Muv-Luv 戦場に咲く雷花   作:マルク

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趣味120%で作ってしまった。Muv-Luvはアニメ、漫画しか観てないから色々粗があるでしょうが、まぁ楽しんでいただけたら幸いです。


01雷光の如し

『そろそろパーティー会場にご到着だ。準備は良いか?』

 

暗闇の空間に男の声が響く。揶揄うような口調に苛立ちを感じながらもこの部屋の主は彼の声に応えざるを得ない。

 

「ああ、自慢のドレスで連中の度肝を抜いてやるよ」

 

相棒の頼もしい返事に満足した男は軽く笑う。

 

『気張るなよ。俺達は所詮“繋ぎ”だ。気楽に考えないと体がいくつ有っても足りん』

 

「分かってるっつーの。生娘(ルーキー)じゃあるまいし、適当に流したらフケるさ」

 

緊張をほぐすつもりが挑発で返されてしまい、男が肩をすくめるのを感じる。

 

『お前ね、もうちょっと言葉遣いなんとかしたら? 見た目は悪くないんだから…』

 

「性分だ、諦めろ。一応、私事(プライベート)仕事(ビジネス)では使い分けてるんだから別に良いだろうが」

 

『へぇ、じゃあ私事(プライベート)の口調で話してくれる程度には気を許してくれているって訳か。それは良い事を聞いた』

 

「うっせーな、時間が無いんだろ! くっちゃべってないで仕事しろ! 遅刻しても知らねーぞ!!」

 

思わず口を滑らしてしまった事にバツが悪そうに顔をしかめながら、男に檄を飛ばす。それをハイハイと子供をあやすかのように呆れられて通信が終わり、再び主人は闇の中で一人に戻る。そして一呼吸おいて手元にある鋼鉄の仮面で顔を覆い隠す。

 

これは儀式だ。

 

ただの人間が一介の戦士になる為の神聖な儀式。

 

仮面から伝わる冷たい感触が火照る心を静めてくれる。そして主人は眠りにつき、代わりに別の人格が顕現した。

 

「ミストレス・マーキス。トールギス、参ります」

 

 

 

2000年5月26日——

西日本・中国地方に上陸したBETAの大群を撃退しようと帝国斯衛軍は奮戦していた。

 

崇宰恭子(たかつかさ きょうこ)もその1人。

日本帝国将軍家側近たる五摂政家。その一角を担う崇宰家の次期当主にして『鬼姫』の異名を持つ女傑だ。そんな彼女ですら眼前の大群には抗う事が出来ず、部下に撤退の指示を飛ばすのが精一杯だった。

殿(しんがり)は自分が務めると告げて。

 

最後まで妹のように可愛がっていた従姪(いとこめい)には猛反対されたが仕方がない。武家に生まれるとはこういう事だ。『斯衛はすべての民の規範となるべし』と幼き頃より厳しく叩き込まれ、最も危険な場所に立ってきた。だからこそ将軍家からも部下からも強い信頼を得られてきたのだと自負している。

 

(だから、これで良い。これで良いんだ)

 

覚悟はあった。

 

BETAという異形の怪物が世界中の人間を襲い、数多くの戦友を喰い殺していく姿を見て、自分もいつか戦場で散るのだと覚悟していた、しかし——

 

「なん…で。わた、し……」

 

何故、涙を流すのだろう。斯衛の矜持、怨敵への怒り、部下の防衛、戦う理由はいくらでもあるのに操縦桿を握る手が震える。

 

死にたくないの? 生きていたいの? 誰よりも速く現実(ここ)から逃げたいの?

 

それが一生の恥になるのだとしても?

 

死神の声が恭子の耳元で囁く。甘い吐息が鼻孔を擽り、彼女の脳を麻痺させていく。

 

(できる筈…ないじゃない)

 

部下の、民の、守るべきものの安否を度外視しての逃亡なんてあり得ない。それは先祖が長い年月懸けて積み上げてきた“誇り”に唾をかけるのと同義。

 

本当は普通に暮らしたかったんじゃないの? お家の教育は辛くなかったの? 他人の幸せの為になんで自分ばかりとは思わなかったの?

 

一種の走馬灯だろうか。その声は恭子の過去を遡り、負の感情を着実に掬い取っていく。

死神の鎌が薄皮一枚のところで首を撫でているかのようだ。

 

「ハッ…ハッ…!!」

 

恐怖が身体を麻痺させているのか、上手く呼吸ができない。BETAに喰われるぐらいなら、いっそこのままと考えてしまう。

 

かぶりを振って恭子は弱音を吐く心を打ち消した。

 

『どうか斯衛の矜持、御見せ下さい!』

 

別れ際に姪に言われた言葉を思い出す。彼女は最後まで恭子を、こんなに弱い自分を、強き者だと規範にしてくれた。実の両親以上に今の自分を知っているあの子の期待を、あの子の中の恭子(理想)を——裏切りたくない。

 

「来い、BETA共! 唯依(ゆい)達のところへは行かせない!!」

 

恭子が駆る戦術機『武御雷』が87式突撃砲を両脇に構えて銃弾の雨を浴びせる。BETAの大群はお構いなしに突撃して次から次へと絶命していく。だが彼らの勢いは止まらない。そう、彼らには恐怖という概念が無い。作戦らしきものはなく、ひたすら突進あるのみだ。だから弾薬さえ、武装さえ尽きなければ戦いようはある。あと問題があるとすれば物量差だ。たった1機で数万の軍勢を圧し留める事はできない。

 

(でも時間稼ぎなら!)

 

この戦いは殲滅戦ではなく防衛線。後方の唯依達を守り抜ければ恭子の勝利だ。まだ弾薬はある、長刀もある。戦う手段が残されている限り諦めてはならない。

 

「1体でも多く倒して、あの子達の負担を軽くする!」

 

しかし死神はどこまでも残酷だった。

視界の端で信じられないものを捉える。

 

要塞(フォート)級——BETAの中では最大種で相応の攻撃力、防御力、耐久力を持つ。更に体内に小型とはいえ無数のBETAを内蔵している厄介な敵だ。

万全の状態なら倒す自信はあるが、今回はそれが7~8体はいる。もしあの中に光線(レーザー)級が潜んでいたら時間稼ぎすらできない。

要塞(フォート)級に気を取られていた彼女の隙を突いて戦車(タンク)級が左腕に喰らいついてきた。腕を噛み砕かれる寸前に突撃銃を手放し、カーボン製ブレードエッジ装甲の手指で斬り伏せる。

安堵するのも束の間、今度は要塞(フォート)級が触手の鉾先を向けてきた。

危険を察知した恭子はすぐさま武御雷をサイドステップさせる。それと同時に伸びた触手が機体の横スレスレを掠めていった。

彼女が命懸けの攻防を繰り返す間にもBETAは増え続ける。

 

少しずつ消耗する武御雷、距離を詰めるBETAに心が軋む。

 

「あ、あぁ……」

 

死神が大鎌を振り翳すのを感じる。今か今かと恭子の細い首に狙いをつけるのを感じる。あまりの恐怖に発狂しかけた彼女の前で要塞(フォート)級の1体が一条の閃光に貫かれた。

 

「……え?」

 

巨体から力が抜けて轟沈する要塞(フォート)級。その後も2体、3体と閃光が貫いていき、気がついた時には恭子の周囲にいた要塞(フォート)級は全滅していた。

 

驚愕の光景に閃光が来た方角に視線を向ける。

 

「何…あれ…」

 

BETAによって奪われた空に1機の見知らぬ戦術機が飛翔していた。

 

例えるなら中世の騎士だろうか。

 

頭部には真紅の飾りをつけた兜、近年の戦術機には見られない流線型の装甲、馬上槍を思わせる長身のライフル、円形の盾を携えた白亜の騎士。

 

御伽噺の世界に迷い込んだ気分の恭子だが、機体に受けた強い衝撃によって現実に引き戻される。呆けていた彼女に戦車(タンク)級が群がってきたのだ。すかさず引き剥がそうと踠くが、数が多すぎてキリがない。

絶対絶命の彼女に対して騎士が挙動を見せる。

 

後に恭子は語った。

それはまさに雷光(・・)の如しと。

 

上空にいた騎士が距離を一瞬で詰め、武御雷の四肢を光の剣を振るって切断する。恭子のいるコクピットブロックだけ回収し、来た時と同じく超速度で離脱した。

僅かにしがみついていたBETAもその速度に耐えられずにふるい落とされていた。

 

BETAの大群から十分な距離を稼いだ騎士は着陸し、ゆっくりと武御雷の残骸を下ろす。そしてその長大なライフルをBETAに向けながらカートリッジを交換し、少しタメをおいて——砲撃した。

 

再び放たれる閃光。

 

だが今度は先程よりも長時間発せられたので、漸く恭子も閃光の正体に気がついた。

 

これは光学兵器だ。今まで光線(レーザー)級だけに許された力を、遂に人類も手に入れたのだと。

 

(でも、一体どこの国が?)

 

前線にいる恭子には満足な情報が入ってこない。それでもこれだけ強力な兵器、戦術機が今まで噂にすらなっていないのはおかしな話だった。人の口に戸は立てられないのだから。

 

眩い閃光が消失する。時間にすれば5秒にも満たなかっただろう。しかし戦況を覆すには十分すぎた。

 

「なんて威力…」

 

あれほど人類を圧倒していたBETAの大群が殆ど壊滅していた。光線(レーザー)級の力が自軍にある事がいかに頼もしいかを彼女は実感する。

 

「救援感謝します。私は日本帝国斯衛軍第3大隊指揮官、崇宰恭子です。できれば貴官の所属、階級を教えていただきたい」

 

駄目元で通信を試みる。目の前の戦術機は恐らく極秘の存在。もしかしたら死人に口なしと消されるかもしれない。だが、ならば危険を顧みず自分を助ける必要は無かったはずだ。運が良ければ、この機体の衛士と会話できるかもしれない。彼女はそう賭けた。

 

『お怪我はありませんか?』

 

まさかの反応が来た。

望んだ返答ではないが、敢えて指摘せずに会話を続ける。

 

「貴官の勇気と慈愛の精神に感謝します。私はあの場所で……死ぬ覚悟でした」

 

『……任務は遂行する、部下も守る。両方やらなければならない事が上官の辛いところですからね。ですが、救援が間に合ったのは貴女の″生きる″という強い意志があったからこそだと思います。どうか誇ってください』

 

流暢な日本語。穏やかな女性の声だ。声色からしてもまだ若い。しかも恭子が現状に負い目を感じている事を見透かしている。

こんなご時世でなければ、さぞ良き妻、良き母になれただろう。

 

もっと情報を引き出そうと口を開くが、騎士の衛士はそれを阻む。

 

『残念ですが、そろそろお時間です。あらかた目に着くBETAは片付けましたが、すぐに次の波がやって来るでしよう。兵士(ソルジャー)級、闘士(ウォーリアー)級のような小型種も生き残りがいる筈です。お暇しましょう。ああ、ご安心ください。大隊長は撤退した部下のみなさんのところまで、責任持って(わたくし)達がエスコートしますわ』

 

そうして騎士は天を仰ぐ。釣られて恭子も見上げるがそこには何もない。いや、何かいた。

 

闇夜で目立たなかったが、宙空の一部が微かに歪んでいる。その事に恭子が気づいたと同時に正体不明の何かが姿を現した。

 

衣を脱ぎ捨てたかのように現れたのは1隻の空中戦艦。空色を基調としたその艦は1対の靴を横に繋げたような独特の形状をしていた。

 

(光学迷彩!? しかもこんな巨大なものが空を飛ぶなんて)

 

『申し遅れました。私は私設武装組織ピリオドのエージェントの1人、ミストレス・マーキスと申します。神命により、人類の皆さまの助太刀に参りました。以後、よろしくお願いいたします』

 

これが後の世に神とのファーストコンタクトとして人類史に刻まれる大事件となった。

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