MARVEL STUDIOS 「ブルーアーカイブ」   作:MAN

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残したもの、残していくもの

 

 

 

 ミカとの和解を果たして3週間が経った。

 今まで通り毎日会うなんてことは出来ないが、それでもミカとは定期的にモモトークを送りあったり、週末遊ぶなどしている。もちろん外では遊べないため、自宅で映画を見たり、まったり過ごしたりぐらいしかできないが。

 その一方で、ナギサに関しては順調とは言えない。こちらからモモトークを送った結果としては、『しかるべき時に再度ご挨拶に向かいます』というナギサらしい返事が返って来たのみで、それから全く音沙汰はない。

 

 毎回3人で遊ぼうとミカが直接誘っているそうだが、その全てが忙しいやら何やらの理由をつけて断られているそうだ。その行動の裏にどういう考えがあるのかは分からないが、私にできる事と言えば待つ事だけだ。

 

「さて。今日もお片付けと行こうか。HERMA、今日はD6からE4までの地区の掃除、および廃墟の解体だ。私はカイザーの集金人と少しお話をしなきゃいけないから、何かあったら呼んでくれ」

 

『承知しました』

 

 そんな心残りもありつつ、今日も相変わらずと言った様子で、校舎や自治区の掃除や、借金を返すために奔放している。

 建設したドローンステーションから、おおよそ400台近くのドローンが降りていく。10台もあれば1日で家が建つ大きい建設用ドローンが、一斉に飛び立つ様は中々迫力があるな。これらすべてがHERMAによって同期され、ネットワークを介して最も効率の良い形で作業を行うことができるように設計されている。

 治安の悪いアビドスで完全放置でも大丈夫なのかと思うかもしれないだろう。しかしこれらのうち一台でも壊そうとしたら、近くで作業中のドローンが、リパルサーを構えて飛んでくるようになっている。ちょっかいをかけたヘルメット団を追い回す様子はまるでスズメバチだね。

 

 これらの建設に時間を取られたため新しいスーツの開発は出来ていないが、予定では今日で借金の片が付く。開発に着工するのはそれからでも遅くないだろう。

 

「ホシノ~? 集金人って何時に来るんだっけ」

 

『11時です! ちょ、話してるときに撃ってこないでくださいよ!』

 

 マスク越しにホシノの叫び声と銃声が聞こえて来る。そう言えば今日はパトロールの日だったな。

 きっと廃墟を撤去したことで、居場所を追われたチンピラに絡まれているのだろう。まあホシノならチンピラ程度100人いても蹴散らすだろうし、心配しなくてもいいだろう。

 

「分かった。頑張ってくれ」

 

 何かあればHERMAが援軍を送ってくれるだろうし、私は私のやるべきことを果たさないとね。

 ということで翼を展開し、ドローンステーションから飛び降りる。遥か上空からの紐無しバンジーだ。スーツで何の抵抗もなく空を飛び始めたトニーを見たときは、誘拐されておかしくなったのかと思ったが、慣れれば案外行けるものだ。

 

 生憎とスーツで全身を覆っているため風を感じたりは出来ないが、目まぐるしく変わる景色と、体を風が打ち付ける音は中々爽快だ。

 墜落しない程度の高さで、足と翼の根本に取り付けたリパルサーを起動する。改良したMark5では両手足だけでは無く、背中にもリパルサーが搭載されている。細かい制御は手のリパルサーで行い、それ以外で推進力を得るという発想だね。

 

 アビドス校舎に到着し、屋上で両手のリパルサーを起動してゆっくり着地する。携帯型で重量が軽いとはいえ、調子に乗って着地したら屋上が崩れてしまう。

 そこでふと私は、1か月前に見た校舎の屋上から見たアビドスの街の風景を思い出した。

 

「……大分片付いたな」

 

 校章が書かれた一番高い所に座り、砂の色の割合が大分減ったアビドスの街を眺める。荒廃した、という表現が最も適切だったアビドスの住宅街は、崩れた廃墟や積もった砂が撤去され、再開発の色合いを醸し出していた。

 もちろん定期的に吹く砂嵐によって砂が積もっている部分はあるが、それでも人が住める町に戻りつつある。

 

「あれ、アテネちゃん。戻って来てたんだ」

 

 そんな短いノスタルジーに浸っている私に話しかけてきたのはユメ。にこにこといつも以上に上機嫌な様子で私の足元へと寄ってくる。

 

「そんなところに立ってたら危ないよ?」

 

「こっちの方が良い景色が見れるんだよ。ほら、ユメも来ると良い」

 

 屋上へ降り降り立ち、お腹に手を回して抱え込むようにした状態で上へと飛ぶ。普通の女性相手ならセクハラと殴られても文句は言えないが、ことユメに関しては、あっちからいつも抱き着いてきているため問題ないだろう。

 

「はわわっ……っと」

 

 慣れない様子でフラフラとその場で足踏みをし、足を止めるユメ。思えばこうやって抱えて飛ぶのは初めてだったか。

 

「わぁ……! きれい!」

 

 屋上より3メートルほど高い場所のため、遠くの景色がよく見える。ここに上ってくることも初めてだったのだろう。ユメは目をキラキラと輝かせて、すっきりとした街並みを見て感嘆の声を上げた。

 

「色々とスッキリしちゃったけど。改めてみると中々壮観だろう?」

 

「うん! ……これ、全部アテネちゃんのおかげだよ!」

 

 ありがとうと両手を取って満面の笑顔を浮かべるユメだが、1つだけ間違っているところがあるぞ。

 

「いいや。これは君の長い努力が実った結果だよ。アビドスの復興を信じてひたむきに努力し続けた、ユメのおかげだ」

 

「で、でも……私何もしてないし」

 

 狼狽えながら両手を振って否定する謙虚なユメを見てつい笑ってしまう。褒められたら胸を張って嬉しそうに笑うホシノを見習ってほしいものだ。

 

「なら少し復興中の街並みを見てみようじゃないか。集金人が来るまではまだまだ時間はあるからね」

 

 羽を後ろに広げ、その間に入るようにしゃがんで目配りをする。

 ユメは少し困惑した様子だったが、私が引かないことを悟ると遠慮と期待を半分ずつを背負って背中に乗った。

 

 そのまま両手足のリパルサーを起動し少しづつ上昇する。おんぶしているため背中のリパルサーは動力を切った状態だ。

 そしてある程度の高さまで浮上した後、体を斜め前に倒して若干四つん這いのような体制になり、町へと進み始めた。

 

「凄い! 私、空飛んだの初めて!」

 

「しっかり捕まるんだ。落ちたら大変だからね」

 

 先ほどまでのおっかなびっくりといった雰囲気はどこへやら、ユメは眼下で飛び回るドローンの群れを見て楽し気に叫んでいる。

 

「うん!」

 

 そのまま数分程町の中をゆっくり飛び回る。するとユメは、住宅地に差し掛かったところで何かに気が付いたのか声を上げた。

 

「あれ……? あの人って……」

 

 砂が撤去された家……正確にはそこで何かの作業をしている犬型の住民に指を指すユメ。

 庭に積もった砂を必死にスコップで道路へどかし、額の汗を首にかけた手拭いで拭っている。

 

「おいそこのドローンちゃん! この砂ぁ持って行ってくれねぇか!」

 

『承知しました。ご住居の清掃もお手伝いさせていただきます』

 

「おう! ありがとうな!」

 

 近くを漂っていたHERMAのドローン3台が、大きな袋と吸引機を展開して道路に積もった砂をどかしていく。

 それから程なくしてどこからともなく飛んできたドローンと共に作業を行い、敷地内の砂はみるみるうちに減って行った。

 

「私も手伝う! アテネちゃん降ろして!」

 

「言うと思ったよ」

 

 だから背中の上で暴れないでほしい。

 肩を掴んでブンブンと振るユメを落ち着かせながら、家の前の道路に降り立った。

 降り立つ音に気が付いたのか、住民は作業する手を止めてこちらを見て声を上げた。

 

「おお! 鉄の姉ちゃん。ユメちゃんまでどうしたんだい」

 

「お疲れ様です。事務仕事ばっかりだったユメに、この辺の街並みを見せてあげようと思って」

 

 ある程度顔見知りの関係なため、警戒することなく庭に入れてくれた。

 変声機で女性の声に変えているため、住民には鉄の兄ちゃん(IRON MAN)ではなく姉ちゃんと認識されている。

 

「掃除、私も手伝います!」

 

 壁に立てかけてあったほうきを握り締めるユメに、住民は嬉しそうに微笑んだ。

 

「そうかそうか! 生徒会長様が手伝ってくれるんなら百人力だな! ありがとう!」

 

 そうして3人で庭の掃除を行う。私が出力を絞ったリパルサーで砂を端に寄せ、それをほうきとちりとりを持ったユメが集めるといった感じで進めていく。

 ドローンの助けもあり、30分ほどで掃除は終わった。

 

「いやー、ありがとな! 昼頃までには終わらせるつもりだったんだけど、手伝ってくれたおかげで早く終わったわ!」

 

「また何かございましたら、そちらのドローンに声をかけてください。では」

 

 再びユメを背に乗せ、ゆっくりと上へと昇っていく。

 

「さようなら~!」

 

 身を乗り出して大きく手を振るユメ……っとと、落ちる落ちる。危ない危ない。

 こちらの声が相手に聞こえない程の高さで、アテネは不思議そうに唸っていたユメに声をかけた。

 

「あの人は今の家で奥さんと2人で暮らしてたんだ。子供は結婚して家を出てるから、歳もそこそこ行っててね。だから日々積もっていく砂を片付ける体力は無かったみたいで、泣く泣く家を放棄して別地区の賃貸に引っ越したのが半年前だったかな」

 

「……そうなんだ」

 

 彼らの心境を想像したのだろう、ユメは苦し気に小さく呟いた。

 

「だけど、来月からまた戻って来てくれるみたいだよ」

 

「そうなの!?」

 

「ああ。定期的に戻って様子は見に来てたらしくてね。そのときドローンが積もった砂を掃除しているところを見たらしいんだ」

 

「凄い! だから戻って来てくれたんだね!」

 

 さっきの辛そうな態度はどこへやら、ユメはとても嬉しそうだ。

 長年出ていくばかりだった住民が、たった2人とはいえ戻ってきてくれたんだ。長年そのための努力をし続けてきたユメにとっては嬉しい知らせだろう。

 だが、その発言には少しだけ間違いがある。

 

「それもあるだろうけど、戻るのを決めのは別の理由……ユメのおかげみたいだよ」

 

「私?」

 

「ああ。私が来る前に住民に署名をお願いしていただろう? 毎日毎日、断られながら一人でね」

 

「あはは……そうだね」

 

 連邦生徒会への援助を求める署名。正直いくら集めた所で望み薄な内容だ。既に砂漠化と人口減少が進んだ町を、莫大な予算をかけてまで助けようとは普通思わないだろうし。

 ホシノと出会ったのも活動中に襲われたのを助けてもらったときらしいし、治安の悪いアビドスで1人紙を配り続けるのには、相当な根気がいるだろう。

 

「どうやらあの人はそれを見ていたらしくてね。だからユメの名前を知ってたんだ」

 

「あっ、確かに」

 

 指摘されて初めて気が付いたのか、真面目な雰囲気をそぐような抜けた声を上げるユメ。

 

「自分が諦めたアビドスをここまで想って動いている若者を見て、少しだけ希望が見えてきたって言ってたよ」

 

「っ!」

 

「君のやっていたことは、何一つとして間違ってなかったんだ」

 

 にこやかな笑顔で語っていた住民の顔を思い出しながら、私は報われるべき努力をしたユメにそう語り掛けた。

 

「さて。あまりゆっくりしてられないぞ。戻ってくる人は他にも一杯いるだろうし」

 

 諸々の手続きや支援、片付けでしばらくは休めない日が続きそうだ。

 私の権限が及ぶ範囲での書類業務ならHERMAに任せられるのだが、現実はそうはいかないからね。

 

「……ユメ?」

 

 そんな意味合いを込めた発言だったが、背中に乗ったユメが全く反応を見せなかったため再度問いかける。

 すると、ユメは首に回した腕に力を籠め、完全に体をくっつけるようにして抱き着いてきた。

 

「うわあぁぁぁん! ひっ、うう……」

 

「えっ」 

 

 バランスを崩して落ちそうになったのかと思ったが、聞こえてきたのは大きな泣き声だった

 いやいやいや。泣き声めっちゃデカいしそもそも何で泣いてるの? 

 

「私っ、私すっごく嬉しいよぉー!」

 

 ひんひん言いながら泣き腫らすユメ。どうやら嬉し泣きだったようだ……ビックリした。何かマズいことでも言ってしまったのかと思ったぞ。

 よくよく考えれば私とホシノが来るまでたった一人で、周りに反対されながらやってきたことが実った瞬間だもんな。そりゃ嬉しくもなるか。

 

「ほらほら、少し声を抑えてくれ。下から変な目で見られてるぞ?」

 

 大声で泣く少女を背に乗せて運ぶロボットとか世も末みたいな光景だ。一応芙蓉アテネ=アイアンマンという事実は隠しているとはいえ、住民とはこの姿で喋るんだから少し気まずい。

 

「ひっ……だってぇ……」

 

 泣き続けるユメを背負いながら飛んでいると、道の真ん中に倒れたヘルメット団の生徒を山積みにしているホシノの姿が見えた。

 

「全く。今日は大事な日なんですから、面倒事は勘弁してほしいものです」

 

「ぐへっ! ……何で50人がかりでやったのにそっちは傷一つついてないんだよ……」

 

「実力の差というものですよ」

 

 積まれた山の一番上に放り投げられた生徒が恨めしそうに呟く。

 それに対しホシノは満足気に手をパンパンと鳴らすと、

 

「アテ……ん゛ん゛。ユメ先輩じゃないですか……何で泣いてるんですか? またそこの機械に泣かされたんですか」

 

 私の名を呼びそうになって咳払いで訂正したホシノは、失言を誤魔化すように後ろのユメに指をさして問いかてくる。

 ミカに押し倒されている所を見られてから、ホシノの中で私は女泣かせの最低な男として認識されてしまっているようで、ことある事にこうやって弄られるのだ。

 でもこういう風に雑に扱ってくれるのはホシノだけだし、彼女とのコミュニケーションは結構楽しかったりもする。

 

「ほじのぢゃんー!」

 

「うおっと、危ね」

 

 治安維持の仕事をこなすホシノの姿を見て収まっていた感情があふれ出したのだろう。ユメは私の首に回した手を離し、飛び降りてホシノの元へ向かう。

 驚くホシノを砂の上に押し倒し、ユメはその上に覆いかぶさった。対格差的にも傍から見れば危ない光景である。

 

「うわっ! こんなところで抱き着かないでくださいよ。服に顔をこすりつけるのも禁止です!」

 

 涙や鼻水でぐしゃぐしゃになった顔面をホシノ胸にこすりつけるユメ。叫びながら引きはがそうとするホシノだが、意外と力が強いのか本気で剥がすつもりはないのか、結局ユメはホシノの胸で泣き続けた。

 

「ひぃん……2人とも、大好き……zzz」

 

 そう言い残したユメの意識は、そのまま寝息と共に深く闇の底へと落ちて行った。

 

「えっ、人の服をハンカチ代わりにした挙句泣き疲れて寝るとか本当に言ってます? 信じられません! こんな赤ん坊みたいな人が生徒会長でいいんですか!?」

 

「ホシノ、静かに」

 

 騒ぐホシノの唇に人差し指を置き、寝静まったユメを起こさないように持ち上げる。

 

「働き者の会長を少しは労ってあげようじゃないか。集金人が来るまでもう少ししかないけど、それまでは寝かせてあげよう」

 

 そのまま背中に乗せて羽で包み込むように固定する。金属の装甲で覆われた羽だが許してほしい。

 

「……分かりました」

 

 私不満ですといった様子を一切隠そうともしないホシノだが、結局はこうやって引き下がるのだから良い子だ。

 そんなことを思っていると、ホシノは「んっ」と声を上げながら両手をこちらに向けて広げてきた。

 

 ……どういう事だろう? 撫でて欲しいのかな。

 

「違います! 私も送って行ってくださいって意味です!」

 

 どうやら私の選択は間違いだったようで、ホシノは頭を撫でる金属のアームを抑えて声を荒げた。

 

「いや、両手足のリパルサーで飛ばなきゃいけないから無理だよ。抱えて飛べないもん」

 

「私があなたの足首の上に立って、首に手を回せば問題ないはずです」

 

 そう言うと、おもむろに私の足首の上に竹馬のように足を乗せ、首に手を回してくるホシノ。

 ……人前でいちゃつくカップルみたいな姿勢だけど、ホシノは気にならないのだろうか。

 

「落ちるなよ」

 

「それはあなたの技術次第です。落ちても死にはしない高さでお願いします」

 

 わがままな娘を持つとこんな感じになるのかと思いながら飛ぶこと数分、すっかり綺麗になったアビドスの校舎が見えてきた。

 

「ユメ先輩をベッドで寝かせてきます。集金人が来たら呼んでください」

 

「分かった」

 

 お姫様抱っこでユメを抱えて廊下を歩いて行くホシノを見送り、書類を確認して集金人を待つ。

 

 

 

 それから程なくして、奥の方からこちらへ向かって来る現金輸送車の姿が見えた。スーツを脱ぎ、服装を整えてホシノに連絡を入れる。

 

「ホシノ。ユメを起こしてくれ。お客様のご来店だ」

 

『分かりました。……ほら、起きてください先輩。お昼寝の時間は終わりですよ』

 

 A4の封筒1枚だけを片手に校門の前へと向かう。

 少し遅れてユメとホシノもやってきた。

 

「っ……いつもと大分雰囲気違いますね。制服も女性ものですし」

 

「ね! 女の子って感じで可愛い!」

 

 驚いたように目を見開いてこちらを見るホシノ。こっちだって好きで着てるわけじゃないんだから、余りジロジロと見ないで欲しい。

 

「対外的には私は女だからね。こうして人と会うときは化粧で誤魔化してるのさ」

 

「女装癖もここまで行くと尊敬ですね」

 

 そこ。うるさいぞ。

 

「だから女装じゃ無いといっているだろう。全く……寝癖が付いているぞ。ほら」

 

 ホシノの質の悪い冗談にため息をついていると、ユメの横髪が跳ねている事に気が付いた。

 手櫛で跳ねた髪の毛をとき、肩に付いた埃を手で払う。

 

「ありがと~ふわぁ……」

 

 相変わらず緊張感が全く感じられない。これからカイザーに一世一代の喧嘩を売るというのに。

 ……まあ、信頼してもらっている裏返しと考えれば悪い気はしないけど。

 

 現金輸送車が校門の前で止まり、運転席から1台のロボットが降りてくる。

 

「カイザーローンです。今月分の返済金を受け取りに参りました。……そちらの方は?」

 

 こうして相まみえるのは初めてだが、ユメとホシノが何も反応していないところを見るに、彼が集金人であることは間違いないだろう。

 アビドスの生徒としての意識は残しつつ、資本家発明家としての意識に切り替える。そして、小さく微笑みながら話しかけた。

 

「お初にお目にかかります。先月付でアビドスに入学することとなった、芙蓉アテネと申します」

 

 腰を曲げて頭を深々と下げた後、スカートの裾を摘み上げる。トリニティで鍛え上げられたカーテシーという貴族の挨拶だ。

 

「っ! なるほど……あなたが例の……ご丁寧にありがとうございます」

 

 私の名前を聞いて顔を強張らせる集金人。カイザーにも私の情報は伝わっているのだろう。

 最初に顔を合わせたときに気づかれなかったのは、単に私の髪型が以前報道された時と異なっていたからだろうか。と言っても、邪魔にならないようにポニーテールで纏めてるだけなんだけど。

 

「書類で送った通り、今月の返済額は412万6800円です。……現金の方はどちらに?」

 

 いつも鞄に現金を詰めて返していたということだが、生憎その鞄は生徒会室の奥の方で眠っている。

 

「その件に関してなのですが、(わたくし)からカイザーローン様にお伝えしたいことがありまして」

 

「はぁ……っ!?」

 

 集金人に笑顔を向けながら、私は一枚の書類を手渡した。

 困惑した面持ちで書類を流し読みする集金人だが、次の瞬間驚いたように目を見開いてこちらを見て来た。

 

「こっ、これは……! 一体どこでこれを!?」

 

 震える手で書類を差し出してきた集金人。そこに書かれていたのはとある取引記録。カイザーローンがアビドスの借金を不正に吊り上げ、そのお金をブラックマーケットに流している動かぬ証拠だった。

 

「親切な方から送っていただきまして。勿論、これだけでなく過去数年にわたる記録も全て保管してあります」

 

「こんなもの……! 認められるはずがありません! 捏造です!」

 

「あら? これが本物の取引記録であることは、あなたが一番分かってらっしゃるのでは? 私はこの証拠を持って、連邦生徒会へと直訴する予定です」

 

「ともなれば、あなた達の不正は世に出回るでしょうね。天下のカイザーローンが、学校相手に不正を行っていたという事実が」

 

「くっ……!」

 

 ホシノの援護射撃を食らい、苦い顔をするカイザーローン。

 

「そちらが要件を飲まない場合、私たちは裁判も辞さない考えです。裁判中の返済義務はありませんし、確固たる証拠がある以上、どちらが有利かは説明しなくてもお分かりでしょう?」

 

「……要件を聞きましょう」

 

 劣勢と悟や否や、すぐに譲歩して相手の意見を聞く。この集金人は優秀だね。

 

「適正な利子での再計算。及び過払い金の返還をお願いいたします。1円でも誤魔化すようであればこちらとしても容赦はしないので、よろしくお願いしますね?」

 

「……分かりました。上へと掛け合ってみます。ひとまず今月の返済は大丈夫です」

 

 モニターに苦し気な顔を表示させながら、集金人は逃げるように現金輸送車へと乗って帰って行った。

 それを笑顔で見届けながら、完全に見えなくなった辺りで表情を戻す。

 

「……あー、あ゛、あー……やっぱり変声機がないともう厳しいな」

 

「やったねアテネちゃん! 悪い集金人を追い払ったよ!」

 

 喉を抑えて咳ばらいをする私に、ユメが嬉しそうに抱き着いてきた。

 

「お疲れ様です。これで、借金についてはひと段落付きましたね」

 

 戦闘になるとあれだけ頼もしいホシノも緊張していたようで、ほっと息を吐く姿が目に入った。

 

「……そうだね」

 

 だが私は、これだけで問題が解決するとは到底思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────

 

 

 

 

 

 

 

「……芙蓉アテネ。噂に違わず切れ者のようだな」

 

「ど、どうなさいますか? このことが連邦生徒会にバレたら、カイザーコーポレーション全体に被害が…」

 

「問題ない。所詮子供のやることだ。ティーパーティー……パテル分派の首長に電話を繋げ。少し彼女と話がしたい」

 

 

 





 嬉し泣きするユメ先輩かわいいね。ホシノも一緒にもっと幸せになって……
 
 高評価、感想、ここ好き頂ける作者の励みになります。モチベは投稿頻度にも露骨に作用するので、面白いと思ったらよろしくお願いします!
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