MARVEL STUDIOS 「ブルーアーカイブ」 作:MAN
投稿時間は基本0時です。間に合わなかったら朝方の投稿になります。
高評価、感想、ここ好き頂ける作者の励みになります。モチベは投稿頻度にも露骨に作用するので、面白いと思ったらよろしくお願いします!
「げひ、ぎははははは!」
復活したツルギが叫び声を上げながらこちらへ向かってきた。
戦闘不能にするくらいの出力は出したつもりだけど流石だね。服に少々傷がついた程度でピンピンしている。周りの生徒は皆白目をむいて倒れている所をみると、やっぱりツルギの耐久力が異常ということだろう。
「来ますよ! あの人滅茶苦茶強いので気を付けてください! まあ負けるつもりはないですけど!」
弾倉にショットシェルを込め、チェストパックに予備の弾薬を取り付け終えたホシノが私の前に立って銃を構える。
さっきまでのしおらしい態度は何処へやら、やる気に満ちた様は非常に頼もしい。
「ちょっと待って」
けれど、戦わなくて良いのならそれに越したことはない。正直ホシノと2人ならツルギにも勝てると思うけど、えげつないほど消耗するのは目に見えてるし。
出鼻をくじかれてぎゃおぎゃお叫ぶホシノを尻目に、私は地面に降り立ってツルギと相対した。
「あ゛?」
相変わらず戦ってるときの顔はおっかないな。だが、恐らく今の正義実現委員会で一番話が通じる生徒だと私は思っている。
「ぎゃはっ……ぎがががが────っ!?」
こちらにショットガンの銃口を向けるツルギに対し、マスクを取り外して顔を露わにした。
その凶悪ともいえる表情は一瞬にして鳴りを潜め、目をまん丸に開いて硬直している。
「や、ツルギ。久しいね」
「へあっ!? _あ、アテネ様!?!?」
驚きの叫びを上げた後、さっきまでの表情が嘘のように口元を震わせ、目を左右に振っている。
相変わらず良い反応をしてくれるね。正義実現委員会に入っても変わってないようで安心だよ。
「つれないなぁ。同級生なんだから呼び捨てで良いって何度も言ってるだろう?」
「いや……えっと、その……」
「あんな物騒なもので攻撃してごめんね。怪我はないかい?」
姿を見れば大したダメージになっていないのは明らかだが、からかい目的も兼ねて一応声をかけてみる。万が一があったら大変だからね。
「へっ!? えっと……大丈夫、です」
可愛らしく頬を朱に染めて、しおらしい態度で返事をしてくれた。
「そっか。なら良かった」
「アテネ様は、その……何でここに?」
途切れ途切れになりながらも、ツルギはしっかりと疑問をこちらに投げかけてきた。
「深い理由はないよ。私が望んでここアビドスに入学を希望したからさ。ここの生活も、結構楽しいんだ」
「……そう、なんですね」
どこかショックを受けたように小さく呟いたツルギ。しかし、直ぐに覚悟を決めたように表情を引き締めた。
「なら、私は……アビドスに投降します。あなたに銃は向けられない」
両手に持ったショットガンをその場に投げ捨て、右耳に取り付けていたインカムを握りつぶしたツルギ。そして胸に片手を当て、私に向けて一度小さく礼をした。
「ごめんね、大変な役回りだったろうに。フミカ様と話がしたい、どこにいるか分かるかい?」
「いえ……F12の外れに……臨時の指令室があります。テントを立てているので、すぐに分かるはずです」
「ありがとう。ほとぼりが冷めたら、またハスミも交えてランチにでも行こう……ほら、行くぞホシノ」
そう言ってツルギに手を振った後、隣にぼうっと突っ立っているホシノに声をかける。
「は、はい!」
ここで飛ぶことも可能だが、地面が砂だとその辺で寝ている正実の子たちやツルギが可哀想なことになるため歩いて距離を取る。
「ど、どういう関係性ですか!? あの狂犬があんなになるなんて」
「狂犬とは失礼だな。ツルギは私の可愛い友達だよ」
「絶対普通の友達じゃないですよね!? 一体何をしたらあんな忠犬みたいになるんですか」
「何って……特に何も?」
強いて言うなら出会ってすぐくらいに、周りと孤立していたツルギの勘違いを解いてあげたくらいだけど……別にそのぐらい普通だろうし。そもそも何年も前の話だし……
元からああいう性格なんじゃない?
「……またお決まりのパターンですね。この馬鹿アテネ」
「ほら、ガオガオしてないでさっさと行くぞ」
「誰のせいですか……って」
小型犬のように可愛らしく吠えるホシノに声を掛ける。
そしてその流れで後ろから抱っこするように脇の下に手を回し、強く抱きしめて足裏のリパルサーを起動する。
「うへっ!? こ、この体制で行くんですか?」
「悪いね。こうしないと落っこちるんだ」
「その……色々と当たっちゃってるんですが……落ちる?」
何やら腑に落ちない様子のホシノだったが、そんな悠長なことを言っている暇はない。スーツ越しの腕で触れるくらい許してくれ。
心の中で謝罪しつつある程度の高さまで上昇し、翼を展開して背中のリパルサーの出力を最大限まで上げる。
「耳を塞いでろよ」
「へっ?」
次の瞬間、音速を超えた際に発生する衝撃波……ソニックブームが、轟音と共に辺りに響き渡った。
「ぎゃあああああ!?」
キヴォトスの人間ならこの程度のGは容易に耐えられるだろうに、本能からか大声で叫び声を上げるホシノ。
しかし少ししたら慣れたのか、ホシノはこちらに振り返って不平不満を口にし始めた。
「塞ぐ前に急加速する馬鹿が何処にいるんですか!? 耳が壊れるかと思いましたよ!」
「悪かったって! もうすぐ着くからそれまで辛抱しろ!」
打ち付ける風の音でかき消されないように、お互いに自然と発する声が大きくなる。
「それにこの腕の位置は何とかならないんですか! 思いっきり胸の上から抱きしめるとか配慮が無さすぎです!」
とは言っても落ちるのは嫌なのか、ホシノは自身の胸の上に回された私の盾をしっかり握りしめている。
「なら他にどうすればいいんだ! 言っておくが、後ろに回した瞬間リパルサーで腕が丸焦げになるぞ!」
「いくら私が薄い体をしているからって最低な仕打ちです! どうせユメ先輩やミカのような胸の大きい女性が好きなんでしょう!? この■■■■星人! 変態!」
「何でそうなるんだよ!?」
この私の天才的な頭脳をもってしても、その思考にたどり着くまでのプロセスは全くもって理解できなかった。
「第一私は体の特徴で女性を判断したりはしない! 愛した女が一番のタイプだ!」
「そうきますか! この女誑し!」
「だから意味分かんねぇよ!」
せっかくフミカと話をするためにお嬢様モードに切り替えていたのに、この髪の毛だけじゃなく脳みそまでピンク色に染まっている女のせいで……っと、口が悪いね。
暫くトリニティから離れていた影響か、思考まで素の男の部分が出てきている気がする。
「悪かったから今は静かにしてくれ! 後で何でも言う事聞いてやるから!」
「! 分かりました! 男に二言はありませんからね!」
「お前次
もしフミカと話しているときにポロっと漏らされでもしたら全てが台無しになる。それだけは本当に勘弁してほしい。
「ならその一人称をさっさと元に戻すことですね! ……っ! 見てきました!」
ホシノが伸ばした手の先を見ると、トリニティのロゴが入ったテントが幾つか並んでいるところが見えた。先回りさせていたヘリキャリアと撃ち合っている正実生徒の姿も見える。
普通なら一回の絨毯射撃で片がつくはずだが、致命傷を負わせないように威力を絞ったのが仇となったのだろう。生徒たちは倒壊したビルなどを遮蔽にしながら、対ヘリ用のロケット弾をヘリキャリアに向けて撃ち込んでいた。
「HERMA。ヘリキャリアに積んであるドローンを全て展開しろ。壊れた分はフミカ様に請求すればいい」
『承知しました。ヘリキャリアに登載中のドローン500台を、大規模戦闘プロトコルに基づいて展開します』
側面の外壁が上向きに開き、そこからまるで虫のように大量のドローンが地上に降り立っていく。
「大きい怪我はさせるなよ。顔への攻撃も無しだ」
『承知しました』
今更そんな配慮が意味あるのかは疑問が残るが、彼女たち正義実現委員会の生徒はただフミカの命令に従っているだけで何の罪もない。下らない遺恨も残したくなかったし、怪我させずに無力化できるのが一番だ。
「よし、降りるぞホシノ! 準備は良いか?」
「バッチリです! 私たちで全員蹴散らすんですよね!」
こんな状況なのにやけにテンション高いなこいつ。何か他に良いことでもあったのか?
「違う! フミカを説得しに行くだけだ。私がアテネだということも言うんじゃないぞ、分かったな?」
何故かさっきから楽しそうなホシノに釘を刺しながら、フミカが居るであろうテントへと直進していく。
「なっ!? 何ですかあれは!」
このまま激突すれば普通に死者が出るため減速しながら近づくと、一人の生徒が私に銃を向けながら声を上げた。
「バレましたか! ……仕方ありません、私をここに下ろしてください。本調子には程遠いですが、囮くらいには……」
「馬鹿。いいからこのまま行くぞ」
あれだけ傷つきながらなお戦おうとするホシノ。だがそんな犠牲を必要とする作戦など三流の考えることだ。
「じゃあどうするんですか! このままだと撃ち落とされ……!」
ホシノの言葉を遮るように横に展開していた翼を正面に持っていき、流線形に形作って飛んでくる弾丸を全て弾き返す。
『エネルギー充填率84パーセント。ソフィオスの鑓、起動準備完了しました』
再び空へ急上昇し、背中のリパルサーをオフにする。
動力が切れた状態で上昇すればもちろん最高点で停止するのは必然。そのタイミングを計算し、そのタイミングでホシノに声を掛けた。
「ホシノ! 掴まれ!」
「は、はい!」
私の腰に両手足を巻き付けるようにして抱き着くのを確認た後、一気に翼を折りたたんで足裏のリパルサーを起動する。
重力と共に推進力を得たスーツが、爆発的な加速度で地面へと向かっていく。
「いやああああああ!」
先ほどとは比べ物にならない圧力が体に掛かる。
盾を取り付けた左腕でホシノの体を支え、背中に取り付けた背丈ほどの長さの槍の電磁式の固定を外す。
思い出されるのは、初めて完成したMark4を着て、D.U.へ行ったときのこと。
「突っ込んで来ます!? た、退避ー!」
地面に激突する寸前で一気に羽を展開。体を地面と平行に持っていき、その勢いを乗せて槍を投げつける。
「ぎゃああああ!」
深い角度で地面に突き刺さった槍が、蓄積した神秘をエネルギーに変換、プラズマとして放出する。
所々剥がれかけ、砂が積もっていたアスファルトが粉々に砕け散る。爆発の衝撃でその場に立っていた生徒は皆、明後日の方角へ飛んで行った。
「がっ!」
ホシノの上半身を覆い隠すように左手の盾を並べる。そして残りの部分は翼で巻き付けるように覆った後、私はゴロゴロとアスファルトの上を転がり、積もり上がった砂の山に突っ込んだ。
「くっ……ホシノ!?」
腕の中でうずくまるホシノに声を掛ける。
ホシノは2,3回もぞもぞと唸った後、顔を上げてその目を見開いた。
「『くっ……ホシノ!?』 じゃないですよ! 何なんですか今のは! あんな怖いことするなら正実の集団にぶち込んでもらった方が100倍マシですよ!?」
肩の上から抱き着かれた状態で首を縦に振り、スーツに頭突きを入れてくるホシノ。
「いや、あんまり危ない目に遭ってほしくなくてだな……」
「はるか上空からの紐無しバンジーの方が危ないに決まってるでしょうが!?」
そうかな……そうかも。
「……ごめん」
「全く……ほら、行きますよ」
立ち上がって歩き出したホシノの後を追う。向かった先には、テント屋根の布地だったであろう、ボロボロの布切れの下に横たわるフミカの姿があった。
周りに意識のある生徒は居ないのか、先ほどまでの喧騒がまるで嘘のよう。周囲には風の吹く音のみが響いている。
「ほら、起きてください。また頭に弾丸を撃ち込まれたいですか」
「……お前そんなことしたの?」
「あっちが先に撃ってきたんですよ。私は悪くありません」
ユメが気絶していたのはそういう事だったのか……
ホシノが銃口で頬を突くと、フミカは苦しげな声を上げて目を開いた。
「ん……あなたは」
「観念してください御門フミカ。もう周りに起きている生徒は居ません。大人しく投降し、戦いを辞めるように指示を出してください」
奥の方では先ほど飛ばしたドローンと小競り合いを繰り広げる生徒の姿が数多く見えた。
しかし、いくら高性能とはいえロクな武装も積んでいない建築用の機体と、正義実現委員会に所属している生徒では後者に軍配が上がる。
彼女たちがドローンを片付けてこちらに来る前に、フミカと話を済ませなければならない。
「あなたは……あぁ……アテネ様、アテネ様ですね!」
私の方を見たかと思えば、急に起き上がってマスクの頬に手を置くフミカ。
「……人違いじゃないか?」
何でバレたんだ? 顔は完全に隠してるし、ボイスチェンジャーで声も誤魔化してるのに。
「いいえ。あなたは私の愛するアテネ様で間違いありません。……どうしてこんなお姿に、あの可愛らしいお顔はこの中に?」
悲しげな声を上げながら、マスクの継ぎ目に指を入れてこじ開けようとしてくる。……おい! ミシミシ言ってるぞ!? 嘘だろ!
「だから違うと言っているだろう! マスクに指を入れるな!?」
「有象無象の目は誤魔化せても、私の目は誤魔化せません。その格好、言葉、そして大きな翼……全てが冷たい金属のヴェールに包まれておりますが、その奥にはあなたという木漏れ日が透けて見えるのです!」
フミカは狂信者のように目を血走らせながら、戦車の徹甲弾も防げるマスクをへし曲げようとしている。
「この人、危ない薬とかやってないですよね?」
「……いや、割といつも通り」
危ない人間を見るような目を向けるホシノに、私はため息をついて答える。
「分かった、分かりましたよ。開けますから大人しくしてください」
マスクを取り外し、直接フミカと目を合わせる。
恍惚とした表情で私を見つめた後、首の後ろに手を回してこちらに抱き着いてきた。
「なっ!? 何してるんですか!」
「ああ……やっと会えた……記憶より凛々しい表情をなさって、今日は化粧をしていないのですか?」
フミカは私の頬に手をやり、鼻と鼻がくっつくほどの距離まで顔を寄せる。
「な、なに興奮してるんですか! やっぱりこの人危ない人ですよ!」
顔を赤らめて息を荒くしているフミカを見て、ホシノが狼狽えながら声を荒げる。
「どうしてアビドスなんかに? ……私との婚約はどうするのですか?」
しかし一切気に留めることなく、フミカは200キログラムはある私のスーツをガクガクと前後に揺らしてきた。
「婚約!?」
いちいち良いリアクションを取るホシノ。……だから君今日テンション高くない?
「してないしするつもりもないです。何回も言ってるでしょう? アビドスに来たのは、この町を復興させるためです」
「何故!? このような干からびたミイラのような街を助けて、一体あなたに何の得があるというのです!」
心底理解できないといった様子で声を荒げている。……だから苦手なんだよなぁこの人。昔は良い人だったんだけど。
「得とか、損とかそう言う話じゃないんです。私は、この町が、ユメとホシノのことが好きなんです。友達のやりたいことを助けるのに、理由なんていらないでしょう?」
「そんな……! なら、パテルは、私たちの事はどうでもいいという事ですか!?」
「何でそうなるんですか。パテルにはミカが居るじゃないですか。私が居なくてもやっていけますって」
確かにまだティーパーティーになるには粗削りなところは多いが、それでも心の底には優しさを持っている良い子なんだ。
「ふざけないでください! あなたはトリニティの……私の、希望の星なんです。聖園ミカに……あの女に! あなたの代わりが務まる訳がありません!」
「いい加減にして下さい。何時まで自分勝手なことを言ったら気が済むんですか」
それでもなお引き下がらないフミカに、痺れを切らしたホシノが冷え切った言葉を投げつける。
「うるさい!!」
しかしそんな言葉もフミカを止めることは叶わなかったのか、そんな金切り声が砂漠に響いた。
「……そうです……おかしいと思ったんです」
俯いたと思ったら、体を震わせて小さく呟くフミカ。
「アテネ様が、あなたが私を置いて行くなんてあり得ない! きっと、この女に洗脳されてるんです!」
「何を……」
震える手で右耳に取り付けたインカムのスイッチを押したと思えば、先ほどまでの様子はどこへやら、冷静な声色で呟いた。
「待機していた全航空部隊の派遣、支援砲撃要請します。場所は……」
「待て!」
「アビドスF12。ええ。一斉射撃でお願いします♪」
インカムを奪って投げ捨てても時すでに遅し。フミカはトリニティ航空部隊への支援を要請してしまった。
「あの島のような兵器。地上に対する制圧力は凄まじいものです。しかしあれだけの大きさ、迫撃砲による上からの攻撃には対処できるでしょうか?」
「クソッ!」
「あれが見えた時点で、万全を期して準備させておいて正解でした。直に待機させたヘリコプターの大群も見えて来るでしょう」
ヘリキャリアを見た時点で要請は済ませておいたのか、おびただしい数のヘリコプターがこちらに向かってくるのが見えた。
「HERMA、ヘリキャリアを退避させろ!」
対地上の兵器が完成していたからって安易に出動させた私のミスだ。
……仕方ない。私が行って落とすしか……!
「ぐっ!」
羽を展開して飛び立ったとした瞬間、背中、両足のリパルサーが銃声と共に爆発する。
後ろから撃たれたのかと思い手のひらを向けるが、そこには誰も居なかった。
「私がリボルバーを愛用している理由を、お教えしたことはありましたでしょうか?」
再び正面を見ると、片手で構えたリボルバーを明後日の方向へと向けるフミカの姿があった。
「こちらの銃に使われている50AE弾は、火薬量が多くて弾頭の強度が高いという特徴があるのです……つまり」
片目を瞑りながら再び引き金に指をかけるフミカ。しかし、その射線には誰も居ない……筈だった。
「っ! なっ!?」
しかし、私の真後ろに居たはずのホシノのショットガンが、着弾の音と共に吹き飛んでいく。
「跳弾なんていう一芸に、特化した銃なのですよ♪」
フミカが撃っていたのは何と、先ほどの爆発の余波で吹き飛んだ、はるか遠くにある建設用の鉄骨だった。
構造上弱点となるリパルサー部分でも、その大きさは弾丸よりも二回り大きい程度。仮に当たったとしても、並みの銃弾じゃビクともしないはず。
「逃がしませんよ。……アテネ様は、私と一緒に帰るんですから」
…忘れてた。この人、ミカとタイマン張れるくらい強いんだった。パテルにはゴリラしかいないのか?
いくつものプロペラが回る音と共に、こちらを包囲するようにホバリングするヘリコプターの姿が目に入った。
「さあ、もうじきここには榴弾の雨が降り注ぎます。頑丈な装甲など物ともしない、幾千にも及ぶ砲門からの集中砲火が降り注ぐでしょうね」
フミカは芝居がかった口調で両手を空に広げ高らかに笑っている。
「私と一緒に来るのならば、乗せてあげても構いませんよ。もちろん、そこの女狐のことは置いて行き、二度とトリニティから出ないのが条件ですが……ふふ。ふふっ……」
端正な顔をこれでもかと歪め、愉悦に浸って笑うフミカ。
「アテネ……」
スーツ越しの私の手を両手で包み、不安そうな表情を浮かべるホシノ。
だがホシノはすぐにその手を離し、小さく微笑みながら語り掛けた。
「私の事は大丈夫です。ちょっと痛いかもしれませんが、多分死にはしないので」
「ホシノ……」
「もう会えないかもしれないので、最後に少しだけ時間をくれませんか?」
敗北を喫したとは到底思えない穏やかな表情を浮かべ、ホシノはそう問いかけた。
「1分だけ差し上げます。せいぜい別れの言葉を伝えると良いでしょう」
勝者の余裕か煽りからか、勝ち誇った顔で頷くフミカ。
2度深く呼吸を整えた後、ホシノはチェストポーチをその辺に投げ捨て、気まずそうな顔でポツポツと言葉を紡いでいった。
「……あなたと過ごしたこの1か月は、そう悪いものではありませんでした。……いえ、これは違いますね。しゃがんでください」
言葉通り片膝を突くと、目線がホシノより少しだけ下に来た。
「まったく、背が高くて羨ましいです」
そう言って両手で私の頬を包んだホシノは、そのまま短い両腕で私の頭を胸に抱きかかえてくる。
何故か、吹き付けるプロペラの音など全く耳に入ってこない。ホシノの心音のみが、私の耳に心地よい振動を伝えていた。
「
「っ!」
それは、今まで聞いたことが無いほどの、余りにも穏やかな感謝の言葉。
「こうやって頭を撫でられるの、本当は凄く安心して好きでした。だから、最後に私がやってあげますね」
頭に添えられた手のひらがゆるりと動き、心地よさとくすぐったさから身を捩ってしまう。
「ふふっ。もしまたいつか会えたら、今度はその固いスーツじゃなくて、あなたの手で、撫でてください」
抱きしめられたときに思い知らされた。
「何だよ……それ」
ホシノは、こんなに……こんなに小さな体で戦っていたんだと。
私が来るまでたった一人で、アビドスを守るために戦って、
ボロボロになっても、俺をこうやって励ましてくれて。
何が大人だ。俺は、目の前の大切な人すら守れなかったのに……!
「……いいや。違う」
「……この状況で断ります普通? 結構ショックなんですけど」
────そう言って苦笑いで誤魔化そうとするホシノの頬には、一筋の雫が垂れていた。
「
片手でホシノ小さな体を抱き、もう片方をフミカへと向ける。
「何を……っぐ!?」
リパルサーを最大出力で放射し、俺たちごと思いっきり彼方へと吹き飛ばす。
反動で10メートル以上吹き飛ばされたが、そのおかげでヘリの包囲から外れることに成功した。
体勢を立て直し、肩や二の腕に取り付けた対空ミサイルを全て飛ばす。しかし、マスクを外していたことで標準が定まらず、撃墜できたのはたったの1機のみ。
「この……! 分からずや! 構いません! 撃ってしまいなさい!」
同じく吹き飛ばされたフミカが、砂にまみれながら大声で叫ぶ。
ヘリに取り付けられた機関砲が起動する音が聞こえる。そんな中俺は自身の背中を覆うように羽を広げ、横たわるホシノの上から覆いかぶさった。
「何してるんですか!? あれだけの数、怪我じゃ済まないですよ!」
「うるさい!」
これ以上、大切な人を失うのはこりごりなんだよ!
左手の盾を頭上に持っていき、機関砲と榴弾どちらが来ても良いように体を丸める。
しかしいくら待っても、頭上からも背中からも、衝撃が来ることは無かった。
「な、なぜあなたがここに!?」
最初に聞こえてきたのは、狼狽えるフミカの声だった。
「凄いタイミングで登場しちゃった☆」
この場にいるはずもない人の、一度たりとも忘れたことがない、鈴を転がしたような美しい声。
「アテちゃん、ホシノちゃん。もう大丈夫だよ…でもね?」
そして、祈りと共に降り荒れた蒼き流星が、轟音を立てながら全てをなぎ倒していった。
「私を差し置いてイチャイチャするのは、ちょっと違うんじゃなぁい?」
高評価、感想、ここ好き頂ける作者の励みになります。モチベは投稿頻度にも露骨に作用するので、面白いと思ったらよろしくお願いします!
感想を毎回言ってくれる方、本当にありがとうございます! 励みになっております!