ヤンデル大鯨ちゃんのオシオキ日記   作:リュウ@立月己田

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 倒れるル級を前にした私は、複雑な気持ちを抱えたまま立っていました。
提督は私にル級を拷問しろと言い、尋問をすることにします。

 そこで語ったル級の言葉。
それは、ある艦娘の記憶でした……。


私がヤン鯨になった理由 その3「過去の記憶」

 

「ク……ゥ……」

 

 床に倒れ込んだル級は、肩で息をしながら苦悶の表情を浮かべていました。

 

「素直に吐けば、そんな苦労はしないで済むのだがなぁ」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべた提督は、鉄格子に近づいてル級を見下します。

 

「ダ、ダカラ、私ハナニモ知ラナイト……言ッテイルダロウ……」

 

「ふざけたことをぬかすな。

 お前たち深海棲艦の本拠地と目的を知らないとは言わせんぞ?」

 

「私ハホンノ少シ前ニ生マレタノダカラ、深海棲艦トシテノ記憶ハ……」

 

「ふむ……。まだ冗談が言える体力があるようだから、もう少し続けてみるか」

 

「グゥ……ッ!」

 

 提督の言葉を聞いたル級は、床に倒れ込んだまま身体を丸めるようにします。

 

 既に体力は限界で、立ち上がることすらできないのでしょう。

 

「大鯨。次はお前の番だ」

 

「……え?」

 

 どうするべきかと考えている私に、提督は冷たい声で言い放ちます。

 

「わ、私の……番……ですか?」

 

「そうだ。わざわざここまで連れてきたのだから、少しくらいは役に立ってみせろ」

 

「で、ですけど、ル級の体力は……もうっ!」

 

「……なにを言っているんだ?

 お前は提督である私の命令を聞かずに、敵を気遣おうとしているのか?」

 

「そ、それは……」

 

 私は提督の秘書艦ですから、よほどのことがない限り命令には従わなくてはなりません。

 

 ましてや私たちの敵であるル級を庇おうとする行動は、明らかに反逆行為と見なされるでしょう。

 

 ですが、目の前に倒れ込んでいるル級は、今までに海上で戦った深海棲艦とはなにかが違う気がするんです。

 

 私たちを沈めようとする、悪意に満ちた目。

 

 残虐の限りを尽くしながら、笑いかける顔。

 

 それらが倒れているル級からは微塵も感じられず、私は大きく動揺していたんです。

 

 このル級は、本当に深海棲艦なのか。

 

 本当は、私たちと同じ艦娘ではないのだろうか。

 

 ふと、そんな考えが頭の中に浮かんできた私は、提督にお願いすることにしました。

 

「て、提督……。お、お願いが……あります」

 

「願い……だと?」

 

「は、はい。私がやることは、ル級から情報を聞き出せば良いんですよね……?」

 

「ああ、その通りだが?」

 

「でしたら、ル級に質問を……させていただけないでしょうか?」

 

「ふむ……、そうだな……」

 

 提督はそう言いながら、私とル級を見比べつつ、口元を少しだけ吊り上げました。

 

「分かった、良いだろう」

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

 私は提督に向かって頭を下げ、大きな声でお礼を言いました。

 

「ただし、ル級が情報を吐かなかった場合は……分かっているな?」

 

 提督はそう言って、右手の親指を先程の壁へと向けました。

 

 つまりそれは、ル級を更に拷問せよとの意味でしょう。

 

「は、はい……」

 

 しかし、ここで断ってしまえば質問する機会がなくなってしまうかもしれません。そう思った私は、やむを得ず頷くしかありませんでした。

 

 

 

 

 

 私は鉄格子に近づき、ル級と視線を合わせようと座り込んで声をかけました。

 

「今から私が貴方に質問をします。できうる限り正直に答えて下さい」

 

「………………」

 

 床に倒れたままのル級は顔を伏せたまま、肩で息をしているだけでした。ですが、このまま黙っている訳にもいかないので、言葉を続けます。

 

「まず……、貴方の名前を答えて下さい」

 

「………………」

 

「お願いします。答えて下さい」

 

「………………」

 

 ル級は答えようとするどころか視線すら合わせてくれませんでしたが、様子を見ていた提督が大きなため息を吐いた途端、少しだけ身体を震わせました。

 

「これ以上黙っていられては、先程と同じことになってしまいます。お互いのためにも、少しでもお話を……」

 

「私ノ名ハ、ル級……ト、貴様タチハ言ッテイル」

 

 私の言葉を遮るようにル級は答え、顔をこちらに向けました。額にはうっすらと汗がにじみ、緊張しているのが見て取れます。

 

「わ、私たちが……ですか?」

 

 しかし、私にはそれ以上にル級の言葉が気になったので、続けて問いかけることにしました。

 

「……ソウダ。私ハ私ノ名ヲ知ラヌ。気ヅイタトキニハ拘束サレ、ル級ト呼バレテイタ」

 

「そ、それってどういうこと……」

 

 私の前にいるのは確かにル級の筈です。今までに海で出会い戦ったことのある深海棲艦と瓜二つですし、見間違いだとは思えません。

 

 しかしその一方で、私の心の中に引っ掛かっていたモノが沸々と沸き上がってくるようでした。ル級は本当にル級なのか。なにを言っているのか自分でも分からなくなりそうですが、どこかがおかしい気がするんです。

 

「大鯨。そいつのざれ言に付き合っていたら、時間がいくつあっても足りんぞ?」

 

「で、ですが、これは……」

 

 私はそう言いながら振り返ると、提督の顔が一瞬だけ曇ったような気がしました。

 

 まるでなにかを隠しているような雰囲気に、私の疑問は更に大きいものへと変わっていきます。

 

「これ以上無駄な質問をするのなら、すぐにでも拷問を開始しても良いのだぞ?」

 

「わ、分かりました……」

 

 不機嫌そうに言い放った提督に私は頭を下げ、もう一度ル級の方へと顔を向けました。

 

「そ、それじゃあ……ですね、貴方たち深海棲艦は、どこに住んでいるんでしょうか?」

 

「私ハ海ノ底カラ生マレ……、気ガツイタラココニイタ。ナラバ、答エヨウガナイト思ウノダガ?」

 

「それが本当であるという証拠は……ありますか?」

 

「嘘ダト決メツケラレレバ、ドウシヨウモナイダロウ」

 

 そう言ったル級は、ジッと私の目を見つめました。赤く光るその目がキラリと光り、魅入ってしまいそうになります。

 

 そして、私は瞬時に確信しました。ル級は嘘をついていない。すべて本心を語っているのだと。

 

 しかしそうであれば、ル級は海の底で生まれてからすぐに拘束され、この場所に監禁された……ということになりますが、それならなぜ、自分の名前すら分からないのでしょうか。

 

 ………………。

 

 いえ、そうではない……のかもしれませんね。

 

 そもそも、ル級という名は軍の上層部が名付けたはずで、深海棲艦の中で通っているかどうかは分かりません。

 

 ……あ、でもそれなら、やっぱり自分の名前すら出てこないのはおかしいですよね?

 

 うむむ……、なんだかややこしくなってきちゃいましたよぉ……。

 

「先程モ言ッタガ、私ニハ生マレタトキノ記憶シカナイ。ダカラ、コレ以上ハナニモ……」

 

「もういい。時間の無駄だ」

 

 提督の冷たい声が背後から聞こえ、私とル級はビクリと身体を震わせます。

 

「やはり痛い目にあわないと話す気にはならんようだ。これ以上の質問は中止し、拷問を開始する」

 

「で、ですが、私の質問はまだ……」

 

「無駄だ……と言っている」

 

「……っ!」

 

 提督の有無を言わさぬ視線と言葉によって、私の身体は氷のように固まってしまいました。

 

 そしてそれはル級も同じようで、再び襲いかかってくる痛みに耐えようと、身体をできる限り丸めます。

 

 それが余りにも不敏に見え、私は辛うじて開くことができた口を動かし、問い掛けたんです。

 

「なぜ……、そこまで話さないのですか……?」

 

「……話サナイノデハナイ。話セナイノダ」

 

「ですが……それは」

 

「私ニハ記憶ガ………………イヤ、」

 

「……?」

 

「コレハ……、光……カ?」

 

「ひかり……?」

 

 唐突に目を閉じたル級は、ブツブツとなにかを呟き始めます。その仕種が提督も気になったのか、止めようとはしませんでした。

 

「遠イ……過去……。私タチ……、イヤ、我々ハ……負ケタ……ノカ?」

 

「………………」

 

「ソシテ、私ト……、多クノ……仲間ガ……、大キナ雲ト……マバユイ光ト共ニ……焼ケ、溶カサレ、ヤガテ……沈ンダ……」

 

「そ、それって……、まさか……、なが……」

 

「黙れ」

 

 

 

 バチィッ!

 

 

 

「ヒギィ……ッ!?」

 

 急に部屋が光った途端、ル級の身体が床から飛び跳ねるように跳ね、大きな悲鳴があがりました。

 

 私は慌てて振り返ると、壁に指を突きつけながら鬼のような形相をした提督が目に映りました。

 

「て、提督っ!?」

 

「ざれ言は沢山だと言っておいただろう?」

 

「で、ですが、ル級の言葉は……っ!」

 

「こいつは私たちを混乱させるために嘘を言っているだけだ。そんな単純なことも分からないようでは、秘書艦として失格だぞ!」

 

「……っ!?」

 

 一喝された私はたたずを踏み、頭の中は混乱状態でした。

 

 なぜル級は『あの』艦娘の記憶を持っていたのか。

 

 そして、なぜ提督はル級の言葉を遮ったのか。

 

 明らかになにかを隠そうとしている意思が見え、正常な思考を保つことができません。

 

「……チッ、気絶したか」

 

 提督がそう言って床に唾を吐き、イライラした顔を浮かべました。

 

 私は恐る恐る鉄格子の方を見ると、床に横たわっていたル級の口からはブクブクと泡が吹き出していて、身体中が痙攣していました。

 

「……て、提督っ!」

 

「これ以上は無理だな……。仕方ないが少し間を置くことにする」

 

「そ、そうではなく、このままでは……っ!」

 

 死んでしまうかもしれない。

 

 そう思った私は、大きな声で叫んでいました。

 

 恐らくそれは、ル級がル級ではないかもしれないと感じたからなのか。

 

 それとも、もっと……別のなにかが、私の中に引っ掛かったのかもしれません。

 

「なあに、心配ない。暫くすれば元通りに戻る」

 

「そ、そんな悠長なことを言っている場合では……っ!」

 

「大丈夫だと言っているのだが?」

 

「……っ!?」

 

 再び向けられた冷たい目。

 

 背筋をゾクリと這い上がる寒気に、私の身体が大きく震えようとしたとき、更に驚愕の言葉を突きつけられました。

 

 

 

「バケツを使えば、なんてことはない」

 

 

 

 その瞬間、私の頭は真っ白になり、視界がブラックアウトをしてしまうくらいの衝撃を受けてしまったのです。

 




次回予告

 提督の言葉に驚いた私は、質問を投げかけます。
しかし、提督はそんな私にル級から情報を聞き出せと命じ、逆らうならば……と、とんでもないことを言ったのです。


 私がヤン鯨になった理由 その4「退路は既にナシ」


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