【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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次の投稿は一週間後の予定。
なお二日前に【84】と【85】の間に番外編を投稿しています。

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特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。


【90】 まっすぐな愛の言葉

「よ、早かったな」

 

 おっとぉ?

 無事尊厳を喪失することなく、もはや野宿で慣れたもんな後処理を済ませた僕を待っていたのは、驚いた事に闇無(くらなし)君のみであった。

 

 まるで椅子の形のまま生えてきたかのような、魔力で操作された造形の植物に腰掛けた彼の姿は、そのまま雑誌の表紙を飾っても違和感のない完成された構図だ。

 黒い瞳の中にうっすらと秘された紅い色素が、僕を映して瞬いた。

 耽美過ぎますね。こんなんモテモテやろ。バレンタインにはチョコのプールで泳いでそう。いや湯煎しなきゃ溶けないんだっけ? じゃあアツアツだしチョコ温泉かな。排水溝詰まるど。

 

「ごめんごめん、お待たせしました。みんなは?」

「あぁ、ちょうどいいって事でむこうで別の話をしてる。なんか俺たちが居ない方が都合が良いみたいで」

 

 はいはい、なるほどね。

 そらそういう話もなにかとあるだろう。

 ただ無為にみんなに待ち時間を作っちゃった事になんないから、それはそれで僕としても心苦しくなくてありがたい話だ。

 

「少しかかるみたいだったし、30分かそこらちょっと歩かないか? むこうの人にも許可は取っといたから」

 え? マジ? へー、いいじゃん。

 スーパー美少年から笑顔で散歩を持ちかけられた僕は、もちろん二つ返事でオーケーした。

 それは別に彼がスーパー美少年だったからではなく、僕も闇無君と仲良くしたかったからだ。

 ダメだ、なんか結局下心あるみたいになっちまった。

 

 それに、無論良識の範囲内でだが、自由に歩いていいってのも心惹かれる。

 僕はわりと時間が許せば散歩ばかりしてるタチでね。マリカでもコース毎のショトカ探索に余念がないタイプだし。今やボゥギフトなら裏道スラムに昼からやってる酒場までなんでもござれだ。

 

 もちろんエルフさんの案内があった方が色々教えてもらえていいんだろうけど、知らない場所を自由気ままにのんびり散策して見て回るってのは、また別の魅力があるんだよ。

 先に見ておきゃ後で聞きたいこともゆっくり考えられるだろうし、みんなが好きそうな物や気になりそうな場所を見つけてもおける。

 それに闇無君とは全然話せてなかったから、ぜひゆっくりお話しする機会が欲しかったんだ。

 仕方ないとはいえ道中別々の魔車で、休憩時間も知名君の手前あんまりそちらへ行きにくかったし。

 

 

 しかし、彼の断られるとは微塵も思ってない感じ、僕らが持ち合わせていないしっかりとした自尊心を見せつけられて圧倒されちまうね。

 こういうトコ見習わなきゃなのかもだが、しかし成長過程で積んだ成功体験による獲得でないと、どうしても不自然になっちまうからなぁ。

 ちゃんとした真人間になるというのが、こんなに難しいとは……人生のトロコンはまだまだ遠い道のりだぜ。

 

 人間の外れ値たる僕がそんな胡乱な事を考えてるとは露知らず、彼は颯爽と立ち上がり「じゃあ、こっち。軽くこの区画を見て回るくらいはできるらしい」と僕を先導してくれる。

 オイオイ、エスコートまでされちゃうの?

 ホントに僕がオチちゃったらどうすんだよ、7股の上美少年と駆け落ちは道ならぬ恋過ぎんか?

 ごめんけど駆け落ちの際は全員総出で行くことになるから覚悟しておいてくれ。

 そんだけすりゃ少なくとも金トロフィーはもらえるだろうな。

 つまりトロコンしてる人はこんな事も熟してんの? すごいが尊敬はできない。

 

「そりゃ素敵だ。じゃあちと歩いて回ろっか。いやさぁ、衛星集落からココ来るまでに気になってたのがあってね。なんか薬とか小物とか置いてる店っぽい外見のお家なんだけど、そもそもが店なのかもそうだし、もしそうならエルフの里ってどんなお店があるのか興味あるよね。里って聞いてたからもっと小規模な村落をイメージしてたんだけど、この規模なら店は何件かありそうじゃん? こんなに遠出してきたワケだし、どうせなら拠点とする街のみんなにはお土産でも買って帰りたいトコでしょ? そういや闇無君はお土産とかどう? あー、まぁフーゼニスティアの方に帰るタイミングは、またちょと後になっちゃうだろうしねぇ。良いとこだって王城さんからは聞いてるよ。すごく人に恵まれて、異世界に来て最初に辿り着いた町があそこで良かったって……ハイハイハイ、わかるわかる。そうなんだよね、この異世界ってホントに人が良いっていうか。いやもちろんさ、地球と同じく悪い人も居るんだろうけど、会う人会う人良くしてもらっちゃって、これも一つの神の加護ってヤツなのかな? ホントなら僕なんか転移して数日でお陀仏でも、全然おかしくない世間知らずだったからねぇ。闇無君みたいに地球でもいろいろやってた人とは、経験値がまったく違うっていうかさ。……またまた、口が上手いんだから。あ、そういや僕ら今まで交友無かったけど、実はアレは聞いたんだよね、文化祭のバンド。え? いや照れること無いって、めちゃめちゃ上手かったじゃん。えぇ!? 誘われて初めてやってアレ!? す、すげーや……てか僕こっち来てから自分が音痴なの知ったんだよね。宴会で歌うとみんな笑うんだよ? ひどくない? え、あ、聞きたい? しょ〜がないなぁ〜! ココは一つ歩きながら一曲披露しちゃうかぁ!?」

 

 話したい事なんていくらでもある僕は、彼の横についてウキウキで散歩へと出かけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 立派な大木でできた里長の館を出ると、文字通り林立した木々を利用した家々が、それなりの間隔を空けて生え並んでいる。

 里、なんて表現されてはいるが、普通にある程度大きな町の規模感だ。

 ボゥギフトほどデカくはなくとも、奥ガルギンとは比ぶべくもなく、バルツァンにちと届かない程度の大きさはあるだろう。

 長命種は子供が産まれにくく人口が増えにくいとは聞いていたが、けれど平均寿命だって十世紀くらい跨ぐ彼らの一氏族が、そりゃ小さな村に収まりきるハズも無いか。

 

「あんがとさん。お代は今度も外の物でいいから、また滞在中には顔見せなよ」

「あーい! また来るねシェールフさん! いやー、やっぱこういうお店は楽しいねぇ! 良いお土産になりそうなのがいっぱいあるし、帰りは大荷物になっちゃうかも」

「はは、たしかに。青海のその様子じゃ、ほんとにそうなるかもな。俺もつられて買っちゃったし」

 

 お目当てのお店で風の方の白鋼楠製人形だの、とある木の樹液を固めた宝石モドキだのをちまちまと買い漁った僕は、ホクホク顔で同道する闇無君へ話しかける。

 いやはや、よく考えりゃこの国の通貨を持ってなかったから焦った焦った。

 最初は突然やって来た人間種を訝しげに見ていた店主のお姉さんも、里長さんに呼ばれたことを話すうちに態度が軟化してって、最終的に僕が持ってた緑麦の酒やオヤツ用のクッキーで物々交換してくれたのだ。

 

 店に入った頃はそもそも買うかを迷っていた闇無君も、ボゥギフトで知り合った人への土産として、いくつか良さげなものを買ってポーチに詰めていた。

 これまでの少しばかりの会話でわかったが、闇無君はなんというか、とてもノリが良い。

 さっきも僕の歌にあわせて歌ってくれたしな。

 流石にココで帝国国歌は歌えないし、地球で無限に流れてた流行歌を一発。

 文句無しの美声と音程の外れたバカの楽しげな声が、エルフの森の一角に響いたのは記憶に新しい。

 店長から「ビブラートかければ高得点」って聞いてたのに、話が違うぞ。

 

 で、今だって結局僕に付き合っていくつか土産を購入してたように、なにか意見が食い違ってもこちらに気を使わせない軽さで承諾し、他の人がやってたら自分も試しにって追っかける。

 軽く聞いた感じでは地球にいた頃からそんな風らしく、バンドも部活も勉強会も、全て友人やクラスメートのお願いや勧誘、掲げた目標への協力で参加していたそうだ。

 それは意志薄弱なわけでも、卑屈に他人を持ち上げているわけでもない。うぐぐ……。言っといて矮小な自分が勝手に傷ついた。

 

 彼曰く、「誰かがやりたいなら、一緒にやり遂げてみんなで喜びたかった」との事。

 つまり、和を乱さず穏当で誰もが気分の良い結果へと至ることをこそ、彼本人が望んでいたというワケだ。

 そしてその基礎ステの高さから、結果的に全員が満足するという最終目的地へ、闇無君はたやすく到達する。

 スポーツでは無名校だった我が高校が彼単身の活躍で県内ベストエイトに輝き、勉強もみんなと勉強会でやるくらいの量でクラス内トップになり志望校は旧帝、バンドじゃあなんでもSNSでバズって再生回数もめちゃめちゃ回ってたとか。

 

 みんなのやりたい事を一緒にやって、そのどれもで結果を残す。

 それは……言うは易くとも、行うは至難だろう。

 そもそも前提として、全ての事を十全に成し遂げられる能力がなければ、そんなことはまずもって成立しない。

 『成功』を望んだ相手との共同作業でその最終目的に至るには、自身が足を引っ張らず成し遂げる必要があるからだ。

 万人との万事において、そんな離れ業を成せるとすれば。

 

 

 ──それは"万能"に他ならない。

 

 

 チラと傍で歩いている友人を見る。

 僕の視線に気付き、目をぱちくりとしながら「どした?」と聞いてくる彼は、あり得ん美形だ。

 いや違う、それはそうだがそんな話じゃなく。

 彼には他者を惹き付ける引力はあれど、けれど威圧するようなオーラがない。

 

 なんでもできるし、なんにだってチャレンジしますという種類の人間は、どこか他者を圧倒するような迫力を持つものだ。

 溢れ出したバイタリティが、張り詰めた精神から行き場を無くして漏れ出るような、膨れ上がった意思力が自然他者を圧迫する。

 僕みたいな何も持たない人間からすれば、それはまぁわかりやすく察知できる。

 人は他者を覗く時、自身に無いものをつい色付けて認識するかんね。

 醜い色眼鏡をかけた、卑しい人間のジェラシーだと笑ってくれてもかまわんよ。グラサン(色眼鏡)も似合わねぇだろうしな。ついでに金ピカのネックレスしてラジカセ担ぎ葉巻でも吸うか? ガハハ。

 ともかく、根が怠惰で面倒くさがり屋な僕からすれば、彼らのその莫大なモチベーションはどうしたって眩しく見えちゃうもんなのさ。

 

 しかし彼にはそれが無い。

 強い意気込みも、熱い信念も特に感じない。

 

 なにも感じない事が、彼を更に特別な存在へと押し上げる。

 それらの精神的な推力を無しに、彼は息をするようになんでもできるという事だからだ。

 

 自然体で、なんでもないことのように、まるで日課の散歩を熟すがごとく、力むことなく他人の夢を成し遂げられる。

 超人の如く才に溢れ、只人では到底できぬ事を協力して達成し、誰かの望みの為に笑いながら手を貸す様は、まさしく現代を生きる英雄(ヒーロー)のようだ。

 

 

 

 んん……?

 なんというか、それってもしかして、異世界ではこう呼ぶのでは──。

 

 

 

「おや? アレは……正親さんじゃない?」

 

 彼の声にハッと我に返り指差す方を見れば、そこには確かに委員長の姿が見えた。

 商店や住宅代わりの木々が無い、開けた小さな広場のような場所に、彼女は立っている。

 木漏れ日に照らされて、彼女の分けた前髪から覗くデコがぺかりと光った。かわい。

 そしてその隣には、同じ歴史班である知名君が立っ……僕は反射的にその場を離れようとして──しかし、闇無君に手を取られ引き止められた。

 

「……駄目だよ、闇無君。それは良くない。誰かの本当に大事な場面ってのは、その当人たちだけのものなんだ。盗み見て良いものじゃない」

 

 僕のそんな言葉を受けてなお、彼は真剣な眼差しで反論する。

 

「そうだな、それはその通りかも知れない。けれど、そもそも彼女は君が付き合ってる相手だ。他人の彼女に手を出すのは、どんな世界に来ても御法度だろ。……それに無いとは思いたいが、アイツが思い詰めてなにかしないか、正直心配でもある。俺達に与えられた力は、思春期のガキが持つにはあまりに強過ぎる。これは、毒だ」

 

 真摯な表情から紡がれた彼の言葉に、僕は眉をひそめる。

 それは……でも、違うんじゃないか。

 いや、可能性の話だという事はわかるし、そもそも神から力を授かっているという特殊なシチュエーションであることは間違いじゃない。

 

 けれどそれでも、知名君はそういう短絡的な手段に出るタイプではないと僕は思う。

 彼は僕を排除できるあの絶好のタイミングですら、我を忘れずきちんと僕と真正面から対話にて向き合った。

 地球にいた頃から真摯に彼女と接し、まるで教えを説く教師の如く彼女に他者理解を促そうとしたような、相手の心を慮る人間である。

 

 

 これは別に綺麗事を言ってるワケじゃなく……彼が欲しいのは正親さんの心なのだ。

 心を得るには、自身を好いて貰うしかない。

 それを分かっているからこそ、彼は策を講じて彼女と親密になろうとしていた。

 ならば、彼女に強引に迫る事を本人が良しとしないだろう。

 

 そう言い返そうとしたが、僕の口からその言葉が発される事は無かった。

 

「……趣味の悪い。覗きに来たのか、青海」

 

 もだもだしているうちに、知多君に見つかってしまったからである。

 

 慌てて否定しようとするが、その前に闇無君がキッパリと言い放つ。

 

「いいや違うさ、賢人。俺たちは本当にたまたま、ココを通りがかったんだ。俺が保証する。むしろ彼は、ココから急いで踵を返そうとしたくらいだ」

「……フン。どちらでも構わんさ。見られて恥ずべき物ではない」

「まぁ、そうですね。確かに、むしろいてもらった方が私としてはありがたいです。散策へ誘いに行く手間が省けました」

 

 委員長が平然とした顔で言い放った言葉は、まるで彼の神経を逆撫でするかのようなものだ。

 が、別にこれに関しては通常運転なところがあるので、僕はおろか知名君さえ「まぁこういう人だからな……」という苦笑いでスルーした。

 この一点だけでも彼が正親さんに本気だという事がうかがい知れる。

 誰にだってちょっとした短所くらいはあり、それすらも愛おしく思ってしまうのが恋なのだから。

 

「……正親さん。君が、この男を好きな事は、理解した。けれど君は本当にそれで良いのか?」

「それで、とはどういった意味でしょうか。そのような曖昧な指示詞では、何を指しているかわかりません」

「君がこの……青海が複数付き合っている女性の中の一人という立場で良いのか、という意味合いだ。正親さん、僕は……」

 

 

 

 数瞬の間逡巡した彼は、大きく息を吸ってから。

 まっすぐに彼女を見据えて、彼らしく眉間に皺を寄せたままで。

 

 

「僕は君が好きだ。日本にいた時、同じ予備校で机を並べていた頃から、ずっと変わらずに。君を想っていた」

 

 

 なげうつ様に万感の想いを込めて、一世一代の告白をした。

 

 

「君たちの置かれた現状のいびつさは、君だって分かっているだろう。僕ならばそんな不誠実な事はしない。君だけを見て、君のために考えた贈り物をして、あの頃のように話をしよう。……きっと、君を幸せにしてみせる。だから……僕と付き合ってください」

 

 

 とても真摯で、本当に心から思っていた事を打ち明けるような、必死さすら感じられる。

 

 恋敵の僕ですら心打たれてしまうほどに、まっすぐな愛の言葉を。

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