【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。


【88】 幸せマイホーム計画

「みんなそんなもんですよ。国とかもらっても場所取りますし、対してセンパイは一部屋で済む」

 

 そりゃ国よりは僕の方が専有面積は狭いだろうけど。

 でも国だよ? 今後どれだけ良い子にしてたって、サンタから貰えるかはわかんない代物だ。

 

 

 案内された客室にて、各々好き勝手に寄り集まった僕らは、さっきの出来事だの部屋の内装についてだのの感想を思い思いに話していた。

 部屋割りはキングダムの3人部屋と、僕らパーティを4-4で二分割の3部屋だ。分けやすい人数でいいな。

 とはいえ、今は一部屋にパーティ全員が集まってみつしりしているのだが。

 

 こうやってなんとなーくみんなで集まるのは、バルツァン以来の習慣になっている。

 もちろん一人の時間も必要だけど、集まった方が心地よいほどに、みんなの仲が深まったって感じがして良いよね。

 みんなが仲良くて僕もニコニコだ。同部屋腕組みぽたく。アキバ事故物件の地縛霊かな?

 

 

「国を欲しがるガキはそもそも良い子じゃねぇよ。バカな事言ってねェで外で遊ぶぞつって、サッカーボール片手に河原連れ出して良いパパやれ。オレも弁当作って持ってく」

 

 それはそう。……そうか? そうなのか……。

 子供は良い子なだけでサンタ来るのに、大人は良いパパとサンタどっちもやんなきゃいけないんだから大変だね。

 果たして僕に務まるだろうか、サッカーは自殺点しか入れたこと無いぞ。

 

 まぁ、そう……そうだよな。

 まずもって国なんて、一般現代人である先生、いわんや僕ら良い子たちの手にゃ余る代物なんだ。

 人にはそれぞれの領分がある。

 なにせ金級冒険者なんて肩書だって僕には過ぎた物で、他人に説明する時は召使いだの荷物持ちだの家事手伝いだのヒモだの、違和感を感じられにくい地位までスケールダウンさせているくらいだしな。

 ウソをつく時は一握りの真実を混ぜるのがコツだ。例えその真実がどんなに悲劇的でも、名探偵は目を逸らしちゃいけないぜ。

 名探偵かつ詐欺師になっちまった。マッチポンプできていいね。

 

 ともかく、そこを押さえて考えるにこの葛藤は、言ってしまえば原因が違うのだろう。

 欲求ではなく、どちらかと言えば、遠慮か。

 

「なんだいなんだい助手ク〜ン、キミも国なんかべつに欲しく無いって思ってたろう? にしては、妙に引っかかってるじゃないかぁ……隠してるけど、ホントは欲しいんでしょぉ、国。しょーがないな〜、ボクが一肌脱いであげようじゃないか。どの国がいい?」

「えー、センパイ国が欲しかったんですかぁ? それならそうと早く仰ってくだされば良いのにぃ。まずは帝国ですかね? ペットたちと建国する際はいつも青海帝国を名乗ってますしぃ」

 

 うーん! やっぱ欲しくないよなぁ国!

 あんなモン荷物に入れてたら、確実に重量制限ブッちぎってその場から一ミリも動けなくるし、バックパックはパンパンでフライパンも入れられず、回避動作は間違いなく重ロリになっちまうぜ!

 いやー、みんなと意見が一致して良かった良かった!!

 

 このままでは一国一城のヒモ主(論理破綻)となり、山算金と子王先輩が恒星より眩しく輝くところだったので、滑り込みで阻止させてもらう。

 

 

 ……まぁ、ジョークは置いといてさ。

 この場合僕は国が惜しいのではなく、国と僕らで比べられるという事実そのものにビビっている。

 それだけの話なのだ。

 プログラムみたいにエラー箇所が見れれば簡単に判明する事でも、僕ら人間は頭を捻って己の感情を整理しないと分からなかったりする。

 自分こそが自分自身をよくわかっていない、なんてのは「人あるある」じゃんね。

 ずいぶん間口の広いあるあるだ。あるあるさんとこの探検隊も探索に苦労なさってる事だろう。

 

 とはいえ、万人がそうというワケではなく、こう考えるのは一定の傾向にある人間だけのようだ。

 

「……でも、ちょっと、わか……りま、す。なんだ、か……先生、に、申し訳、なくて……」

「いやいや、ないないない! 私もホントに困っちゃうから! ならないわよ、王様になんて。あ、王様ではないのかしら? うーん……合議制の国家の指導者って、里長? でも国単位の話だって言ってたから、たぶん里長じゃないわよね。元老院、とか……?」

 

 僕と同じリアクションを取るのが目黒さんだけなあたり、この葛藤を起こす心理的要因に大いに心当たりがあった。

 

 つまりは、自分に自信が無いタイプだけが、このヒューマンエラーに陥っているってこと。

 気が合いますね、今度お茶とかしませんか。手作りのボドゲもあるんで、鹿野ちゃんも入れて暗闇の中で遊びましょう。スカルとか。僕の下手な絵なんで花もドクロも一緒に見えて高難易度っすよ。

 

「ま、先生が要らないならもういいっすね。じゃあなんとか他の形で落とし所を探ってく感じにしましょうか」

 

 そんでこういう場合の対処法は、人がこう言ってるんだしじゃあそれでいいじゃん、と他人に決めてもらって一旦思考を打ち切る事だ。

 大事な人が困るかもって時に、意味無くうだうだ考えてもしゃーないからな。バグはバグのまま放っておいていい。

 

 人間は全部解決しないと前に進めないシステムじゃないので、なんかエラー起きちゃってんねと思いつつ放置して話を進めれば、いつの間にか忘れてなぁなぁでなんとかなっている。

 

 問題解決といかずとも、問題ごと無くなれば無問題(モーマンタイ)っつーこと。

 ヒモに相応しい怠惰さが、こういうとこに見え隠れするよな。

 

 

「国よりお家欲しくないすか?」

 

 指導者になるとかならないとか、そういう話は正直よくわかんない鹿野ちゃんが、それよりも楽しい話をしようと手を挙げて提案してくれた。

 

 あー、鹿野ちゃん前から欲しいって言ってたもんねぇ。

 異世界来てからずっと良い子にしてたし買っちゃおっか。サンタの予行練習だ。

 そもそもみんなで楽しい話をしたい、という気持ちだけで100点満点だからな。

 こんなに良い子が国じゃなくお家でいいです、なんて謙虚さまで見せるんだから、そりゃサンタさんも奮発して不動産屋に走ろうってもんだ。

 

 ……もちろんこんなデパートでトミカ買うみたいに、軽いご褒美で購入を決めるサイズ感のものじゃないんだが、前から度々俎上に上がっていたこの話題を僕は奇貨と捉えた。

 

 ボゥギフトで家買うなら、その時に僕がお金出せばいいんじゃないかって、実は前から思ってたんだよね。

 ほら、みんなはブルーゴールド商会設立時に、結構な金額をそれぞれ投じたじゃん?

 そんな中僕だけ出せず、心苦しいわバフの効果が減衰しないかで不安だったから、ちょうど大金を使う良いチャンスじゃんと気付いてさぁ。

 

 だからこの旅から帰ったら、みんなで住む家を買おうよ。

 今の宿屋暮らしも楽しいし、これからも冒険で遠出は続くだろうけれど、この世界でみんなで暮らしたんだって思い出になる、僕らの帰る場所が欲しいんだ。

 この世界でいろんな事をして一緒に過ごせたんだと、地球に帰ってからもそう思い出せるような、みんなのお家が。

 

 

 

 なんて、軽い気持ちでそう切り出した刹那。

 

 その言葉を聞いたみんなから大型台風の如きヘクトパスカルの感情が押し寄せ、混線したテレパシーが僕の脳内でおしくらまんじゅうを繰り広げた結果、もっとも脆弱な僕の魂が肉体から弾き飛ばされかけた。

 

 ギリ土俵際で踏み止まり、口から漏れたエクトプラズムをチュルンと啜り直した僕は、これまでにない埼京線もかくやと言わんばかりの乗車率となった頭ん中で、怒涛の勢いで流れ込むみんなの感情や思考をザッと精査。

 

 ほんほん。ほうほう。なるほど。それもいいね。これをしたいやあれもしたいってのは大歓迎だ。みんなの家なんだから、みんなで意見を出し合って作り上げよう。

 

 突然脳みそに25mプールみたいな他人の情動突っ込まれて驚きはしたものの、見た感じのきなみ好感触のようで、僕の一人相撲になっておらず一安心するのだった。

 そりゃ家があると良いとは言ったけど急に買われても困る、なんてのは当たり前に有り得る感想だからな。

 

 「えー! いいんすか!? やったー!! あ、でもウチもちょっとは出したいっス! 寸志ってヤツっす!」と分かりやすく大喜びな鹿野ちゃんは無論オッケー。

 それ以外のみんなも想像を膨らませているのか、なんとなく血走った目で一言も発さずいろいろと考え込んでいる様子だ。

 楽しみなのはお互い様みたいで良かった良かった。

 

 言葉にしなくともそれぞれから断続的になだれ込む精神感応を整理整頓し、一人一人の思いを汲み取ってゆく。

 ちょっと脳みそが最新狩りゲーしてる時のCPUみたいに発熱する感覚はあれど、大好きな人の気持ちを共有できるのならこのくらいなんてことはない。

 

 全員の気持ちが知りたい。

 全員の希望を聞きたい。

 全員を幸福にしたい。

 

 言葉も交わさないまま、僕らは言語を介するより深く、もっと根源的な部分で繋がり合う。

 つまりは絵チャみたいなもんさ。

 

 

 先生は尽くしたいというか、何らかのプラスを好きな相手にもたらす事を喜びとするタイプの人なので、家を購入してあげるという人生で何番目かにデカいプレゼントチャンスを逃したくない、という気持ちがある。

 が、しかしそれとは裏腹に、好きな人からそういった人生の節目となる大きなモノを貰うという幸せな体験も捨てがたい、という欲求がピッタリ同値で拮抗しあっている。

 それらが混ざり合う事で、まるでメドローアじみたインパクトをもった感情の弾丸となり、僕の思考にかいしんのいちげきを与えて魂を吹き飛ばしかけたのだろう。

 

 つまりはまぁ僕だけがお金を出すのは悩ましいとこだが、家を買うのはOKと。

 

 

 悪王寺先輩は家庭というものにたいして期待や感慨を抱いていないというか、それよりも片思いとか恋人とかの、なんというか恋愛が前面に押し出された段階の関係を好んでいる。

 それ故に"家庭"というモノの象徴たる持ち家に心躍るとかは無いけれど、しかし同棲っつー事実その物には極めて強く惹かれている。それは言わば恋愛の最終到達地点でもあるからだ。

 絶対に少年誌では載せる事ができないであろう爛れたストーリーラインや一枚絵・スチルが、僕の脳裏を埋め尽くさんばかりに彼女から送られて来たのは、彼女にとって『恋愛を維持すること』こそが夢に見た日々だからに他ならない。

 ちょっと僕には刺激が強過ぎるし、みんなと同じ屋根の下で暮らす場合めちゃめちゃ倫理的にマズいことになりそうだが、けれど大事な人の願いを叶えたいと思うのは当たり前のことだろう。なんとかがんばります。

 

 総合すると家買って同棲は大賛成っぽい。照れんね。

 

 

 委員長はこの世界のどこで壁掛け時計とカレンダーが買えるかを考えているらしい。

 彼女は両親の期待に応えられない事が強いコンプレックスだったけれど、それは委員長が二人の事を心から好きで尊敬していた事の裏返しである。

 苦しむのは、愛ある故に。

 心のもっとも大事な場所に置いた人たちから、失望されるかもしれないという不安と焦燥を常に抱えていては、世界の色になど気付きようがないだろう。

 だからこそ委員長は自分が住む家を考えた時、自然生家をなぞって脳内に描き出した。

 

 それは……とても素敵なことだと、僕は思う。

 なんというか、無意識的な自分の本質に、好きな人たちとの暮らしが根付いているかも知れないってのは、奇妙な言い方だが僕にとっての救いでもあるから。

 

 もしそうなら、きっと。

 これからみんなで暮らす家には、それぞれの思い描く家族の形が滲むのだろう。

 その中には、今はもう記憶の中にしか無い、あの家の名残も、きっと。

 

 

 

 山算金からは間取り図が送られて来た。

 ず、図面!!?!!?!?!? もう!??!?!?!?

 ていうかこの広めに取られたPはもしかしてプリズン!?!!?!??!?!

 そしてそのプリズンからは謎の通路がとある部屋と繋がっており、そのとある部屋には更にVと書かれた謎の個室が存在した。変な間取りっすね。

 ははーん、僕は英語には疎いが推測くらいはできるぞ。さてはこれ金庫ですね。

 ……で、この人も住めそうな金庫には何を入れるんですか?

 

 山算金も承諾。なお間取りに関しては全員で話し合う事とする。

 てか中古物件買うと思うし、好きな間取りにはできないんじゃあなかろうか。

 

 あ、ていうか、家買ったらみんなのお世話を合法的にできるのか。今まではメイちゃんという宿屋の法の番人が許さなかったからな。

 でもメイちゃんと急に離れちゃうのも寂しいからさ、スープが冷めないで遊びに来れる距離の家を探したいね。

 

 

 さてはて、ほんで次は……お?

 

 と、僕が明星先輩のテレパシーを紐解こうとしたところで、部屋がノックされた。

 途端にそれまでなんとなく固まっていた空気が、一気に弛緩したように感じる。

 みんなも期待に胸を膨らませてたとこから、ハッと我に返ったみたいだ。

 こういうのって想像し始めると集中しちゃうもんな。マイクラで建築してる時みたいなもんでしょ。

 

 はいはーい、今出ますね。

 

「おっと、君たちはやはり全員こちらに居たか。父がよければ食事を、と言っててね。長旅で疲れているのなら、また後程でも構わないのだが、どうだろう。もう一組の彼らは、君たちに合わせるそうだ」

 

 扉の先に居たのはラナスティルさん。

 どうやら里長さんからのお食事のご招待らしい。正確な時計なんて無いから腹時計で失礼するが、確かに気づけば昼ご飯には良い時間かも。

 

 チラと後ろを見……るまでもなく、繋がりっぱなしのテレパシーで全員から快諾と空腹の意が飛んでくる。便利~。

 

 え、良いんですかぁ!?

 ぜひぜひご一緒したいで……あ、でもラナスティルさんのお父さんって里長なワケですし、あんまり気軽にお話とかはしない方が良いのかな……。

 

「いや、そんな風に気を使わなくていいよ。アオなら父にもきっと気に入られるさ。皆様もぜひ、どうぞ」

 

 えー、そうっすかね? ちとラナスティルさんとヴェルナードさんには高く評価され過ぎな気もするけど……。

 まぁ気に入られようとすり寄るワケじゃあないけれど、仲良しな人のお父さんとは良い関係を築きたいもんな。

 それにエルフの里のご飯ってのも興味あるし、もしみんなが気に入るようだったらレシピも仕入れたいとこだ。

 バルツァンでは豆の甘煮と乳製品使った甘味を学んだしな。

 むろんレシピは教えてもらえないので目と舌で盗んだぜ。

 老舗の天ぷら屋の修行みたいな事も僕はします。

 

 じつに冒険者らしく、初めて来た地域のまだ見ぬ出会いとご飯にウキウキしながら、僕らは客間を後にした。

 

 

 

 ……のだが、後ろから付いてきてるみんなから、なんとなーく心ここにあらずな雰囲気を感じる。

 会食の誘いを快諾したとはいえ、やはり旅の疲れが出てるのかも知れん。

 さっきまでは凄い元気そうだったんだけどなぁ。

 

 ふむ、そんなら里長さんとの会話とかは、僕が張り切ってやらせてもらうか。

 道中ずっとみんなに抱えられてた僕は、実際全然気疲れしてないかんな。

 なぁに適材適所ってヤツさ。

 冒険者ってのは得意な事で互いにフォローし合うんだ。

 ヒモの適所はパチ屋じゃないか?

 

 ま、とりあえず……気合い! 入れて! 行きます! つってね。

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