ル級に対する拷問は熾烈を極めます。
それでも提督は止めることなく私に指示を出し続けました。
そしてル級の様子が明らかに危険と感じたとき、私は恐ろしい言葉を聞いたのです。
「ン……グゥ……」
喉の奥深くまでねじ込んだホースの先から、お腹が破裂してしまいそうになるくらいの量の水を流し込み、顔を真っ赤にしたル級が苦悶の表情を浮かべていました。
「よし、今度は吐かせろ」
ホースを抜き、仰向けに拘束されているル級の膨らんだお腹を抑えつけます。
「ゴボッ、ガボガバォ……ッ!」
胃から食道を通って逆流する水がル級の口と鼻から勢い良く噴き出し、ビシャビシャと音を立てて辺り一面に広がりました。
「ウゲ……ェ、ゲホッ……ゴホッ……」
身体をほとんど動かせないル級は咳き込むことしかできず、白目を真っ赤に充血させて涙をボロボロと流し続けますが、吐き出したが顔にかかって流されていきました。
そうしてお腹に溜まった水を全て出させた後、またもや繰り返し水を飲ませ、無理矢理吐き出させることを繰り返し続けたのです。
「ゴポ……、グ……ォァ……」
徐々にル級の顔は青ざめたモノへと変わり、吐き出す水が赤く染まってきました。圧迫し続けられた胃のダメージが酷く、出血してきたからでしょう。
「て、提督……、これ以上は……」
「ダメだ。休まず続けろ」
「……は、はい」
しかし提督は拷問の継続を命じ、ル級を休ませようとはしませんでした。
もし、ル級の身体が限界になればバケツをぶっかければ良い。提督は壁に背を預けて腕を組み、苦しむル級を見ながらにやけた顔を浮かべています。
そうして何度も同じことを繰り返すうちに、私のル級に対する申し訳ない気持ちが少しずつ削られていき、やがてなにも感じなくなったとき……、
「……ゥ、ァ……ッ……」
ル級の身体は、限界に達している状態に見えました。
「さて、もうそろそろ……と言うところか」
小さく息を吐いた提督が組んでいた腕を解き、ゆっくりとこちらに近づいてきました。
「もう一度聞く。お前たちの本拠地と、目的を言え」
「………………」
拘束されたままのル級はなにも答えません。
口に水は含まれていませんが、息は絶え絶えで目は虚ろであり、提督の声が届いているのかどうかですら怪しいモノでした。
「まだ拷問が足りないと言うのか?」
「……ァ……ギ……ッ」
なにかを話そうと口をパクパクと開けるル級。ですが、既に体力も精神力も尽きているようです。
「ふん……。少々やり過ぎた……か」
そう言った提督は大きな舌打ちをし、顎に手を添えて考える素振りをしました。
暫く無言の時間が経ち、時折ヒュー、ヒュー……とル級の息遣いが聞こえる中、私はジッと提督の方を見つめます。
ル級は既に限界で、拷問どころか尋問すら行えない。
取れる方法はル級にバケツを使用して高速修復し、体力が回復したところで情報を聞き出すのが順当だと思われます。
これだけの拷問を受け続けたル級ですから、明らかに精神は削られているでしょうし、拷問を続けられたくなければ話せと言えば折れる可能性があるでしょう。
もちろんそれには、ル級が本当に情報を持っているならば……ではありますが。
それと、もうひとつ。
本当にル級がル級であり、深海棲艦ならば……。
ほんの少し前に悩んでいたことが、私の脳裏に浮かびます。
ですが、これを考えれば考えるほど、私の立場は危うくなる一方で、封印しておかなければならない。
そうしなければ、自分の身が危険に晒されてしまう。
そうしなければ、仲間の身が危険に晒されてしまう。
だから、私はル級を見捨てました。
ル級は私を騙し、洗脳しようとしたから。
それは後からこじつけた言い訳でしかないことも分かっています。しかしそれでも、私は提督の秘書官であり、この鎮守府に身を置く艦娘として取らなければならない行動なのです。
――そう、自分に言い聞かせて、提督の命ずる通りに拷問を行ったのです。
それは決して私の胸の奥に湧き上がってくる、なんだか分からない渦巻いたモノが原因ではない――と、思いたい。
それを認めた瞬間、私は私でなくなってしまうかもしれない。
未知なる感覚に底知れぬ恐怖を感じた私は、大きく身体を震わせながら息を吸い込みました。
しかしそんな最中、思いもよらない言葉を聞いたのです。
「助ケ……テ、ク……レ……」
「……っ!?」
それは、口から血を吐き出しながら懇願するル級の声でした。
私は予想もしていなかった言葉に驚き、慌てて振り返ったのです。
「頼……ム。コレ……以上ハ……ヤメテ……クレ……」
大粒の涙を零しながら、ル級は視線を私と提督に向けて言いました。
「ならば、情報を話せ。そうすれば苦しい思いはしなくても済む」
「ダカ……ラ、私ハ……知ラ……ナイト……言ッテイ……ル……」
「……ふん」
鼻で笑うように息を吐いた提督は、呆れたような顔で目を閉じた後、
「そうか。それなら貴様に要はない」
そう言って、背を向けて部屋から出ようとしました。
「て、提督……」
私はこれからどうすれば良いのでしょうか――と、私は提督に問いかけます。
この場に置いて行かれては、なにをして良いのか分からない。
ル級をこのまま放置して、提督について行けば良いのでしょうか?
しかしそれでは、ル級が死んでしまうかもしれません。
バケツを使用して修復し、捕虜として利用できるようにしなければ……と、考えてしまったのです。
それが当り前であるという思考は、拷問の手伝ったことによる弊害なのでしょう。
綺麗ごとだけでは戦えない。ならば手を汚すのは仲間の潜水艦たちではなく、私で良い――と。
後戻りをできないところに立ってしまったのなら、それも仕方がない。
私にできることをやり、提督の役に立つ。それが仲間の為になるのだから。
決意を込めた私は、提督の後ろ姿を見ながら命令を待ちました。
たとえそれが、どれほど辛い道であっても耐えてみせると。
そう――思っていたのに、
提督の口から放たれた言葉は、全てを無にしてしまったのです。
「大鯨、お前には失望した」
「………………え?」
いったい、提督はなにを言っているのですか……?
「今の時間を持って秘書艦の任務を解き、艦隊からも除名する」
「ど、どういう……ことなんですか……?」
「言葉通りだ。それ以外になにも言うことはない」
「ちょっ、ちょっと待って下さいっ!
それはいくらなんでもあんまりでは……っ!」
「お前は私の期待に添えなかった。だから罰を与えるまでだ」
「そんな……っ!
わ、私はまだやれますっ! まだやっていないことが沢山ありますっ!」
「これ以上ル級を拷問したとしても時間の無駄だ」
「そ、そんなの、やってみないことには分かりませんっ!」
私は大声で叫びながら、部屋から出る提督を止めようと駆け寄りました。
「お願いです提督っ! 私に、私に機会を……っ!」
「断る」
掴もうとした手を払われ、乾いた音が部屋内に響き渡りました。
「意味がない時間を過ごせるほど、私も暇ではない」
「そ、それでしたら、私だけがここに残ってル級の尋問を……」
「それは無理だ。この場所は私と一部の人間が居なければ、機能のほとんどを使用することができん」
「そ、そんな……」
愕然とする私を見た提督は、大きく息を吐きながら目を細めて口を開きます。
「つまり、お前の役目はもう終わったということだ。
すぐにここから退出し、工廠の方へ向かえ」
「………………」
それは解体を示す言葉。
もう私に用はない――と、提督は言ったのです。
「もちろん約束通り、お前の艦隊に所属する者たちも向かわせてやる」
「……っ!」
提督は薄気味悪い顔で言ってから、再び部屋を出ようと踵を返しました。
私は絶望に打ちひしがれ、その場で膝を折りかけたとき、
「これで少しは空きができるな……」
小さな呟き声が聞こえた瞬間、無意識に手を伸ばしていました。
グイッ
「……この手はなんだ?」
私は提督の服を掴み、それ以上進めないように力強く引っ張ります。
「なんだ……と言っている」
顔だけをこちらに向けて問いかける提督が、心底不満そうでした。
「……今、なんと言いましたか?」
「この手はなんだと聞いたのだが?」
「それよりも前のことです」
「……知らんな」
少しバツが悪そうに目を逸らした提督を見て、私は掴んだ手を大きく引き寄せました。
「ぐっ!?」
「知らないとは言わせません。私はハッキリと聞いたのですよ?」
「だからどうしたと言うのだ?
お前の行く末はすでに決まり、艦隊の運命も変わることは……」
ドムッ!
「ぐあ……っ!?」
私の拳が提督の鳩尾に埋まり、身体がくの字に折れ曲がりました。
「それが……、目的だったのでしょうか?」
「な、なんのこと……だ……がぁっ!」
「白を切ろうだなんて、させませんよ~?」
「がっ、ぐぅっ、うごぉっ!」
私は何度も提督の鳩尾を殴りつけ、これでもか――と、痛めつけました。
苦痛の表情を浮かべて倒れこもうとする提督を無理矢理立たせ、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、殴り続けます。
「は……がぁ、ぐ……ぅぅ……」
提督の口からはル級と同じように血がダラダラと流れ出て、まっ白な軍服を汚しました。
「こ、こんな……ことを……して……、許され……ると、思って……いるの……か……」
「そうですねぇ……。普通は許されないですよねぇ……」
「そ、それなら……、早く私を解放して……」
「そうしたところで、私と仲間の解体は防げませんよね?」
「……っ」
私はニッコリと笑いながら目を覗きこむように顔を近づけると、提督は慌てて視線を逸らしました。
動揺したのは明らかであり、私はここがチャンスだと悟って問いかけます。
「さっきの言葉を聞いてから考えていたんですが、ル級の尋問が成功した場合、私をどうするつもりだったんですか~?」
「………………」
「失敗したら私と仲間を解体する。けれど、成功した場合の話はしていませんでしたよね~?」
「………………」
「黙っていたらなにも分からないので、再び殴っちゃいましょう~」
「ま、待て、これ以上は……っ!」
「痛いから嫌だって言うのですか~?」
「そ、そう……だ」
「ル級に電撃を浴びせたのにですか~?」
「あ、あれは……」
「ル級に水を何度もぶっかけたのにですか~」
「それは拷問だからであって……」
「胃から出血するほど、何度も水を飲ませては吐き出させる拷問を続けたのにですか~?」
「や、奴は深海棲艦だ。だから……」
「失敗しても成功しても、ル級と私はすでに用済みだったってことですよね~?」
「……っ!」
私の言葉を聞いて顔色を一気に青くした提督は、大粒の汗を額に浮かばせ、視線をあたふたさせていました。
「どうやら間違いではない……みたいですねぇ」
「ち、ちが……」
ドムッ!
「ぐっ、がぁっ!」
ゴスッ!
「ぎぃ……っ!」
ドムッ、ゴスッ、メキャッ!
「うご……ぉ、や、止め……うぐ……っ!」
提督のお腹を、提督の胸を、提督の顔を、何度も拳で殴りました。
提督の軍服は白と赤のまだら模様になり、私もたっぷりの返り血を浴びて、湿っていた衣服がピンク色に染まりました。
それはひとつのアート作品のように。
そう、今私は芸術家として――って、そんな訳はないですよね~。
まぁ、そんなこんなで、気づけば提督はボロ雑巾のような状態になっていたのでした。
次回予告
提督の言葉の意味を知った私は、もう止まることができませんでした。
いえ、止まる気なんて、全く無かったんですが。
そしてこうなってしまった以上、やるべきことはただ1つ。
私の初めての相手は……、あなたですよ、提督。
私がヤン鯨になった理由 その8「はじめまして、ヤン鯨です♪」(完)
乞うご期待!
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