提督に連れられてやってきた場所。
そこで私はいったいなにを見るのか、
そこで私はいったいなにをさせられるのか。
そして目の前に現れた姿に、驚きを隠せませんでした……。
ウィィィィィン……
お腹の中まで響いてくるような重低音と共に、私の身体が小刻みに揺れています。
壁を見ている限り、昇降機の速度自体は早くなさそうですが、じっと立ったままだと時間が経つのが長く感じるせいなのか、なんとなくこの場に居辛い気分になってしまいました。
黙ってついてくるようにと提督に言われている以上、話しかけない方が無難ですし、顔色を見る限り機嫌が良いとも思えません。
私は仕方なく無言のまま、提督の背中を見続けることにしたんですよね。
暫くすると急に大きな金属音が何度か鳴り、昇降機の動きが止まりました。
提督の背中越しの壁には黒い色をした金属製の扉が見え、この建物の入口にあったのと同じ指紋認証の鍵が取り付けてありました。
「大鯨、ついてこい」
そう言った提督は私の返事を聞く前に扉を開け、こちらの方を振り向こうともせずに、奥へと進んで行きます。
閉まりかけていた扉に驚いた私は、慌てて手で押さえながら間を通り抜けました。
そして提督の姿を確認すべく前を向くと、気が遠くなるように真っ直ぐ続く通路が視界に映りました。
「こ、こんな場所が……、鎮守府にあっただなんて……」
「なにをしている。おいて行くぞ」
「す、すみませんっ!」
更に機嫌を悪くしたような提督の顔を見た私は、謝りながら駈け出しました。
そして提督の背中にぴったりと寄り添うくらいに近づき、歩幅を合わせながら前へと進みます。
「………………」
もしできるものならば、提督の腕にしがみつきたいくらいに、私は恐怖していたのかもしれません。
未知なる場所は恐れを生み出し、私の心を蝕んでいたのです。
頼れるのは、目の前を歩く提督のみ。
もしここではぐれてしまったのなら、二度と地上に戻れない……。
そんな雰囲気さえ感じていたんです。
「ここだ」
「ふえっ!?」
すると唐突に提督が立ち止り、距離を取っていなかった私は慌てて身体を引きました。
危うくぶつかるところでしたが、ブレーキが利いてなによりです。
「え、えっと……、ここ……ですか?」
しかしそれ以上に不思議だったのは、立ち止った付近になにも見当たらないことでした。
周りと見比べても変わらない壁。
天井には等間隔で照明がありますが、光量は乏しく、薄暗い感じがなんとも言えません。
「少し待っていろ」
「は、はい……」
そう言った提督は身体を90度右へ回転させ、腰くらいの高さの壁に右手の平を突き出しました。
「……?」
ぴったりと提督の右手が壁に張り付いていますが、これでいったいなにが起きるんでしょうか。
映画とかでよくあるのは、少し力を込めた辺りで壁がへこみ、奥へと続く空間が現れたりするんですが……、
ガコンッ……
……いや、そのまんまなんですけど。
思っていた通りになっちゃったんですけど。
と言うか凄すぎませんかね、この場所って。
「この先が目的地だ。ついてこい」
「わ、分かりました」
スタスタと奥へ歩いて行く提督に返事をして、私は辺りの壁や天井を見渡します。
まったくもって、変化があるようには見えなかったんですけど……、提督はいったいなにを目印にここだと分かったんでしょうか……。
残念ですが私にその謎を簡単に解き明かせられるはずもなく、諦めて提督の後を追いかけることにしました。
そして何枚かの扉を通り抜けた後、今までからは想像もつかなかった部屋に到着しました。
「こ、ここは……?」
「聞くばかりではなく、たまには自分で考えたらどうだ?」
「も、申し訳ありません……」
私は提督に謝りながら目を懲らして部屋を見渡しますが、部屋には光源が殆どなく、薄暗い状態です。暫くすると目が慣れてきたので注意深く見てみると、明らかに怪しいモノが部屋のど真ん中にありました。
「これは、鉄格子でしょうか……?」
「そうだ。ただし、普通のモノではなく、特注……だがな」
言って、提督は鉄格子に近づくと、コンコンとノックをするように拳で軽く叩きました。
私も同じようにしてみると、確かに鉄とは違う感触であり、思わず首を傾げてしまいます。
「これは特殊な合金でできていてな。たとえ戦艦級の艦娘であっても傷1つつけることはできないだろう」
「そ、そうなんですか……」
疑うわけではありませんが、気になってしまった私は両手で1本の鉄(?)格子を握って引っ張ってみました。
「び、ビクとも……しないです……」
グググ……と全力で曲げようとしたんですが、まるで力を吸収されているみたいで、歯がたちそうにありません。
「はぁ……はぁ……」
両手を離して肩で息をしていると、提督は鼻で笑いながら私を一瞥しながら口を開きます。
「さて……、それでは本題に入るとしよう」
「本題……ですか?」
執務室で提督に重要な任務があると聞かされていましたので、おそらくここでなにかを行う……と思うんですけど、見た目は普通の牢屋ですよね。
私と提督以外に誰かが居るようにも見えませんし、こんなところでいったいなにが……。
なにが……。
なに……。
ナ……ニ……。
「え……、え、えっと……」
わ、私の考えが……、そ、その……。
ま、間違い……で、ですよね……?
こんな密室で提督と二人っきり。
ましてや大声をあげても助けがくるとは思えないですし、ここで殺人事件みたいなのが起こっちゃったとしても、完全に完全犯罪が成立しちゃいますよねっ!?
もちろん目的はそうじゃないにしても、私の身体が提督に弄ばれてしまうなんてことは……可能性大じゃないですかっ!
そ、そんな……、いきなりそんなことって……っ!
できたらもっとムードがある所だったら良かったのに……。
「……なにを考えているかは知らんが、まず間違いなくそうではないと断言しておく」
「……はい?」
大きなため息を吐いた提督は私から目を逸らし、私たちが入ってきた扉の近くに立つと、人差し指で壁を突きはじめます。すると天井が急に光り出し、部屋の中が眩しいくらいに明るくなりました。
「……っ」
私は右手をおでこの辺りに当て、視界に影を作りました。そして徐々に慣れてきた目に入った1つのモノに、驚きを隠せず声をあげてしまったんです。
「こ、これは……っ!?」
私と提督が立っている場所から鉄格子を挟んだ反対側。つまり、牢屋の中である床の上に、誰かが寝そべっていたんです。
黒色の長い髪をした長身とみられる女性。その姿は幾度となく海で出会い戦ってきた、深海棲艦のル級のように見えました。
ただ、ここで気になったのは、あくまでそのように見える……ということなのです。
なぜか、前に寝ているのがル級であると、断言できない気がする。
理由は全く浮かびませんが、そんな気がしてならなかったんです。
「せっかくきてやったのに昼寝とは……、何様のつもりだ?」
動揺する私をよそに、提督は牢屋に視線を向けながら話しかけていました。
「………………」
しかし、寝そべっているル級は返事をしないどころか、全く身動きすらしないのです。
「……チッ」
大きな舌打ちをした提督は、扉から少し離れた場所の壁を先程と同じように突き、ル級に向かって声をかけます。
「もう一度言う。起きなければ罰を与えるぞ?」
「……フン。素直ニ従ッテモ、同ジコトヲスルダロウガ」
ル級は寝たまま少しだけ顔を動かしながらこちらの方を向き、嫌そうに答えました。
「それもそう……だな。ならばまずは挨拶がわりだ」
提督はそう言ってから大きくため息を吐き、壁を突いている指を力強く押し込みます。
その瞬間、人影が寝ている付近が光ったと思うと、『バチッ!』という音が鳴り響いたんです。
「ウ……グッ!」
人影は苦悶の表情を浮かべ、ゆっくりと床から立ち上がりました。身体中からプスプスと煙を上げ、焦げたような臭いが部屋中に立ち込めます。
深海棲艦に普通の兵器では効果がない。
それは軍に身を置く者ならだれもが知りえていることです。だからこそ私たち艦娘が身体を張って、深海棲艦と戦っているのです。
なのに、目の前のル級は明らかにダメージを負っており、辛そうにしていました。
「特製の電圧はお気に召しただろう?」
「フ、フン……。コノ程度ノショックナド、蚊ニ刺サレタニ等シイナ」
「そうか。ならばもっと出力を上げてやろうか?」
「……クッ!」
人影が身構えるようなポーズを取ると、提督はニヤリと不適な笑みを浮かべながら鼻を鳴らします。
「冗談だ……と言いたいところだが、そうもいかんのでな」
言って、提督はまたしても壁に指を突きつけ、
バチッ、バチバチバチッ!
「グッ……、ガッ、グゥゥッ!」
激しい閃光と大きな音と共に、人影が激しく身体を震わせます。
「て、提督っ!?」
「なんだ?」
提督は私の声に顔を傾げますが、突き出した指は何度も何度も押し込まれました。
「や、止めてあげて下さいっ! これ以上は危険ですっ!」
牢屋の中で悲鳴をあげているのは深海棲艦です。ならば止める必要はない――と思うのが普通なはずなのに、私は居てもたっても居られなくなって声をあげたんです。
抵抗できない相手を痛めつけるなんてとんでもない。
それが普通なのでしょう。
だけど、軍に属する者ならそうではいけないときもあるかもしれません。
それでも、今の私には耐えきれないなにかがあったんです。
ル級を見た瞬間に感じた、なにか――が影響しているのでしょう。
「……ふむ、そうだな。やり過ぎは良くないか」
左手を顎に添えて考える素振りをした提督が私の願いを聞き入れてくれたのか、肩を竦めながら指の動きを止めました。
眩しい光と大きな音は止み、それと同時にル級の身体が床へと倒れこみます。
その光景を見た提督が、明らかに悪意を持った表情をしながら笑みを浮かべたとき、私の背筋には震えあがるような寒気が駆け上がりました。
そしてそれと同時に、胸の奥底になにかが生まれてきた――気がしたんです。
次回予告
倒れるル級を前にした私は、複雑な気持ちを抱えたまま立っていました。
提督は私にル級を拷問しろと言い、尋問をすることにします。
そこで語ったル級の言葉。
それは、ある艦娘の記憶でした……。
私がヤン鯨になった理由 その3「過去の記憶」
乞うご期待!
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