【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話 作:スーパー巨大特濃葛根湯
感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。
ケルセデク風精国は以前から言っていたとおり合議制国家である。
まぁでも合議制なんてのはそこまで珍しいもんじゃなく、なんなら日本の内閣だって合議制と呼べるものだそうだ。
もちろん社会科目が大の不得意である僕は詳しく知ってるワケないので、コレは『聖先生の午前のイケる授業』の方で教えてもらった受け売りだぜ。
既に『午後のイケナイ授業』が存在するせいで、本来ノーマルなバージョンをバラエティ番組名みたいな呼び方しなきゃいけないのバグだろ。
ただ風精国が珍しいのは、その合議制の中でも各里の長たちが満場一致しなければ、議題が可決も否決もされないという事である。
聞けば聞くほどヤバい制度だよね。
そうそう満場一致が出てたまるかよ、ジョブチューンじゃねぇんだぞ。
普通の人間がそんな国を作ればひと月と経たずクーデターが起こり、何一つ決められない無能な議会は丸ごと処刑台の上へと場所を移すことは想像に難くない。
そこに至ってようやくの満場一致で処刑執行が否決されるだろうけれど、もちろん怒り狂った民衆がそれを聞き入れるかは話が別だ。
たりめぇだろ。
満場一致になるまで待ってたら、来年度の予算を決める案が100年経っても決まらずじまいになるのが眼に浮かぶようだもの。
これはもう人間っつー種族には、というか欲望というモノを少しでも心の端に住まわせている全種族には、壊滅的に合っていない破綻した社会制度だから仕方ない。
が、しかしココ風精国は長命種の中でも頭一つ抜けた長寿の種族、エルフさん達が運営する国である。
彼らの気の長さは、本当に僕らと文字通り桁が違う。
たいていの議題は10年かかっても問題無く、本当に大事な話であれば多分だがマジで100年かけてもおかしくない人たちなのだ。
ましてやそれが数日程度なら、マジで待つとか待たせるとか、そういう認識すら生まれない可能性すらある。
そして論より雄弁なその証拠が……今目の前で繰り広げられていた。
「馬鹿者! 風の方が仰られている事が全てであろう! 我らが差し出口を叩くなど不敬である!」
「しかしだな、風の方にわざわざ御足労頂くなど、それこそ不敬の極みではないか?」
「う、うむむ……いや、しかし御方の意思こそが最も尊重されるべきものじゃからして……」
「そう言われれば否定はできんげどもだ。だが我ら末裔の恥の後始末などさせては、父祖に申し訳がたたぬぞな……」
「……それは確かにそうよねぇ」
目の前で幾度となく繰り返される堂々巡りの話し合いに、僕らは大絶賛ゲンナリ中であった。
かれこれ6時間は似たようなやりとりが続いているってのに、当の本人たちはまったく疲労の色を見せていないのが不思議なとこだ。
これが政治家の必須技能だってんなら、僕にゃなれそうもないね。
てかむしろ話し始めた頃より元気にツヤツヤしてきてないか?
風の方と同室バフみたいなんが働いてるとしたら、最悪の永久機関が発明されてしまったぞ。もっともあり得ないヒモバフという代物が存在する以上、全然それくらいの事はありえそうなんだよな。
シーシュポスが永遠に元気だとしても、運ばれてる岩としちゃたまったもんじゃないぜ。
どなたか僕らをこの賽の河原から助けて頂けはしませんか……?
普段寄り合いは各々の里から離れた特別な場所で開かれるのだそうだが、今回はなんでも全ての里長が『風の方にご足労かけられるかい!』との結論に一発で一致し、ここ枯れた蔦の里にお偉いさん方が一堂に会することと相成ったらしい。
その連帯感をもってこの議題にも早々と終止符を打ってもらいたいもんなのだけど、しかし事が事だけに一筋縄ではいかなそうなんだよなぁ。
彼らが喧々諤々と議論を交わしている内容は軽く聞いてもらっただけでおよそ理解できたかと思うが、だいたい『風の方に世界樹の異変を解決してもらおう!』派と『風の方にそんな厄介事の尻拭いさせられるか!』派に二分されている。
つまりどちらに転んでも、結果的に先生は崇められるというワケだ。もはやこうなってくると宗派の違い程度に思ってもよさそうやね。
援軍求めたのはエルフさん側なんだから任してくれりゃいいのにと思わないでもないが、けれどまさかその援軍にほぼ信仰の対象みたいな存在が降って湧いてくるとは思わないだろうし、これはある程度仕方ない事でもある。
……ある程度は、ね。
そりゃ物には限度ってもんがあるからさぁ……。
「今代の風の方はまだケルセデクを詳しくご存じでないそうではないか。先に50年くらい滞在いただき、この国を理解して頂くべきではないかね」
「50年……ぐらいなら、保つやなぁ?」
「いやー、どうじゃろな。あのような状態になってまだ間も無いが、どうも凄まじい早さで枯死が進んじょる気がするぞ」
「ふむ、そもそも世界樹は風の方にとっても肝要な物。まずは憂いを取り除いてからの方が、御方もゆるりと過ごせるのではなくて?」
「「「「「うーん……」」」」」
この気の遠くなりそうな会話をしてる里長の人数でわかる通り、風精国には現在合わせて5つの里が存在している。
それぞれ『芽吹く種の里』、『常磐楓の里』、『開かれた華の里』、『熟れた落果の里』に、『枯れた蔦の里』となっており、当初は3:2で解決してもらおう派が優勢だ……ったのだが、議題があっちに行ってはこっちに向かい、なかなか結論には至っていない。
それぞれの里長さんや、お付きで来られたその縁者さんにも自己紹介してもらって、名前や顔は一致しているのだが、しかしそれもこれだけ長時間話を聞いてりゃだんだん朦朧としてくるぜ。
今も年若い芽吹く種の里長さんと、紅一点の開かれた華の里長さんが、ステレオグラムの如く混ざって立体視で浮かび上がって見えてきたぞ。イケメンと美女が合わさって男の娘になっちまう。
議論が進むならまだしも、一切進展の無い会話を延々と聞かされるのって結構メンタルにくるものがある。
こういった誰かのお話を聞くのが苦じゃないタイプの僕ですら、こうやって存在しないエルフさんの幻影を見てしまうくらいなのだから、他のみんなもたいがい辛そうに見える。
鹿野ちゃんに至っては50分で限界を迎え、アスファルトを固める重機の如く上下動を始め議会に激震(物理)が走った為、早々にリタイアとなりお外へと放出されている。
ギリ授業時間は保てているあたり、彼女と関わってきた先生方の努力が現れてて泣けんね。
先程まで里中を駆け回っていた彼女は、どうやら今は出されたお菓子を食べながら空を眺めるという最高のエンタメを享受中らしい。
逐一彼女から「あの雲は何の食べ物に似ているか」という有益情報が、わざわざ新設されたスレッドに画像付きで送られてきて、僕に万病に効く効能をもたらしていた。
『膨らんだ餅ッス』『じゃがいもかも』『ルマンド!ルマンド!』『サーモンのミ・キュイっぽくないス?』などなど……。
殺伐とはしてないが窮屈な会議の清涼剤として最高で、「ほんわかしちゃうからこういうの無限に頂戴」と返事をしたら、本当に無限に送られてきています。
楽しげな鹿野ちゃんのメッセを受け取ってるからこそ、注意力散漫な僕がこの会議を乗り越えられているという側面は確実にあるだろう。
鹿野ちゃんとお話ししてたら6時間なんかすぐだもんねぇ。
この前なんか「スゲー時間に目ぇ覚めたッス!」と朝5時に揺り起こし散歩に誘ってくれて、そっからぶっ通しで買い食いだの近所の子と遊んだりだのしながら街を歩いてたら気付けば夜だったからな。最高の日だった。
なお僕は翌日久々に筋肉痛で立ち上がる事もできなかった模様。
いくら走り込みしてようと、原付並の速度が出る女の子に14時間引っ張られりゃ足腰おかしなるぞ。
とはいえそれも心地よい疲労で、とても幸せな記憶なのは間違いない。多分だけどレジャー施設に行った翌日ってあんな感じなんだろうな。
……しかし、鹿野ちゃんだけテレパシーの使い方が上手すぎるよな。
元より非言語・感覚的コミュニケーションの分野において彼女は卓越したセンスがあるので、たまたまそれにマッチしたツールがこれまでなかっただけなのだろう。
鹿野ちゃんが幸せそうにおしゃべりできる場所を提供できたことが、僕には素直に喜ばしい。
しかしその笑顔の裏には、僕の扶養費というクソ高い利用料金が隠れている事を努々忘れてはならない……とんだサブスクだ、リボより悪質です。法が規制しないといけない分野だろ。
こんな幼気な少女にそんな重荷を背負わせてたまるか! 次の総選挙ではヒモ禁止法を掲げ国政に打って出るぞ!
新生わんにゃんアオミ大帝国樹立の日は、近い。
どうしてウチの国は毎度国民が犬猫しかおらんのだ? 今度は孤児院の子とか誘ってみようかな。
一方で目黒さんは表情こそ変えていないが──いや表情は見えないから、なんていうか纏う空気感のことなんだけど──1時間経過した頃から少しずつ椅子ごと影の中に沈み始め、今や会議室には額から上しか残っていない状態になっていた。
変化が微々たるものだからか、それとも白熱した議論に夢中だからか、周囲のエルフさんたちは誰一人気づいていない。クッソ気の長いアハ体験かな?
本来わりと失礼にあたる行為なのだけれど、正直めちゃめちゃに面白い。
まあ実際ここに僕らが立ち会ってる意味って無いからなぁ。
向こうも先生以外の僕らメンバーをまったく気にかけてないっつーか、超有名人を前にしてそれどころじゃないっつーか。
こうなってくると一概に僕らだけが礼を失してるとも言えないだろうし、なにより目黒さんがこうなってなお向こうから指摘の一つも無い現状がそもそも良くないわな。
失礼に失礼で返していいとは言わねぇが、なんせ僕らはガキだから集中力に欠けちゃってさァ?
こういう時は向こうが子供だと思ってくれてんのを、せいぜい有効に活用させてもらうことにしよう。
悪王寺先輩は2時間半を超えたあたりで唐突に立ち上がり、至極当然といった風に素知らぬ顔で部屋を出て行方をくらませていた。
まぁくらませたっつーか、僕の脳裏には厳選エルフ美女画像が彼女の感情の揺れ動きに合わせて届いているので、彼女もエルフの里を満喫しているようではあるね。
先輩の退出の際パーティメンバー以外誰も気付いていなかったようなので、多分精神の限界が一時的にスキルの底上げをして強制的に"緞帳"を降ろしていたのだと思う。
ウチのパーティ、戦いの中以外で成長し過ぎじゃないか?
そうやってなんやかんやと逃避行に出れる面子はいいが、そうじゃない組はまぁ悲惨……かと思ったが、なんか見た感じそうでもないかもしれない。
凝り固まった首や肩を回しがてら、ぐるりと周囲を見渡す。うーむ、壮観。
既に7時間の地獄を見てきた者達だ、面構えが違う。
今この場に残っているのは、僕と見る影もなくしおしおに萎びてしまっている明星先輩を除いて「我慢できる」タイプの人だけだった。
明星先輩は当初鹿野ちゃんと同じくらい早く飽きてしまい、終わったら起こしてくれと言い残してさっさとお昼寝タイムに突入。
……するも、6時間後、存分に睡眠時間を満喫し「もう寝れねぇや」と言いながら起きて伸びをしたら、話がマジで1ミリも進んでない事に気付いた時の先輩の絶望に染まった顔は、僕の背に淡い痺れを感じさせた。
おっと、明虐は七つの大罪のうちの一つなので禁止だぞ。天罰てきめーん。
大事な話なのは理解してるし、なにより敬愛する姐御のための会議なのでブチギレてご破算にするワケにもいかず、それ以降先輩は萎れながら話を右耳から左耳へと聞き流し続けている状態である。おいたわしや……。
先生は大人なのでこういった場面もある程度慣れがあるのか、時折こちらをちらりと見て苦笑いしたりはするものの、疲れを見せずいたって平静のままだ。大人ってスゴ。
僕はまだこれ以外会議に出た経験はないけれど、店長が折りにつけ「社会人になるとミーティングや会議が人生の半分の時間を占めるようになり、ウニを食べれない事で損してる人生の半分と合わせて、俺の人生には何も残らなくなる」と語っていた意味を遅まきながら理解した。
もしかすると店長が毛嫌いしていたエリアマネージャーなる人も、実はエルフだったんじゃあないかという疑惑がにわかに生えてきちゃったな。
……もちろん、彼女が一言「世界樹の異変を解決します」と鶴の一声で決定すればみんなそれに従うのだろうけれど、それをしてしまえば先生の指導者としての地位が確定してしまう。
本人がリアルCivを望んでいない以上、その案は選べない。
それを理解しているからこそ、彼女は今の状況を甘んじて受け入れているし、僕らもことさら今の状況に表立って文句は言えないでいるワケだ。
しかしこんな場面においてなお、正道と知名君は持ち前の真面目さからピンと背筋を伸ばしたまま結論が出るのをひたすら待っているんだから、彼女らの勤勉さには恐れ入るぜ。これが成績トップ層と赤点常習犯の差か。
ただ知名君の方は結論の出ない無駄な時間が好ましくはないのか、微かな苛立ちも見え隠れしている。
けれど日本人らしい目上の人間に対する敬意も彼は持ち合わせており、言葉にも態度にも出さずグッとそれを抑えて真剣な表情を崩さない。
本能を完全に御しきる強靭な理性は、彼ならではのものだろう。
そういった点もとても好ましい。
和をもって尊しとなし、自身の悪感情を抑制できる人は、報われるべき良き人だ。
その反面、委員長の泰然自若さはマジで我慢とかそういう話ではなく『待機命令を受けたのでキー入力待ちです』といった風情があり、苦痛とかをそもそも感じていないように見えるから凄まじい。
もちろん実際は疲労するし消耗もしていて、それが自他共に他者より軽微に見えちゃうもんだから、彼女が疲れ果ててしまう結果に繋がってたワケで。
ただ我慢強い人なだけの健気な彼女を、だからこそ僕は常に気にかけていたいし、できるならそのフラストレーションの発散に付き合わせてほしいと思う。
好きなフィールドワークも、趣味の実証実験も、実益を兼ねた細工物探しの商店巡りも、その後に疲れた身体をベッドでくてんと横になって癒やすのも、全部全部一緒にしよう。
そうそう、この前行ったシェールフさんのお店、正道にも紹介したいんだよね。
彼女は外の話と引き換えに、いっぱいこの里の話をしてくれるからさ。
正道、そういうの聞くの好きでしょ?
そんな僕の思考を感じとってか、ピクリと震えた彼女は頬を染めながらこちらへ視線を少し泳がせ、小さくコクリと頷いた。
うぐぐ、可愛過ぎる。
大変勝手ながら我が新わア国の重要文化財として指定させて頂く事にした。
なお今の所みんなから貰った物すべてが登録されており、国の倉庫である僕の宿屋のチェストはもはやパンパンである。
これもまた家が欲しい理由の一つではあるんだよな、自分の部屋がキチンとできたら大きめの荷物入れも置けるだろうし。
王城さんと山算金は、そもそもこういう場面に慣れている風だ。
武道の名家に生まれ厳しい教育を受けてきた令嬢と、百戦錬磨の商人にしてみれば、これくらいの退屈な話し合いはそれこそ聞き飽きているのかもしれない。
となると僕も慣れてかなきゃいけないだろうな。
罪を山分けした共犯者として一生傍に寄り添うのなら、それくらいの覚悟が必要だろう。
僕が地球においてこういった会議の場に同席するとは思えないが、それでも隣に立つに相応しい人品ってものがあらぁな。
まったく顔色を変えないままの彼女から届いた『おやおやぁ、共犯者兼共同経営者兼同居人兼内縁のヒモさんは大変勉強熱心でいらっしゃる。じゃあスパルタでいきましょうねぇ』という脳内メッセージに、僕はどうかお手柔らかにお願いしますと頭を下げるスタンプを送った。
なんだかんだと忙しなく脳波が行き交う僕の脳内に、ピポンとまた一つプッシュ通知が響く。
お、鹿野ちゃんの新作かな?
3分に一回は鳴るこれとても待ち遠しく思っている今の僕じゃ、山算金の隣に立つ資格はまだまだ無さそうだね。
なおこの通知機能はヒモに標準搭載されたモノではなく、なんとなく僕が脳内補完しているものだ。
日本にいた頃はバイト先からのシフト穴埋め要請以外でほとんど鳴った事が無かっただけに、こういうタイミングは逃さず経験値としていく貪欲さが僕にはあった。悲しい代償行為やね。貪食ヒモゴン……。
いやでも実際連絡が来てるのは間違いじゃないんだから、なんか後ろめたい行いってワケじゃあないんだけどね?
わざわざ自前で用意するのが浅ましいと言われれば返す言葉を……うん?
『枝』
送られてきたメッセージを見れば、それは極めて簡素な内容であった。
え、枝? あのチョコのウンマイ小枝のこと?
雲を喩えるにしちゃ珍しい題材だね。
いやしかしその感性を否定はしないぜ、既によくわからんサーモン料理も出てきてたし。
そういった思いもよらない連想から産まれたアイディアってのが、往々にして世界を変えてきたんだ。
現代のダヴィンチによる革命的な名付けを吟味させて頂こうと、画像の方に思考を移せば、そこには。
遥か上空から飛来する、雲より大きな枯れ枝の姿があった。
瞬間。
激しい地揺れとともに、壊滅的な破壊音が響いた。