北欧の魔道王   作:Shushuri

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前回のストーリーは微塵もありません。


アルプスの出来事

 アデーレ・イングリートという女性がいる。北欧系ルーン魔術を扱う魔術師であり、魔術結社「薔薇十字団」では重鎮である。最も、結社が下の下に位置している為に、何らかの優越感を得るような役得を感じ得たことは覚えがないそうであるが。

 顔に皺が見られるが、スーツに背筋を伸ばししっかりと歩くので、若干若々しさを感じる。最も、見る人間が見ればそれが明らかな重装甲に、緊張からか顔が強張っていると分かる。

 

「奥様、アデーレ・イングリートでございます。入らせて貰ってよろしいでしょうか?」

「構いませんよ」

 

 扉の向こうから呼びかけに応じた声は、自身の知っているものと変わりないものだと少しばかり安堵した。

 入室した先には、ベッド横の椅子で毛糸を編んでいる女性。マキエ・ベルクマーがいる。

 

「遅場せながら、お祝い申し上げます。この度は、神殺しという偉業の成功、誠におめでとう御座います」

「そうですわね。パウルは死んでしまいましたが、街に影響もなく、この通り呪いも完全に無くなりました。これは総合的に喜ばしいのでしょうね。

 ですがアデーレ。貴女はベルクマー家に仕える人間でしょう。外様で外国人の私が魔王になるより、三男ではあれ直系のパウルが死んでしまった事こそ嘆くべきでしょう」

 

 ベルクマーはドイツで資産家の家柄だ。魔術師としては振興であるが、薔薇十字団の表側の顔である上流階級のオカルト交流サロン、そこでは重鎮であり、援助も多大だ。

 アデーレは現在の当主、パウルの父が雇い主となっており、パウルとマキエの夫婦を支える女執事をやっていたのだ。

 

「確かに悲しいことですが、パウル様は『まつろわぬ神』相手に一歩も退かず、足止めの役割を通り越した成果に繋げました。それに、奥様にはご子息が、ブルーノ様もおられるのです。

 それと、不躾ながら確認いたします。確かに、呪いは、奥様の御生家である『彩凪家』から途絶えたのですね? ブルーノ様や、別の場所に呪いが移っているのではなく」

 

 マキエ・ベルクマー。旧名を彩凪蒔恵という。彼女の生家こそが呪いの大本である。

 

「どうやらカンピオーネの肉体を得た時に全て弾き飛ばしたようでして。

 別段急ぎの用事というわけではないので、少々の探りを入れてもらえませんか」

 

 カンピオーネには魔術が通用しない。一応人間の分類に含まれるが、人間を遥かに超える密度の、鋼を思わせる筋繊維。圧倒的な呪力量に人間の魔術が通用しない。これこそが人類の勝者が真っ先に得る褒章のようなものであろう。そもそもに、人がカンピオーネになることは「生まれ変わる」とされる。人間であった「マキエ・ベルクマー」が死んだと判断されただけの可能性はある。

 

「了解しました。

 所で奥様、その編み物はブルーノ様のベビー服ですか?」

「ええ。まだ初夏ですから毛糸は早いでしょうけど、ちょっと挑戦も兼ねているので」

 

 彼女は日本にいた頃に花嫁修業として家事はほぼ万能である。編み物ならばマフラーや手袋などはきちんと柄を編み込んだものをそれなりの速度で編み上げた実績もある。

 ベビー服は作ったことが無かったので、早めに作っておこうという気持ちはまだわかる。

 

「私には一級の礼装に見えるのですが」

「毛糸は普通のものですよ。ソロモンの護符と数秘術で呪力を込めながら編んでいるだけです。三流品がいいところだと思いますけど」

「何処が三流品ですか!」

 

 マキエは目を見開いてアデーレを見る。彼女がこのように叫ぶ姿は、パウルが自身を家に連れてきた時以来であろうかと思い出す。そんな視線を気にも留めずに言葉を続ける。

 

「私は数秘術もソロモンも理解が薄いですが!」

 

 ソロモンの魔術とは、大英博物館に存在する「ソロモン断章」と呼ばれる七枚の石版から、イギリスの魔術結社「黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)」の首領、マクレガー・メイザースが編集した魔導書を参考に広まった魔術体系である。また、「ソロモンの小さな鍵」という魔導書とソロモンの七十二柱の魔神に関わるものが日本では有名であるが、此処では関係ないので割愛する。

 太陽、月、火星、水星、木星、金星、土星の星と、色、ローマ系の神々を関連付ける。それぞれの星に幾つかの紋章が色指定で存在しており、扱える時間帯も惑星時間より割り出さねばならない。

 つまりはソロモンの魔術自体が数秘術の流れを持っている。数秘術自体が、初心者用ならば計算機一つで扱える術があるほどの広まりを持つものである。しかし、それを組み合わせた縫い物をするというのは、それも設計にコンピュータも使わないというのは彼女の異常さを憶える程である。

 

「ソロモンの護符はそのまま。数秘術は毛糸の色を関連数字に変換して数字根を求めて魔方陣を描くようにしながら……」

 

 魔法陣を描いている色を数字に直して、縫われている位置で並べると魔方陣が出来上がると考えて欲しい。

 

「そんな緻密な計算で編まれただけでも、出すとこに出せばいい値段になります!

 それをカンピオーネの魔力で編みこむなど、私が魔力で冷や汗が止まりません! 未だ赤子にそのような物を近づけたらどのような悪影響がでるか!」

「私の親に祖父が生きているなら、息子の命を呪いで握って脅すような愚か者でしょうね。基本的には運勢を上げることと魔除けの意味合いで作ってるだけですけど」

「それなら正史編纂委員会におっしゃればよろしいのです。あそこには草薙護堂という王がいらっしゃるのでしょう。王同士の対決を生むような自体に比べたら証拠がなかろうが暗殺だろうとしてくれます!」

 

 既にヴォバン侯爵が来日して、件の草薙護堂と一騒動起こしているので戦々恐々となるだろう。

 

「いえ、呪いを扱う人間を殺すのもリスクが高いのですけどね」

「……それでブルーノ様の命に危険があっても、責任など取れませんよ。本当に。

 そもそも、奥様のカンピオーネとして命令してくだされば、呪い対策など今までとは比べ物にならないほど大物の魔術師達が用意してくれます」

「言い換えます。私個人が攻め入った方がいい、という感覚がします」

「他の誰かに任せるのは危険だと? 奥様の、カンピオーネの感性をもってそれとは彩凪の家は怪物ですか」

 

 それは違う。恐らく、犠牲だけならば被害なしで正史編纂委員会が制圧することはできるだろう。弱小の魔術結社、又は個人の魔術師で挑まなければ少ない数の犠牲で解決するだろう。それこそ大御所の魔術師達が解決すれば犠牲無しで解決する可能性もある。

 危険ではない。マキエの頭に思い浮かんだことは一つ。実家のことを自身で解決することが圧倒的な利益を生み出すという感覚がある。

 

「日本に訪れようとは思いますが、魔王としての義務もあるでしょう。あの後、問題はありますか?」

 

 無論の事、アジ・ダハーカと戦ったアルプスの一角。邪竜の瘴気と、呪われた土地。虫すら死滅する異界である。

 

「現在、テンプル騎士団系列の魔術結社が邪気と呪いを祓おうとしているようですが、現状手出しが出せておりません。奥様が一体どのような戦いをしたのか気になりますが……」

「あの手の邪気は放っておけば悪魔を生みだしかねませんからね」

 

 悪魔。この魔術と神秘の世界には悪魔とはいくつか種類が存在する。一つは神格、「まつろわぬ神」である。悪魔という考え方は仏教、ゾロアスター教で考えられる。そしてユダヤ、キリスト、イスラムの一神教。それらの神格の権限である。具体的にはアジ・ダハーカも悪魔であり、草薙護堂が以前戦ったメルカルトはバアル神であり、ソロモンの悪魔としても知られる存在である。

 そして一つが怨霊、怨念の類の具現である。怨嗟を吐き出しながら死んでいった存在、例え魔術を知らなくとも恨み辛みを束ねて形を成せば悪魔となる。日本ではやはり怨霊の方が一般的な言い方であろう。

 最も、幾ら手間取り、世界的に知られる大自然の一角が汚れに塗れていようとも、原因の一端を担った神殺しがそこに向かうなどということは御免被る次第であろう。それでも行くという魔王の要求を突っぱねられる存在は現在アルプスには存在しないのだ。

 

「話には聞いていましたが、コレほどですか」

 

 大規模な結界で外から見た違和感は魔術師であるアデーレから見ても見事な隠匿で問題はなかった。近づいてしまえば酷いと言わざるをえない現状である。

 呪力を捉える視界が蝕の最中かというほどに暗く、無臭の空気に何故か吐き気を覚える理不尽。アデーレのルーンの加護が、周囲の魔術師達の加護と処置が防いだ結果がこれである。

 そんな場所に足を踏み入れるマキエは合掌で手を出し、離し、叩く。一、二、三、四、五、六、七、八回。

 

「嘘でしょう?」

「見事です。確か、倭国における清めでしたね」

 

 彼女はその言葉で思い至った。完全には祓われていないが、確かに直視できて呼吸が出来るほどに弱まっている。「柏手」という動作である。彼女は知らないことだが、伊勢神宮では八回手を打つ場合もあり、それを含めた四回以上の柏手を「長拍手」という。

 そして、思う。声の主に思い当たる人物がいないのである。地声が天界の鐘の音か、はたまた天使の歌声を思わされたのだ。更に声色から女性。そのような存在は知らないと、冷や汗が止まらない。

 そもそも、周囲には本来作業をしていた魔術師たちも待機していたのだ。それにして静寂に包まれている。

 

「この十年、英吉利(えげれす)のひねくれ者に剣を振るう王と偉業を成し遂げる益荒男が増えてきましたが、まだ増えますか。見たところ東洋の血筋と見ますが」

「御身の故郷の隣国に当たる島国の出となります。羅濠教主に相違ありませんね」

 

 振り返ったマキエの瞳には、彼女より若く見える漢服の少女。魔術を極めると年齢を最盛期で留めることが可能となるので自身より若く見える年上の女性は存在する。隣には少年が控えている。

 

「我が名は羅濠に相違なし。しかし、倭国の出ですか。そういえば王が生まれたと聞きましたが」

「それは草薙護堂でしょう。私は未だ王となって一週間も過ごしておりませんので。

 しかし、先達の名を知っておきながらこちらが名乗らぬとは無礼をお許しくださいますよう。名をマキエ・ベルクマーと申します」

 

 アデーレの冷や汗は止まらない。中国の王、羅濠教主。現代においてその姿を知る者は少ないとされる古参の王。あのヴォバン侯爵と幾度と戦場にて相対した経験のある王だ。そしてそのような存在と新参とはいえ王であるマキエに挟まれて、何故このような場に立たされているのだろうか。

 

「そこの女性は私の連れでして、手を出すようなら、私もそこな少年の命を奪いましょう」

 

 巻き込まれたと、少年の顔が一瞬反応したが、生真面目な顔に戻した。

 

「名乗りから会話の間、隠しながらも呪力を練り上げ、この羅濠の隙を狙う胆力は好としましょう。

 王となって未だ七日と過ごして居らぬのならば、他に神との戦いは経験しておらぬのでしょうね。若輩でしょうが、神殺しという所業を成し遂げた存在、その技、羅濠が見ましょう。鷹児、そこの女人に戦いの才はありませんが、生き残る才は見て取れます。お前が相手しなさい」

「御意に」

 

 視線とともに促しに、少年は首肯する。それが隙かと言わぬばかりに、教主の足元が爆発する。

 いきなりの音にアデーレが驚くが、少年はそのような素振りは見せない。

 

「教主の直弟子をしている陸鷹化(りくようか)です。いや、恨みも何もないんですが、師父の命令なんで。言葉とするなら生き残る才を見ろとのことでしょうから、痛めつけようと思うんでしっかりと才能を発揮して下さい」

 

 アデーレは陸鷹化の言葉に冷静を取り戻す。

 

「アデーレ・イングリートと申します。話しに聞く魔教教主に才を見入られたとは光栄ですが、貴方より遥かに経験を積んでいるのです。そうそう、才能で如何様になると思わないで下さい」

 

 二人が挨拶を済ませた所で、新旧の魔王二人は凡そ人間の足とは考えられない場所まで離れていた。

 教主は古参であるがゆえに権能を知られていない。但し、怪力の権能を所持しているということから『The Power』という名称で賢人議会に登録されている。その怪力に武術としての歩法を組み合わせ、とてつもない速度で一歩一歩を進む。

 一方、マキエは魔術で身体を強化した。大騎士であれば神獣相手に一撃、正面から凌ぐことが可能とするかも知れない術を、カンピオーネの呪力で扱う。

 

「成る程、貴女は魔術師であるのですね。先程の祓いといい、その身体の強化と中々の腕でしょう。何より魔力で風に乗り、自身を速く、私に負荷をかけるとは。しかし、それは只人の魔術師であったらの話。我ら王の戦いを教授して差し上げましょう。

 我が大絶技、『龍吟虎嘯大法』を受けてみなさい」

 

 教主の口から紡がれるのは詩である。マキエはそれが権能を高めるための言霊、或いは発動の条件と判断したが、近寄ろうとは思わない。近寄っては駄目なのだ。

 紡がれる詩の終わりで、衝撃波が飛んでくるのが操作している風の反応で理解できる。魔術の防壁など役には立たない、そのような理屈を押し返しての神殺しである。

 大地が盛り上がり、巨大な壁となる。そのような壁は権能の衝撃波の前に崩れ落ちるが、マキエは壁を作る際に持ってきた大地によって塹壕を作り上げる。

 

「判断は悪くないようですね。そのような逃走方法、次は無いと知りなさい」

 

 そのようなこと彼女だって理解している。崩れ落ちる壁の破片。中距離からの攻撃であれ、羅濠教主には土埃すら付けることができていない。その破片である礫石に、直線で描かれた文字が、ルーンが掘ってある。否、次々と削れて文字が書かれている。

 ポルターガイスト現象。実際に幽霊がそれを行うなど稀なことであり、大抵の場合は幼い魔術師による呪力の暴走の結果である。特に、魔術師の家系ではない家で発生する場合があるので一般的に知られる心霊現象である。これをしっかりと術式として扱うならば、常人では考えられない思考能力と呪力を誇ることが前提として、百を超す数の石にほぼ同時に字を書くことも可能なのだ。

 「ウル」のルーンによって霧雨が教主を覆うように発生し、「イス」によって凍らせる。即効性を持たせなければ、魔術で抜け出すことも、権能で吹き飛ばすことも可能なのだ。出来上がった氷が、内側から外に向かって一部がせり上がり、破壊される。

 

「金剛仁王像ですか。姿だけなら日本の学校行事以来ですね」

「魔術にて戦い、この羅濠の服を湿らせることは不可能です。しかしながら、私に『大力金剛神功』を用いた仁王の顕現を使わせたことは賞賛に値します。

 最初は不可解でしたが、この羅濠を欺き通すことは不可能と知りなさい。その身が手にした権能は『相手の呪力を奪う』というものでしょう。恐らくは広範囲に適用でき、神からも奪うことが出来る。さては命を喰らって腹を満たす神代の怪物より簒奪しましたか」

 

 正解に近い。それこそがマキエがアジ・ダハーカより簒奪した権能である。

 

「成る程、相応の呪力の消費は必要ですが、人の行える呪的防壁で防ぐことは可能ですか。これで貴女はこの羅濠の呪力を奪い力を蓄えることができません。これで終わりとは言わぬでしょう」

 

 色香を伴う笑みをマキエに向けながら、拳を構える。

 羅濠教主というカンピオーネの持つ仁王の権能「大力金剛神功」とは怪力の権能。その膂力で振るわれる武芸の極みは、歩法によって一瞬で間合いを詰め、剛力によって人体を打ち砕く。更には「聴勁」という、目で見えない力の流れを捉える動作に優れている。それが空気の塊であろうと避けるのが羅濠教主という存在である。

 教主が踏み出す一歩と共に、詩を紡ぐ。近距離の攻撃を紙一重で避けるという行為は、武技の差が開きすぎて危険であるから距離を大幅に開かなければならない。しかし、詩が終われば回避不能の衝撃波が襲うのみ。

 

「我は人より悪を喰らうて、善に生まれたことへの義に背く悪者なり! 肩より生やした蛇は牙にて悪人の頭蓋を砕き、脳髄を喰らえ!」

「これは!」

 

 初めて、この場にて教主が苦悶の表情を浮かべた。言霊を用いてマキエが権能の効力を一気に高めて教主の防御を突破したのだ。詩が途中で途切れるが、それでも発動は可能であったのか、車に跳ね飛ばされたような衝撃であるが、カンピオーネの肉体に呪力で防御したならばその程度は怪我らしい怪我はしない。

 そして遠隔に文字を書く。ラテン文字の「M」を示す「人間」のルーン。教主の足元から盛り上がった地面は人を模り、踏み込み、拳を水月目掛けて振るった。

 

「見事です。こちらも呪力の防御が間に合わなければ、もしくはそちらがより強力な式神を得ていたならば気絶はしていたでしょう。若輩であろうと王であることを示した、見事です。二百年以上の経験を持つ先達がこれでは、この羅濠を随分と楽しませる」

 

 その顔は晴れ晴れとしたものだ。今回の相対はこれで終わる。

 

「連れ合いの勝負は完全にこちらの勝ちのようですね」

 

 互いが千里眼で遠くを見れば、倒れ伏して意識を失った鷹化と、傍らに立つアデーレである。

 

「鷹児!」

 

 気絶している鷹化に容赦なく詩の権能にて吹き飛ばす。威力は自由自在なのだろう。まともに傷つけることなく、鷹化は気付けされる。目を開き、急いで体を起こしたところで正に刹那の瞬間に近づいた教主の拳で頭を殴られた。

 

「ぐぉっ」

「情けないにも程があります! 私は相手の経験も鑑みてお前が負けることも考えました。しかし、真逆相手が無傷とは如何様な理由か、弁明できると思ってはいませんね」

 

 教主のような人間離れした移動方法ではなく、軽い駆け足でやってきたマキエはとりあえずアデーレに話を聞く。

 

「武芸の域は現段階でも大騎士どころか聖騎士にも並ぶでしょうが、呪力は扱えないようですし、このような瘴気で澱んだ場所ならば相手を気絶させることは問題ありません」

 

 アデーレ・イングリート。人生最大の偉業はヴォバン侯爵の暇つぶしから逃げ切ったことである。最も、年齢上の関係でもうできないと言い張るが、才能があろうとまだ十代半ばの少年から逃げることは苦難の内には入らないらしい。その偉業の為にカンピオーネの側付きであるのだから、確実に実力に見合っていない。

 

「しかし、ここは相手の技量も褒めるに値すると考えましょう。よくぞ鷹児を打倒しました。鷹児もこの敗北を胸に一層の修練に身を費やすでしょう。

 そして、そこのマキエ某とやら、その身の権能、呪力だけでなく知識や経験すら読み取るもののようですね。先の土人形で創り上げた式神の動き、この羅濠の模倣、それも見せたことのないものならば。安心なさい。この羅濠、技を盗む技量に感嘆の念を抱くことあれど、怒りは微塵も湧きません」

 

 それこそが正解である。

 マキエ・ベルクマーの最初の権能。それは自身を中心とした領域に存在する生命から呪力や生命力を奪い、知識や経験すら読み取れる。欠点があるとすれば、人間の魔術師が防御することができるということだ。最も隠密性が非常に高く、権能からの防御に呪力を割いていては直ぐに呪力が枯渇するであろう。

 そのようなことを知らないアデーレは気が気でない。恐らく、薔薇十字団の団員の魔術知識はほぼ完全に奪われている筈である。マキエがそれを覚えているかどうかは定かではないが、表側の団員からすら知識を得られている可能性もある。

 それなりの財界に影響がある歴々の知識を問答無用で食らっているとしたならば、続きを常に吸い続けているならば、彼女は正真正銘、人界の魔王。財界、政治に表からの影響力を持つことになる。

 

「さて、その大絶技を防げない鷹児を置いては我が指導から芸を盗まれるというものです」

「はっ! この陸鷹化、最速にて逃走させて頂きます!」

 

 純粋な肉体技能で走り去る少年の姿は直ぐに小さくなる。

 

「しかしながら、半生を費やしている技が盗まれるというのは羅刹王となって経験できることではない。

 その権能であらゆる技能を奪うのですね。成る程、それもまた王道の一つですか。次会う時は、より練度を上げていることを願っているとしますよ。独国の王よ」

 

 そうして教主は姿を消した。それが「縮地」と呼ばれる魔道の極地の一つであることは理解できた。

 

「奥様、不躾ながら質問いたします。権能の範囲や持続時間は如何程でしょうか」

 

 結論として、アルプス山脈は完全に戻ったわけではないが、呪力の抵抗力が低ければ気分が悪くなりやすい程度にまで収まり、後は気長に自浄作用や魔術師の介入で元に戻るだろう。

 この一連の事件はグリニッジの賢人議会の知ることとなる。そして既に恒例となったカンピオーネの権能の名付けである。「暴君の秩序(Tyrant Rule)」と名を得たそれは魔術師が震え上がるものとなった。




実はソロモンの護符についてマキエさんは人間の頃習得していませんでした。「数秘術」も占いメインです。誰かが既に被害にあっている。彼女の前にはプリンセス・アリスも小物なのぞき魔となりました。
折角なので陸鷹化にはカンピオーネ会合を制覇させます。今回は会うだけに近い形にしました。真逆のサルバトーレより早い。

ついでにソロモンの72柱の悪魔も後付なので、ソロモン王は関係なかった気がします。アレイスター・クロウリーが確かそれ用の仮想人格(ペルソナ)を作って操るのがソロモンの召喚術だと語っていたような気がします。(メイザースはそちらにはあまり関与していなかったような覚えがあります。)そちらを出さなかったのはカンピオーネなら関係なしに必要なことはできる気がするので。

次回はなんとしても護堂と戦わせたいところです。権能の解説は護堂が一番だと思うので。どうやって戦わせようか悩んでますが(考えなしで申し訳ありません)、出来うる限り努力は怠らないようにしたいと思います。
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