初恋ゴースト空を飛ぶ   作:スイーツ阿修羅

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「止まらない夜」

 

 スマートフォンとにらめっこして、約一分。

 僕はバクバクと鳴る心臓を必死で押さえつけながら、意を決して明美に電話をかけ直した。

 

 ポロロン、ポロロン……と機械音が鳴りはじめ、僕は唾を飲み込んだ。やがてピタリと音楽は鳴り止み、向こう側から電話を取った彼女の息遣いがした。

 

「やっほー。こんばんわ。彰くん」

 

「うん。こんばんわ、明美……」

 

 電話ごしの明美の明るい声がして、僕は慌てたように言葉を返した。名前は呼び捨てで良いんだっけ?って混乱して、語尾が消え入るように曖昧になった。

 

「……ふふ、昨日ぶりじゃね。今日はどんな一日やった?」

 

「……今日は良かったよ。昨日、明美がオススメしてくれたアプリのお陰で早起きできたし散歩もできた。実はまだ今日、一度もスマホを見てないんだ。こんなにスマホを我慢できたのは、生まれてはじめてかもしれない」

 

「……いやなにいうとん彰くん。スマホも見ずにどぎゃーして私に電話かけとんの?」

 

「え? あぁ、たしかに」

 

 今僕が電話をかけている機械は、まぎれもなくスマートフォンという機械であった。

 

「今のは笑うとこよ。すべっとっても笑ってよ……」

 

「ご、ごめん……」

 

「謝らんでよ、余計に恥ずかしくなるけぇ……」

 

 どこか心の奥がずきずきと痛かった。しばらく二人の間に気まずい沈黙が流れた。

 

「ねぇ彰くん。何か困っとることはない? 私でよければ相談乗るよ?」

 

 明美からそんな風に尋ねられて、僕はあの事を言おうかどうかと躊躇した。

 デートする本人に相談しても良いものだろうか? と思いつつも、やっぱり僕には明日の事が不安すぎて、つい明美の優しさに頼ってしまうのだった。

 

「実はさ……明日のことなんだけど、夏祭りのために、浴衣を買いに行って、髪を切りにいくんだ。

 こういう事を明美に相談するのは、どうなのかとは思うんだけど、他に頼れる人もいないし。……正直すごく不安なんだよ。僕はずっと不登校で、家からも出られなくって……家族以外の人たちと出会うのが凄く怖いんだ……

 ……だけどっ、頑張るから! 明後日の夏祭りのために明日は頑張って準備してみる……だから、えぇっと……」

 

 相談したい事ってなんだったっけ?

 不安のあまりつい口に出してしまったけれど、明美に心を打ち明けていくうちに、不安みたいな弱音は吹き飛んで、頑張ろうという決意に変わった。

 

「……明後日の夏祭り、楽しみにしてて」

 

 結果、相談でもなんでもなくて、僕はそんな言葉で言い切ったのだった。

 

「うん……もちろん楽しみにしとるよ。けんど夏祭りゆうても田舎のこまい祭りやけぇな? あんまり期待しすぎてもいけんよ。大したものなんかなーんもないんじゃけぇ」

 

「ふふ、ちゃんと覚えとるよ、あの祭りは小さいから良いんじゃよ」

 

「あははっ、彰くんその訛りはなんか違うとる。ぶふっ、お爺ちゃんかよって……」

 

「そ、そうなのか? 完璧だと思ったんだが」

 

 方言って難しいな。

 

「二人して浴衣着て夏祭り、って、なんかデートみたいやね」

 

「うん、そうだね」

 

「うちも着飾っていくけぇ、たのしみにしとってね」

 

「うん」

 

「……………」

 

 二人の会話が、ぽつりと途切れた。

 でも気まずいなんてことはなくて、心地の良い会話の間だった。

 

「……ふぁぁああ、あぁ……もう眠ぅなってしもうた。今日は、朝早うから勉強しとったけぇな……」

 

「そっか、じゃあ、そろそろ電話切ったほうが良い?」

 

「うん、そやね……明日も一緒に電話しようね。彰くん……」

 

「うん、おやすみ明美」

 

「おやすみーー」

 

 ポチ、と、余韻を残して電話が切れた。

 真夜中の自室のなか、しんとした静寂に僕はふと我に帰った。

 じんじんと胸のなかが熱くなっているのを感じていた。やっぱり明美と話すとすごく楽しいのだ。僕は夏祭りが楽しみで仕方なかった。

 

「…………」

 

 僕はスマホのロックの残り時間を確認した。

 残りは一時間分と少し。

 

「はぁ……」

 

 僕は思わずため息を漏らした。

 早くスマホを開いて、みずモブの最新話が観たくて仕方がなかった。

 僕は漫画の続きを読みながら、時が来るのを待ちに待った。

 

 

 ★★★

 

 

 そして午後9時過ぎに。

 僕のスマホはようやく封印から解放されたのだった。

 僕は歓喜に身体を震わせて、スマホ画面に飛びついた。

 

(やったっ! ついにやっだぞ! やっと見れるっ!)

 

 すばやく開いた動画アプリ、みずモブはランキング二位に入っていた。最近話題になっていたアニメである。入院中に退屈で見始めたのだったが、これが本当に面白い。

 このアニメの結末をしるまでは死ねない。そう思えるほどだったのだから、ある意味すごくありがたい存在であった。

 

 20分後……

 

「うぅぅ……うーーっ」

 

 僕はガタガタと肩を震わせながら、涙で枕を濡らしていた。

 こんな……こんな展開反則だろう……すげぇ、すげぇって……

 良かった。今日も生きてて良かった……

 

 エンディングをフルで聴き。涙の余韻に浸ってから。僕はさっとYoubu◯eを開いた。

 「みずモブ、反応集」「みずモブ 感想」「みずモブ 海外の反応」

 などと検索していくと、色んな人の最新話感想が目に飛び込んでくるのであった。

 

 いい物語を触れたあとは、どうしても感想を共有したくなってしまうものである。今回は特に凄かった。

 並ぶサムネにも、神回だとか大号泣とか覇権とかの文字が並んでいた。

 

 色んな動画を漁っていく。

 気づけば別のアニメを見始めていた。

 止まらない。やめられない。

 まる一日スマホを我慢していたぶん、いろんなコンテンツが目に入り、あれも見なきゃこれも見たいと止まらなくなってしまったのだ。

 

 まずい……10時を超えた。11時までには寝ないとな。

 あれ? 11時を超えてる……12時までにはさすがに辞めよう……

 え? 1時って嘘だろ、そんなに観てたのか……

 最後に、この動画だけ……

 

 朝の2時……ようやく眠くなってきた……

 今日、というか既に昨日だが、午後に眠りすぎていたからな。

 お陰で夜間、ずっと目が覚めていたのだ。

 寝なくちゃ。

 そこで僕はようやくスマホから手を離した。

 

 朝の3時。

 僕は性懲りもなくスマホを眺めていた。

 一度手放して寝ようと誓っても、すぐに気になってまたスマホを開いてしまうのだ。

 スマホの魔力はまるで呪いのように取り憑いていた。

 そして、ホントのホントウに眠くなってきて、眠気の限界がきて。

 午前4時前、ようやく僕は眠りにおちた……

 

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