ヤンデル大鯨ちゃんのオシオキ日記   作:リュウ@立月己田

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 提督の言葉に驚いた私は、質問を投げかけます。
しかし、提督はそんな私にル級から情報を聞き出せと命じ、逆らうならば……と、とんでもないことを言ったのです。


私がヤン鯨になった理由 その4「退路は既にナシ」

 

「そ、それってどういうことなんですか……っ!?」

 

 提督の発言を聞いた私は、考えるよりも先に口が動いていました。

 

「どうもこうもない。ただ単に事実を述べたまでだ」

 

 提督は面白くなさそうに冷めた顔で、淡々と言葉を続けます。

 

「このル級を捕獲してから、様々な実験を行った。その結果、バケツを使えば瞬時に修復を行えるということが分かったのだ」

 

「つ、つまりそれは……」

 

「案外、お前たち艦娘とよく似ている……ということだろう」

 

 言って、提督は胸ポケットからタバコを取り出して口にくわえ、ライターで火をつけました。ほどなくして口から大量の白い煙が吐き出され、室内に広がっていきます。

 

「まぁ、それ以外のことが殆ど分からなかったから、こうやって尋問を行っているのだが……」

 

「わ、私が言いたいのは、そういうことじゃありません……っ!」

 

「……では、なにが言いたいのだ?」

 

 目尻をピクリと動かした提督は口からタバコを床へと投げ捨て、右足の踵でグリグリと踏み潰しました。

 

「このル級は深海棲艦ではなく……、艦娘じゃないんですかっ!?」

 

「………………」

 

「先程ル級が話した内容は、明らかに私たちが持っていた記憶と同じモノです。つまりそれは……」

 

「……仮にそうだとしたら、こいつの姿はなぜル級とそっくりなのだ?」

 

「そ、それは……、分かりませんけど……」

 

「お前が言おうとしていることは分からなくもない。私は既にその可能性も踏まえた上で実験を行い、こいつが深海棲艦だと認定したのだ」

 

「で、ですが、それだったらさっきの記憶は……」

 

「……私も少しばかり驚きはしたが、より一層情報を聞き出さなくてはならないと感じた。だからこそ、拷問が必要なのだが……」

 

 そう言った提督は、急に私の目をジッと見つめながら一呼吸を置きました。

 

 その間が私の心を不安にさせ、思わず視線を反らしたくなる衝動に駆られてしまいます。

 

 まるで、なにかの境界に立っているような雰囲気とでも言うのでしょうか。

 

 一歩踏み出せば、戻ってこられないような……、そんな感じなんです。

 

「その指令を……、大鯨、お前に命じる」

 

「……っ!」

 

「ル級から、できる限りの情報を得るのだ。死なない程度であればなにをやっても構わんし、バケツの使用も許可しよう」

 

 そう話した提督の言葉は、ここで終わり……かと思いました。

 

 ですが、次の一言を付け加えられたせいで、完全に退路を断たれてしまったんです。

 

「ただし、先程のように温い手段を取ろうと言うのなら……私にも考えがある」

 

「……え?」

 

 提督はニヤリ……と不適な笑みを浮かべ、まるで自分が神であるかのように、こう言いました。

 

「お前の艦隊の仲間が、解体されないように頑張ることだ」

 

「……なっ!?」

 

「もちろん、情報を聞き出せなかった場合もしかりだと……、肝に銘じておけ」

 

「そ、そんなっ!」

 

 余りにも無慈悲な言葉。

 

 提督は私が従わなければ、潜水艦の仲間たちを解体すると言ったのです。

 

 そして、尋問を失敗した場合も同じ。

 

 つまり、私の退路は完全に断たれてしまったのです。

 

「それは余りにも酷すぎますっ!

 私だけならまだしも、どうして潜水艦のみんなまで巻き込むんですかっ!?」

 

「もちろん私もそんなことをしたくはないのだが……、従わなければそれ相応の罰が必要だろう?」

 

「それなら私だけで充分でしょう!」

 

「大鯨、お前の性格はよく知っている。だからこそ、これが一番であると考えたのだ」

 

「……くっ!」

 

 提督はそう言いながら小さく息を吐き、肩を竦めました。

 

「それに、やる前から失敗を恐れるのは艦娘としてどうかと思うのだが?」

 

「し、しかし、提督が命じたのはいつもの任務なんかじゃなく……」

 

「これも重要な任務だ。秘書艦がお前である以上、この仕事もきっちりとこなしてもらわねばならん」

 

「だ、だからそれは……」

 

 私はそう言いかけたところで言葉を詰まらせました。

 

 提督の不機嫌そうな顔とともに、ズボンのポケットに手を入れたのを見てしまったからです。

 

「従わないと言うのなら仕方がない。今すぐ工廠に連絡して……」

 

 提督が手に持っていたのは携帯電話であり、ボタンを何度か押してから私の顔をジロリと見つめてきました。

 

「ま、待って下さいっ!」

 

 このままでは仲間が解体されてしまう。

 

 そう思った私は咄嗟に叫び、ギュッと目を閉じました。

 

 視界が暗闇となり、私の頭の中に様々な思考が入り乱れます。

 

 ル級は本当に深海棲艦なのか。

 

 話を聞く限り、あの記憶は恐らく長門のモノ。

 

 それなのに、どうして艦娘ではなくル級の姿をして生まれてきたのか。

 

 それとも、ル級が長門の記憶をどこからか入手して、私たちを混乱させるために話したのだろうか。

 

「どうした、なにか言いたいことがあるのか?」

 

 黙り込んでしまった私を急かすように、提督は冷たい口調で問い掛けます。

 

 これ以上考える時間は取れそうにない。かと言って、時間稼ぎをしようものなら元の木阿弥になってしまう恐れもある。

 

 ル級には申し訳ないけれど、仲間が解体されてしまうのは避けなければならない――と、私は目を開けながら提督に向かって頷き、

 

「分かり……ました……」

 

「なにが分かったと言うのだ?」

 

「ル級の……尋問任務……、お受けいたします……」

 

「ふむ……、そうか。ならば、工廠に電話をするのは止めておこう」

 

 言って、提督は手に持った携帯電話をポケットへとしまいます。

 

「だが、失敗したときは……分かっているな?」

 

「は……、はい」

 

 もう一度頷いた私に「宜しい。ならば始めるが良い」と言って、壁を指で突くと、部屋の照明が明るくなり、鉄格子近くの壁が迫り出しました。

 

「……っ」

 

 壁の内側から現れたモノを見た私は驚き、思わず息を飲んでしまいます。

 

 まるでショーケースのような箱の中に、ナイフや針、拘束具と思わしきモノから、なにに使うか全く分からない物体が入っていました。

 

「それでは、存分に頑張りたまえ。お前と、そして仲間の身を案じるならな……」

 

「………………」

 

 提督の言葉が片方の耳から入り、もう片方の耳へと抜けていくような――絶望にも似た心境とともに、

 

 また一方で、胸の中に渦巻いていたなにかが、どんどんと大きくなってくるように感じたんです。

 

 

 

 

 

 鉄格子の向こう側には気絶したル級が倒れている。

 

 そして、こちら側には私を見つめる提督と、拷問器具を見ながら考え込む私がいました。

 

「いったい、どれを使えば……」

 

 できるならばル級に残虐な行為はしたくありません。ですが提督があんなことを言った以上、手を抜くようなことがあれば非常に危険です。

 

 ましてや拷問なんてやったことがない私にとって、どれを使えば効果的であるかだなんて分かるはずもなく、考えれば考え込むほど分からなくなってきました。

 

「……迷っているようだが、それもまた面白いか」

 

 ボソリと呟いた提督は鼻で笑いながら、腕を組みなおしていました。まるで悩み続ける私を見て楽しんでいるかのような仕草に、少しばかり腹立たしくも感じます。

 

 しかし、提督の方へと振り向いて睨みつけたりすれば機嫌を損ねる恐れがありますので、私は下唇を歯噛みしながら我慢をしました。

 

 そうして箱の中にある器具を見渡しながら、ふと、1つの丸いモノに注視しました。

 

「これはいったい……?」

 

 銀色の小さなTの字のパーツ……でしょうか。触れてみるとヒンヤリと冷たく、おそらく鉄製だと思われます。そしてその隣にはプラスチック製のバケツと、中にホースが入っていました。

 

 ちなみにバケツの側面には修復という文字は見当たりませんでしたけどね。

 

「ほぅ……。それに目を付けるとは、なかなかだな」

 

 提督の感心するような声が聞こえましたが、私にはどう考えても掃除道具にしか見えません。

 

 だって、バケツにホースって……、車を洗ったりする水仕事が真っ先に思い浮かびます。

 

「ということは、このパーツって蛇口の……?」

 

「ご名答だ。牢屋内部の壁に隠されている、水を出すための道具だな」

 

 想像通りの返事を聞き、私は更に訳が分からなくなりました。他に置かれている刃物や拘束具は一目で拷問という言葉が頭に浮かんできますが……、

 

「もしかして……ですけど、バケツに溜めた水で窒息させるということでしょうか……?」

 

「……いや、それ流石に無理だろう。ル級は深海棲艦なのだから、溺れるとは到底思えん……が」

 

「本当に、深海棲艦ならば……ですけどね……」

 

「……なにか言ったか?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

 聞こえないように小さい声で呟いたのが怪しまれてしまったようで、提督の視線が鋭いモノへと変わりました。私は不審がられないように焦った表情を浮かべないようにしながら、バケツを手に取りました。

 

「やはりそれを使うとは、私の目は間違っていなかったようだな」

 

「え、えっと……、そうなんですか?」

 

「………………」

 

 あー……、これはちょっと失敗しちゃった……でしょうか。

 

 完全に提督の目が冷ややかになっちゃっているんですけど……。

 

「まさかとは思うが、適当に選んだのではないだろうな?」

 

「い、いや、そ、そのー……」

 

「………………」

 

 じ、ジト目が……、ジト目が痛いです……。

 

「な、なんとなく……で、と、取っちゃいました……」

 

「なんとなく……だと?」

 

「う、うぅぅ、すみません……」

 

 気まずい雰囲気をモロに感じてしまった私は、提督に頭を下げて誤ったんですが、

 

「……やはり、これは素質がある……と見るべきなのか……」

 

「……え?」

 

「いや、なんでもない。

 一つだけ聞いておきたいのだが、拷問に関しての知識は……持っているか?」

 

「い、いえ……、申し訳ありませんが……」

 

 ここで嘘をつく訳にもいきませんし、仮にそれをしたところですぐにばれてしまうでしょう、私は素直に提督に答え、もう一度深々と頭を下げておきます。

 

「そうか……。なら、それの使い方を教えてやろう」

 

 提督は怪しい笑みなぞ一つも見せず、壁を突きました。すると鉄格子の一部が天井へと消え、ル級に近づけるようになったんです。

 

「ついてこい」

 

「は、はい」

 

 私の手からバケツを奪い取った提督はル級の頭側にある壁に近づき、先程と同じように指でポチポチと突きました。すると壁に小さな穴が開き、どこにでもあるような水道の蛇口が現れたんです。

 

 ただし、蛇口の上にあるはずの捻る部分がなく、さっきのパーツを底にはめ込むのだということはすぐに分かりました。

 

 そして提督はバケツの中にあるパーツを差し込み、蛇口にホースを取り付けました。

 

「これで準備はできたな。それでは大鯨、バケツに水を汲むんだ」

 

「は、はい。分かりました……」

 

 私は言われた通りのことをするため、ホースの先をバケツに入れてから蛇口を捻りました。

 

 ジャバジャバと勢い良く水が出てきて、すぐにバケツの中は水でいっぱいになります。

 

「こ、これで宜しいのでしょうか?」

 

「うむ。それでは拷問を……始めるとしよう」

 

 そう言った提督は再び不適な笑みを浮かべ、私からバケツを受け取ります。

 

 

 

 それは、これから始まるル級への仕打ちの鐘となる……、恐ろしいモノでした。

 




次回予告

 水が入ったバケツを担ぎ上げる提督。
そして、ル級への拷問が始まります。
私は本音を隠しながら、辛い気持のまま手伝います。
これが本当に正しいことなのか。

 その答えを、知る者は居るのでしょうか……。


 私がヤン鯨になった理由 その5「艦娘と深海棲艦」


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