お昼ご飯を食べてから、この村の唯一の薬師であるオババというゴブリン族のお婆さんに会いに行く。オババというからにはかなり高齢なのだろう。
ガラルはセスに良い加減仕事をしてくださいと言われ屋敷で泣く泣く仕事だ。リリィはいっしょにくるらしい。絶対に娘といい感じになるな!! と言われてもそれは聞けない話だ。
だってもう両思いだし〜 うちら結婚するもんね〜 って心の中のギャルが出てしまった。あれ、これって初デートでは!? キャ────!! とトオルの内なるギャルがまたもやときめいていると、リリィは心配そうな顔でこう言った。
「トオル、オババに惑わされちゃだめだよ。オババはとてつもなく意地悪で、しょt、ゴホン、トオル君みたいな子に目がないの!!」
いや誤魔化せてなくね? 意地悪で高齢なショタコンって誰得!? 僕でも守備範囲外だな〜、わ〜行きたくなくなってきたぞ、とは言えずオババの家に向かうことにする。
村を歩きながら、オーラン村の様子を見る。村の畑には小麦畑が広がっていた。アナザークラウドは春なのにもう実をつけている。日本では秋に種まきして、翌年の6月から8月に収穫をするらしい。
ちなみに1日の時間も24時間で1月から12月で一年という暦も地球と変わらないようだ。もしかしてこの世界の創造神は地球を意識してアナザークラウドを作ったのかもしれない。
いずれ、ミリアにこの世界の歴史について聞かなければね。神様ノートがあるじゃんって思うかもしれないが、情報が膨大すぎて見にくいのだ。
まあ検索機能もあるよ? じゃあ検索すれば良いじゃんって方もいるだろう? うーん、めんどくさい。聞けることは聞いた方が早いのだ。僕はそういう性格だから許して欲しい。
話を戻すと、アナザークラウドでは小麦の生態も違うのだ。アナザークラウドでの小麦の生態もいずれ語ろう。というか野菜畑がないが、オーラン村では野菜はないのか!?
一回も食事で野菜が出てきてないし、人族の僕は良い加減ビタミン不足で死にそうだ。オババにちょうど良いから食べられる山菜がないか教えてもらおう!!
「ねえ、僕ちゃん思うんだけどトオル君の錬金術ってポーションも作れるの??」
どうなんだろう?? そもそも僕が使っている錬金術とこの世界の錬金術は大きく違ってそうだし。そこら辺はスキルの解説欄にも載ってなかったんだよなぁ。
僕もわからないなぁと返すと、そうだよねぇ〜〜と相槌が返ってきた。その後もさっきの黒パンおいしかったけどまた作ってくれるとか??
ゴン太の稽古の前の話、厳しかったけど大丈夫だった? とか聞かれて適当に答えながら歩いてた。それと、と言って、近寄ってくるリリィお姉ちゃん。
耳元で小声でまた泣きたくなったらお姉ちゃんの胸の中で泣いてもいいんだよ?? と言って微笑んでくれるリリィお姉ちゃんは女神に見えたよ。もうミリアじゃなくてリリィお姉ちゃんが女神でいいんじゃないかな!!
そんなアホなことを透が思っていると、やっぱり……
『へー、誰が最初にトオルのお世話してあげたかわすれたのねー あんよが上手! あんよが上手! って私に言ってもらってたの、リリアナに念話でバラしちゃおっかな〜』
ヒィ!! 赤ちゃんプレイの内容を語るのはやめてくれ! 僕が悪かったよ!! ミリアお姉ちゃん!!
『もう都合のいい時だけお姉ちゃんってつけても許しません!! 今度そっちに行くから、その時に私もオ・シ・オ・キしてあげるわ!! 逃げたら許さないんだから!!』
ま、まじか。お姉ちゃんってつければ何でも許してくれると思ったのに…… ていうか、さっきは聞き流してたけど本当にこっちに来るつもりなんだな。ハハハ、乾いた笑いが出た。
リリィお姉ちゃんとミリアが出会ったらどんな争いが起きるやら…… 想像しただけでも怖い。女神のオシオキも色々な意味で怖いな!! もうなんでも良くなってきた。どうにでもなれ〜〜
頭の中でギャーギャー騒ぐミリアの声をスルーして、リリィお姉ちゃんと甘々な雰囲気で喋っているとオババの家に着いた。
オババはどんなおばあちゃんなのかな?? と思いながら扉をトオルがノックするとは────ーいと大分間延びした若干高い返事が返ってきた。あれ? 想像した声と違うぞ? 扉を開けるとそこにいたのは……
黒髪は肩までかかったロング!! 赤い目をした妖艶な美魔女だった!! 身長は僕より少し高め。大体165センチってところだろう。額には角が少しだけ生えており、吊り目で鼻は平均より少し低いくらいで丸みがある。
口元は形の良い感じで口元の左下にホクロがあるのがセクシーだ。小顔で顎もシュッとしている。胸元はリリィお姉ちゃんより大きい。リリィがDならオババはFって所だな。
一言いいですか!? どこがオババやねん!! めっちゃ美人なお姉さんなんだけど!? ネーミングセンスおかしいだろ!! 気になったので鑑定しようとすると鑑定スキルが弾かれる。
ここでハッとする。スキルの説明によれば鑑定スキルが僕より上位な場合、鑑定スキルが弾かれるとある。つまりオババは鑑定スキルレベルマックスの僕よりも上位の鑑定スキルを持っているってことだ。
ここで僕のステータスを密かに確認しておく。確認しないとすぐに忘れてしますからな。
名前:トオル カムロ
性別 男性
年齢 18歳
ステータス
体力 E
魔力 C
筋力 G
器用さ E
防御力 F
速さ D
運 B
スキル 鑑定 レベル10(マックス)
異世界翻訳言語スキル レベル10(マックス)
アイテムボックス レベル10(マックス)
天賦の才能
ユニークスキル ハガレ○式錬金術 レベル10(マックス) 錬菌術 レベル1
魔言 レベル2
称号 女神ミリオニアの加護 国家的バブ術師
たらたらし
おっと僕の体力がFからEに上がってるな。防御力もGから Fに上がってる!! 纏い術の『魔気』を覚えた影響かも知れない。魔言もレベル2になってるな。おそらくリリィお姉ちゃんに魔言を使われてる影響かも知れないな。
って喜んでる場合じゃない。オババはこのステータスを見ているはずだ。それはつまり鑑定スキルを持っていることがバレるってことだ。
「あらあら、まあまあ。トオル君っていうのね〜〜 しかも……」
全力で一歩を踏み出し、オババの口元を手で塞ぐ!! 速さDの底力を見よ!! だが止まりきれず勢い余ってオババの胸元に顔から飛び込んでしまった。うーん、薬草の良い香りとバラみたいな香りが顔を包む。
思わず、深呼吸しているとあらあら、まあまあこんなオババに甘えて〜 おませさんねえとそのまま抱きしめてくれる、オババ。だが後ろからはめちゃくちゃな殺気を感じる。アバババババババ。
「リリィ、だめよ〜 トオル君はオババに甘えたくなっちゃったのよね〜 男の子はお姉さんに甘えるのが好きなのよ〜 それを邪魔しないであげて〜」
僕を抱きしめながらウィンクしてくるオババ。流し目がとてもセクシーだ。
「誰がお姉さんよ!! オババはお父さんよりも歳をとってるのよ?? それにトオル君もトオル君よ!! 一目散にオババに抱きついて!!」
僕はリリィのお姉ちゃんの剣幕に慌ててオババから離れようとするが、抱きしめられて、力を込められてるので離れられない!! 意外とっていうか、めちゃくちゃ力あるな!! これが美魔女の包容力か、と思った所で何故か後ろからもリリィおねえちゃんに抱きしめられる!!
嫉妬したリリィお姉ちゃんが抱きついてきたようだ。圧力が強い。顔が胸に挟まって息ができなくなってきた。幸せと思いながら息が続かなくなり、目を閉じた。ああ、母性に殺されるんじゃ。
目を覚ますと、そこは知らない天井であった。しかも知らないベッドだった。アナザークラウドの文化は地球と比べると巨人族とミジンコくらいの差だ。だからであろうが藁を敷き詰めたものに獣の毛皮を掛けたものがベッドになる。
何が言いたいかというと地球のベッドと寝心地が段違いってことだ。まあ慣れたけどね。でもこの毛皮は丁寧になめされたのか、それとも知らない方法で手入れしているのか知らないが、手触りがめちゃくちゃ良い。
それにすごい女の人って感じの香りがする。抱きしめられてる時に感じた薬草の良い香りとバラのような匂いがたまらない。だ、ダメだ。僕にはリリィお姉ちゃんがいるじゃないか。それを香りだけでオババに惑わされちゃあ、ダメなんだぁ!!
でも何かおかしい。リリィお姉ちゃんも普通に良い匂いがするのに、なんでオババの香りに僕は執着しているんだ? リリィお姉ちゃんの時は淫魔スキルがあったけど何かあるような……
1人でうんうん唸っていると部屋の扉が開いて、リリィお姉ちゃんが入ってきた!! なぜか結構汗ばんでいる。え、何やってたの?? まさかリリィお姉ちゃんとオババのくんずほぐれつの……
僕が1人で想像して顔を赤くしてるとリリィお姉ちゃんが口を開く。
「いやーあのオババ、見た目も若いけど中身もまだまだ現役なんだから!! 僕ちゃんがああすれば、オババがこうする。強敵だね」
どういうことだ?? 僕が想像しているようなことではないらしい。まあさっきまで歪みあってたのに、いきなり仲直りのキスをするのは日本の芸人くらいなものだよね。
「僕ちゃんが闘気を纏って、本気で殴りかかってるのに、あっさり掌底を合わせて止めてくるなんて反則だよ。しかもオババ、やたらと良い匂いがして集中できないの!!」
お、おう。つまりキャットファイトが起きてたってことか。オババのステータスは見れないけど、もしかしたら相当な実力者なのかも知れないね。ていうかやたらと良い匂いがするように感じるのは男だからって訳でもないんだな。
オババのいい匂いについて、トオルがリリィお姉ちゃんに聞こうとしたところで、オババが入ってきて、こう言った。
「あらあら、まぁまぁ〜 トオル君起きたのね〜 さっきは窒息させちゃってごめんなさいね〜 お姉さんの良い香りが気になるのならトオル君にだけ秘密で教えてあげても良いわよ〜」
そうしてリリィがガルルルルルルと唸って、威嚇する中、風のようにフッと遠くから一瞬で僕を抱きしめて、語ってくれた。オババはこの村でも年長者のため、さまざまなスキルをもっているが、その中に『香気術』というものがあるらしい。
普段はただの良い匂いとしか扱われないが、さまざまな用途で使うことができて例えば獣や他の魔物や人を誘き寄せることができる。逆に相手が嫌う臭いのように感じさせることも可能だそうだ。
そしてオババ曰くここからが重要だそうだが、お互いが好意を持っている場合、香気術によって、お互いの体臭をものすごく良い匂いに感じるのだそうだ。
ちょっとえっどすぎません? 確かにオババに好感を持ったけど! いきなりそういう関係になるの怖すぎる。ていうかオババも俺の匂い好きだってこと?? あとリリィも良い匂いって言ってたからリリィもオババの事気に入ってるんだな。
まあそれもそうか。村唯一の薬師だって言ってたし、好かれないわけがない。ただ、こんなエロフェロモン出しまくりの美魔女だとは思わなかった。しかも僕の鉄の意思が揺らいできた。
ううう、なんかキスをしたい気分だ。オババの目をじっと見つめる。だがオババはにっこりとして少し名残惜しそうにした後、僕から体を離していた。
なんだろう、オババの目が少し寂しげに見えるな。オババは尚も寂しげな表情を見せるが、首を振ると、にっこりとした表情に戻った。さっきまで怒っていたリリィも悲しげな表情をしている。
僕はその時何も言えなかったよ。なぜかはわからない。
〜閑話休題〜
オババの名前はオバラーバ・Gというらしい。それで愛称がオババだな。魔物は苗字の代わりに種族名の頭文字をつけているそうだ。GはGoburinというつづりのローマ字の略称らしいね。年齢は教えてくれなかった。職業は薬師だ。
薬師と錬金術師の薬とポーションは似て非なるものだ。薬は風邪やこの世界にあるかはまだわからないがインフルエンザのような細菌性の病気を治すものに主に使われるそうだね。
ポーションは外傷や内臓の損傷、がん細胞みたいな腫瘍を消すのに使われるらしいよ。ただ伝説のポーションであるエリクサーは身体の悪い所を全てリセットして正常な状態に戻してくれるという。
だから細菌性の病気であっても大丈夫らしいよ。病原菌となる細菌は全て殺してしまうみたいだからね。
身体の欠損も生やしてしまうらしい。つまりエリクサーだけは内科的治療も外科的治療もしてくれるまさに伝説の一品というわけだ。悪い所を全てリセットするところがすごい所だよな。
ただエリクサーは古龍の生き血、神力草、不死鳥の尾羽、そしてスキルとして伝説の錬金王というものがないと作れないそうだ。だから先ほどの効能は知られていない。オババに教えてもらったのだ。
なぜオババがそれを知っているかというと昔エリクサーを探し求め、各地を旅して周り、ダンジョンに潜ったそうだよ。ダンジョンからはごく稀に宝箱から出現するそうだ。作ることは無理でも探し当てることはできるんだな。
オババには何か辛い過去がありそうだったが、やはり聞かないことにした。まだ知り合って間もないからな。
僕が今回試してみたいのは、錬菌術を薬を作る際にかけると、どんな効果をもたらすかだ。アナザークラウドにおいて、薬を作る工程は良いものを足し合わせるか、毒を持って毒を制するという考えで、あえて悪いものを使いながら、悪いものに悪いもので、効果を中和し、良いものにするというものだ。
もちろん例外もあるが、とりあえずはこの認識でOKだ。錬菌術レベル1には細菌や真菌を作り出す効果の他に、菌の効果を強め、食品であれば発酵を進める時間を減らしたり、薬の材料となる毒キノコの効果をあえて強くし、そこから作る薬の効果を高めると言ったこともできる。
薬のグレードは初級、中級、上級、最後に特級と4つのグレードに分かれている。神話には伝説級の薬も出てくるが、今のアナザークラウドでは作ることは不可能だそうだ。ポーションもグレード名は同じだな。
僕の考えは錬菌術を掛け合わせることによって初級の素材で作る薬を中級や頑張って上級の薬にできないかということだよ。やっぱり生産にかかる素材のコストを安くしないと薬って普段使いできないからね。
今日はオババに風邪薬を一緒に作ってもらうことにしていた。アナザークラウドでは風邪薬を作るのに薬草と回復キノコとつなぎにスライムゼリーを使う。薬草と回復キノコは森では結構生えてる。スライムゼリーは知性あるスライムから分けてもらったものを村の倉庫に備蓄してある。
素材は適切な温度で管理すれば冷蔵しなくても良いそうだ。ただし、初級の素材は良いが、中級や上級の素材になればなるほど鮮度が重要みたいだ。だから中級や上級の素材は国では冷蔵できる氷室に貯蔵するらしい。それでも素材の劣化は進むけどね。
風邪薬作りで錬菌術を使うなら、どの素材にするかな? 僕の狙いは回復キノコだ。ということで錬菌術で回復キノコの菌を強化にしてみた。
「キンカク(菌革)」
短いが菌を革新的にパワーアップするというイメージで言ってみた。すると回復キノコのサイズが手の平に乗るくらいだったのがデコポンくらいの大きさになり、見た目も完全な白だったのが、青白くなった。
パワーアップした回復キノコは、通称、回復キノコ・改と呼ぶことにした。リリィお姉ちゃんは回復キノコをみてビッグサイズになったわね、とニマニマしてる。リリィお姉ちゃんはムッツリな所もあるんだな、と新しい魅力? を再発見したよ。
オババはえ? え? は? と間延びした口調が抜け、びっくりした様子だ。しばらく唖然とした様子で眺めていたが、鑑定したようで若干勢いよく喋り始めたね。
「ト、トオルくぅーん! これはただの回復キノコじゃないわ〜! 鑑定したら元の回復キノコの効能の1.5倍になってるわ〜! 錬菌術ってすごいのね〜!」
うんうん! 錬菌術はすごいのだ。望んだスキルではなかったけどね。まあ医療に役立つのならば人助けができて嬉しいな。
この後はオババが早く風邪薬を作りたいと言って、薬を作り始めたよ。まず薬草を細かく刻む。回復キノコ・改は大きすぎるので4分の1くらいの大きさに切って、残りは保存しておくそうだ。4分の1の回復キノコ・改は細切りにして鍋に水を入れて細切れにした薬草と回復キノコ・改を煮込む。薬草と回復キノコは混ざり合ってドロドロとした液体になる。
ここで大事なのは水の温度を一定にすることと魔力棒という魔力を伝導させやすい金属素材でできた棒(なんとミスリル素材)で自分の魔力を混ぜながら煮込むのだ。温度は放置させてるとすぐに熱くなるし、魔力を一定の量にして流すのは大変だった。
だがオババは涼しい顔で薪の調整をしながら、魔力棒で混ぜ合わせ、最後にスライムゼリーを入れると鍋の中身がピカーン!! と光る。そしてできていたのは全体がゼラチン気質の青白い半固体であった。
「これで完成よ〜 上手にできました〜!!」
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