これぐらいあまあまでハピエンな番外編ください。
【シンタロー視点】
「……熱い…。もう異常気象の域だろこれ。」
額から垂れる汗を拭う。なぜこんな時期時間に外なんかに出なくてはならないのか。
怠いくらいに快晴の天気に、口から零れる愚痴に心が折れそうになる。
「それにしても遅いな…。」
腕時計を確認する。予定時間より早く来たがもうすぐタイムリミットだ。
「昨日、あんだけ張り切っていたし……まさかと思うけど寝坊か?」
まさかと一笑したいところだが普段から抜けているところを見ると否定できない。
一度電話でも掛けてみるか?と思いスマホを取り出す。
いやでも…と思い悩みスマホをポケットに捻じ込む。
今日は、いや今日だけは他の奴らにバレる訳にはいかない。
この日のためだけにわざわざオフライン化した端末を使っているのだ。
たかが電話とはいえ他の奴らに気取られる様な事はしたくない。
近くの街灯にもたれかかりながらほんの少し前の記憶を思い返す。
ある夏の思い出を。真夏の陽炎に誘われた日を。
………
……
…
いや…思い返すと全然まともな思い出ではない。記憶の片隅どころか忘却したほうがいいんじゃないんかあれ
かぶりを振り、頭の中から追い出す。
さっきからこちらをチラチラ見てくる人がいるが何かあるのだろうか
(「…アノヒト、ケッコウヨクナイ?」「ワカル。ダウナーケイイケメンテキナ…」なんて言っているが本人は何も聞こえていない)
だがそれを気にしている暇はない。
いやまて。もしかして似合ってないのかこの格好。
それをみて「ダッサ、プークスクス」なんて笑われているのか…!?
少なくとも雑誌に載っていた服装だぞ!?
なんて唸っていると…
「お、ま、た、せー!!」ドゴォ!
「ごっふぁ!?」
格ゲーのカットイン攻撃ばりに強い衝撃を受ける。
あまりの痛みにプルプル震えそうになる。少し前まで自宅警備員してた俺には致命の一撃だ。
「あれ?シンタロー前より打たれ弱くなった?」
「アヤノ…お前ぇ…」
いい笑顔で心に刃を突き立てるようになった彼女はやはり昔とは違うようだ。
だがそんな些細な変化も今だからこそ感じられるものだ。
「まぁ、そんな小さいことよりどう!この服!」
目の前でお披露目してくれる彼女の服装は真っ白なワンピース
確かこないだモモが新作がどうのと買っていたような気がする。
彼女の雰囲気にとてもマッチしており、この上なく似合っているが
「まぁ…、似合ってるんじゃないか?」
ちょっとぶっきらぼうな返しになってしまった。正直に褒めるのは俺には無理だ。
「……ふぅーん…」
そう小さく呟いてからにやっと擬音が付きそうな笑顔で笑う
「シンタローの好みは貴音さんから聞いてるから隠したって無駄だよ♪」
「なぁ!?」
エネの野郎(野郎ではない)人の趣味嗜好をあっさりとばらしやがって!
「あのアヤノさん?ちなみになんだけどどこまで聞いてる?」
「んー?内緒!!」
「え、ちょっと待て!」
質問に答えることなく走り出した彼女の後を追う。
俺たちが置いてきた青い春がそこにあった。
「ゼェ…ゼェ……ウッ…」
まぁ、元々体力がなく自宅警備員なんかやっていた俺に追いつける訳が無かった。
いい話風にしたかったけど無理だった。
「ふふふ、やっぱりシンタローは体力ないね。」
額に軽い汗をかいたアヤノがスポーツドリンクを持って戻ってきた。
「はい。これ飲んで」
「悪い…」
受け取ったドリンクを呷る。若干の酸味と甘みが心地よい。
「ぷはぁ…生き返る…」
一度で飲み干してしまった。気持ち飲み足りない気もするがまぁいい。
「あれ、もう飲んじゃったの?もう一本飲む?」
アヤノが手に持っていたもう一つドリンクを差し出してくれる
「いやでも」「いいからいいから飲んでいいよ!」
やけに押しが強いが確かに足りないのは本当だ。
「ならありがたくもらうよ」「はいどーぞ」
キャップを開けて渡される。そこまで子供じゃないっての…
受取ったドリンクに口をつけて飲む。この時期に外に出るなら水分はやっぱり必須だな。
次からは頼まれない限り絶対に出ない(確固たる意志)
飲み切ったドリンクのごみを近くにあったゴミ箱へ入れる。
「飲んじゃったねー。そんなに喉乾いてたんだ。」
「ん、まぁ…この天気だしな…。アヤノは大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。私も飲んだし。」
「そうか、それならよか……た?」
なぜアヤノは顔を赤くしている?もしかして暑さで少しやられているのか?
「アヤノ。大丈夫か?顔赤いぞ」
「へぇ!?そ、そんなことないと思うよ!!」
異様に慌てる様子を不審に思う。
予定時間より少し遅れてきたことも引っ掛かる。
もしかして本当は体調が悪いんじゃないか?
「ちょっと触るぞ。」「え、あちょっとまっ…」
抵抗しようとするアヤノを抑え額に手を当てる
「ほぼ平熱か?少し熱っぽい気もするがこの暑さだしな。はやく涼めるところいくぞ。」
「はい…」
アヤノの手を取り足早に目的地へ歩く。
さっきより赤みが増した気がするがとにかく今は先を急ごう。
【アヤノ視点】
シンタローが私の手引いて先を歩いていく。
うぅ…、数年会わなかっただけでこんなに変わっているなんて。
あの頃と同じように先に行く所は一緒だけどこんな風に手を取ってくれるようになるとは思わなかった。
しかし中学の時のように少し捻くれたところは変わってなくて安心したのは内緒にしておこう。
昔はこっちのことなんて一切気にしない性格だった彼がここまで変わったのはつぼみや貴音さんのお陰かもしれない。
私がしたかったのになんてちょっとジェラシーが出てきてしまうのは許してほしい。
でもなんか若干、いやだいぶ女たらしぽくなっているのは納得いかない。
それにしても中々、男前に育っているじゃないか。
さっきの熱測りもイケメン度爆上がりですよ。
「さっきからずっとこっちを見てるが何かあったか?」
「え!?ぜ、全然何でもないよ!」
さっきのやりとりもそうだけどまるで私のこと全然意識してないじゃん…。
それはそれでなかなか腹立たしいものがある。
そっちがそういう態度をとるならこっちも考えがありますよ!
「ねぇ、シンタロー」
「どうした?気分悪いか?」
こっちを気遣って一度足を止めてくれる。
「あの、実はね…さっきの事なんだけど」
心配そうに此方を見てくれるシンタロー。
思い出して顔が赤くなる。だがここは打って出る!
「…さっきのドリンク、私が口付けて飲んだ後だったの気づいた…?」
「…………ン?、エ、アッ!?」
どうやらやっと気づいたらしい。赤くなったかと思えば青、紫となかなか面白い形相だ。
まぁ、私もきっと顔から火が出そうなほど熱い色をしているだろう。
「「………」」
二人して立ち止まり、真っ赤な顔を見合わせては背けるを繰り返している。
「……えへへ…関節キス…しちゃった…ね?、私は気にしてないけど!ほらいこっ?」
繋いだまま手を引き進むことを促す。
「いや気にしろよ。」「いいからほら!」
シンタローの冷静な突っ込みも無視して進む。
今日こそは言ってやるのだ。あの言葉を。
【ちょっとだけ第三者視点】
二人の男女が仲睦まじい様子で並んでいる。
二人は並んでいろんな所に行ったようだ
水族館だったり、
「ねぇ、みてシンタロー!ペンギンだよペンギン!」
「おお、流石水族館の名物だな。愛想の振り撒き方を知ってる。」
「もうちょっと素直にかわいいって言えないの?」
ふれあい体験でシンタローの足元に集合するペンギンたち。
満更でもない顔で一匹一匹に対応するシンタロー。
数匹だけアヤノの元から離れない紫、緑、黒のバンドをつけたペンギン達を撫でる。
昼食を頂いてると、
「ここのご飯おいしいー!」
「普段手作り料理ばかりだと新鮮に感じるな」
水族館近くの料理店ということもあり新鮮な海鮮を頂く。
「わ、ネコちゃんがいきなり。」
「お、こっちにも来た。ここの飼い猫らしいな。」
お店の看板ネコらしい。水色のスカーフを巻いた白猫と紅紫色のスカーフを巻いた黒猫。
動物園だったり、
「お、俺には殿がいるんだ。こ、こんなところで浮気なんて…!!」
「そんなこと言って~。撫でたい手が伸びてるよ~?あと頭の上で鳥さんが暴れてるよ?」
「くっ!!というかなんでこいつらは人の髪を荒らすんだやめろ。」
小動物エリアでウサギを撫でるアヤノ。
必死に手を抑え耐えるシンタロー。その頭の上で髪の毛を荒らす橙や青色のインコ。
またまた動物園で、
「蛇って意外とかわいいんだね…。正直怖いイメージしかなったけど。」
「でかくなる奴は確かに怖いが、これくらいのサイズなら可愛いもんだよな。」
掌に絡みつく薄いピンク色をした蛇を恐る恐る撫でるアヤノ。
のそのそとシンタローの腕を進む黄緑色をしたカメレオン。
いろいろなところへ行き、いろいろな体験をした。
少し前までの環境では考えられなかった出来事だ。
彼がいて彼女がいる。
家族がいて、友がいて、仲間がいる。
少年少女たちが世界に立ち向かい、その手でつかんだ未来がそこにあった。
ならばその先にあるべきは幸せな未来が妥当だろう。
そんな普遍で陳腐なハッピーエンドを君たちに贈ろう。
なんてここから見て願う分には誰にも文句は言われないだろう?』
そう世界に閉じこもった蛇は独り笑っていた。
【シンタロー視点】
炎天下の中、アヤノと二人で並んで歩く。
日差しが熱く、陽炎が立っている。
立てていた予定もあらかた進み、特に目的地も考えず歩いていた。
あの時、振り払ってしまったはずのアヤノの手を取りながら。
「こうやって歩くのも本当、何時ぶりだろうね」
アヤノがそう呟いた。
「あの頃はまぁ…な。」
正直今思い返してもなかなかのクソガキっぷりだったと自負している。
「今はだいぶかっこよくなったよシンタロー。」
そう笑って俺を肯定してくれるアヤノに昔は甘えていたんだと思う。
だから今日でちゃんと言葉にしよう。
いつもの公園にたどり着き、いつもの東屋に腰掛ける
「……なぁ、アヤノ。聞いてくれるか」
「なに?シンタロー」
アヤノが次を促すようにこちらを見る。
「俺は自分で言うのもなんだがコミュ障だ。それに今はニートやってる状態だ。
お前が居なくなってから正直なんで生きているんだろうなんて考えてたくらいだ。
でもあいつら…、キドや遥先輩…、あんまり感謝したくはないが榎本のおかげでここまで来れた。」
荒治療的なものばかりで、体に対する労りがないようなものばかりだったけどこうして復帰できた。
「あんな事件にも巻き込まれたがなんだかんだ解決もした。もう会えないと思っていたお前とも再会できた…。
だから俺も自分の気持ちに素直になろうと思う。」
アヤノの前に膝をつき彼女の手を取る。
なんとなくアヤノも俺が言おうとしていることを察しているのだろう。頬に朱が強く交じる。
「アヤノ、俺は…お前のことが…」
喉が急速に乾いていく感覚に襲われる。身体が硬直し次の言葉が思うように出てこない。
「大丈夫だよ。シンタロー」
アヤノが両手で握り返してくる。その手の熱が固まる身体を解してくれる。
「ありがとう…アヤノ、お前のことがずっと前から好きだ」
やっと言えた。あの時から抱えた思いを。
アヤノは少し目を見開いたかと思うとそのまま顔を伏せてしまう。
ゆっくりと顔を上げるその瞳には涙がすこしだけ、彼女の目元に見えたような気がする。
小さく、ほんとに小さな声でアヤノが話始める。
「ほんとうはね、みんなの為に、さよなら、しようと思ったの。」
「お父さんがおかしくなって、あの蛇が現れて、頑張って止めたの。」
「だけどあの世界に迷い込んじゃって、でも、そんな所にみんなが、シンタローが助けに来てくれたの。」
少しずつアヤノが抱えてきた思いを吐露している。あの時は知らなかった思いを。
「ほんとうに嬉しかった。みんなが来てくれたことも嬉しかったけどシンタローが来てくれたことが本当に嬉しかったの。」
「だから私もほんとうのことを言うね?」
そう言って俺から目をそらさず、握っている手を包み込むように握りなおす。
「わたし…、私もずっと前からシンタローの事大好きだよ」
アヤノからの答えに胸の内に熱いものが溢れそうになる。
見つめ合い、視線を逸らせずにいるとアヤノが花開くようにはにかむとそのまま目を閉じた。
アヤノからの要望に応えるため、彼女の頬に手を添える。
そのまま―
思いのまま―
求めるまま―
応じるがまま―
吸い寄せられるように距離を縮めていく。そして―――
「「「はい、ドーーーン!!!」」」
「がふっ!?」ゴロゴロゴロドサッ
横からトラックのような質量で吹き飛ばされた。
「シ、シンタロー!?」
アヤノの叫びが聞こえた。俺は打ち揚げられた魚のように横たわることしかできなかった。
「駄目だよー。シンタロー君。」「すまんな、シンタロー」
聞こえてくるのは家族愛の強いあいつらの声。
「「姉ちゃん/姉さんはまだ渡さない」」
「キド…、カノ…。お前ら何でここが…」
痛みと衝撃で震えそうになる身体を抑え、襲撃者を睨みつけた。
「私もいるわよ。」
と一人背後から声を掛けられる。まさか…
「榎本…」「エネって呼んでください、ご、しゅ、じ、ん?」
こいつまで居るとは…、いや待てとなると他の奴らも…
「その予想通りっす」「凄いかっこよかったよ…!!」
草むらからひょっこりと顔を出すセト。目をキラキラさせ凄い喜んでいるマリー。
「お前らまで参加しているとは思いたくなかったよ……、だがモモの奴はどうした?」
どうにか立ち上がり服の汚れを払う。こういう騒ぎにはいの一番に首を突っ込みそうなやつがいない。
「モモちゃんはさっき、まねーじゃーさん?って人に捕まってお仕事行ったよ?」
「キサラギさんは大人気アイドルっすからねー」
我が家の稼ぎ頭は今日も大忙しなようだ。結構結構。
だがヒビヤとヒヨリはどうしたのだろう。
「ああ、ヒビヤ君たちなら今日は二人でお出かけしてるっす。」
「仲良く朝から遊園地行くって言ってたね。」
どうやら彼らの恋路も上手くいっているようだ。
だがまだ最初の謎に答えをもらっていない。
「それについてなんすけど…」「お姉ちゃんが朝、大慌てで準備してるときに言ってたよ?「デートに遅刻しちゃう!!」って」
Q.E.D。すべての問題はアヤノだった。
はぁ…と口から大きなため息が漏れた。
だがそんな日があってもいいかと前向きに考える。
独りぼっちだった俺たちがこうして集まって騒ぎ続けられる日が続きますように。
そんな騒ぐ俺たちの間を風が通り抜けていく。
「涼しいね、シンタロー」「…そうだな、アヤノ」
結ばれた手が二度と解けない様に。
また何気ない日々が廻り出していく。
「あ、でも俺の計画ばらしたのは後で罰な」「え!?」