私の名前はスターディクレイン、しがないウマ娘だ。今日は待ちに待ったハロウィンだ。
「クレイン、今日は待望のハロウィンだぞ!」
「分かってる、なんたって今日は……」
「皆さん!こんにちはー!」
「「来た!」」
同じチームメンバーであるエレキキャッスルと話していたら、トレーニング場に強い女性の声が響いた。声の方へ振り向くと、そこにはOGであるツルちゃん先輩が居た。
「「ツルちゃん先輩お疲れ様です!」」
「クレイン、エレキお疲れ様。今日もトレーニングたくさん頑張ってるみたいだね」
「はい!たくさん頑張ってます!」
「お菓子の為に!」
「コラコラ、そこはレースの為にって言いなさいよ。全くもう、ハッピーハロウィン」
ツルちゃん先輩は手に持っていた紙袋から、クッキーの入った包みを私達に渡してくれた。
「ツルちゃん先輩のクッキーだ!」
「やっりぃ!」
「ふふっ大げさだよ2人とも、でもそんな喜んでくれて嬉しい」
「ツヨシ!もう来てたのか」
少し離れた所から駆け寄って来たこの人は私達のトレーナーさん、そして……
「もぅ、どこほっつき歩いてたんですか?」
「いや、さっき変な走り方してた娘が居たからちょっと話にな……」
「トレーナーさんにはいい女過ぎるよねぇ」
「そうだよね」
トレーナーさんの恋人だ。
⏰
トレーニング後にトレーナー室で、ツルちゃん先輩お手製お菓子パーティをした。
「いやぁ、美味しかったね」
「全くだ、ツルちゃん先輩のお菓子があるからイベントが数割増で嬉しいよ」
ツルちゃん先輩はよく手作りお菓子を差し入れしに来てくれるんだ、イベントの時は確定で来てくれるからやる気がみなぎりまくりになってしまう。
「………ん?あれ、ハンカチねぇや」
「えっマジ?」
「うん、多分トレーナー室に忘れてきちゃったんだと思う。エレキ先に帰ってて、今なら多分まだトレーナーさんいると思う」
「りょーかい、ゆっくり歩いてるからちゃっちゃか戻ってこいよ」
「ありがと」
私はトレーナー室へ走る、扉の隙間から光が漏れてる所から察するにまだトレーナーさんは居るようだ。
「早くに気づけて良かったぁ……ん?」
中からトレーナーさんと、ツルちゃん先輩かな?2人の話し声が聞こえる。
「今日も差し入れ作ってくれてありがとうな、ツヨシのお菓子はアイツらのモチベ上げに繋がってるよ」
「可愛い後輩が喜んでくれますからね、ついつい張り切っちゃうんですよ」
「そう言いながら成分とかは相談してくれるから此方としても助かる」
(ほへぇ……ツルちゃん先輩って、トレーナーさんと2人っきりだとこんな風になるんだ)
いつもはつらつとした印象のある先輩の、しっとりお淑やかな口調にちょっとドキッとしてしまった。
「トレーナーさん、今日ってハロウィンですよね」
「そうだな、それがどうかしたか?」
「Trick or Treat」
「へ?」
(へ?)
私の耳にはいたずらっ子のような、小悪魔のような声が響いた。
「おやおやぁ?トレーナーさんどうしたんですか?ハロウィンなんですから言われるのは当然じゃないですか」
「いや、でもさっきお菓子パーティーを」
「女の子にとってお菓子は別腹なんですよ、それで?お菓子……持ってませんよね?」
「はい」
「ならイタズラです」
私はそこで踵を返し、帰路へと向かった。これ以上ここに居たら、知っちゃいけない他人の〝甘味〟を知る事になりかねなかったからだ。
「はぁ……はぁ……はー」
私は肩で息しながら、遠い空に浮かぶ月を見つめ思いふける。
「ツルちゃん先輩も、恋する乙女だったんだな……」
私は、エレキと一緒にこの話題で明日トレーナーさんをからかう事を決めた。