勇者の家で目を覚ましてしまったんだが   作:nao.P

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新5話。いざないの洞窟

「僕の斬撃は空気を斬る。空気を斬って空間を狂わせる」と言った。

 

言葉にする。言葉にすればそれは可能なこととなる。様な気がした。

 

「空間は歪み、僕が支配する」

 

イメージは大切なのだ、と思った。

 

「頭、オカシイんじゃないの?」

 

今はレーベの村から東。いざないの洞窟。今はもう廃退の進んだロマリアへの地下通路。

朽ち果てた瓦礫とカビ臭い湿り気を含んだ空気。

 

足元は暗い。穴が空いている。落ちれば闇。

 

魔物が巣食い、救いようの無い魔物が僕らを食おうと襲ってくる。

 

魔法使いであり16才にして凶悪なツンデレツインテールでもあるアメリアが言った。

 

「貴方に任せるわ」

 

「何を任せるのだ」と訊き返す。

 

「全部。そのくらい分かるでしょう」

 

「うむ」と僕は口答えせずに返事をする。

 

王族生まれのツンデレツインテールに対して口答えはゲームオーバーになりかねない。

口答えは灰。返答は「はい」が正解だった。

灼熱のツンデレツインテール。そんな異名が似合う魔女子さんである。

身長は目算で161cm。高いヒールではない。先はとんがった深紅の靴。

スカートは短。白い素足をさらけ出し運動性重視なのかはたまた戦場に置いてもお洒落さんを優先しているのか。

自分の容姿に絶大なる自信がある様子で「ふん」とかツンツン気取る自信過剰なお嬢様。

確かに美少女と言う言葉がよく似合う。

顎は細いし唇は柔らかな桃色。やや釣り目なのは女王気質と取れば完璧な角度。

「魔王を倒して世界を自分の物にするのだわ」と言っている。

漆黒の外套と帽子はダーク。端から見れば厨二。そしてはみ出した金色のツインテール。

体重はヒミツ。訊いたら死ぬ。だが身体は細いし胸も無い。言ったら死ぬ。

彼女の苦手な物は暗闇と冷気呪文とトマト。

もしパンにトマトが挟んであったりしたら大変なことになる。

トマトスパゲティを思い浮かべればいい。

僕はトマトスパゲティが大好きだ。

 

僕は飼い主に忠実な犬のように返事をしながら一つアルミラージと言うウサギの形をしたウサギの首を跳ね飛ばしてさしあげる。

 

首がコロコロと転がり闇の中へ落ちていく。

 

「よくやったわ下僕」

 

「いつから僕は下僕なんだ」

 

「何よ。不服なの?」

 

「僕は勇者だ」

 

「困った平民ね」

 

ツンデレツインテールは僕を何かと平民扱いする。

勇者は結局のところ、為さなければ平民だった。今の僕に権限はない。

彼女は王族の血を引いているのだ。だとすればわがままなのは許容範囲。

 

 

ところで、先程屠ったアルミラージはラリホーと言う眠り呪文を使う魔物だ。

 

僕が、誤って一回眠らされてしまった時は恐ろしいことになった。

 

折檻。ツンデレツインテールによる恐ろしいまでの折檻があった。せっかん。棘のムチ。さらにその後の叱責。しっせき。

 

「任せたって言ったわよね?」と眉を吊り上げ、棘のムチにも劣らず武器にもなるツインテールを若干逆立て、そして金きり声で僕を問いただす。

 

「うむり」と僕は静かに言う。

 

「次に寝たら、二度と立てなくする」

 

アメリアは幼さを残す八重歯を妖しく光らせてそう言った。

彼女の魔術によって僕は二度と立たない身体になってしまうらしかった。恐ろしや。と思った。

思春期真っ盛りだと言うのに。立たなくなる。ただごとじゃないぞ。

 

「そんな僕なんて嫌だよね?」

 

と癒し系僧侶のマゴットちゃんに訊ねてみる。

マゴット。蒼白の服は清純。垂れ目はまるで聖母のよう。切り揃えられた前髪は無垢。

身長は目算で156cm。

体重はヒミツ。胸の膨らみは全てを許す包容力。慈悲。

得意料理は羊肉のスープ。

嫌いなものは特に無し。まさに聖母。

許せないものは魔王ただ一人。

 

先程の問いに「勇者様のお身体は私が治してあげます」と優しい声でそう言ってくれた。

 

「うむり」と僕は静かに言った。

 

ツンデレツインテールは僕をキッと睨む。

今は光の届かぬ暗闇の中。きっと怖いのだろう。少しでも僕に気を紛らわさねければ気が済まないのだ。

強がっていたって、僕が突然意味もなく「わっ!」と声を上げて驚かすと「ひゃん!」と可愛らしい悲鳴を上げるのだ。

 

「殺す」とアメリアは言った。

 

冗談は死ぬことと知った。

 

 

突然、馬のパトリが「ヒヒーン」と鳴いた。

馬のパトリ。ツンデレツインテールの愛馬。非常食。言ったら死ぬ。

 

鳴いた先にはお化けアリクイが闇から姿を見せてチロチロと舌を出していた。

問題無い。

 

「僕の斬撃は飛ぶ」と言った。

 

「飛べるよ」と繰り返す。

 

銅の剣。必殺剣。重さは8.5kg。これでカンダタの首を跳ね飛ばそうと考えている。アリクイなどと遊んでいる場合ではない。

 

大盗賊カンダタ。

 

以前体感した強さは、常軌を逸していた。

 

まだ足りない。レベル。思い出しただけで身震いがする。

 

 

「それはお前の世界の物差しで物事を測っているからだ。違うか?」

 

王の言葉を思い出す。思い出しては飲み込む。叩き込む。

カンダタすら倒せないようでは、魔王を倒すどころの話ではないのだ。

 

アメリアを見る。

 

僅か16才の女の子がベギラマを放って一面を焼き尽くすのだ。

 

常識を捨てろ。アリクイはゴミだ。

 

ゴミを片付ける。

 

この先はロマリアだ。

 

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