MARVEL STUDIOS 「ブルーアーカイブ」   作:MAN

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 視点がコロコロ変わります。分かりづらかったらごめんなさい…


ヒーロー

 

 

 

 ヘルメット団のリーダーに案内され、私とユメ先輩はアビドス外れの寂れた市街地へと足を運びました。

 眼前にはアビドスの街道を埋め尽くす勢いで、黒と赤の制服を身に纏った生徒が並んでいます。

 

「お初にお目にかかりますアビドスの皆さま。私はパテル分派の首長兼、ティーパーティーのホストを務めさせていただいております、御門(みかど)フミカと申します」

 

 集団の前に立った一人の生徒が、両手でスカートの裾をつまんであいさつをしました。

 こんな物騒な状況を生み出しての丁寧なあいさつに拍子抜けしそうになりますが、相手への警戒を怠ることなく挨拶を返します。

 

「……アビドス高等学校生徒会副会長、小鳥遊ホシノです」

 

「せ、生徒会会長。梔子ユメです! ……えっと、フミカさんは、一体どういうご用件で……?」

 

 鋭く向けた視線を外さない私に対し、隣に立つユメ先輩は動揺したように声をどもらせて聞きました。

 ……しっかりしてくださいよ! 生徒会長がそんなだと相手に舐められるのに……! 私と違い荒事に慣れていないのは知っていますが、それでももう少し威厳を出してほしいものです。

 

「難しい話ではございません。私たちは、以前からあなた方にしていた()()()を聞いてもらいたいだけなので」

 

 フミカはそんなユメ先輩を見ても微笑みを崩しません。相手に内心を悟らせない表情作りは、それだけで幾千もの場数を踏んできたのだと予想ができます。

 

「……意味が分かりません」

 

 そんな彼女に対し、私は毅然とした態度のまま言い返しました。

 心当たりが無いかと言えば嘘になりますが、それを踏まえても私の言葉は変わりません。ここで弱気な姿勢を取って、相手に付け入る隙を与えたくないという考えもありました。

 

「では改めてもう一度……そちらに在籍しているであろう、芙蓉アテネ様の身柄を私たちに引き渡してください。これが、私たちがあなた方に要求する内容です。簡単な話でしょう?」

 

 受け入れるのが当然だといった様子で語るのを見て、私は胸の奥に沸々とした感情が沸き上がってくるのを感じました。

 

「突然大軍を引き連れてきたと思えば何を……そんな無茶苦茶な要求、通るわけないじゃないですか!?」

 

 そう叫んだ私に対し、目の前に立つ生徒は丁寧な口調ながらも軽蔑の視線を送ってきます。

 

「突然? 私たちは連邦生徒会を通して何度も君たちに言っていたはずですが。それを無視していたのはあなたたちでしょう?」

 

「拒否していたのはアテネ本人です! トリニティに戻るつもりは無いと何回も言っていました!」

 

 アテネの周りを渦巻く問題は、最早彼だけで解決できる規模を越えています。だからアテネはミカ達に何も言わず、たった一人で抱え込んでいたんです。

 そんなことはお構いなしと言った様子で、フミカはわざとらしく首を傾げて言い返してきました。

 

「ならばなぜ取材や会見を拒否するのでしょう? 本当にアテネ様がその気ならば、一言公の場で声を発せば住む話ではありませんか?」

 

 その言葉で、私は彼女がアテネのことを何も知らないことを理解しました。アテネが何故人目を忍んでトリニティから逃げ出したのかとか、その裏側にあったであろう苦悩などは、全くもって考慮していないのでしょう。

 

「はっ、あなたはアテネのことを何もわかっていないんですね。それに、弱小校とはいえ他校の自治区に軍隊を派遣してこの仕打ち、これは大問題ですよ」

 

 ────そんな相手にアテネを渡すなど、私には考えられませんでした。

 

「あらあら、一体何を言っているのでしょう彼女は。まさか、自分の所属する学校の自治区すら分からないのですか? だとすれば……とても生徒会にふさわしい人物とは思えませんね」

 

 腹黒い笑みを浮かべながら、後ろに立つ生徒に問いかけるフミカ。

 その言葉を皮切りに、辺りには意地の悪い小さな笑い声が広がります。

 

「何を言って……」

 

「私たちはカイザーコーポレーション様が所有する土地に、行方不明者を探しに来ただけですよ。ねぇ?」

 

「その通りですフミカ様。既に先方の許可も取った状況ですし。……この状況において、私たちの邪魔をしているのはあなた方アビドスになりますが」

 

 黒と赤の制服を着た生徒が、手に持ったリボルバー式拳銃をフミカに渡しながらそう語りました。

 

「ふざけないでください! ここはれっきとしたアビドスの自治区です。まかり間違ってもカイザーなんかの土地じゃありません!」

 

「違うの、ホシノちゃん……」

 

 声を荒げて言い返す私の肩に手を置いたのはユメ先輩。いつもは明るいはずの瞳を伏せながら、小さな声でポツポツと呟きます。

 

「ここは……この町は、ホシノちゃんが入学する前に、私がカイザーに売った土地なの。……どうしても、お金を返せなくて……」

 

「そんな……」

 

 だとすれば、トリニティがやっていることを止める権利は、私たちには無いということですか! 

 

「ごめんなさい。でもね、きっと話せばあの子たちも分かってくれるはずだから……!」

 

「ま、待ってください!」

 

 私の静止する声を無視して、ユメ先輩はフミカの前へと向かいました。

 

 政治闘争の多いトリニティで、トップであるティーパーティにまで上り詰めたフミカ。片やチンピラの攻撃しか他人の悪意に触れことがないユメ先輩。こういう場において、どちらが優位に話を進められるかは火を見るよりも明らかです。……それが分からない程、ユメ先輩も馬鹿じゃありません。

 

「こんなやり方じゃなくて一回、アテネちゃんを交えてお話ししてみない? そうすれば、あなた達の考えも変わると思うの」

 

 だから、震える体を抑えてそう言い放ったのは、ひとえにアテネに対する想いがあってのことでしょう。

 

「その肝心のアテネ様の姿が見えないのですが」

 

「アテネちゃんは……今日はお休みで」

 

 歯切れを悪くしながら呟くユメ先輩……ああもう! 間が悪いったらありゃしないですねあの男は! 

 もどかしい気持ちに苛まれていたそのとき、フミカは片腕を大きく上げて後ろを振り向きました。

 

「聞きましたか皆さん! やはりあの()は本当だったようですね!」

 

「ふざけるな! アテネ様を出せ!」

「そうだそうだ! あの方は、こんな腐りかけの死体に居るべきじゃない!」

「トリニティの希望を返せ!」

 

 その言葉を皮切りに、聞くに堪えない罵声をこちらへ飛ばすトリニティの生徒たち。

 

「噂……?」

 

「あなた方アビドスが、アテネ様を監禁して無理やり働かせているという噂です!」

 

 呆然と呟くユメ先輩に、フミカは演技ったらしく大声を上げ、手のひらで顔を覆いました。

 

「なんて悲しいことなのでしょう! 死にゆく病人であるアビドスが、我がトリニティの希望に歪な期待を寄せ、あまつさえ監禁して手駒にしているだなんて!」

 

 その口から出てくる言葉は、こちらの神経を逆なでするような言葉ばかり。

 我がトリニティの希望という言葉からも、アテネに対する歪な感情が見え透いています。

 

 怒りのボルテージが臨界点を超えると逆に冷静になるとはよく言うが、私は初めてその言葉の意味を身に染みて理解しました。

 

「……いいでしょう。喧嘩を売っているなら喜んで買いま────」

 

「ホシノちゃん。それはダメだよ」

 

 私が構えたショットガンの銃口に手を添え、真剣な表情で首を振るユメ先輩。

 

「どうして……」

 

「言ったでしょ? 何でもかんでも争いで解決するのは良くないって」

 

 ゆっくりと銃口を下に向けさせ、ユメ先輩は私を安心させるように小さく微笑みました。

 

「大丈夫。ちょっとは先輩らしいことさせて。ね?」

 

 そうして再度フミカと向き合ったユメ先輩。

 そこに、先ほどまでの震えはありませんでした。

 

「私たちの要求を受け入れていただけますか?」

 

 視線を一瞬たりとも外そうとしない先輩を見て、フミカはお淑やかさの中に攻撃的な意思を孕ませた笑みを向けます。

 

 

 

 

「いいえ。あなたたちに、アテネちゃんを渡すことはできません」

 

 

 

 

 私ですら尻込みしそうになる言葉の圧力を正面から受けても、ユメ先輩は一切引き下がらず言い放ちました。

 武力行使を匂わせるトリニティの軍勢に相対する中、アビドスのような弱小校が食いついて来るとは思わなかったのでしょう。フミカは初めて面を食ったような表情で固まりました。

 

「……それは、何故でしょう?」

 

 少し遅れて、再び顔に笑みを張り付けて問いかけるフミカ。しかし、そこに先ほどまでの余裕はありません。

 

「この町にはね、色んな宝物が眠ってるの。ふるさとの風景も、ここにいる人たちも、私を支えてくれたホシノちゃんも」

 

 一瞬後ろを振り返り、まるで親が子供に向けるような、慈愛の籠った瞳で私を見るユメ先輩。

 

「……そして、私の夢を応援してくれたアテネちゃんも。みんな、このアビドスで出会った、大事な宝物」

 

 そして、ユメ先輩は盾に取り付けた肩掛けベルトをギュッと握りしめました。

 

「その宝物を、あなたたちは侮辱したから! そんな人には、アテネちゃんを任せられ────きゃっ!」

 

 その言葉を遮るように、一発の銃声が風が吹く音に紛れてこだましました。

 目の前には、撃たれたであろう肩を抑えて倒れ伏すユメ先輩の姿が……そんな、まさか……! 

 

「痛っ……!」

 

「これは失礼……あまりにも長ったらしくて退屈なお言葉だったので、つい眠気覚ましに撃ってしまいました♪」

 

 そう言って片手で持ったリボルバーの銃口をふっと吹き、倒れ伏すユメ先輩に突きつけた。

 

「ならば交渉は決裂です。自身の愚かさが招いた惨めな結果を、壊れゆく宝物(アビドス)を肴に、とくと後悔するとよいでしょう」

 

「先輩っ!」

 

 

 

 

 

 時が止まったと錯覚するほど鋭くなった感覚の中で、痛みか無力感か、涙を滲ませたユメ先輩と視線が交差する。

 

 

 

 

 

「ごめ、んね……ホシノちゃ────」

 

 

 

 

 

 私の名を呼ぶそのの声は、同時に鳴り響いた5発の銃声によってかき消された。

 

 

 

 

 

「あはははは! ご覧なさい! 身の程を弁えないからこうなるので────っ!?」

 

 気が付けば、私は先輩に下ろしてもらったはずの銃口をあの女に向け、引き金を引いていました。

 

「フミカ様!? ……貴様ぁ!」

 

 幾百もの黒と赤のカラーリングの制服を纏った天使たちが、私に向かって各々の得物を構えてきます。その対応の速さは、流石正義実現委員会といったところでしょうか。

 ヘルメット団から奪った閃光グレネードを放り投げ、近くの岩場に身を隠します。

 

「ごめんなさいユメ先輩。あなたの言葉、守れそうにありません」

 

 弾倉にショットシェルを一発づつ込めながら、肩の上で眠るユメ先輩にむかって小さな声で呟くのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外壁が崩れて窓ガラスが全て割れたビルの中に、銃声と人の走る音が響き渡ります。

 1階にビルを取り囲むように20人。2、3、4階にそれぞれ7人。……私がこのビルに居ることは既にバレているようです。

 

「うへ……これは失敗だったかもしれません」

 

 考えれば考える程悪くなっていく状況にため息を吐きながらも、私は得物を握る手を緩めることはありませんでした。

 私が身を隠している部屋の扉が開き、中に複数の正義実現委員会の生徒がなだれ込んできます。

 

「がっ!?」

 

 その内の1人。恐らく後衛であろうアサルトライフルを持った生徒の頭にスラグ弾をブチ込み吹っ飛ばす。

 続けざまに隣に立つ生徒も無力化に成功。残りは5人。

 

「くっ! こっち! 撃って!」

 

 既に何人かが倒されることは想定して動いていたのか、狼狽えることなくこちらを撃ってきました。

 元々はオフィスだったのでしょう。等間隔に建てられた柱で弾丸を防ぎ、足元に転がっていた椅子を蹴り上げて相手に吹き飛ばします。

 

「ぜ、全然弾が当たりません! ……ぎゃあ!」

 

「トリニティのお嬢様でも、撃たれた時の反応はヘルメット団と同じですね!」

 

 汚い声を上げて倒れる生徒に捨て台詞を残しながら扉を抜けて、先ほど彼らが昇って来た階段の手すりを伝って降りて行きます。

 

「この!? ……ぐはっ!」

 

 お尻と手のひらを手すりに乗せ、滑り落ちるように4階へと移動します。見えた敵の頭を全てホルスターから抜いた拳銃で撃ち抜くと、降りた廊下の先に窓が見えてきました。

 

「袋のネズミです! ハチの巣にして差し上げましょう!」

 

 廊下を挟んだ扉から体を出し、こちらに向かって銃撃してくる生徒たち。

 

「無駄です!」

 

「な、なんですかあの動き!?」

 

 壁を2,3歩駆けることで被弾を回避した後、私は相手のリロードのタイミングを待って近接戦へと持ち込みました。

 一番手前の部屋の生徒にショットガンを突きつけ、至近距離からの発砲で体を吹き飛ばす。

 

 そして傍でギ―ギ―と音を立てる扉を引きちぎって半分に折ると、丁度良いサイズの盾が出来ました。少し小さいですが、身をかがめれば体が十分入る大きさです。

 

「金属の扉を素手で!? っ!」

 

 なるほど、道理で少し硬いと思いました。

 ドアノブがある方を盾に使い、もう片方を反対の部屋から顔を覗かす敵へと投げつける。

 

「きゃっ!」

 

 直撃こそしなかったものの、避けようとしてバランスを崩して部屋の奥へと倒れて行きました。

 抜け駆けに彼女の頭に一発弾を撃ち込み、眼前に窓が見えてきました。

 

「止まりなさ……」

 

「うるさいですよ!」

 

 最後の列に居る生徒が銃をこちらに構えてきた瞬間、私は盾を上に構えながらスライディングを行い、すれ違いざまに相手の足にスラグ弾を撃ち込みます。

 余りの衝撃に溜まらず転ぶ生徒を尻目に、私は勢いを殺さず窓へと飛び移りました。

 

 盾を正面に構えながら窓を突き破り、そのまま地面へと落ちて行きます。

 

「ぐっ……」

 

 盾を下敷きにして着地することで衝撃を防ぐことが出来ました。

 しかし、飛び出した音に気が付いたのか、一階で待機していた生徒たちがこぞって寄ってきます。

 

 チェストパックからスモークグレネードを取り出し、視界を隠して再度隠れるのでした。

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 荒廃したアビドスの市街地。その一角に建てられたテントにて、正義実現委員会の制服を身に纏った生徒……委員長が、部下からの報告に目くじらを立ててていた。

 

『ほ、報告! 掃討に向かっていた第一、第二小隊が壊滅! 第三小隊も半壊とのことです! 要救護者多数! 今すぐ戦車部隊による支援を要請します!』

 

「ふざけないでください! 一年生一人に対して戦車を出せというのですか! そもそも戦車部隊は今日は休暇中です!」

 

 無線越しに聞こえてきた悲痛な報告を受け入れられないのか、怒号と共に要請を拒否している。

 

『そんな……何故ですか!』

 

「アビドスに攻め入るつもりなんてサラサラ無かったってことだよ! 私たちの休暇が無くなったのも、タダのハッタリ利かせる為だと言っていたでしょう! とにかくそんな小娘一人に苦戦してないで、さっさと片付けてしまいなさい!」 

 

『で、ですが相手は市街地を巧みに利用してゲリラ戦を行っています! 地図を参照しようにも、度重なる砂嵐で地形が……ぎゃあああ!』

 

「どうしましたか? 応答してください! ……クソッ!」

 

 委員長は怒りに任せ、断末魔と共にノイズのみを伝える機械と化した無線機を叩きつけた。

 アルミで出来た空き缶のように潰れるトランシーバーを見て冷静さを取り戻したのか、委員長は頭を抱えて現状を憂い始めた。

 

「どういうことですか……何故小娘一人にここまで……」

 

 掃討に向かわせていた小隊は全て精鋭揃いなのにも関わらず、現在合計して80人近くの生徒が無力化されているという事実に頭を抱える。

 

「暁のホルス……噂には聞いていましたが、まさかここまでとは思いませんでした」

 

 そんな委員長に話しかけたのは、真っ赤な鮮血が滴る瞬間を切り取ったような、独特な形のヘイローを持つ一人の生徒だった。

 

「一年生のあなたの手を借りるのは気が引けますが……仕方ありませんね。剣先ツルギさん、小鳥遊ホシノの無力化を命じます」

 

「任せてください……くけ、げがはははは!!」

 

 ツルギと呼ばれた生徒は、どこからか二丁のショットガンを取り出すと、奇怪な笑い声をあげながらテントの外へ向かう。

 

「……では、行ってきます」

 

 そう言い残すと、目にもとまらぬ速さでその場を駆け出した。

 

「……最初からこうしておけばよかったかもしれませんね」

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 最初こそ優勢だった状勢が、時間と共に崩れつつありました。

 理由は単純なものです。いくらこちらが一方的に把握している場所での戦闘であっても、相手が統率の取れた集団なら時間の経過とともにその効力は失われていくのは必須。

 メインウェポンであるショットガンの弾薬も尽き、今の私が持っているのはこの小さなハンドガンのみ。体中にまとわりつく疲労も、私の動きを鈍くする一因でした。

 

「けひっ、げははははは! 死ねぇ!」

 

「ぐっ!」

 

 極めつけは、この異常なまでの強さを持つ生徒。両手に持ったショットガンで、私の遮蔽をことごとく破壊して進んできます。

 

「ツルギ様、援護いたします!」

 

 とするとその後ろから飛んでくる一般生徒の弾丸もかなり厄介なもの。身を守る術が無くなった私は、ただひたすら逃げて破壊されを繰り返すことしかできません。

 牽制にもならないであろう射撃をしながら別の遮蔽物に隠れた瞬間、疲労と蓄積したダメージからか、体が自由に動かなくなってしまいました……隠したユメ先輩の居場所がバレるのも時間の問題でしょうし、これ以上の抵抗は無駄かもしれませんね。

 

「……馬鹿だなぁ」

 

 思わずそんな呟きが口から零れてしまいました。

 

「どぉこ行ったぁ!? 出てこぉおおおぉぉい!」

 

 数十メートル先にはさっきの理不尽に強い生徒が、聞くに恐ろしい怒号をまき散らしながら私を探しています。……いやなんなんですかあの人は。今時ホラーゲームのゾンビでももっと捻った言葉使いますよ。

 

 ですが、そんなコテコテのセリフも、たった一人で戦っている私には結構効くみたいですね。……これから必ず訪れるであろう痛みに足がすくんできました。

 

「何で、勝てると思ったんでしょう」

 

『そんなわけがないのに』なんて言葉が喉まで出かかったとき、私は何故自分が無謀な戦いに挑んだのかを思い出しました。

 

 

 

「そうじゃないでしょう小鳥遊ホシノ。……勝つか、負けるかなんてどうでもいいんです」

 

 

 

 ただ私は、あのムカつくティーパーティーのホストに、アビドスの底力を見せつけてやりたかっただけなんです。

 

 

 

 アテネの……あのバカみたいなお人好しに、出来ていなかった分の恩返しがしたかっただけなんです……! 

 

 

 

 先輩の夢を吐いて捨てたあの女に、見せつけてやりたかっただけなんです! 

 

 

 

 ────私たちの絆を、友情を……! 

 

 

 

「なら……! ここで諦めてどうするんですか!」

 

 震える両足を抑えて立ち上がり、私を探すゾンビターミネーターに向けて引き金を引きます。

 銃弾は風を切る音と共に彼女のこめかみを掠めて飛んでいきました。

 

「あぁ? けひっ!」

 

 こちらを認識した途端、だらっと上体を倒してこちらに迫って来ました。本当にゾンビみたいでちょっと怖いです。

 普段なら怖くもなんともないのに、震える両手は照準をブレさせます。

 

 数発撃ったところでスライドが後方で止まってしまいました。

 どうやら弾切れのようです。

 ですが、私の体は何故か前に進んでいました。

 

「あ゛あああああ」

 

「っ!? ぎひゃひゃひゃひゃ!」

 

 何故か彼女は得物を捨て、飛び掛かった私と取っ組み合いの喧嘩を受け入れました。

 華やかな銃撃戦の応報は何処へやら、今の私はマウントポジションを取ってひたすら拳を振り下ろす惨めな姿を晒しています。

 

「うぐっ!」

 

 もう一度拳を振り下ろそうとしたそのとき、先ほど弾丸をモロに食らったであろう場所が酷く痛みました。

 

「ぎゃははは!」

 

 その瞬間、馬乗りになっていたのが嘘のように突き飛ばされ、私はアビドスの砂の上に尻もちをつきました。

 少し遅れて、他の生徒たちが完全に私を囲う様にして銃を構えます。

 

「ツルギ様!」

 

「撃つな」

 

 先ほどまでバイオレンスに笑っていたツルギと呼ばれた生徒が、表情をスンと戻して静止の合図を出しました。

 

「……何ですか。普通に喋れるじゃないですか」

 

 余りの変わり身に、思わずこの場に似つかわしくない皮肉を言ってしまいました。

 

「……よく戦った。尊敬に値する」

 

 しかし、気にすることなくツルギはそう言ってくれました。……その言葉を聞いて、私はなんだか救われたような気がしました。

 

「あはは……ありがとうございます」

 

「投降しろ。悪いようにはしない」

 

 そんな、認められたかのような発言に嬉しくなってしまった私ですが、その言葉だけには賛同できませんでした。

 

「お断りします。連れて行くなら、私が気絶するまで打ち続けたらどうですか? 先にそっちの弾丸が尽きるかもしれませんけど」

 

「……見事」

 

 その言葉を境に、私を囲む十数人の生徒が一斉に銃を構えました。……これで良かったのでしょうか。

 

「……アテネ。私、頑張りましたよね」

 

 もしまた会えたら、そのときは、頑張ったご褒美としていっぱい撫でてもらいましょう。……そうでもしないと、割に合わないですし。

 これから来るであろう痛みに目をつぶっていた、そのときのことでした。

 

 

 

「ツ、ツルギ様……あれ……」

 

「あ……?」

 

 

 

 ────雲一つない快晴のアビドスの砂漠を覆うほどの、大きな影が地面を染め上げたのです。

 

 

 

「……ははっ。遅いですよ。ばかっ」

 

 

 

 島が浮いているのではないかと錯覚するほどの、プロペラのついた浮遊物が私のいる場所を染め上げました。

 その下部に付いた機関砲のようなものが、一斉に見覚えのある青い光を放ちます。そう、あれはアテネのスーツから出る光弾のような……

 

「撃て!」

 

「無駄ですよ。大きすぎて距離感がつかめないかもしれないですけど、あれ、上空1000メートル位の所にありますから」

 

「なに────!?」

 

 誰かがそう聞き返してきた途端、上空から流星群のような光弾の嵐が飛んできました。

 ご丁寧に私には一発も当たっていない辺り、()()科学力の凄まじさを改めて認識します。

 

「ぎっ……ぐああああ!?」

 

 明らかにやり過ぎな量の弾丸の雨でしたが、ツルギは多少服を損傷させた程度で、爆風で吹き飛ばされた先でピンピンしてました。

 

「大事にならないように威力は抑えたが……なるほど、ツルギが相手だったか」

 

 太陽を覆っていた浮遊物がゆっくりと動き、神々しい光の柱がその場一帯を照りつける。

 そんな中石膏を固めたような純白と、黄金と呼ぶのにふさわしい色合いのスーツを着たアテネが、空中に羽を広げて佇んでいた。

 

「天使様……?」

 

「おいおい。私に天使とは皮肉にも程があるだろうが」

 

 塗装の時間が無かったんだよ。と仮面の奥で苦笑いをしているであろう、アテネの左腕には円形の盾が、右腕には背丈よりも長い槍が握られていました。それは、まるで神話やゲームに出てくるような見た目をしていて…

 って、そんなことはどうでも良いんです! こんなにボロボロの私を見ても、労いの言葉1つすらくれないなんて、やっぱりアテネは女の敵です。

 

 全く! こんな男の為に私は頑張ったという事実に腹が立ってくる程で……す? 

 

「ありがとうホシノ。君のおかげで何とか間に合った」

 

「へっ……?」

 

 アテネは武骨なアーム越しではありますが、そう言って私の頭を優しくなでてくれました。

 予想外の行動により、途端に顔に血が上るのを感じます。

 

「後は私に任せて……と言いたいところだけど」

 

 そう言うと、どこからともなく降りてきたドローンが持っていた荷物を、私に投げつけるアテネ。

 それを受け取って開くと、そこには大量の弾薬やグレネードなど……私が愛用していた消耗品が多数入ってしました。

 

「一緒に戦ってくれ。()()()君が必要なんだ」

 

「っ! そ、そうですか……! うへ、うへへっ」

 

「……?」

 

()()()()()()ではないことはもちろん分かっていますが、自然と吊り上がる頬を抑えることはできませんでした。

 顔に上った血が更に温まり、まるで沸騰するのではないかと錯覚するほど熱くなります。

 

「仕方ないですねぇ! このキヴォトス最高の神秘を持つこの私が、あなたを助けてあげましょう! 敵は何処ですか? 全員私たちで蹴散らしますよ!」

 

 私は赤くなった顔を誤魔化すように、荷物の中身を装備しながら大きな声で宣言するのでした。

 

 

 





 ヘリキャリア
 アベンジャーズ1で登場。水上航行と飛行ができ、4つ角に付けた4つの超巨大ファンを使用して空を飛ぶ。アークリアクターで電力を供給しており、実質無限に航行することが可能。ヘリキャリアの名を冠しているが、全長400メートルで戦闘機の離着陸を想定して作られているため、どちらかというと空飛ぶ空母の方が近い。機体下部にリパルサー式の光学兵器が取り付けられている。他にもいろいろ機能が付いているが、試作品のため飛行機能とリパルサーのみ使用可能。
 余談だが映画だと大体何かしらの理由で墜落している。カプコン製のヘリみたいな扱い。

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