「ただし、一人で外を出歩くのは極力控えるようにしなさい。近頃、このあたりでは物騒な事件が起きているからな。」
話によれば近頃、この近辺で連続殺人事件が起こっておりその内容も猟奇的で特徴が多いという。にもかかわらず犯人の特定が未だに進まず捜査は難航しているそうだ。
特徴は3つ
1,その死体からは血液が全て抜かれている
2,その死体からは心臓が消えている
3,その死体に外傷はない
なんともまあオカルトじみた事件だ。祖父の葬儀のために帰ってきたこともあり強い不安感や不快感が胸中を占めるがまあ自分には縁のないことだと割り切る。
しかし父の顔はいつになく(幼少期に覚えのあるどの顔よりも)真剣そのものであった。それは焦燥や恐怖など、とにかく心当たりがないとしないような顔でそれが余計に不気味であった。
「とにかく…だ。奉文、深夜に余計な外出は控えなさい。もしも用があるなら
それからしばらく世間話をした後自室に戻る。父は葬儀の事もあるが、抱えている仕事も厄介なものが多いそうで、愚痴はどんどん湧いてきた。
しかし連続的な猟奇殺人か…このへんも物騒になったななんて思いながら自室に戻ることにした。
近年、平均学力の向上により就職にはガクチカ(学業以外で力を入れてきたこと)が重要になりつつある。大学生ならば当然そこにバイトであったりサークル活動などをあてはめられるように頑張るわけだが…当然自分も例外ではない。
自分はサークルというには規模が小さく、大きな目標もないため【同好会】としてのくくりになっている旅行好きの集まりに身を置いている。この夏も仲間と一緒に旅行に行き、その地方の風俗や歴史、食文化などを楽しもうと計画していたのだが、身内の不幸ならば仕方がないということで計画は流れてしまった。その埋め合わせに時間を見つけてこの町の観光スポットなどをリサーチして紹介しようというわけだ。
ずっと机についてPC作業なんてしていると時間はあっという間に過ぎていき、もう夕方だ。すこし体を伸ばして気分転換がてら中庭を散歩することにした。夏になると池の近くに植えてあるモミジの木が青い葉をつけて爽やかな空気を演出してくれる。それが涼しげな池と相まって見ているだけで心が落ち着くのだ。
友達の趣味に合うような観光スポットはどこかとか、舌に合うようなグルメは何があるかとかそんな他愛のないことを考えながら散歩しているとふと、違和感を覚える。木も池も、雑草がしっかり抜かれてる砂利道も、過去の記憶と何も変わらない。
大したことないだろうと思ってもそれはどんどん胸を埋め尽くし、呼吸が乱れ視線が揺れる。
しかし脚はいざなわれるように動き、迷い込むように門を飛び出し敷地の外へ歩みを進める。
気が付けば雑木林の中、木漏れ日が差し込む開けた場所に自分一人、立っていた。
「な、なんだここは…気分がとてつもなく悪い…どこなんだ…なんで俺はこんなとこにッ!?」
「本当に手間をかけさせてくれたわね。…まあそれも今日で終わりか」
どこか事務的で、それでいて気怠げな女の声が聞こえてくる。
「竜核の偽装なんて小賢しい真似のせいで8人も罪のない人を殺してしまったわ。」
なにを言っているのか分からなかった。振り返った先の頭からつま先まで赤黒く染まった自分と同じくらいの少女、その手には同じ色に染まった刃渡り15センチはあろうという得物がへし折らんばかりに握られている。
パニックに陥っている自分でも、その口から発せられるのが自分を責める言葉であるという事だけかろうじて理解できた。
「ま、待ってくれ。何を言ってるか分からないんだ!本当だ!心の底から理解できない!」
「理解できない…?そのどす黒いエーテルをまき散らしながらよくもそんなこと言えるわね。」
弁明の機会を求める言葉すら相手を怒らせる材料になってしまう。
逃げようと試みても足が絡まり転んでしまう。
「なんだ、意外とあっけないのね」
一歩一歩、恐怖とともに歩み寄ってくる存在。
目を逸らしたいのに脳を埋め尽くす恐怖がそれを許さない。
立ち上がって逃げたいのに、揺れる鼓動がそれを拒む。
そうしてなにも理解できないで、涙も汗も判別できなくなった次の瞬間
凶刃は胸に深々と突き立てられた。