エアレイダー、キヴォトスで運命に抗え 作:軽トラ(最終作戦仕様)
Vol.0-01
1. 標準任務 ’×n
連邦生徒会の突然の機能不全、それに起因するキヴォトス全域の混乱。
事態は悪化の一途を辿っている。だが、私達の務めは何も変わらない。
物流を維持し、人々の生活を維持する。それだけだ。
―――フェンサリル輸送学校 総司令官
「とは言っても、これは流石にひどくない?」
誰に言うでもない愚痴がこぼれてしまう。
「1人で勝てる訳ないだろー!」
「諦めて物資よこせー!」
ヘルメット団の呼びかけと攻撃を遮蔽物の陰でやり過ごしながら、銃を持ち替えてタイミングを見計らう。
早朝の薄明の中なこともあってか相手の狙いは不確かなのは助かる。なお私の方は全く困ることはない。背負っている戦術支援装置が自身の各種センサーや護衛対象の装甲武装トラックから送られてくるデータを基に敵の位置や動きを演算し、拡張現実的にフェイスシールドに表示してくれているからだ。
敵は少しずつ包囲するように近づいてきている。接近戦になってしまえば数の暴力で押しつぶされるに違いない。
こちらをそのまま押し込めようとしたのか接近してきた相手に、遮蔽から飛び出しながらサプレスガンをフルオートで叩き込む。近距離で散弾を連続で撃ち込まれて崩れ落ちる相手を少しでも遮蔽にしながら転がるようにして後退しコンクリートブロックへ隠れる。が、便利な反面重く嵩張る装置を背負っている関係で私の動きは遅い。何発かは被弾したし、また少し護衛対象までの距離を縮められてしまった。身体の要所要所に装着しているプロテクターが防いでくれた分は良いとして、それ以外の所に被弾した分は普通に痛い。
ここ最近の治安悪化の影響で相手の人数は増え、こちらの人員は不足にしているが故にこんな状態になってしまっているのは分かる。しかし複数台まとめて護送船団方式にしていればこちらも複数人で対応できたのだが。
本来なら支援要員の私が20人近い敵を直接相手取らないといけないというのは、だいぶ無理がある。
せめて前衛に何人かは欲しい所を援護は護衛対象に装備された遠隔操作銃座のみ、となれば尚更だ。
それでもこの場はなんとか切り抜けられる。切り札があるからだ。とは言え、想定より敵が多かったことを考えると相手はなるべく纏めておかないと。
敵との距離がまた少し空いたので、リロードをしてから再び銃を持ち替える。
サプレスガンは後衛の私が乱戦に巻き込まれて敵に接近された時に身を守るための装備で至近距離戦に特化した銃だ。性能としてはソードオフ・ショットガンに近い。そのため少しでも距離が開けばその拡散性が仇となり、あまり有効ではなくなってしまう。
持ち替えた本来の愛銃、リムペットガンは粘着爆弾を撃ち出す銃だ。瓦礫の除去から敵への攻撃まで幅広く使えるのが売りだが、独特の運用を求められる。発射されるのは小型爆弾なので相手をまとめて攻撃できる程の爆発ではないし、連射速度も速くない。
集団から離れている敵や遮蔽物にリムペットガンで爆弾を放ち、起爆ボタンを押す。
瓦礫除去用の爆弾を流用して作られ、その用途でも使う関係上、着発式ではなく無線起爆式となっている。この時間差があるため直接相手に引っ付けた場合以外は他の遮蔽物に逃げ込まれてしまうこともあるが、今はそれでいい。
そうやって少しずつ相手を1箇所に集めていく。
《こちらボマー。これより作戦エリアに進入する。》
戦術支援装置が受信した通信がヘッドセットから流れる。待ちに待った通信だった、これで片付けられる。
「座標DU9-E-57-42、方位315、マークなし、弾種標準、数4。東50メートルに護衛対象のトラック、デンジャークロース」
必要情報を送信しつつ口頭でも伝達する。ハッキング対策のための手順だ、ヘルメット団相手に必要なのかはともかく規定の手順に従う。
《目標地点から離れろ。――ファイア!》
復唱を確認し、問題ないことを伝えると、まだ薄暗い空に風切り音とジェットエンジンの爆音の混じった音が鳴り響き、細い二等辺三角形のような形状の航空機、戦闘爆撃機カムイが高速で飛来し低空を通過していった。
そこから投下された4つの航空爆弾が瓦礫ごとヘルメット団を吹き飛ばしていく。事前に追い込んでおいたこともあり、大部分が爆撃範囲内だったようだ。
見通しの悪い市街地や乱戦になった戦場で適切に砲爆撃を要請する。それが私の、エアレイダー(空爆誘導兵)の本来の仕事だ。
《目標地点への空爆に成功。戦果はあったか?》
カムイからの通信に促されて様子を窺うが、ヘルメット団からの攻撃は止んでいる。攻撃範囲外だったのか瓦礫が上手く盾になったのか、意識を失わなかったヘルメット団が倒れた仲間を引きずりながら撤退している所だった。遮蔽物からそっと身を乗り出すが銃弾は飛んで来ない。これ以上の攻撃は不要だろう。
「ヘルメット団は撤退を開始した、再攻撃は不要。支援に感謝する」
その後は襲撃もなく目的地のD.U.郊外の拠点に到着し護衛任務は終了した。
しかし、まだ仕事が残っている。と言うか護衛任務の方がついでであって、本来の仕事はこれからだ。
D.U.新第3空港統合分校に居る年下の幼馴染にして直属の上司からの呼び出し、それに応じるためにゲヘナからD.U.まで移動する車両に同乗させてもらっていたのだ。
まぁ、それで元々の護衛分隊が別の任務に割り当てられて、1人で護衛任務させられるとは思っていなかったけど。
今回は被害も無かったので報告書はテンプレートを流用して手早く作成できる、楽なのは良いことだ。
「臨時護衛部隊、山風イチホです。任務の報告書は送っておきましたので確認をお願いします。それと申請していた車両を受領したいのですが」
「護衛を受けていた輸送部隊からも報告を受けています。被害無し、お疲れ様でした。バイクは表に用意してあります」
駐留部隊に報告を済ませ、移動準備を整える。
外に出るとようやく明るくなってきていた。太陽の光に都市が照らされて輝いている。近代的な建物が立ち並び、その奥には更に高いビルが見える。
現在の混乱の震源地、連邦生徒会の拠点であるサンクトゥムタワーは見た目は以前と何も変わらず、今日も変わらず空へ伸びていた。
目的地まではこの市街を抜けるのが早い。
建物を出てすぐの駐車場に用意されていたフリージャーは軽機関銃を備えた装甲バイクだ。
治安が悪化している今でも移動には十分使えるだろう。
行く手を遮られてもバリケードが作られていなければ掃射しながら突破すればいいだけの話だ。
「じゃあ行きますか」
グリップを捻り早朝のD.U.市街地へと走り出した。