すタイプなんでね。

 

「あっと、すみません、気が利かず。長旅でさぞお疲れの事でしょう。部屋をご用意致しますので、しばしお待ちを……」

 

 と言いながら自ら部屋の準備に行こうとしたので流石にラナスティルさんから止められ、渋々側近にその大任を譲ったアラノスさんに最敬礼で見送られながら、僕らは里長の部屋を後にするのだった。

 

 

 

 いや、なんか凄いっすね。

 ちょっと想像していたよりも、なんていうか、強烈でした。

「そうねぇ……ちょっと、困っちゃうわね。私が何かをしたわけじゃないのに」

 

 当の先生は頬に手を当てながら、ARA ARAとばかりに軽くため息をついた。

 普段の頼りになる大人っぽさと、年上お姉さんキャラっぽさの競演に、僕も思わず感嘆の息を漏らす。やっとる場合か。

 

 ま、そうよね。せんせは元々人の褌で相撲を取りたい方じゃない。

 どっちかと言えば己の力をこそ頼りとして、自分自身の世界を切り拓いてきたタチだろう。

 自分に由来しない尊崇なんざ、どうしたって居心地が悪くて仕方ないハズじゃんね。

 そのお陰で敵対視もされず、迫害も受けないで済んでいるのは確かなんだが。

 

 つっても、これが一概に良い状況だとは言い難いのもまた事実だ。

 真実はいつも一つでも、その側面は様々な顔をしている。

 話がトントン拍子で進むのは良いが、そのままトントンとリズム良く"てっぺん"に据えられても困る。

 

 大いなる肩書には大いなる責任が伴う。

 上役は責任を取るのが仕事。では、真なるエルフの取るべき責任とは?

 

 きっと、おそらく、彼らは事が終われば先生へ『指導者』となる事を求めるだろう。

 

 

 ちと真剣な話をするのなら、そもそも彼らの要求はお門違いというか……悲しいまでのすれ違いだ。

 

 確かに先生は風の方とやらと同じような出自になるだろう。

 むしろ神域にて神の加護を受けエルフとして受肉した以上、なんならその風の大精霊さんが作ったとかいう風の方よりも経歴的には凄みがあるかも知れないが、それはまぁどうでもいい事だ。

 人を出自でランク付けするなんて、あまり褒められた話じゃあないしな。

 先生だって別にそれをことさら誇ってたりなんてしないだろう。

 重要なのは人がタンパク質の塊なように、今の先生は風の方とやらと同じく風の精霊からできているってコト。だからそんなにおっきくても軽やかな印象受けるんすかねぇ。

 

 けれどそれは先生が、過去に居たとされる大始祖エルフ(10/10 プロテクション(すべて)(なおこの/はπ/ではない(この世で一番要らない注釈だ)))と同一の存在である事を意味しないのは、言うまでもないことである。

 タンパク質の塊でできている僕ら人間が、それぞれまったく別の個体である事と同じだ。

 

 みんな違ってみんな良い。

 風の方には風の方の、先生には先生の、性格があり個性があり人生がある。

 遥か昔に生きた彼女が行った偉業もなにもかも、先生にはたいして関係がない話でしかない。

 その事をラナスティルさんたちには既に理解してもらってるし、里長さんも彼らから説明を受ければ、直に承知してくれるだろう。

 

 

 しかし……追い詰められた相手は、そんな理屈なんて気にもとめずすがりつくだろうね。

 

 「そうでないかも知れない」より「そうであって欲しい」が勝る。

 危機回避能力を防衛機制が超える分水嶺を、彼らはとっくに超えている。

 

 まったく同じでなくてもいい。

 ただ自分たちより優れた存在に、正しい場所へ導いて欲しい。

 何もかもの選択を放棄して、ただ従うだけで良い立場になりたい。

 

 種族の心の拠り所である世界樹が枯れそうな不安の中では、そう思うのも無理からぬ話だ。

 

 人がそうである様に、エルフさんたちもまた窮地の中で、たった一つの冴えたやり方を求めていた。

 里長でさえ、諸事情を理解する前とはいえ"こう"なのだ。

 他の一般エルフさんたちがどういう顔をするかなんて、今からでも火を見るよりも明らかだった。

 

 果たしてその時、先生は一体どういう選択をされるのか。

 もちろん、彼女が一個人としてどちらの選択肢を選ぼうと、僕らにそれを止める権利は無い。

 なんてったって一国の指導者の立場になれるかも知れないんだ。

 それは以前の聖騎士団への勧誘とはワケが違う。

 つまるところ、人生のあがりを意味するものでもあるのだから。

 僕がそれにあんまり惹かれないのは、単に自分の能力に自信がない陰キャの根が怠け屋なクソサボり魔だからであって、一部の人にしてみりゃ求めて止まないものである事は理解していた。

 時に権力は、剣よりも強いのだから。

 

 ……ただ、自惚れが過ぎると言われれば、返す言葉は持たないけれど。

 これまで僕が接して理解した彼女のひととなりから判断するに、きっと先生は彼らが望んでも承諾しないだろうとも思っている。

 

 異世界に飛ばされてなお僕らをそばで温かく見守り、自分だって明日をも知れぬ中で未熟な生徒を優しく元気づけて、命の危機ですら保護者として身を挺してでも守り抜こうとしてくれた先生。

 そんな彼女は、そうだからこそ彼女は、きっと国の最高権力者の地位よりも、僕たちを取ってしまうだろう。

 

 

 ……いや、流石にさ、そこまでの物と比べられたらちょっとわかんないよな。

 僕だって彼女の愛も想いも価値観も信念も疑っちゃいないけれど……だって国だぜ?

 流石に国相手に秤にかけられたら分がわりぃよ、あんまりにも相手が重すぎるって。

 国とワタシどっちが大事なの!? とは言えないでしょ。国王夫妻の倦怠期じゃないんだから。

 

 ……段々と、僕らの境遇が非現実的なまでに巨大化して、その輪郭をボヤかせてゆく。

 自分たちの中にある天秤の両の皿に載せられた物が、実感を伴わず膨れ上がって僕たちの感覚を狂わせる。

 

 

 僕は、僕はさ。

 こんなこと言うのも変だけど、国と比べたとこでみんなを取っちゃうのは間違いない。

 何物にも代えがたいというのは、掛け値なしに本音だからだ。

 つかワガママ言うようだけど、国べつにそんなに欲しくないし……。ワガママなのか、これ。逆ワガママだ。

 

 でも、逆に、僕が「国より貴方をとります」と言われたら、ちょっと躊躇しちゃうよな。

 ホ、ホントに良いんスか……? って聞いちゃうだろう。

 己の価値とはとか、生きる意味がとか、ティーンエイジャーらしい懊悩をする気は無いけど、どうしたってうろたえるでしょ。

 

 それは僕が山算金曰く「自分自身を心から愛していない」事を抜きにしても、正当な狼狽だと言えるだろう。

 いったいどこの誰なら、自分にそこまでの価値があると盲目的に信じられるというのか。

 

 ずいぶんと、変な話を考えなきゃいけない場所に来ちゃったもんだ。

 

 

 そう思いながらちらりと先生の顔を見ると、たまたまバッチリ目が合ってニコリと微笑んでくれた。おっふ。ハート射抜かれちゃった。流石エルフは狩人適性が高いだけあるぜ。

 まぁ、とりあえずこの騒動がどんな顛末を迎えるにしろ、この人の笑顔を曇らせない結果にはしなきゃいけないよな。

 

 ……たまたま、なんですよね? ずっと僕見られてたワケじゃねぇよな? だって今別に変な情動巡らしてねぇもん。

 普段のみんなからのテレパスは特に強い感情を読み取れる程度だし、こっちの思考もそこまでダダ漏れしてるワケじゃあないハズなんだが、なんか最近考え事してるとちょくちょく凄い視線を感じたりするんだよな。

 ま、見られて困るもんで無し、せいぜい飽きさせ無いようにちょいちょい小躍りでもして余興を務めさせて頂こう。

 無論背中には有名PCメーカーのロゴマークが跳ねまわるスクリーンセーバーも完備だ。

 目黒さんとの件で既に学んでいるからな、かしこい僕はアプデを欠かさない。

 

 それにそもそもみんなに漏れて困る思考もしていな──ボ隠居様はマズいか……?

 釈明の時間をくれ。いやダメだ言い訳のしようがない。僕は浅ましいカスです。

 

 しかしやっぱり神たる先生は浅ましいカスを目の前にして、こくりと首を傾げながら不思議そうに微笑んで頭を撫でてくれるのだった。か、神ィ……。

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