【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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【89】 フラグ回収能力

 『そうして学習しない僕は、もちろん里長さん相手にも張り切り過ぎてしまったワケである。であるじゃないが。』……とでも言うと思ったでしょ?

 

 そりゃあんだけわかりやすくフラグを立てりゃそう思うだろう。

 しかしね、そんなこたぁ僕としても想定の範囲内なんだよね。

 なにより天丼芸ばっかじゃ芸が無い。

 前回はまさかこんな事(エルフ叔父の誕生という珍事)になるとは予想もしてなかったが、いくらアホちゃんとはいえ僕だって直近の人付き合いの結果くらいはちゃーんと覚えているのだ。

 めちゃめちゃフツーの話だった。誇れた事ではない。

 

 だからこそ、里長たるアラノスさんと会食させて頂く折には、節度を弁えた会話にとどめ、親戚付き合いにまでは発展させないようにしようと考えていたっつーワケよ。当たり前だよなァ?

 当たり前だよ。ご飯食べる度に親戚が増えてたら、家系図がとんでもない事になっちまうだろ。

 ……賑やかそうだし、それはそれで良いけどね。

 

 つっても何も手を抜こうって話じゃない。

 誰かと楽しくご飯食べつつ話そうってのに、適当に流すようなのは失礼に過ぎるでしょ。

 だからこそ、全力で気合い入れて、ちょうどいい距離感の親しい友人になるんだ。

 事が終わったらまた一緒にご飯でも食べようと、笑い合えるくらいの親しさ。

 それくらいが、多分どちらにとってもいい関係だろう。

 

 よって今回は、そもそも吹聴して回るようなモンでもない僕の身の上話はせず、これまでの冒険譚だって勇ましさをちょい割り増し。

 悲壮さは感じさせぬように、荒々しい雰囲気を少々。

 しかし血沸き肉踊る……とまでいくと、格式ある相手との食事には相応しくねぇので、どちらかといえば安心感を誘うような頼もしさを演出したいとこだ。

 で、仕上げに先生の出自を、ラナスティルさん達に伝えたカバーストーリーの内容そのままで語っておく。

 ここは下手に手を加えるのは悪手だ。

 大事なのは、『真実がたった一つである』事さ。

 他はある程度ガタついてても、信じてもらいたい部分だけは疑念を抱かせるような余地を残すべきではない。

 名探偵の顔した犯人側の理論だなコレ。

 

 つってもその前段である冒険の話とて、もちろんラナスティルさん達とのご飯会で言った話と矛盾は生じない。

 ただ単に切り口と視点を変えただけで、こんなにも物語ってのは姿を変えちまう。ね、簡単でしょ?

 こう見えても僕はヒモなんでね。

 破綻しない作り話や、人に疑われないストーリーテーリングってのは滅法得意なんだ。

 終わりだろこんな人間。ロクな死に方しねぇだろうな。せめてもの情けで墓には名を記さないでくれ。

 

 

 

 

 

 

 で、そういった加減をくわえた僕の話を受けて、アラノスさんはこう仰った。

 

「まるで子が親に心配をかけぬ為、空元気を出すかのよう……苦労したのであろうなぁ……! もう大丈夫だ! 風の方とともに、君たちもこの里は受け入れる! 故郷に帰った心地で、ここで暮らしてゆきなさい……!」

 

 おい、話が違うぞ。

 

 

 

 

「そういえばお前、いつもあぁいう事をやっておるのか。相手に気に入られようとするのは感心せんぞ、と言おうと思っていたが……恐らくあれが素なのであろうな」

 いつもやってるもなにも、そりゃこういう生活してて会話しない日はないだろうさ。

 今だって楽しくお話ししてるでしょ?

「うーん、悪質であるなぁ」

 

 “話術“の出目がクリティカルだったせいで、完全にこの里への受け入れが勝手に決まってしまった食事後。

 アラノスさんのご厚意により『これから暮らす場所に早く慣れた方が良かろう』と里内での散策が提案され、これから暮らすかはともかく散策はしたいので、お言葉に甘えて班に別れエルフ社会見学としゃれこんでいた。

 

 まず『文化班』は僕、山算金、明星先輩、王城さん、闇無君。

 も一つの『食生活班』に鹿野ちゃん、目黒さん、悪王寺先輩。

 そして最後の『歴史班』に行かはった人たちは、みなさん勉強熱心どすなぁ。いや、京都人の嫌味ではなく。マジでえらいっす。

 もちろん歴史も重要だとは思うんだけど、並べられるとつい楽しそうな方に傾いちゃう不真面目さが出た。

 食生活に関しては昼飯後で全然お腹減ってないから、タイミングがちと悪かったかな。

 

 

 で、今は突発的な待ち時間を、先程の会食での僕の反省会で潰していたところだった。

 

 というのも、事の起こりは案内中。

 

「ごめんなさい、お手洗い借りていいですか?」

「えぇ、かまわないわ。向こうの棟の角にあるから、終わったら精霊魔法で浄化後に、地中へ埋没させてちょうだい。深めにお願いね」

「す、すみません……僕ら人間のほとんどはちょっとそういう事できなくて……」

 

 っつー風に、エルフ様の下位互換たる僕ら人間種には到底できない芸当をおトイレでまで求められ、班を代表し僕が恥を忍んで自らの種族的貧弱さを申告。

 エルフの生活や文化のガイドをしてくれていた緩ウェーブセミロング猫目スレンダーエルフお姉さんは、人間くんの想像していた以上のカタログスペックの低さにギャグ漫画の如くすっ転び、急ぎ族長へと相談に舞い戻ってしまわれたっつーのが先程までのハイライトだ。

 クールな見た目に反して愉快な人だ、仲良くなれそうだぜ。

 そしてそれはつまり言うまでもなく、ごく自然に僕がおしがまに突入した事を意味する。この世界来て何番目かのピンチ来ちゃった。

 

 

 

 ほな気を紛らわす為にも、手持ち無沙汰な待ち時間を楽しくおしゃべりでもして過ごそうやとなったら、自然会話はさっきの僕のやらかしの話となり、同行するメンバーたちから絶賛ダメ出しを受ける事と相成ったという顛末である。

 ダメ出しつってもみんなが信頼して僕に任せてくれたものなので、責められたりはもちろんしていないのだが……それがなおさら申し訳ない。

 

「いやぁ、圧巻でしたねぇ。私も職業柄しゃべりには自信のある方ですが、いやはやたいしたものです。口が上手いというのも間違いではありませんが、どちらかというと『話していて楽しいタイプ』のハイエンドでしょうか。センパイの会話は態度や機嫌、感情といった感覚的な部分で他者に影響を与えるんです。いわゆる一つの"愛嬌が良い"ってヤツ。それはきっと、後天的には得られない天性の物でしょう。縁故採用は市場原理の害と考えてるんですけど、キチンと実力で副社長の地位に就けますよ。あ、もちろん地球に帰ってからですが」

 

 副社長ぅ? 僕がぁ? 勘弁してよぉ。

 地位は高ければ高い程、うっかりミスで爆発する規模感がデカくなる感じがして苦手なんだよね。

 副社長なんてなった日にゃ僕がレジ一桁間違えて精算しただけで、イチローのホームランgifみたいな大惨事になっちゃうんじゃないの?

 あ、御社の規模で副社長がレジ打ちする事はない。そうなの。そもそも副社長じゃなくとも一桁間違えたら大問題。なるほど。

 でも実際僕はバイトリーダーも最初はお断りしてたくらいだしねぇ。疲れて話聞いてないうちに気付けばやる事になってたけど。高校生にやらすな。

 

 

 ってそうじゃなく、僕ちゃんと「冒険者としての高い実力」をわかってもらおうとしてたよね!?

 ラナスティルさんとの経験を踏まえ、庇護対象と思われぬよう力強さ・頼もしさを強調して! 子供っぽい表現は極力排除! もちろんウチの話も……いや、これはともかく。

 そんだけ色々気を張って、あんな結果になるワケなくない!?

 ちゃんと会話中のアラノスさんの反応見て、ちょいちょい話してる途中でも軌道修正してんのに、なんか全然見る目が変わんなかったんだよねぇ!?

 ぼ、僕が異世界に来てなお、コミュニケーション能力を十全に使いこなせない程度の陰キャでしかない証明が、こんな場所で行われてしまうなんて……!

 成長の幻影に踊らされてたって事なのか……?

 思い返せば体重も増えた気がしてただけで、みんなからひょいひょい持ち上げられてたもんな……。

 

「……そ、その……青海君、は、キチンとお話し、でき、できてました、よ?」

「……やっぱそうか。……あー、まぁ、オレから見てても十分良くやってたぜ。初めて会う年嵩の権力者のジイサンだってのに、こっちが妬いちまうくらい楽しげにな。たいしたもんだよ、マジで凄い。全老人の孫になれるぜ」

 

 えへへぇ、そうですかぁ?

 そうだったら困るんだよ、照れとる場合か。

 

 なおこの場にいないハズの目黒さんの声が誰も居ない背後からしたのは、別に夏に向けたホラー展開ではない。仕様だ。もうすぐ冬だし。

 でもむこうの会話をほっぽってこっちに混じっちゃうのはあんまりよろしくないかもなので、そこだけは後でそれとなく伝えよう。

 もちろん彼女が大好きな鹿野ちゃんとの会話をおざなりにするとは思わないが、同時に二つの場所を認識してたらやっぱ集中力はどうしたって下がる。

 後でむこうであった事を教えてもらうという形を取れば、今後は目の前のことに意識を裂くようにしてくれるはずだ。

 

 

 ま、それはおいとき。

 喫緊の問題は、ここんとこ僕がコミュニケーションをミスりまくりブレイクダンサーな事に尽きる。ディギダンディウッアッヒ。

 相手から気に入られるっつーか、意気投合だの楽しく仲良くだのは僕の得意分野なつもりだったんだが……それが蓋を開けてみたら「ちょうどいい距離感」は不得意だなんて、そんな事あっていいのかよ。

 

 いや、でも、そうなのか。

 自分でも知らなかった弱点だ。

 過ぎたるは及ばざるが如し。効きすぎる薬は毒だぜ。ゴルフだってカップを超えて向こうへ飛び過ぎりゃペナルティが付く。

 物事には目的があり、目的を通り越してやり過ぎてしまうのは、時にできないと同義だ。

 

 つっても仲良くなりすぎてはならない状況なんて、これまでの人生生きてきて経験無かったからなぁ。

 もちろん今までだって、人付き合いにおいてフルパワーでなにもかもやるってこたぁなく、それぞれちょうどよい塩梅になるよう加減はしていたが、確かにコミュ途中で仲良くなる事をやめようと思った事は無かったのだ。

 

 ん? いや、それだと……いやいや、そんなワケ……。

 あー! そうね! あとね! 多分だけど、レベルアップにより身体能力が増強された冒険者が、今まで通りの手加減でドアノブ握りつぶしちまうみたいな現象も関係してる気がするね!

 つまり、クジラを倒した分のレベルアップで、僕の仲良くなり(ぢから)が上がり過ぎて微調整をミスった可能性も考えられるってコト!

 ……どういう事だよ。なに考えてんの?

 つかまずそんなとこがレベルアップで上がるもんなのか?

 STRが1,INTが0,POWが3,仲良くなり力が12上がった、なんて表記をRPGで見たことねぇだろ。

 自分で言って自分で否定する、バグったAIみたいな挙動だ。ちょっとある事に気付いてパニクってます。

 

「……お前、以前からパーティ全員と仲良くなり過ぎてたんだし、別に今に始まった事ではないのと違うか?」

 

 あーあーあー、聞こえませんねぇ! そういう都合の悪い話は!

 だってよしんばレベルアップのせいじゃないとしたら、僕が会う人全員と過剰に仲良くなり過ぎる天然サークルクラッシャーみたいじゃん!

 

「そうである。なんだ、自覚はあるのだな」

「おっと、それは早計では? センパイはクラッシュはさせておりません。むしろ“つなぎ“ですよ、パン粉みたいな」

「そこがわからんのよなぁ……なぜ……?」

 

 なぜでしょうね……?

 

 

「でも青海が人と人の間を取り持つ役割っての、なんとなく納得はするよ」

 

 おっとぉ?

 ほとんど喋ったことのない闇無君にまでそう思われてんの?

 彼には僕らが仲良くし過ぎてる部分は、あんまり見せてないハズなんだけどな。

 やっぱコミュ力に長けた陽キャには、そこらへんの人の機微などお見通しなのだろうか。

 

「俺なんかは、青海が話してるのほぼ初めて聞いたけどさ、正直言ってビックリした。君は人と人との橋渡しが上手い。最初は聖先生にしか目がいってなかったアラノスさんが、君との会話を経てみんなと話すようになっていた。青海が不自然じゃなく、不快じゃなく、不躾じゃなく彼と話し始め、楽しげに話す中で自分というものを身内だと認識させて、そのまま身内というカテゴリを俺らへと押し広げたからだ。その証拠にアラノスさんが『全員』をこの里へ受け入れると宣言したろう。これは凄い事だ、誰にだってできることじゃない」

 

 ……まぁ、やり過ぎてしまいはしたが、まず僕が目的とした事はそれだからね。

 

 ヴェルナードさんたちの前例でわかってた事だが、エルフは仲間意識が強い。

 多分そもそもは自分たちの種族そのものに対するプライドや自意識が高く、だからこそ同じエルフを尊ぶ傾向にあったんだろう。

 しかしその傾向はもはや本能的な認識にまで根付いており、彼らにとって身内を大事にするというのは、そういった理屈を超えた種族的性質なのだと察した。

 

 だからこそ彼らの"仲間"に僕らがなれれば、今回のヤバそうなクエストにあたって協力や連携が容易にできるようになり、ひいてはみんなの安全へ繋がるだろう……と、そう思っていたところはある。

 それが行き過ぎて擬制的親族関係まで発展するとは思ってなかったが。

 ミドルネームまで付いちまったしね。正直カッコよくてちと嬉しい。

 

「だけど、やり過ぎたな。どんな話題にも興味を持ってくれて、受け答えも打てば響き、自分らの話をする時は誇らしく胸を張って、仲間たちを褒め称える。……そういうのって、多分短命種のジイさんとかにも、結構ガッツリ刺さる。いわんや長命種の彼らにしてみれば、年端もいかない孫がお爺さんの話を嬉しそうに聞いてくれて、お返しとばかりにお友達との冒険を自慢気に話してくれるようなもんだろうし。そんなもん、想像上の堅物雷ジジイだってデレデレになるよ」

 

 ……そう言われると、段々僕が悪い気がしてきたな。

 いや悪いワケじゃないんだけど、タチが悪いっつーか。

 あの会話って、外から見たらそう見えてんのね。

 それだけやっといて勝手に親戚が増えたというのは、ちょっと他責思考過ぎるか……?

 

「で、そんな孫の語る冒険譚が、永い時を生きてきた自分たちにとってすら、辛く険しい道であれば……これからはそんな事しなくても生きていけるようにしてあげようってのが、一般的な良識ある年長者の反応なんじゃないか?」

 

 なるほど、一理あるね。じゃあこのレスバは僕の負けって事で。

 僕は粛々と会話デッキの上に手を置いた。

 論理武装ですら負けたら陰キャはなんにもできないよ。

 

 なんだいなんだい、これまでタイミング悪くお話しもできてなかったと思えば、ファーストコンタクトがダメ出し論破な事あるかい?

 せっかく増えた友達には、もっといいとこ見せたかったなぁ。

 

 

 いやー、孫……孫かぁ。

 今思い返せば、アラノスさんのあの視線はそういう目だった。

 そりゃ話し相手が幼い孫じゃあ、どんなに功績があろうと「頼ろう」っつー発想には至らないわな。

 僕の想定していた立ち位置っつーかシチュエーションは、たまたま縁のできたお偉いさんに、酒場の冒険者が粗野さを隠しきれぬまま、誇張された武勇伝を語るくらいの野卑た感じすら意識したんだけど……。

 それらが下手に噛み合ってしまい、苦労話を虚勢で誤魔化す幼い孫にすりかわり、更なる庇護欲を刺激してしまった。

 

 うーん、長命種に対する経験値の低さがモロに出てるな。

 だって創作物のエルフってそんな感じじゃねぇじゃんね。

 もっとなんか高慢でプライドが高く、頭が硬い排他的な種族みたいな書かれ方してない?

 僕が知らないだけで、指輪物語とかだとエルフってみんなの事を子供や孫だと思っちゃう全方向世話焼きお爺さんなの?

 原典に触れてこなかったにわかオタクな弊害がこんなところで。

 

 コミュニケーションってのは畢竟相手がどう反応するかを先読みし計画を立て、反応を見つつ修正を加えて、望んだ落とし所に持っていくもんだ。

 だからこそ価値観の異なる他種族とのコミュニケーション能力は、一朝一夕で培えるもんじゃあない。

 ボゥギフトでは多少種族が違っても、習俗や文化が同一だからなんとかなってたんだよな。極端な長命種も居なかったし。

 これは今後の課題だね。

 

 

 ……ま、つっても今の状況は、短期的な視点に立てばそう捨てたもんでもねぇ。

 長期的な問題は乱立しちまったものの、絶対になんとかしなきゃいけない目の前の問題には、ある意味有効に働くとも言える。

 なんてったって彼らは孫への助力に手を惜しむタイプじゃあないからな。

 僕らが世界樹の異変に立ち向かう準備は、万全が期される事だろう。

 他人の好意を利用するのは気が引けるが、しかし彼らの依頼した問題解決に手を取り合って立ち向かう為ならば、少しくらいこずるく立ち回っても許してくれるだろうさ。許されなかった分のカルマは死後償おう。

 それになにより僕もお祖父ちゃんが居てくれると嬉しい。

 

 

 その後のことは……なんとかするさ。

 2度も失敗したんだ、3度目は上手くやる。

 みんなが快適に旅ができるようサポートするのは僕の領分だ。

 

 なんとかしなきゃならない事をなんとかできてきたから、僕らは今ここに居るんだぜ?

 

 

 

 ようやく帰ってきたお姉さんが渡してくれた簡易浄化用魔法の粉とスコップを受け取り、今出せる最速の小走りをしながら、僕はニヒルに笑うのだった。

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