僕は今、知らない人の家で朝食を食べている。
パンだ。
味気ないスープも飲み干した。
これからどうしたらいいのだろうか。
この家の人と思われる30後半くらいの女の人は、何をどう思っているのか
僕のことを自分の息子と思っているらしく言われるがまま、
無理やりにしかし手早く僕をよくわからない格好に着替えさせ、
朝食を食べさせている。
「僕の名前はナオヒコと言います」
「いいから!ご飯済ませたなら王様に挨拶に行かなければならないんだからさっさと来なさい!」
人の話なんか聞いちゃいない。落ち着かずせわしない。
なにやら大事なことがあるようだ。それで僕のことを息子と勘違いしているのだろうか。
それにしてはおかしい。
というか僕もおかしい。なぜ知らない人の家で朝まで眠っていたのだろうか。
友達の家ではない。夢の中か?
僕は考えていると女の人は僕の腕を掴んで引っ張り歩き出した。
家の外に出た。
見慣れない景色に僕は驚いた。
なんと外国だ。
最初は洋風の建物が流行っている町なのかと思った。
でも違う。
石造りの大きな城まであったからだ。
かなり大きい。
どうやらこれからそこに行かなければならないようだ。
「行ってどうするんだよ。何も言えねーよ僕」
「あんたは言われたことにハイハイ言ってればいいの」
なんだそれ。ふざけんな。ハイハイ言いたくないし大体行く理由がない。
「もう16歳になったのよ。勇者の息子としての自覚をしっかりもちなさい!」
自覚なんてあってたまるか!なんだよ勇者って。恥ずかしいぞこの親。キ地がイなんじゃないのか。
手を無理やりにほどいて反対方向に歩き出した。
「ほんとにいいのね!?」
いいにきまってるだろう。僕は勇者じゃない。普通の人間なんだよ。夢ならもう覚めていいよ。
しかし、覚めない。
僕は好き勝手に街を歩き回ることにした。
「おい勇者!」
いきなりに声を掛けられる。知らないゴツい奴だ。鎧を身につけている。おもしろい。なんだこの夢。俺は勇者扱いなのか。
「なんだ!?」
「なんだとはなんだよ。今日はいよいよ旅立つのだろう!?王様にはもう挨拶には行ったのか?」
「行かねーよめんどいし」
「めんどいってなぁ…。まさかそのまま旅立つのではあるまいな?」
「旅立つってどこへ?行かなければならないとこでもあるのか」
「ふざけているのか?魔王倒すのであろう」
「魔王?僕が?それはおもしろい。そうだアンタ強そうだ。仲間にしてやろうか?」
「私はこの町の傭兵だ。嬉しい誘いだがな。それよりまだ仲間を見つけていなかったのか?」
「今日この世界来たばっかだしね。どこ行ったらみつかるかね?」
「?」
「なにがおかしい?」
「それはルイーダの酒場に行けばいくらでもみつかるだろうが、しかし知らなかったのか?この街に暮らしていて」
「暮らしてねーし。で、どこにあんのルイーダの盛り場っての」
「…酒場な。」
僕はこの戦士の格好したオジさんにルイーダの酒場というところを教えてもらい早速に向かうことにした。
「がんばってくださいね勇者様!」
すれ違う人々にいちいち声をかけられた。有名人の設定か。我ながら自己顕示欲に呆れる。いやな奴だなー僕。むっつりだね。
可愛い子もいた。ドキドキした。
「うん。がんばって来るよ!」
なんて返事をしたり。
夢の中なので襲っちゃうのかと思ったけど、なんか今日の僕はどうも理性が働く。真面目だね。
ルイーダの酒場に着いた。
昼間つーか朝っぱらから客がいるいる。酒飲んでるのかな。
僕は酒はまだ飲んだことない。16歳。いい子やね。
「勇者が来たぞ!!」
「仲間探しに来たんか!!?」
「俺!俺を仲間にしろ」
「いや、もうきまってるだろ。」
僕を中心に世界は回っているようだ。ちやほややね。
うーん。どうしようか。ここはやっぱり可愛い子だよね。さすがにね。僕だって男の子だしね。そりゃね。
「キミ!キミに決めたよ僕!いいかな!?」
可愛い子に声を掛けた。僕の好み。優しそうな子。いい子っぽい子。
「えっ!?私•••!?私でいいんですか!?」
びっくりした表情。いいねいいね。イイに決まっている。僕の好みなんだから。
「で、でも…」
不安げな表情だ。なんでだろうか。
「おい!!ナオヒコ!!」
突然背後に僕の名前が叫ばれる。
振り向くと気の強そうな金髪ツインテールの女の子が睨みながら立っていた。
「なに他の女子に声かけてんのよ!!私と一緒に冒険するっつったでしょ!!バカなの!死ぬの!?」
耳たぶを強引に引っ張られる。背は低いし体も細そうなのに力やばい。つーか痛い。
…痛い? 夢の中なのに!?
「ちょっと座んなさいよ」
強い口調で言われた僕は言われるがままに椅子に腰掛けた。
「バカなの!?椅子じゃなくて床!反省する気あるわけ!?」
床に座る。正座。
なんだこれ。勇者の立場はどこへ消えた!?
「で、なんであの子に声を掛けたわけ?」
イライラしているようだ。勇者の彼女だろうか。なぜこんな気の強い女の子選んだし。マゾかな。
しかし人がいっぱいいる酒場の中で正座させるとか凄いな。
ん?
僕正座やん。目の前いる金髪のツインテの女の子は立ってるやん。下スカート履いてるやん。まぶしいくらいに白い太ももが伸びてるやん。
ドキドキ。
そ〜っとね。頭を下げてね。謝るように。でチラっと。
ガスッ!!
膝蹴りだ!!!鼻!!折れる!!!血!!血ぃ!!
「ななな!なにしようとしたの今!!?アタマおかしいんじゃないの!!」
痛い痛い。おかしい。痛い。夢じゃない。夢じゃないぞこれ。ほんとに痛い。
「おい勇者が蹴っ飛ばされたぞ!!」
「大丈夫か!?」
「さすがアメリア家の貴族はやることが違うな!」
「痛い痛い!!」
「おい勇者ともあろう人がわめいてるぞ!」
「でもスカートの中を覗こうとしてなかったか今?」
「変態だ!変態勇者!」
「あの少女もとんでもない力だ!」
「でもあの娘魔法使いなんだろ!なぜあんな力が!?」
仰向けで鼻血を飲み込む。血の味。
ぼくは本当にどうしてしまったんだろうか。
「もう!さっさと起きなさいよ!おいて行くからね!」
金髪の女の子は怒鳴って酒場を出て行ってしまった。
「ホイミ!」
先程声を掛けた女の子だ。僕の顔近くに手をかざしたと思ったら淡い光が僕の顔を包みこんだ。
不思議な光。霧。のような。
…ってあれ。鼻血が。痛みが消えた。魔法か!?
「大丈夫ですか?」
女の子は不安そうに僕の顔を覗き込んで来る。
やっぱりいい子だったんだな。
銀色のサラサラのロングヘアーが倒れこんでいる僕の体に軽く触れてしまいドキドキした。
「はやく後を追った方が…」
「うん」
僕はお礼を言って立ち上がる。
周囲を見渡すと戦士や魔法使いのような格好の人がたくさんいる。
でも僕の仲間はどうやら初めから決まっていたようだ。
「それでも僕は君と一緒に冒険したいな。だめかな」
「そそそんなだめだなんて!勇者様からのお誘いならばとっても嬉しいです!」
少女は顔を赤らめてそう言った。僕はやっぱり勇者なんだなと思った。
「じゃあ行こう!僕はナオヒコ。きみは?」
「僧侶マゴットです!ででも!本当にいいのですか?」
「いいよいいよさあ行こう」
仲間も決まったことだし酒場を出た。
「だから!!なんでその子連れて来るのよ!アホなの!?あなたもなんで着いて来てるのよ!」
外に出るとさっきの怒鳴ってくる金髪の少女が現れた。
つり目で。金髪で。ツインテで。おまけに貧乳ときたもんだ。
僕はツンデレよりどっちかというと優しくてちょっと腹黒疑惑のあるくらいの子がいいのです。
「いいんだよ。僕はこの子と旅をすることに決めました」
「決めましたじゃないわよ!私と旅をするって決められていたはずでしょ!」
キンキン声が頭に響く。ちょっといらいら。
「誰が決めたんだよ」
「お父様よ。知ってるでしょ!私のお父様はこの国の王様の次にえらいの!」
「ははん。つまり勇者にくっついて国を救って手柄をとりたいんだね 。わかるよ。」
「わかったようなこと言わないで。いい?あんたは勇者扱いされてるけどそれがなんなの!?勇者はただの平民よ!貴族の娘である私がいなきゃ何にもできないんだから!」
「そうなの?」
「だから私が一緒に旅にでてあげるって言ってるの!バカなの!?」
「じゃあ一緒に行こうよ。3人で。それならいいはずだ。」
「私がいれば十分でしょ。どうしてわざわざその子を連れて来たがるのよ」
見れば分かるだろう。可愛いは正義なのです。
そのマゴットちゃんは金髪ツインテの威圧にオドオドしていた。
守ってあげたい。
「でも君は魔法使いなんだよね。この子僧侶なんだって。回復役いると思うな。」
「いらないわよ。いずれ私は賢者になって全ての魔法を使えるようになるんだから」
「それって予定でしょ?まだ使えないわけだ」
「うるさい!バカ!勇者のくせに生意気!ぶつわよ!」
「ぶてよ」
バキバキっ!!!
「痛い!!すぐぶつのな!貴族は野蛮だな!」
「うるさい!平民のくせに意見するからよ!!このクソ生意気な平民を今から制裁を下すことにするわ」
「なんだそりゃ。どうすんだよ」
金髪の少女はニヤリと笑みを浮かべた。口端から八重歯が覗いている。
「二度と逆らわないようにするだけ。魔法でね。去勢するの。要するに玉抜き。落ち着いた性格になるし、メス犬見ても変な気を起こさなくて済んで一石二鳥よ」
僕は謝った。頭を土につけて。ごりごりごり。
「わかればいいのよ。ほら行くわよ」
「この僧侶の子は?」
「置いて来なさいっていってるでしょ。」
「だそうです。ごめんね」
「いいんです。わかってたことですから」
僧侶の女の子は少しだけ無理に笑みを作って去って行った。
ちくしょう。悔しい。憎い。貴族は憎い生き物だ。いつかめちゃくちゃにしてやる。
「じゃあ行くわよ。」
「しょうがねえな。」
僕は魔法使いと旅に出ることになった。
名前はなんていうんだろうか。ああめんどくさい。マゴットちゃんと旅がしたかったな。