櫻華のカンデラ   作:おこげの

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ヤバいゲマトリア節を発揮します。

誤字報告ありがとうございます。助かります。


代価(神秘)を支払ってもらいます

 

 それは突然起きた、紫関ラーメン店舗の爆破。未だに砂塵が漂い煙たく息苦しく感じるが、それは煙によるものではなかった。硝煙の臭いに混じる───鉄の匂い。少女と見紛う可憐な白い顔に夥しく血が流れ、白と赤のコントラストがくっきりと明瞭になる。

 

「……………な、んで」

 

燭光のほっそりとした白い手を握るムツキ、薄灰色の髪に付いた埃を払い、顔に触れるカヨコ、体に抱き着き涙を流すハルカ、ショックで俯くアル。皆の表情は暗く、光を失っていた。目を背けたくなる光景に、先生は唇を噛み締め、拳を強く握る。

 

生徒(子供)の命を失わせ(死なせ)てしまった────その重い事実が深く自分に伸し掛かる。

 

「”私は──ッ、なにを…ッ”」

 

痛烈な思いに顔を顰める。あの時、自分がサクラの警告に早めに対処できていれば、その前から警戒していれば────今更後悔しても現実は変わらない。先生の責務を果たせず、あるのは生徒(子供)を守れなかった重い()()

 

「”これは、私の責任だ”」

 

だが今は、便利屋の皆を気に掛けるべきだ、と先生は皆に声を掛けようとする。

 

「”…………皆、一旦ここから──”」

 

「………さない──ゆる──さない」

 

ハルカはブツブツと小さな声で呟きながら、燭光の体からゆっくりと離れる。ギリッと軋む音が鳴る、ショットガンのグリップを強く握りしめている音だった。先生は心配になり、ハルカの顔を覗く。目は血走り、頬には燭光の血が付着していた。目に光はなく、途轍もない形相と化していた。

 

「よくもッ……許さない、許さない、許さない許さない許さない──ッ!!」

 

「”っ!?ハル──ッ”」

 

止めるために、肩に手を掛けようとしたが間に合わず、瓦礫を跳ねのけて外へと飛び出した。そして激しい爆発音が響き渡った。

 

「──アイツら……絶対に許さないッ」

 

ムツキも立ち上がりハルカの後に続く、その際に見たムツキの表情もハルカと同様に、怒りと悲しみに染まっていた。

 

「………サクラ……あなたとは数日共にしただけだけど………とても楽しかったわ……色々と助けられたし、このまま便利屋に居てくれたらって思ったわ………せめて、あなたにの死に報いるわ……アウトローとして」

 

アルは燭光の手を握りに、そう語りかけた。地面に転がっていた愛銃、ワインレッド・マドマイヤーを担ぎ、外へと出ていった。涙を流し、決意した表情で。

 

外の喧騒が激しくなるのを感じながら、ピクリとも動かない燭光の亡骸を見つめる。

 

「先生……皆が相手をしている内に、サクラを外に連れて行こう……手伝ってくれる…?」

 

「”………うん、分かった。ここじゃ、可哀そうだし……ね”」

 

「こんな瓦礫だらけのところじゃ、この子が可哀そうだ……裏の空き地に、静かに寝かせてやろう…」

 

カヨコは俯きながら先生にそう告げる。柴大将もそれに同意し、燭光を担いで外へ出る。先生は燭光の担いだ時に、余りの軽さに、驚嘆の声を漏らす。魂が無くなった亡骸だと嫌にも認識させられる気持ちに陥る。

 

 裏の空き地に燭光を静かに寝かせ、カヨコは暗い顔で燭光を見つめる。

数日共にしただけで、そこまで長い時間を過ごした訳じゃない。まだ怪しいところもあったけど、それでも燭光と過ごす日々は悪くなかったと振り返る。最後に一瞥し、アル達の元へ駆け出そうとするが、先生に声を掛けられる。

 

「”待って、君たちはこれから………どうするつもり?”」

 

「………ある程度壊滅させたら、あとはそのまま逃げるよ。先生には迷惑かけないから、そこは安心して」

 

「”………私も後で向かう、今回の事、先生(大人)として話をしなくてはいけない。できればいいから、他の便利屋の子達を抑えていてほしい。カヨコ”」

 

「………あの様子じゃ難しいと思うけど……分かった。でも先生、私だって、怒ってることは、忘れないで──」

 

デモンズロアを握りしめ、アル達の元へと走っていった。先生は沈痛な面持ちでその後ろ姿を見つめていた。

 

 

 

 

 

          ◆

 

 

 

 

 

「先生……無事だといいんですけど……」

 

「ちょっ!?な、なにこれ、銃撃戦!?」

 

 アビドス高校にて久々に休息を楽しんでいた対策委員会の面々、部室で屯していたところに、突如として警告音が響き渡る。束の間の休息は爆発音によって終わりを迎えた。同じ部室に居たシロコ、ノノミ、セリカ、アヤネの4名は銃と装備を搔き集め、爆発が起きた方向へと駆け出した訳だが、そこには銃弾が飛び交う戦場──彼方此方で爆発が立て続けに起こり、絶え間ない銃声、悲鳴、怒声──かなりの規模の戦闘であると直感で理解した。

 

アビドスの皆は困惑の表情を浮かべながらも、紫関ラーメンの店舗へと向かう。駆け付けるとそこには半壊した紫関ラーメンがあった。看板は剥がれ落ち、壁に大きな穴が空かれていた。

 

「っ…何よこれ、紫関が……」

 

「酷すぎます……」

 

「これは…」

 

「ッ…!先生は!?」

 

シロコの一声で皆は慌てながら紫関へ足を踏み入れる。中は当然の事、爆発によって崩れ、瓦解していた。

周りに見渡し、瓦礫を避けながら足を進めていると、一部赤い水たまりが目に入った。

 

「…………え?」

 

ソレが何かすぐに理解はできなかったが、恐る恐るソレに近づくと、鉄の匂いが鼻孔に入ってくる。皆の背筋に冷たいものが走った。

 

「う、うそ、こ、これって──」

 

「ま、まさか……先生、の──」

 

「馬鹿言わないでッ!!先生の筈がないわッ!!こ、この血が先生のだなんて……ま、まだ分からないじゃないっ!!」

 

口を震わせるアヤネに、セリカが大声で遮る。認めたくない、だけどこの赤い液体は、もしかすると先生のではないか、そんな想像が過る。そんな彼女らの元に、柴大将が姿を現した。

 

「せ、セリカちゃんか?それに皆まで!」

 

「た、大将!無事だったんだね!」

 

「ああ、大丈夫だ、何ともない。もちろん先生も無事だ。今店の裏に居る」

 

「よ、良かった…」

 

先生達の生存を知り、皆は一先ず安堵し表情を緩める。しかし、この足元にある血だまりは彼らのものではないとすると、一体誰のものなのか──再び緊張が彼女達に走る。

 

「だ、だとすると……この、血は……一体誰のもの、なのですか──?」

 

「…………付いてきな、見れば分かる。刺激が強いから、そこは注意してくれ」

 

柴大将は重々しく口を開き、アビドスの面々を引き連れ裏の空き地へと案内する。それに続く道には血痕が点々と続いていて、まるで自分達を案内しているかのようにみえる。そしてその空き地へと到着した。目に入った光景は、先生が沈痛な面持ちでしゃがみ込み、地面に横になっている少女の顔を布で拭っていた。布は赤黒く滲んでいた。アビドスの全員は息を呑んだ。

 

「せ、先生……その子は……」

 

ノノミが声を震わせながら先生に問う。先ほどの血だまりと今鼻に入ってくる血の匂い、その少女の状態は絶望的だと直感する。先生はその少女、燭光から目を離さずにその問いに答える。

 

「”………残念だけど……この子は亡くなった……私の、至らなさのせいで…”」

 

「────」

 

「………ぇ…」

 

皆は絶句した。すぐそこには”死”が存在していた。死という概念は理解している彼女達だが、キヴォトス於いてそれは希薄で、無縁と云えるだろう。日々見聞きしないだろう残酷な事実、それは今目の前に存在していることを嫌でも認識させられた。皆はゆっくりとその亡骸へ歩み寄る。

 

「この子、あの時見かけた……」

 

「”……この子の名前は乃水サクラ。便利屋68に所属していたんだ……”」

 

「っ……どうして……こんなことに…」

 

受け入れがたい事実に、アヤネは口を両手で押える。

 

「”分からない……ヘイローを持っている子は、個人差あれど最低限爆撃に耐えられる強度はある筈だ……サクラが外の人間だからか、それとも普通の砲弾じゃなかったのか、何にせよ、私は風紀委員と話をしなければならない”」

 

先生は立ち上がり、皆の顔を見る。そして重々しく告げた。

 

「”みんな……協力してほしい。これ以上被害を広めない為に、便利屋を復讐に走らせない為にも……皆の力を、貸してほしい─ッ!!”」

 

先生の真剣な面持ちを見て、皆は気を引き締める。人が1人死んでいるこの状況、相手は一体何が目的でこの騒ぎを起こしたのか、疑問と怒り、その他の情勢も相まって、彼女達は先生に協力の返事を返す。

 

「もちろんです…!ここはアビドス自治区です。他所でここまでの大規戦術行動を起こすなんて、はっきりと問い詰めないと気が済みませんっ!」

 

「恐らく、便利屋を捕縛する為でしょうけど、これは余りにも過剰と言えます。人が亡くなっているんです……目的を聞かなければいけません」

 

「戦場が悪化してきてる、これ以上被害が大きくなる前に私達が止めないと。便利屋だけじゃこの数を抑えられないと思う、早めに沈静化させないと」

 

「店を吹っ飛ばしておいて、許せないッ!この責任は必ず取らせるわ!!」

 

アビドスの皆は断固とした態度を示す。先生は頷き、懐からシッテムの箱を取り出す。戦場に赴く前にもう一度燭光を見据えた。眠っている様に見える可憐な顔だが、何度も確認しても生命反応は停止していた。柴大将は燭光の近くに座り込み、優しく頭を撫でつける。顔を歪めていて、普段優しい表情をしている柴大将からは考えられない表情だった。

 

「…この子はよ、初めてラーメンを食べたみたいなんだ。凄くおいしそうに食べていてな……まだ1品しか味わってねぇのによ……ここで終わるにはまだ若いのに…」

 

「………そう、なんだ………」

 

「折角のお客さんが、こんな形で終わるなんてよ……あまりにも報われねぇ……後で供えてやるからな」

 

「”…………大将、サクラを、頼みます”」

 

柴大将は目を瞑り、深く頷く。皆はその話を聞いて心を痛める。燭光(サクラ)の事は何も知らないけど、こんな仕打ちを受けるのは、余りにも理不尽ではないか──そんな想いが湧き、怒りの感情も湧いてくる。先生が「行くよ」と指示を出し、皆はそれに応じ、銃弾飛び交う戦場へと駆け出した。取り残された2人には静寂だけが残った。

 

ピクリ───と、僅かに燭光の指が反応したことは、誰も気づかずに────

 

 

 

 

 

 

          ◆

 

 

 

 

 

「痛ったぁ……」

 

 激しい銃撃と爆発を受け続け、ダメージが蓄積しているの自覚しながら立ち上がる。その際に痛みが走り、声を漏らす。痛みを我慢しながら周りを見渡すと、殆どの隊員は倒れ伏しており、僅かな隊員で戦闘に対処している状況だと把握した。

 

「便利屋の奴め……突然襲い掛かってくるなんて……あんな必死な様子は何なんだ…?」

 

「教えてあげようか?」

 

背後から冷たい気配を感じたイオリは、銃身を真後ろに向かって素早く振るう。声の正体は目を細めて此方を見据える鬼方カヨコ。体を屈めてイオリの攻撃を避け、そして腹部に弾丸を数発撃ち込んだ。イオリは痛みを我慢しながら後方へ素早く下がる。

 

「ッ……」

 

「あんた達は私達を追うためだけに、ここまで大勢の隊員を送るはずがない。何か他の目的があっての行動………何が目的なの?」

 

「……お前ら、規則違反者を捕らえる為だ」

 

「────ふざけないで」

 

カヨコが低い声を吐き、強い睨みを利かせる。その威圧を受けたイオリは一歩後ずさる。

 

「それで店を爆破したの?他所の自治区でもある場所で?そもそもこんなやり方で捕まえられる程私達は弱くない……風紀委員であろう人間が、ここまで無鉄砲で杜撰だなんて…………がっかりだよ、ホント…」

 

「ッ……言わせておけば─ッ!」

 

イオリは銃を構え直し、戦闘の体制に入る。ふと周りに目を向けると、徐々に隊員が便利屋達にやられていくのが目に映った。鬼気迫る様子で次々となぎ倒していく様は、どこか様子が変だと疑問に感じる。

 

「死んでください死んでくださいッ!!死ね!!死ねえ!!」

 

「あッははは!!いいねぇハルカちゃん!!私もガンガン撃っちゃおうかぁ!!」

 

「ふぅ……この程度なのね、風紀委員は……」

 

ショットガンを乱射しながら暴れ回り暴走するハルカ、ハルカに触発されて次々と手榴弾等の爆弾を散布するムツキ、冷静沈着に敵を打ち抜くアル、このままじゃ負けると冷や汗を掻くイオリ。そんな焦りを感じている彼女の元に更なる情報が流れ込む。

 

「た、大変です!便利屋以外の部隊からの攻撃が確認されました!!」

 

「はぁ!?なんだって!?くっ、こんな時に……どこの誰だ──!?」

 

「か、確認します!───あの校章……アビドス高校です!」

 

「アビドス?たしかこの自治区の……マズいな……チナツ!応援要請をお願い!………チナツ?」

 

イオリの呼びかけに、チナツは反応せず、俯いてタブレットに目線を落とし続けていた。そして奥からアビドスの面々が此方に駆け寄ってきた。アヤネは前に出て相手に問う。

 

「アビドス対策委員会の奥空アヤネです。ゲヘナの風紀委員会とお見受けしますが、これ一体、どういうことでしょうか?」

 

「………そ、それは…」

 

チナツは逡巡し、イオリはその様子を見て戸惑っていた。突如、上空からドローンがイオリ達の元に飛来してくる。そして電子越しの声が響き渡り、ドローンからホログラムが投影される。

 

「私から答えさせていただきます───こんにちは、アビドスの皆さま。それに先生、序に便利屋の方々も、私はゲヘナ学園所属の風紀委員会行政官、天雨アコと申します」

 

姿を現したのは、ゲヘナ風紀委員会行政官──天雨アコ。端末を握り、薄らと笑みを張り付けている。皆の視線はアコへと集まる。

 

「あ、アコちゃん…」

 

「アコ……行政官」

 

イオリはどこか情けない、引きつった表情で。チナツは顔を青くし、小さな声で彼女の名前を零す。アコは周りの光景を見た後に、2人へ視線を移す。イオリはいつも通りと見受けるが、チナツの様子がどこかおかしいと首を傾げる。

 

「行政官ということは……風紀委員会のナンバー2……」

 

「……実際はそんな大したものではありません。あくまで風紀委員長を補佐する秘書みたいなものでして…」

 

「本当にそうなら、そこの風紀委員達がそんなに緊張するとは思えない」

 

「だ、誰が緊張してるって!?」

 

「……素晴らしい洞察力です、確か、砂狼シロコさん、でしたか?」

 

食って掛かるイオリを一瞥し、引き続き話を進める。先生はそのやり取りを眺めながらこれからの算段を立てる。

 

「───なるほど、現在はあなた達が生徒会の役割を担っていると……失礼しました。全員、銃を下ろしてください」

 

アコが片手を上げ、周囲にいる風紀委員は銃を下ろした。アビドスの皆は不審げな目を向け、便利屋の皆は真顔、又は鋭い睨みを利かせ、銃のリロードをした。

 

「先ほどまでの愚行は、私の方から謝罪させていただきます」

 

「ぐ、愚行って、私は命令通りにやったんだけど…」

 

「イオリ──命令に「無差別に発砲せよ」なんて言葉が含まれていましたか?」

 

「い、いやそれは…」

 

「ましてや他の学園自治区の付近なのだから、きちんとその辺りは注意するのが当然でしょう?」

 

「う、うぐ…」

 

たじろぐイオリに、アコはため息をつく。「後で反省文を書くように」とイオリに釘を刺し、視線をアビドスの面々に戻す。その言葉を聞いた便利屋が大きく反応する。攻撃の命令を出したのはイオリと見て間違いないだろうと判断した。

 

「お前が……あの砲撃を……ッ」

 

「…………」

 

ハルカは今にも飛び出しそうといった様子で、ムツキは静かに銃を構える。便利屋達の気が立った動きを確認した先生は、直ちにアコへと話掛ける。

 

「”本題に入ってもらってもいいかな?”」

 

「失礼しました、シャーレの先生。では説明いたします」

 

「──私達風紀委員会あくまで、私達の学園の校則違反をした方々を捕らえる為に来ました。そこにいる便利屋68の事です………望ましくない出来事もありましたが、ここは風紀委員会としての活動に、ご協力頂けませんか?」

 

「”………なるほど……ね……その影響で、犠牲が出たことまでは把握してるかい?アコ……”」

 

「……ふむ?…犠牲…というのは?」

 

先生の云う「犠牲」という言葉に、首を傾げるアコ。その動作が癇に障ったのか、便利屋とアビドスから怒りと悲しみを含んだ口調の声が投げ掛けられる。

 

「あんた達のせいでッ!!うちのサクラちゃんが死んじゃったんだよ!?ふざけるもいい加減にしなよ!!」

 

「あなた達の砲撃が店に直撃して、便利屋のメンバーである乃水サクラさんが重症を負い、その後息を引き取りました……他の学校の敷地内でこの違反行為に加え、死者まで出ました……この責任はどう取るつもりですか…?」

 

「お前達は絶対に……許さないッ!!」

 

「………………………ぇ」

「────────────は?………何ですって…?」

 

イオリとアコがそれぞれ声を上げる、イオリは呆然とし、アコは信じられないといった表情に変わる。先ほどのチナツの様子がおかしかったのは、その事が関係していたと結び付け、チナツへと視線を向けた。チナツは一瞬肩をビクッとさせ、手元にあるタブレットを持ち上げた。

 

「……ド…ドローンでスキャンした結果……トリアージのタグは………すでに黒……死亡を、確認しました……」

 

そのタブレットに表示されていたのは、ドローンによって撮影された燭光の血塗られた亡骸。夥しいスキャン結果の文字が羅列されている。その画面を見たイオリは血の気が引き、顔を蒼褪めさせる。アコも同様な反応をした。

 

「な、なんて……ことを……こ、これでは……」

 

周りの風紀委員達もざわざわと動揺と困惑が走る。一人の人間が死んだ。信じたくない事実が重くの伸し掛かる。これでは計画も、何もかもが瓦解すると理解せざるを得ない。キヴォトスでも殺人は重い罪に当たる。アコは顔をくしゃりと歪め、意図せずイオリに視線を移してしまう。

 

「ぁ……ぇ……ちが、こ……はずじゃ…」

 

足が竦み体を震わせるイオリは、最早目も当てられない。だがイオリを責めるのは間違いだと思い直すアコ、実際に実行したのはイオリだが、元々は自分が指示し命令した──元を辿れば自分が独断に動いたことが問題だろうと悟る。ふと便利屋の皆に視線を向けると、此方を射殺すような鋭い視線を向けられていたことが分かった。アビドスの皆も此方を責めるような視線を向けている。

 

「………わ、私は、ただ……」

 

声を震わせているアコに、先生は痛ましい目で見つめる。彼女もこうなると思っていなかった筈だ。このまま放置したら双方に被害が出ると予想した先生は、この騒動を治める為、口を開こうとした矢先───不思議で優し気な声がその場に響き渡る。

 

「そこまでですよ、皆さん」

 

皆は一斉に声が聞こえてきた方向へ振り返る。そこには砂埃に濡れ、血の跡が見える燭光が立っていたのだ。アビドスの面々は目を見開き、便利屋の面々は燭光へと駆け寄った。

 

「さ、サクラちゃん!?い、生きていたの…!?」

 

「いえ、私は確かに死んでましたよ。」

 

ムツキの疑問にあっけらかんと答える。その答えに一同は困惑する。脈はなく、息もしていなかったのを確認した筈だ。息を吹き返した?と考えるが、あの大量出血した後だと厳しいとカヨコは冷静に判断する。

 

「さ、サクラ……体は平気なの?あれだけ出血したら、普通は死んでいてもおかしくはないと思うけど…」

 

「今こうして私は生きているのです。些細なことは気にしなくていいではありませんか」

 

「さ、些細って…あなた死んでいたのよ!?もうっ、心配かけないでよ!!」

 

アルが涙しながら燭光へそう叫ぶ、その様子に皆は安堵したからだろうか、張り詰めた空気は霧散しつつあった。燭光は周りの様子を見渡し、ハルカと視線が合った。

 

「……ふふっ、もう大丈夫です。私は生きています。初めてお会いした時に云いましたよね?私は皆さんにない力を持っていると……私が()()したのも、その力のお陰なのです」

 

「……さ、サクラ、さん、い、生きてる…?」

 

「それでもこの体は色々と難儀なものですのでうっ──」

 

「サクラさんッ!!!!」

 

ハルカが頭突きをするように燭光へと抱き着いてきた。その衝撃で燭光は痛みの声を漏らす。胸元に目線を落とすと、ハルカの目尻には涙が溜まっており、そしてそれを溢れさせた。胸に顔を埋め、そのまましがみ付いた形となった。先生達も心配そうに此方へ駆け寄ってきた。

 

「”さ、サクラ!!良かった…!!体は大丈夫かい?”」

 

「正直、まだ体が痛みますね。ハルカさん、可愛い顔が私の血で汚れてしまいますよ?」

 

「えっと、サクラ…さん?本当に平気?」

 

「サクラさん、治療が必要でしたら、医療パックを所持していますので遠慮なく言ってください!」

 

「ふふ、皆さん。心配してくれてありがとうございます………ですが、その前にやっておくべきことがありますので、それは後に」

 

燭光は笑みを深くし、ハルカをそっと優しく放す。「あっ…」とか細い声を漏らすが、燭光は「また後で」と頭を撫でつけ、風紀委員が居る場所へと歩き出す。アコ、イオリ、チナツが居る場所まで近づき、そして唐突に自己紹介を始めた。

 

「初めまして、私は乃水サクラと申します。よろしくお願いしますね。所属は、最近に便利屋68に入ったアルバイト……ですね。フフッ」

 

「…………え、えっと……風紀委員会、行政官の…天雨アコ……です…よろしくお願い、します…」

 

「え、えっと……銀鏡イオリだ……よろしく…」

 

「ひ、火宮、チナツです…よろしくお願いします……」

 

3人は困惑しっぱなし、といった心境だった。自分達の攻撃のせいで死んだと思われた人物が、今ここで笑みを浮かべながら自己紹介をしているという状況に、先ほどまで硬直した思考が、却って混乱へと陥った。それでも首を横へ振って、状況を飲み込む。アコは深呼吸し、燭光を見据えた。

 

「……この度は、大変申し訳ありませんでした……」

 

アコは深く頭を下げた。それに釣られてイオリとチナツも頭を下げ、謝罪の言葉を吐く。

 

「す、すまなかった!!わ、私のせいで」

 

「本当にごめんなさい、まだどこか痛むのでしたら、救護班を呼びつけますが…」

 

「いえ、必要ありません。代わりに要求をするならば────あなた達の神秘()を頂きます」

 

燭光は片手を徐に掲げる。すると、紫関ラーメンの方向からあるモノが引き寄せられてきた。ソレは燭光が持つ、奇抜な杖。ソレが飛んできて燭光の手に収まる。皆はその様子に目を丸くさせた。燭光はその杖のリーチを長くさせ、先端の三枝に灯火を宿らせる。まるで魔法使いのスタッフの近いイメージだった。次の瞬間、3人とその他の風紀委員の体が寒色の光に包まれる。皆はその現象に動揺する。暫くすると次々と風紀委員の面々が倒れていった。

 

「こ、これは!?一体何が!?」

 

「私は──物事には大なり小なり、責任が伴う…と考えてます。貴方達は私の()を一時的とは言え、それを消しました。殺人、それは重い罪……感じましたでしょう?その身と心に深く伸し掛かった重みを……それが責任(重み)なのです」

 

「なんだッこれ……力が抜けていく…っ?」

 

燭光は目を開いた、それは右目だけではなく、包帯を巻いていた方の左目も開かれる。完全なる開眼───その双眸と視線を交わした時、皆の体が震え、拒否反応を示した。燭光の左目は、眼球でいう白目の部分が、万華鏡の模様になっており、瞳は皆既日食の様に漆黒で、その外環には紫色の光の、コロナともプロミネンスともとれる形容しがたい形となっている。

 

「”サクラ──ッ!!一体、何をしたんだい!?”」

 

「代価を支払って貰っています。心配はありません、暫くの間、力が抜けて動けなくなるだけですよ」

 

「”……そこまでにしておこう、もう充分だよ”」

 

風紀委員の苦しむ様子に我慢ができず、燭光に止めるように促すが、燭光は首を横に振る。

 

「いいえ、()()ではありません。それを決定するのは私です。先生、私は生徒(子供)であれど、少なくとも責任はあると思います。経験し、積み重ね、そうして成長していくのです。賠償にしては軽い方ですよ?」

 

「”それでも、全員を苦しめるやり方は認められない。罰を受けるにしても、他のやり方がある筈だ。君のやり方は少し強引だと思う”」

 

「ふむ?……そう考えるのは自由ですが、被害を受けたのは私であり、そして賠償内容を決めるのも私です。──納得がいかない様ですね。ならば代わりに貴方が支払ってくれるのですか?」

 

「”うん、私が代わりに支払うよ。今回の事は、私にも責任があるからね”」

 

「…………ふふっ、ふふフッ、フフフフフッ……面白いですねぇ先生。貴方が責任を負う必要はないと思いますが……なぜ?なぜ?なぜその様なお考えになるのでしょうか?」

 

アビドスと便利屋の面々は、訝しみと戸惑いの視線を先生と燭光(客卿)に向ける。燭光のが生き返り、安堵した束の間、風紀委員の皆が謎の光に包まれた後に突如苦しみだし、次々と倒れ伏していく光景が広がっていく。この異常な事態の原因は、燭光が杖から謎の光を発生させたからだと見ている。

 

「ど、どうしちゃったのよ……サクラ…」

 

「サクラ……もしかして、怒っているの?」

 

「サクラちゃん……」

 

燭光の後ろ姿を見つめ、心配の声を漏らす便利屋。

 

「ん、やっぱり不気味だ。あの子」

 

「失礼だけど、あの様子は普通じゃないわね…」

 

「せ、先生と何か言い合ってますね」

 

燭光のただならぬ気配を感じ、警戒を強めるアビドス。そして、燭光の疑問に先生はこう答えた。

 

「”そうだね……確かに、風紀委員の皆は間違いを犯したかもしれない。君を傷つけ、罰を受けるべきかもしれない、だけど、一度の間違いでもを赦さないといけないんだ。失敗は──誰にでもあることなんだよ”」

 

「”痛みを伴うやり方では、却って恐怖心が溜まり、成長を妨げてしまう。こんな苦しみを感じて成長させるのは、望まれたものじゃない……私は先生(大人)として寄り添い、反省を促して共に理解する。皆が、笑顔で成長できるように”」

 

「”その為なら、責任は──私が取る。もちろん、サクラのもね”」

 

───沈黙に流れる。燭光から笑みが消え、そして口をゆっくりと開いた。

 

「……私を生徒(子供)と認識しているのですか?」

 

「”うん、そうだよ。君はまだキヴォトスについて色々と知らないみたいだし。学ぶ必要があると思うんだ。まぁ、私も此処に来たばっかで分からないこともまだ多いけど……共に、学んでいけると思うんだ”」

 

そう云い、優しく微笑む先生。燭光はその優しい表情と慈愛の視線を受けて、神秘()の収集を解除した。イオリやチナツは疲労を感じながらも立ち上がる、ホログラムが乱れたアコの姿も通常に戻る。額に汗を流しながら、他の風紀委員の安否を確認したいた。

 

「はぁ……先生、正直に言いますと半知半解…という感想です。ですが……その理解ができない未知(感情)が、私を成長させる……その可能性は感じました。それに免じて、支払い先は貴方に変更します」

 

「”そっか………ありがとう”」

 

「言っておきますが、今回だけですよ。……さて、先生にはどのような代価を払っていただきましょうか…?」

 

「”え、えっと……あまり痛いのは勘弁したいな~って…”」

 

「ご安心ください、そんなことはいたしません、先生には。……それにしても、このように目を交わしていますが……先生は私の目が怖くないのですか?実はよく不気味で怖いと云われてまして」

 

「”えっ?うーん………全然そんなことない思うけど……むしろとても綺麗だと思う。特にサクラの左目、キラキラしててとても綺麗!”」

 

屈みこみ、燭光の顔に近づき。目線を合わせて、綺麗だとそう感想を零す先生。戸惑っている燭光に、にっこりと笑みを浮かべる。思わず顔を逸らし、頬を僅かに赤くさせた。

 

????????なぜ、私は視線を逸らした?神秘()を持たぬ人間に、なぜ?………落ち着かなくては、いや、もしろこの方がいいのか?サクラメントゥムの判定に必要になるかもしれませんし……

 

───と考えていた矢先に、大きく煌めく光を、力強い気配を察知した燭光は、その方向へと視線を向けた。そこに現れたのは──

 

「───アコ、この状況、説明して……一から十まで、全部」

 

「─────これは……僥倖ですね。ふふ、フフフフフ……」

 

 

ゲヘナ風紀委員会、委員長───空崎ヒナの姿だった。その姿を捉えた時、燭光は三日月のような笑みを浮かべた。目を見開き、垂涎の視線を向け続けていた。

 

 

 

 





設定やキャラクター、文章についておかしい所が有ればご指摘くださると幸いです。

修正は度々します。

冷静を装っていますが、根に持っているようですね。燭光君。これがキヴォトスだよ♡

燭光の左目の瞳、どこの色彩だろう??厳密には別物ですが、詳しい内容はまた後で判明する予定なので、悪しからず…

女先生の屈みこみ至近距離スマイルに思わずドキッとした反応……どうしたの?サクラちゃん?

次回はヒナとの対面、ホシノと同等の神秘()を持つ彼女、自分を欲望を抑えられず、ヒナに今回の責任として、代価の要求する。そしてそこにホシノも到着し…………便利屋達はより燭光のこと気に掛けます。死を目の当たりにしたんだからね、心配になるよね。仕方ないよね?
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