自称おじさん先輩概念   作:ことこと茶碗蒸し。

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ブルアカ曇らせはな、何回曇らせたってええねん。
無限に味がするガムやねん。


これが此処での日常

 酷く眠たく、微睡みの中で揺蕩うような心地だった。

 窓から差し込む暖かい陽光が、より一層意識を夢の中へと誘うようで、耐え難い眠気を抵抗不可な毒にしてしまうような、それならもういっそ、このまま永遠に眠ってしまってもいいと考えてしまう程に心地の良い時間を過ごしていた。

 瞼の裏側かかすかに感じる陽光。程よい眠気と教室に設置されている冷房から放出される冷風が空間(教室)を適切な気温に保たせる。

 布団も何も掛けてはいないが、このまま寝てしまえば風邪をひいてしまうとかそんな事を考える隙間が無いほどに今、自分は夢と現の狭間を行ったり来たりしているのだと感じていた。

 

──エル君、起きてよ〜。

 

 そして何よりこの枕だ。

 自宅にある枕とはまるで違う、感触がもちもちと張りがあり、頬越しに伝わる確かな温かさと微かに柑橘の清涼な香りが鼻をぬけていく。

 高さも丁度いい。首が痛くならない程度、今一番寝易いと言える程の高さで頭にフィットする。こんな枕があったとは──と心の中で感嘆のような或いは感心のような感情が広がってゆく。

 いや、実はこの枕はオーダーメイドで、自分がただ心地好く惰眠を貪るが為に日々の疲れに倒れそうになる己を気遣って誰かが贈ってくれたのかもしれないと、真面目に考え始めてしまう。

 

──ど、どうしよう、脚が痺れてきちゃったよ〜···。

 

 確かに最近は日々の疲れからかあまり寝付けず、寝れても浅い睡眠しか取れなかったが、まさかそんな自分を見兼ねて優しい気遣いをしてくれる人が居たなんて、感動と言う他ないだろう。

 この枕を誰が贈ってくれたとか、いつからこの枕を使っているとか正直寝惚けた頭では何も思い出せないし考えられないが、これが既に自分の枕であるというのならば遠慮はいらない。存分に堪能させてもらうとしよう。

 手始めにまずこの枕に顔を埋めて微かに薫る柑橘の匂いを鼻いっぱいに楽しもうか。

 思い立って直ぐに体制を横向きで寝ていた状態からうつ伏せになる、もちもちとした感触は変わらずだがどうにも中に芯があるのか、顔越しから張りのある感触のその奥側に確かな固さを感じる。

 人によっては好みが別れそうではあるが、これはこれで悪くは無いと、そう思った。

 

──ひゃあ!?そっ、そっちは向いちゃダメだよ!

 

 先程よりも枕に触れている面積が多くなった為か、鼻先で微かに感じていたあの柑橘の香りがより強く感じて心地よい。そこで何となく、この匂いを身近で嗅いだことがある気もしたが、既に睡魔に侵されきった脳ではその状態まで掴めず、より深い微睡みに落ちていく。

 流れで、更に深い眠りに落ちる為に。自分を安心させて眠りに誘うこの匂いを更に堪能する為に。鼻をひくつかせてみる。

 

──はわわわ······!!

 

 より濃い匂いが鼻を通り抜ける。これは良きものだ、と本能が解する。何処で嗅いだかは覚えていないが、この匂いは自分を落ち着かせて止まないもので、出来ることならずっと嗅いでいたくなる匂いだと心の底から思う。と同時に枕が一瞬()()()ような気がして疑問が頭を過ぎる。

 動く枕なんて聞いた事もない。はて、オーダーメイドの枕にはそういった機能もあるのだろうか。なんとなく確かめたくなり、先程自分が匂いを嗅いだ時に動いたような気がして、同じ事を繰り返そうと試みる。

 

──ひゃんっ···く、くすぐったいよ〜

 

 ピクリと、一瞬跳ねるようにして枕が動く。やはり見立ては間違っていなかったかと、そう直感した。

 しかし動く枕なんて一体何の需要があるのかと、後次第に顔越しから伝わる温もりが少しずつ熱くなって(汗ばんで)いるような気がするのだが、と次々に疑問が浮かび上がり、次第に目が覚めていく。

 そういえば横になる前に己は一体何をしていたんだったっけ、と考える。確か自分はいつも通りに登校し、授業という名の自主学習をこなした後少し疲れたから寝ようと思って、

 

──あ、ホ、ホシノちゃん助けて〜···!

 

──教室に戻ってきてみたら···はぁ、今度は一体どうしたんです···か···

 

 それでその後一体どうしたのだったか、思い出せない。覚醒しつつも未だ微睡みの中から抜け出せない思考は夢の世界へと意識を引き摺り戻そうとする。

 まぁ、別にいいか。そんな事気にする必要は無い。今はとにかく眠ろう、眠って起きた時にまた確かめればいいだけだと脳は思考を判断(放棄)して再び深い眠りに就こうとする。

 

握り拳が風を切る音。

 

「何してるんですかエル先輩!!」

 

「オゴォッ!?」

 

 桃色の髪の少女の握り拳が惰眠を貪っている男、エルと呼ばれた男の鳩尾に入る。肺の中の全酸素が一瞬にして口から強制的に吐き出され、呻くような声を出したあと動かなくなる。二階級特進を果たし、エルは英霊となった。

 

 

 

 

 

 

「やっと起きてくれた、おはようエル君〜」

 

 長い翡翠色の髪と特徴的なアホ毛が飛び出た少女が朗らかな表情で今しがた自身の脚から退いた男に声を掛ける。僅かに上気した頬と汗が先程の事件を証明しているがその表情に微塵の怒りも存在しない。

 ただ困ったように微笑みながら、僅かに男の頭が退いた脚を右手で撫でている。

 

「おはようございます、エル先輩」

 

 先程、エルの鳩尾にプロボクサーよろしく介錯の一撃を放った短い桃色の髪の少女が澄まし顔で未だお腹を抑えて悶えている男にそう声を掛ける。桃色の髪の少女の目はもう一人の少女と比べて幾分か冷たいが口元は微かに弛んでおり、その瞳も分かり辛いが確かに男への信頼が見て取れた。

 

「ぐぉぉぉ······ホ、ホシノ、お前容赦なくぶち込んだな······」

「エル先輩がユメ先輩の太腿に顔を埋めて匂いを嗅いでるからです。普通に変態だと思いますし、ものぐさな先輩には丁度いいお仕置きじゃないですか」

「だ、だからって、もっと他に方法があるだろぉ······」

 

 お腹を抑えて死にかけのミミズみたいにのたうち回っていたエルが上体を起こす。当然手加減はしてくれたようだが彼女もキヴォトス人、当然強力な筋力(フィジカル)の持ち主であり、その強さは本人の神秘の強さと純粋な戦闘能力に依存する。もし彼女が人生で一度も何かを殴った事のない人間だったら、加減の仕方も分からず今頃自分は弾けたザクロみたいになっていただろうと想像してしまい、背筋に寒いものが走る。

 改めて彼女が齢15にして他学区の生徒(強者)を寄せ付けないほどに戦闘慣れしており、自身の身体の使い方を熟知していることに感謝した。

 

「うぅ、折角おじさんが気持ちよく眠れそうだったのにさぁ」

「何言ってるんですか」

 

 呆れた表情でこちらに視線を飛ばすホシノ。

 

「私が用事を済ませて学校に帰ってくる間にもう2時間は経ってますよ、そろそろ放課後です。」

「んぇ?」

 

 見て下さい、とホシノが指した方向に視線を向けるとそこには壁に設置された時計、時刻は既に15時を回ろうとしていた。

 いつの間に、と思ったが思い返してみれば確かにお昼後に軽く自主学習の最中耐え難い眠気によりうつらうつらとしていた所をユメが見兼ねて膝枕してもらったんだったか。と思い出す。

 けれどそんなに時間が経っていると思わなかった為少しばかり時計を見て固まってしまう。

 

「えへへ···エル君すっごく眠たそうだったから途中で起こすのも可哀想かな〜って思っちゃって···」

 

 そのように眉を下げながらしながら若干照れくさそうに話すユメ。そこにすかさずホシノが言葉を差し込む。

 

「ユメ先輩はエル先輩を甘やかし過ぎです、ただでさえ普段から弛みすぎな人なんですからたまにはハッキリものを言わないと─」

「で、でもでも!エル君普段からすっっごく眠たそうにしてるし、夜もあんまり寝付けないって知ってるから!こういう時ぐらいは寝かせてあげようよ!」

 

 む、と言葉を途中で切るホシノがエルにじとっとした視線を飛ばすが当の本人は下手くそな口笛を吹いて目を逸らす。少しばかり視線をずらして彼の顔全体から目元にクローズアップする。

 二時間。短くもなく長くもない睡眠時間を経ても尚、エルの眼の下には薄らと隈が浮かんでいるのが見えた。

 

「······。」

 

 そこまで見てホシノは自身が彼自身の事をあまりよく知らないのを再認識する。

 エルは、アドビス高等学校の2年生だ。新入生の自分とは違い、既にユメ先輩と一年以上の付き合いがあり、その実績は当然ユメからエルに対する信頼値に直結している。

 だがホシノはこのアドビス高等学校に入学し、街中でひょんな出来事からユメと出会い彼女の人柄を知り、短くない時間をかけて親しくなったのに対し、エルに関しては未だに知らない事の方が多いと感じている。

 彼は、ホシノがユメに対して入部届けを出し、歩み寄りの姿勢を向け始めた頃に現れた。最初は見慣れないヘイロー持ちの男子生徒である事と、入入学前に知り得ていた事前知識で彼が()()()()を受けていたアドビス()()()()()であるということから大層警戒したものだった。

 そして直ぐにユメが学校に復帰した彼の姿を確認し、屈託のない笑顔で迎えたの見て、出処の分からない何かドロドロとしたものが胸に滲んでいく感覚があったのを覚えている。

 

 だから、なんとなく彼が気に入らなくて。今も胸のもやもやが晴れないまま過ごしている。

 彼が悪い人じゃないというのは既に分かりきっている。初対面の時こそ辛辣に当たってしまったがユメ先輩と仲良さげに接しているのを見たり、私にも気兼ねなく接するどころか時々下らない悪戯を仕掛けにきたり、不良に絡まれて別に独りでも対処出来るところを呼んでもいないのに助けに来てくれたり。仕事には不真面目で自堕落だけど私達が困っている時は手を貸してくれたり。

 とにかく悪い人ではない。のだが·····。

「どうしたんだホシノ、おじさんの顔をじっと見つめて·····。」

 

 あ、もしかしておじさんの顔に見惚れちゃったかい?と前髪をかき上げてキメ顔でポーズをとるエル。

 

 ·····。

 

 そこまで考えてこの男の事について考えるのはまた今度にしようと思った。本人のアホさ加減のせいでエルについて考えれば考えるだけ馬鹿馬鹿しく感じるし、何より話す機会なんて今後幾らでもある。それに過去を知っているからなんだ。例えこれからこの先何が起きたとしてもこの男が何か悪い事を為せる筈もないと直感で感じ、ため息が出る。

 

「·····はぁ。」

「なんだよため息ついちゃって、ため息が出るくらいおじさんが美形って事か!」

「違います。このため息は呆れから出ているんです、あと顔は普通寄りだと思いますよ」

「な、なにおぅ!?」

 

 ショックを受けた顔でそんな馬鹿なと言いたげに首を横に振る。そして後ろのユメ先輩に振り返る。

 

 ──そんな事ないよなユメ!俺ってイケメンだよな!?

 ──え、え、う、うん·····そう、かも?

 少し離れた位置でそんな会話をしている放っておけない先輩(バカ)二人を見る。

 顔をずいと近付けてユメ先輩に詰めるエル先輩。そんなエル先輩に対して僅かに赤面しながらしどろもどろに返事をするユメ先輩。というかユメ先輩、少しだけ嬉しそうな表情をしないで下さい。

 

 そんないつも通りの光景を見て、つい口元がまた緩んでしまう。

 

 少し前まではこんな賑やかな人達の輪に加わる事なんてないと思ってた。その私が少し前まで人と関わる事自体を拒絶していたから。

 でも今はこの二人と一緒に過ごすようになって、何か変わるんじゃないかって感じ始めてる。アドビスは変わらず人が減り続けているし借金も残ってる。治安も悪いし砂漠化だって止まるわけじゃない。

 

 でも、それでも。

 

 この三人ならきっと、何があっても大丈夫だって。

 ほんのちょっぴり、そう思うんです。

 

「私も、絆されているんでしょうね」

 

 そう独りごちる。

 二人で盛りあがっていた会話の内容が私の方に飛び火する。

「ホシノ!早くこっち来いよ!今からおじさんが如何に優れた顔面の持ち主か、ファッションショー形式で認識を改めさせてやるからな!」

「衣装は昔の生徒会が学祭の劇で使ってたのが残ってるから、ホシノちゃんも一緒に着ようよ!」

 

 何の邪念もない二つの笑顔が私に向けられる。ああ、これだ。この笑顔に弱いのだ、私は。

 

「·····仕方ないですね。」

 

 二人に向かって歩を進める。きっとこれからもこんな日常が続くのだろう。

 これからもやらなくてはならない事は山積みだけど、三人で乗り切ろう。

 

 そう、誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

───けど、昔の私はどこまでも子供で、どこまでも愚かだった。

 

 

 

───私がもっと、あの二人を頼っていたら、信じていたら。

 

 

 

───あんな過ちは冒さなかったかもしれない。

 




生徒紹介

・エル
オリ主。ホシノがまだ一年生の頃のアドビス高等学校二年生であり副生徒会長。
キヴォトスでは先ず見掛けないヘイロー持ちの男子生徒であり外の世界から来た訳ではないキヴォトス産のバグ。
連邦生徒会長から「なんやコイツ···」って思われてるけど関係は直接的な関わりはない。
バグである故か因果の理から外れた存在でありコイツのせいでキヴォトスがどうなるのか分からなくて連邦生徒会長の胃がマッハしてる。
武装はS&W M19、異性を傷付ける事に躊躇いがあるため滅多な事じゃ銃を抜きたがらない変わり者。
ホシノが入学する数ヶ月前から停学処分を受けていたらしい、何をしてそうなったかは多分後々分かる。

・梔子ユメ
原点にして頂点。アドビス高等学校の生徒会長。
ホシノを曇らせることにおいて右に出る者はいないお方。
原作から逸脱した改変は無いもののオリ主と一年以上の交流がある為ホシノからオリ主への信頼値と比べてコチラは信頼値高め。オリ主が何をして停学処分になったのか知っている。けど話したがらないので結局分からない。
二人のことを大事に思っている。真に優しい人。

・小鳥遊ホシノ
俺達(先生)の嫁。無限に味のするガム。
二次創作界隈で何処でも曇らされてる人、かわいそうはかわいい。けど過去が過去なので決して笑えないのがまた辛い。
オリ主に対しては未だ懐疑的ではあるが信頼もしてるし信用もしてる、けれど本人についてまだまだ知らないことがある為何処か一歩線引きしている様子。それはそれとして悪戯は辞めて欲しい。あと時々ユメ先輩と仲良くするのを見ているとモヤるらしい。
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