MARVEL STUDIOS 「ブルーアーカイブ」   作:MAN

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奇妙な出会い(2)

 

 

 

『────充電完了。スーツ損壊率3%……漏電無し。起動に際する危険性は無しと判断。これより起動フェイズへと移行します』

 

 聞きなれたH.E.R.M.Aの音声がノイズと共に聞こえてくる。

 ……あれ? 私さっきまで何してたんだっけ。Mark4の製造中に寝落ちしたのか? それにしては部屋が明るすぎる気がするが……

 

「わわわっ、ホシノちゃん! この人眠りながら喋ったよ!」

 

「どう考えてもヘルメットから流れてましたよね」

 

 寝ぼけているのか知らない女性の声も聞こえてくる。

 背中や腰がやけに痛いし、きっと変な体制で眠ってしまったんだろう。今は意識が醒そうな段階で明晰夢を見ているということか。

 たまにあるよね。目が覚める直前にこれは夢だって気が付くこと。

 

『空気循環システム起動……完了。筋電制御システム起動……完了。リパルサーシステムオンライン。おはようございますアテネ様。現在時刻は午前8時53分。本日の天気は晴れときどき砂嵐がふくでしょう』

 

 随分寝坊したな……砂嵐? 一体どこの天気予報を調べたんだこいつは。

 

「わ~! 綺麗なヘイロー! 背も大きいし格好いいから男の子だと思ってたけど、ちゃんと女の子だったんだね」

 

「あれ……昨日はヘイローなんて無かったはずですが。って、ならそろそろ起きるんじゃないですかこの人」

 

 目を開けると、緑色の髪を持つ少女の黄色い瞳と目が合った。……あれ? 

 

「……おはよう。……ええっと、君は?」

 

「おはよ~ロボットさん。昨日はホシノちゃんを助けてくれてありがとうね!」

 

「やっと目が覚めましたか。全く、私に感謝してくださいね。あの後中まで引っ張っていくの大変だったんですから」

 

 困惑しているところに再び声をかけられる。左を見ると、そこには昨日共に戦った少女が……そうだ思い出した。

 

「そうか……私はあの後眠ってしまったんだね」

 

「そうですよ! 急に落っこちたと思ったら急に意識を失うんですから!」

 

 どうやら私が寝こけている間に色々あったそうだ。私の顔が砂だらけにならずに済んだのも、このホシノと呼ばれた少女のおかげということか。……スーツを着た私を学校の中まで運んだのか。羽を引っ張ったときもそうだが、凄まじい力だな。

 

 ひとまず横になったままだと格好がつかないため上体を起こす……痛ててて。スーツのまま寝てたから腰が痛くてしょうがない。

 マスクは……まあいいか。どうせ顔も見られてしまってるし。わざわざ隠してお礼というのも違うしな。

 

「昨日は心配をかけたようだな。ありがとう」

 

「そうそう! ホシノちゃんすっごく心配してたんだよ? あんまり私の可愛い後輩を心配させないであげてほしいな~」

 

「……当たり前でしょう。私1人でもなんとかなったとはいえ、助けてもらったのには変わりありませんから」

 

 ふわふわとした雰囲気で手を合わせる緑髪の少女と、それとは対照的にツンツンした態度のホシノ。先輩後輩という発言も踏まえて、この2人がどんな関係性なのかは何となく想像できた。

 

「紹介が遅れたね。私のことはアイアンマンと呼んでくれ」

 

 いい加減偽名を考える必要もありそうだな。

 口にこそ出さないがホシノが凄い顔をしてこちらを見ている。

 

「アビドス高校3年、梔子ユメですっ。一応生徒会長やってまーす!」

 

「……特にツッコまないで進めるんですね。生徒会副会長1年、小鳥遊ホシノです」

 

 痛む腰や背中に気を配りながら立ち上がり挨拶をすると、ホシノが私に近づいてスーツの腹をつんつんと突いてきた。

 

「……これ、脱げないんですか? 目を合わせるのが疲れるのですが」

 

「ボルトやレンチがあれば一応は脱げるが、下に服を着てなくてね」

 

「えっ、裸の上からそれ着てるんですか……?」

 

「ああいや。一応専用のタイツ的なものは上下着てるよ」

 

 信じられないものを見るような目で見つめて来るホシノに対し、己の名誉を挽回するために訂正する。

 言葉が足りてなかったね。昔からの悪い癖なんだ。

 

「なるほど。一応トイレはあるので、行きたくなったら早めに脱いでくださいね。道具は後で持ってくるので」

 

「そこまで長居するつもりはないけどね。ありがとう」

 

 気が利くホシノにお礼を言って椅子に腰かける。……といっても、腰掛けているように見えて膝と腰の関節を固定して空気椅子しているだけなんだけど。普通に座ったら椅子がバラバラになってしまうからね。

 こういうのがあるから日常生活だとMark3の方が便利なんだよな。軽いし脱ぎたい箇所だけを外すことも可能だし。

 

 H.E.R.M.Aから排泄物を自動で分解する機構を取り付ける提案があったのだが、流石に人の尊厳を失いたくはないから却下した。

 ……決して、トニーが酔っぱらって衆目の前でその機構を使ったのを見たからではない。決して。

 

「ホシノちゃん! アイアンマンちゃんに私達の学校を案内しようよ!」

 

「分かりました。私が案内します」

 

 そう言って教室を飛び出したホシノについて行く。

 ホシノを先頭にユメと並んで歩きながら、目の前を歩く面倒見の良いホシノについて話していた。

 

「流石生徒会副会長をやってるだけあって気配りが上手だ。昨日の戦いも見事だったし、自慢の後輩だな」

 

「でしょ~? ホシノちゃんったらすっごい強いし、頑張り屋さんだし、とっても可愛いの!」

 

「可愛いは余計です。……って、なんで頭撫でてるんですか! 昨日もそうでしたけど、変に大きいからって子ども扱いしないでください!」

 

 っとと。つい癖が出てしまった。

 これも直さないとな……今はまだ良いとして、あと20年経ったらセクハラおじさんになってしまう。

 

「ごめんごめん。つい癖でね」

 

「全く……副会長っていう立場も、生徒会が私とユメ先輩しかいないから必然的にそうなっただけですし」

 

「そうなのか?」

 

 昨日見た限りだとかなり大きな校舎のように見えたが、そこまで規模が小さい学校なのだろうか。

 

「ええ。ここは生徒会室です。私とユメ先輩意外使っていないので散らかっていますが、ここで生徒会活動を行っています」

 

「昔はもっと沢山人がいたんだけどね~。みんな砂嵐のせいで転校して行っちゃったの」

 

「正確には、砂漠化対策受けた融資が膨らみ続けたせいでもあるのですが。全校生徒は数十人程度。教員も居ないので授業もありません。前生徒会役員は、ユメ先輩を任命した直後に全員辞任してしまいました」

 

「次の日うきうきでここに来たら机の上に辞表がポン。ひぃんってなっちゃったよね~」

 

 机に座り、頬杖を突きながらため息を吐くホシノ。

 中々鬼畜の所業だが、学校自体が機能していないこの状況で、前生徒会役員たちを責めるというのも酷な話だろう。だからってひぃんの一言で済ませるユメのメンタルには驚きだが。

 登校日にもかかわらず他の生徒の姿が見えないのも、授業が行われていないことが原因か。……理解は出来ても、納得はできないけどな。

 

「借金、ねぇ……H.E.R.M.A」

 

『検索中……データを発見できませんでした』

 

 データがない? 学校への融資が公的なデータに残ってないとはどういうことだ? 

 不可思議な状況に言葉を失っていると、それを見たユメが首を傾げながら借金の詳細について教えてくれた。

 

「4億円とちょっとだったかな? 私とホシノちゃんで頑張って返そうとはしてるんだけど、手が回らなくてうへぇーって感じなんだ」

 

 学校の借金と聞いて油断していたが相当な額だ。確かに地域単位で砂漠化対策を行っているのであれば、このぐらい行ってもおかしくないだろうが、学生たちに背負わせるには些か大きすぎる。

 

「そんなうへってるほどの余裕があればいいんですけどね。借金の合計は4億6820万円。毎月約400万円ほど返済に充てていますが。完済には約300年かかる計算になっています」

 

「300年? ……差し支えなければ、どこから融資を受けているか聞いてもいいかい?」

 

 4億という合計額にも驚きはしたが、それ以上に問題なのは利子だ。

 頭の中で計算すると年利約10%の利息で返済していることになるが、地域の復興のため学園に融資される額としては余りにも大きすぎる。法外と言っても差し支えない。

 

()()()()()()()です。毎月ご丁寧に現金輸送車で私たちのお金を積んで運んでいます」

 

「なるほど」

 

 返済計画だけでその融資が真っ当なものではないとは分かっていたが、その元手がカイザーだと聞いて疑惑が確信に変わった。

 

 ────カイザーコーポレーション……兵器開発、PMC、建設など様々な事業に手を出している大企業で、カイザーローンの親会社。キヴォトスでもその名を知らない人はいない程の大企業ではあるが、色々と後ろ暗い噂も多く聞く。

 

「……利子の返済だけでも大変だろうに。何故そこまでして二人は借金を返そうとするんだい?」

 

 私がパパっと金を出して解決できるほど、この問題は甘くない。

 思いついた解決策を提案するにあたって、その矢面に立たざるを得ない2人の覚悟について、私は知っておきたかった。

 

「んー……そう言われるとなんでなんだろう? アビドスが大好きだからって理由じゃおかしいかな?」

 

「少なくとも好きじゃなかったらここまでやらないでしょう。……私も、まあ似たような理由ですね」

 

「もしアビドスに皆が戻ってきたら、また昔みたいに砂祭りをやるの! こんな感じで、オアシスに皆で集まって!」

 

 何処からか取り出した古びたポスターを見せてくれたユメ。そこには、かつて栄えていたであろうアビドスの一大名物を楽しむ人々の姿が描かれていた。

 その明るい未来が来ることを信じて疑わないユメは、ニコニコと人好きのする笑みを浮かべて楽しげな様子だ。

 

 しかし、アビドスのオアシスは砂嵐によって枯れてしまったと聞いている。自然の摂理に逆らうことは難しい。少なくとも、この小さな子供2人で解決できる問題じゃないだろう。

 ホシノはそのことを理解しているのか、ユメとは対照的に悲観的な表情を浮かべている。

 

 ……知らなかった。私が悠々自適に暮らしている中で、こんな苦しい環境に置かれている子供たちがいるだなんて。

 カイザーコーポレーションは大人の汚いやり方で、本来保護され、導くべき子供たちを食い物にしている。とても人間がやる事とは思えない、唾棄すべき所業だ。

 

「いい夢じゃないか。もし実現出来たら、きっと楽しいだろうね」

 

「でしょ? その時はアイアンマンちゃんも呼んであげるからね!」

 

 私の一見何も考えて無さそうな発言にも、ユメは嬉しそうに声を大きくした。

 ……良い子だね。人の悪意を知らない、純粋な子だということはこの短い会話でもうんと伝わってくる。きっとホシノも、彼女のそういう所に惹かれて借金返済を手伝っているのだろう。

 

「もしよければなんだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 私の言葉に、ユメとホシノは目を開いたままフリーズした。

 

「……ありがとうございます。アビドスに住む人を含めて、そう言ってもらえたのは初めてなので、素直にうれしいです」

 

 先に再起動したホシノが、先ほどまでの鋭かった表情を少し緩めて、穏やかな口調でそう返してきた。

 

「一応聞いておきますが、連邦生徒会の人ではないですよね?」

 

 ホシノの確認に頷くことで返す。そう言えばそんなやり取りもあったね。忘れてたよ。

 少し遅れてユメも復活したのか、私の手を取って嬉しそうにブンブンと上下に振った。

 

「本当!? じゃあ一緒に頑張ろ────」

 

「なら、気持ちだけで十分です。これはアビドス……私たちの問題なので」

 

 ほとんど同じタイミングで、全く逆のことを言うユメとホシノ。

 静寂と共に気まずい雰囲気が流れ、二人の目が交差する。

 

「何で断っちゃうの!? せっかく協力してくれるって言ってくれたのに!」

 

「いや、普通断りますよね?! 悪い人じゃないとは思いますけど、正直言って滅茶苦茶怪しいですよこの人!」

 

「ええ!? そうなの!?」

 

「逆に何でホイホイ信じちゃうんですか!? 急に空から飛んできたのもそうですし、名前がアイアンマンとか、ミレニアムでも見たことないアーマーとか、どれをとっても怪しさしかないですよ!」

 

「だって……このアーマー凄そうだし、砂とか吸って掃除してもらおうかなーって?」

 

「このハイテク装置を掃除機にしようとしたんですかあなたは!? どう考えても戦闘目的ですよこれ! しかもデタラメな強さですし。私の弾丸食らってもちょっと凹んだだけなの、普通にちょっとショックだったんですよ!」

 

「むぅ……それはホシノちゃんの個人的な感情でしょ!」

 

「どこをどう聞いたら私の逆恨みで断ったことになるんですか!? 砂が耳に詰まってるなら後で耳かきしてあげますよ!」

 

「えへへ……やったっ!」

 

「今のは皮肉です! 真に受けないでください! 全く……」

 

 はあはあと息を荒くしながら椅子に座るホシノ。少し抜けたところがあるユメを普段からこうやって諫めているだろう。いわゆる苦労人ポジションというやつだね。

 方向性は違えど、ミカを相手にしたナギサと同じものを感じる。

 

「ははは、2人とも仲が良いんだね。私が割って入るのも無粋かな?」

 

「そういうわけじゃ……怪しいっていうのも勿論ありますけど、単純に私たちがあなたに返せるものがないんですよ。どこの学校に所属しているかは分かりませんが、そんなものを作れるのであれば、ミレニアムじゃなくても引く手数多でしょうし……」

 

 なるほど。私が廃坑寸前のアビドスに協力して、いったい何のメリットがあるのか分からないと言いたいのだろう。確かにそうだ。私だって逆の立場なら同じことを考える。

 これは私の説明の仕方が悪かったね。……できればこのことは明かさずに協力したかったのだけど……。

 

 まあ、どちらにせよ()()()()()()()()()()()()()()()()()。隠し事はもうこりごりだからね、こちらも腹を括ろうじゃないか。

 正面だけを開けていたマスクを完全に着脱し、前髪を流してタイツの下に仕舞った髪の毛を引っ張って取り出す。

 

「わぁ! 綺麗な髪!」

 

「……っ、えっ……?」

 

 ストレートに下ろした私の髪の毛を両手で撫でるユメ。私とホシノのシリアスな話など頭に入っていない様子だ。

 

 そして、私の顔を見て顔を一瞬強張らせたホシノ、それも無理はないだろう。

 今は化粧もしてないし、輪郭を誤魔化すための髪もポニーテールで後ろにまとめている。私が女性であるという先入観を持っているトリニティの子たちと違い、彼女からは目の前の人間が男にしか見えないだろう。

 

 そんな彼女にスーツのポケットからスマートフォンを取り出し、効力の切れた中学生時代の学生証を表示して渡す。

 

()()()()()()()。私の名は芙蓉アテネ。中学まではトリニティ所属していた。今は訳あって無所属だが、是非ともこの学生証にアビドスの校章を刻んでくれたらと思うよ」

 

 学生証に貼られている今と比べて少し童顔な私の顔と、目の前の私を交互に見るホシノ。

 

「え……あ、はい……えぇ!? ふ、芙蓉アテネって、あの失踪したティーパーティーの!?」

 

「正確には候補生だけどね。なるのは3年になってからだからまだ先だよ」

 

「んー……? 誰だっけそれ」

 

 正面に回り込んで私の顔をジーっと見つめるユメ。

 私の名前を聞いてもピンと来ていないようだが、現ティーパーティーの生徒ならともかく、まだ高校生にもなっていない候補生の名前を知っている人間は少ないだろう。一応中学では周りからのゴリ押しで生徒会長やってたけど、自治権を持つのは高校の生徒会だから関係ない。

 

「連邦生徒会からの連絡を聞いてないんですか!? 先月、ティーパーティー候補の一年生が失踪したって、捜索届が送られて来たじゃないですか!?」

 

「それがアイアンマンちゃんなの?」

 

「そりゃあそんな変な偽名使いますよね! チャンスですよユメ先輩! この人を連邦生徒会に突き出せば1,000万円の儲けです!」

 

 マジかよ。そんなに大量の懸賞金出てるのか。

『探さないでください』みたいな置手紙でも残した方が良かったか? ……いやどちらにせよ変わらないな。どうせ金出してるのパテル派の首長だろうし。

 あの人執念に私のケツを狙ってきてたからな。襲って来るならせめて2()0()()()()()()成人してからにしてくれ。その場合でも全力で抵抗するけど。男だとバレたら握りつぶされそうだし。

 

「ちょちょちょ、せっかく覚悟して正体明かしたのに酷くない?」

 

「……いやいやいや。ティーパーティー候補生なんてエリート中のエリートじゃないですか。こんな辺境の地じゃなくてトリニティに帰ってくださいよ! 導火線に火のついた爆弾を抱えて借金を返すようなものですよ!」

 

「大丈夫だって。正式に所属しちゃえば連邦生徒会だって手出せないし。私の意志でトリニティから逃げてきたんだから」

 

「そうだよ! エリートで頭のいいアテネちゃんがいれば、いろんなアイデアが浮かんでくるかもしれないよ?」

 

 ユメの援護射撃が功を奏したのか、ホシノの剣幕も段々と落ち着いていく。

 

「……本気で言ってるんですか?」

 

 先ほどとは違い、意志の強い二色の瞳でジッとこちらを見つめて来るホシノ。

 彼女からすればティーパーティーのお嬢様が冷やかし目的で手伝うと言っているようなものだ。正体を明かしたとはいえ、直ぐ信用してもらえるとは思っていない。

 

「ああ。行動で証明すると誓うよ」

 

 なので、こちらも嘘偽りのない視線を真っ直ぐに向ける。

 口先だけで誤魔化そうとするのは悪い大人のやり方だ。だから、私は行動で彼女たちに誠意を示すつもりだ。

 

「……分かりました。私からは何も言いません。ユメ先輩が判断してください……と言っても」

 

「やったぁ! これからよろしくね! アテネちゃん!」

 

「こうなるでしょうけどね……」

 

 ホシノのOKが出た途端、満面の笑みでこちらに抱き着いてくるユメ。

 責任者である生徒会全員の許可を貰えたことで、晴れて私はアビドス高校に所属することが決定した。

 

「よろしく2人とも」

 

「……あなたを認めるのはまだ先です。もしやる気がないようでしたら、速攻連邦生徒会に売り飛ばしますからね」

 

 差し出した右手に応えてくれたものの、その言葉は穏やかじゃない。こりゃ手厳しいな。

 

「んもう! ホシノちゃんったら怖い顔しないで! 新しい仲間が出来たんだから!」

 

「ユメ先輩は能天気すぎます! そもそも────」

 

 その一言を皮切りに、何度見たか分からない微笑ましい言い争いが発展した。

 私はそれを背にマスクを持って窓からゆっくりと飛び出し、校舎の屋上から所々砂にまみれたアビドスの景色を眺める。

 

「……H.E.R.M.A」

 

『大胆なご決断ですね。ホシノ様に限っては、あなたの性別に関しても薄々気が付いているようでしたが……よろしいのですか?』

 

 下から聞こえて来る喧騒と、緩やかに吹く風の音を聞きながら、私はこの胸に走った激情の正体を探る。

 

「……もう、人に嘘をついて生きるのはこりごりでね。……どちらにせよ、どこかしらの学園に所属するために正体を明かす必要はあったんだし、丁度いい機会じゃないか」

 

 きっと、私は……()()、罪悪感から彼女たちに手を貸そうとしたんだろう。

 ミカとナギサを含めたトリニティの子たちもそうだし……前世で救えなかった人たちのこともそうだ。

 口では割り切れているつもりだが、心のどこかにはしこりが残っている。だから、こんなのは崇高な理由でも何でもないんだ。

 

 スーツから飛び出した長い髪の毛が、風を受けてひらひらとなびく。……ここは空気が美味しいな。

 昨日見た星天も綺麗だったし、眼下の砂さえ取り除けば、きっと人もまた戻って来る。

 

「……この髪も切ってしまおうか。もう古い思い出だ」

 

 そう言いつつも、俺は手櫛で自分の髪の毛を整えていた。誰にも見せる予定など無かったのに、手入れを欠かさなかった髪の毛は、滑らかな感触を指に伝えてくる。

 トリニティに居た頃の思い出を何一つ捨てられていない俺に、変わることなどできるのだろうか。

 

「綺麗な髪ですね。男の癖に生意気です」

 

「……ホシノ」

 

 屋上の扉が開く音と共に、そんな声が聞こえてきました。

 

「なんて顔をしてるんですか。下で入学の書類を探し回ってるユメ先輩が可哀想ですよ」

 

「……いい子だね、ユメは」

 

「はい。自慢の先輩です」

 

 隣に座るホシノがそんなことを呟く。 

 

「……何があったかは詳しくは聞きません。ですが、あなたはアビドス高校の生徒になったんです。困ったことがあれば生徒会副会長である私に相談してください」

 

 ……まったく。支えるつもりで入学したのに、初っ端からこれだったら大人失格だな。

 

「可愛いなぁホシノは!」

 

「きゃっ! ちょ、ちょっと!」

 

 スーツを着たまま力を籠めすぎないように頭を撫でまわす。

 ごめんなホシノ、今だけ弱い大人の照れ隠しを許してくれ。

 

「さっきは許してあげましたけど、男だと分かった今は容赦しないですからね! セクハラで訴えますよ!」

 

 そんなホシノの叫び声が、アビドスの青空の下にこだまするのであった。

 

 

 





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