一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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 自殺しようとして止められて、ひたすらに泣いて。皆と話して、辞めずに今ガチを続けると決めた。お父さんとお母さんにも心配をかけちゃって、特にお父さんは阿古屋さん経由で情報が回ってきたのか、珍しく、というよりも初めて本気で叱られた。普段は優しくて温厚なお父さんに怒られると、自分のしでかそうとしていた事がどう言う事だったのかを再認識させられて、血の気が引いていく。お父さんはそのまま今ガチを辞めるように勧めてきて、もし辞められないのであれば知人の弁護士を紹介するとまで言ってくれたけど、私は続ける事をちゃんと目を見て言えた。覚悟が伝わったのか、「そうか」と言ってた矛を収めてくれた。

 

 阿古屋さんにも、どこかでちゃんとお礼を言わないとダメだよね。

 

 続けるとは言ったけど、怖い気持ちは残っている。SNSでは依然として私は悪役。自殺未遂なんてニュースになっても好転しない事は想像できたし、ただ復帰しても私は目立たないままで終わってしまう。

 

 SNSに関してはタイミングよく、一番炎上していたところがサーバーメンテナンスで一時的に遮断。その間に政治家さんの不祥事がニュースになった事で、メンテナンスが終わった頃には私の件は完全に下火になっていた。突然の長時間メンテナンスと不祥事が注目を持って行ってくれたみたい。純粋に私の事を目の敵にしている人なんてごく僅かで、大半は叩けるから叩く程度だとメムちゃんが言っていた。

 

 復帰するなら、誰かを演じる方が良い。最初にアクア君が同じような事を言ってくれたけど、他の皆も同意見だった。せっかく女優なんだから、強みを活かした方が良いって。昔かなちゃんに言われた事がある。自分一人じゃ何もできないから、傷つきやすいから、誰かの殻を被る臆病者だって。今の状況はまさにその通りだ。本当の事を言ってしまえば、その言葉がずっと頭に残っていて、この恋愛リアリティーショーでは自分を出そうとしてみた。結果は散々で、この世界でやっていくには私は誰かに成らないといけないと言う現実を突きつけられた。やっぱり、かなちゃんとは違う。当然だ。私とかなちゃんは何もかもが違う。でも、それで良い。私は私の得意とする所で勝負をする。もっと有名になって、色んな役を演じて、いつか共演した時に女優として有馬かなに勝つ。

 

 あとは誰を演じるか。

 

 私一人だとまた失敗しそうだから相談して、メムちゃんがアクア君に聞いてくれた。

 

 顔の良い女。

 

 嫌そうな顔をしながらも答えてくれたのは、私でもちょっとどうかと思う答えだった。アイさんとルビーちゃんみたいな美人で可愛い人達に普段から囲まれてたら目が肥えるのは無理ないと思うけど。こうもあっさり言われちゃうと、私じゃ無理かな、なんて思ってしまう。

 

 メムちゃんが面白がってどんな子なのか聞いていたけれど、アクア君は口を閉ざしてそれ以上は言わなかった。メムちゃんが思いついたようにルビーちゃんに電話して、アクア君の好みを聞く。顔が良いって言っても系統は色々あるから、興味はあった。

 

『んー、やっぱりママとか私みたいな感じの子じゃない?』

 

 通話がスピーカーにされていた事で、そんな言葉が今ガチメンバー全員に聞こえた。

 

 空気が凍る。

 

 アクア君は目を見開いたまま固まっていて、次第に周りでマザコン、シスコンと言う単語が聞こえてくる。我に返ったアクア君が否定するけど、タイミングが遅かったのか完全に言い訳にしか聞こえなくて、アクア君には申し訳ないけど、こうやって事実が湾曲して伝わるんだなって思った。もしかしたら、本当の事なのかもしれないけど。

 

 アイさんか、ルビーちゃんか。

 

 世代を考えたら、一個下のルビーちゃんの方が良いのかな。連絡も毎日じゃないけど比較的取り合う仲だし、あの明るい性格は確かに画面映えするんだろう。でも、真似するならアイさんかな。二人とも本当に素敵だなとは思うけど、実績があるのはアイさん。活動期間も長いから、その分情報もたくさんあって、私のプロファイリングには打ってつけ。

 

 そうと決まれば、まずは資料集め。

 

 国立国会図書館やネットで情報を片っ端から集めては、部屋に戻ってまずは目を通す。プロファイリングに必要な情報、特に、業務遂行能力、経済状況、健康、個人的思考、興味関心、信頼性、行動をピックアップしてまとめていく。あとは私自信が膨大な情報を飲み込むためにメモに書き殴っていく。

 

「あの特徴的な瞳は自信から来るものかな。大胆な行動からも裏付けできる。承認欲求は満たされてる。デビュー時からって事を考えると、ファンよりも個人の誰かから……アクア君のお父さんかな。愛情の抱き方にはバイアスあり。夫婦、家族仲は良好だけど独占欲は強め。交友関係は広くない。ううん、なんか違う。広いけど、限定的? メンバー間とはアイドル期間中よりも引退後の方が良好。金銭感覚は節制傾向、けど使う所には使う。立ち方は綺麗。武道的な感じかな。誰かに習った? 秘密主義だけど、最後のライブを見るに暴露傾向もあるね。嗅覚と聴覚が過敏。完璧主義者。教育レベルは低めだけどマナーは完璧。発言からも、大人になってからかなり良い所で学んでるのは明白」

 

 脈絡なくメモを書いて、破ってはテープで壁に貼っていく。役作りの度にやるから、壁紙は所々剥げてる箇所がある。変えたほうが見栄えは良いんだろうけど、特に誰かを招き入れることもないし、努力の跡に見えてつい残してしまう。

 

 アイさんを調べていくと、幼少期が壮絶。この辺りは本人のインタビューが情報になってしまうけど、親は離婚して母にも見捨てられて孤児院生活。推測になってしまうけど、おそらく母親はアイさんに嫉妬に近い感情を抱いていた。アイドルとしてのデビュー時の写真が残っているけど、この時から容姿はずば抜けてる。きっとアクア君のお父さんと出会ったのも孤児院生活中。やっぱりお父さんも顔の良さに惹かれたのかな。アクア君と親子だもんね。

 

 初めて見た時もそう思ったけど、調べてみてかなり今の家族間の仲が良いのがわかる。

 

「初のドームライブで引退。活動休止期間中に妊娠と出産。少ししてCM出演で復帰。モデルや女優業を始めて、この辺りから本格的に女優として活動開始かな。演技は私とは違うタイプで、かなちゃんと同じく自己主張型の演技。細かくは違うけど、やっぱり人を惹きつける不思議な力がある」

 

 やっぱり男の子には、アイさんやかなちゃんみたいなタイプがモテるのかな。

 

「……あれ?」

 

 情報を眺めていく中で、何か違和感がある。

 

「アイさんがデビューするまでは苺プロは零細。B小町がデビューして人気に火がついて売れたと言うのもあるけど、ある時から所属タレントが一気に大手メディアで使われるようになっている。業績が鰻登りになったのもこれが契機かな。それにドームでのライブも、他のアイドルグループと比較してもかなり早い、よね」

 

 片手間で調べただけだけど、大抵実績が十分にあるグループが数年かけて計画していくはず。あれだけ人気の出たB小町だからこそのサクセスストーリーだと言われれば理解できなくはないけど、なんだろう、それだけじゃない気がする。

 

 脱線するのはわかっているけれど、でもそれがアイさんを知る上でも必要なことのように思えてしまった。

 

「ムジテレビ、義伊國屋、セントリー……やっぱり一流企業が多い。社長さんが営業を頑張った? でも、それにしても多いよね。何か接点があるって考える方が自然。ドラマ、映画、音楽? 違う。もっと突拍子のないものかも。大企業だけの組合がある? ううん、この時はまだ苺プロは大企業って呼べるほどじゃない」

 

 見返せば見返すほど、すごい短期間で大企業までのし上がっている。それこそ他ならインターネット関連事業を主軸にしているアンダーマウント社くらいだと思う。

 

 難しいな。

 

 整理しきれなくなって、ベッドに倒れ込む。プロファイリングを教えてくれたお父さんも、こうやってドツボにハマる事もあったのかな。私は犯人探しをしているわけじゃないから、本当に知りたくなったら聞けば良いんだろうけど、本職の人たちは相手が犯人とかになるから大変だ。

 

 喉も渇いたから、起き上がってリビングへと向かう。お母さんが大丈夫かと聞いてくれる。普段通りに大丈夫だよって返す。お母さんにもいっぱい迷惑かけちゃったから、これ以上は心配をかけられない。

 

 冷えた水が美味しい。

 

 ふとついていたテレビを見ると、METSUDOの化粧品のCMにアイさんがちょうど出ていた。お母さんも「やっぱり綺麗ね」なんて言うけれど、同姓の私でもつい目で追ってしまう。何気なく自分の髪を触っていて、髪、伸ばそうかななんて思った。

 

 お母さんに部屋に戻る事を告げて、階段を上がる。

 

 つけっぱなしにしていたパソコン上で、アイさんが出ている映画が流れている。ケレン味とは違う。言い方が正しいかはわからないけれど、嘘が突出して上手い。

 

 やっぱり、まずはアイさんの人となりに集中した方が良いかもしれない。

 

 またメモを書き始めると次第に没頭していく。お母さんがご飯の用意ができたからと呼びに来るまで続いた。

 

 次の今ガチの収録まで、私はひたすらアイさんのプロファイリングをした。日に日にアイさんを演じるのが上手くなってきた自信はあるけど、ふとした時に本人の許可を取っていなかった事を思い出した。

 

 良いよー。

 

 そんな感じで、あっさり言ってくれるのはわかる。友達のお母さんでも他所の事務所のタレントさんだから、事前に許諾してもらわないと万が一揉める事になったら大変。もし揉めてしまって事務所から訴訟でもされたら勝ち目はない。

 

 私はアイさんの個人的なスマホの連絡先は知らない。アイさんのSNSもプライベートな投稿はなくて仕事の告知くらい。文体から本人がやっているんだろうけど、マナー的にもあんまりな気がする。更新期間もランダムだから、そもそも気づかれないかもしれない。

 

 アクア君に聞こうって思ったけど、あの様子じゃ今私が聞いても傷に塩を塗っちゃうかな。ルビーちゃんの方が良いかも。

 

 メッセージを送ろうとしたけど、電話の方が良いと思い直して電話してみるとすぐに出てくれた。

 

「ルビーちゃん? 遅くにごめんね」

『大丈夫だよ。どうしたの?』

「うん。実はねーーー」

 

 復帰する際にアイさんを真似たキャラで出る予定だと言うことを伝えて、アイさんに許可を貰いたい事を伝える。ルビーちゃんの反応から近くにアクア君もいたんだろうなってわかるから、結果的にアクア君に電話したのと同じになっちゃったかもしれない。

 

『今ママもいるし聞いちゃえば? 電話変わるね』

 

 止める間もなくアイさんを呼ぶ声がする。連絡先聞くだけだったから、心の準備できてないよ。

 

『もしもし? アカネちゃん?』

 

 声が変わる。

 

「はい。ご無沙汰しています。ルビーちゃんから伺ったかもしれませんが、実は勝手ながらアイさんを今放送中の『今からガチ恋始めます』で演じさせて頂こうと思いまして、まだアイさんの許可を貰っていなかったのでいただけないかなと思いまして」

 

 やっぱり緊張する。

 

『良いよー。アカネちゃんも大変だったね』

「ありがとうございます」

『アカネちゃん、明日か明後日時間ある?』

「日中が学校なので、夕方からななら……」

『じゃあ家においでよ。せっかく演じるなら私が見てあげるよ?』

「良いんですか?」

 

 願ってもいないこと。私ができるのはあくまで情報に基づいた考察。直接本人から聞ける生の情報に勝るものはない。それに、自宅ってことはアクア君の家でもあるわけで……。

 

『勿論。せっかくだから、アクアを見惚れさせるくらい作り込んじゃおうよ!』

「ありがとうございます!」

 

 電話して良かった。

 

 久しぶりに、明日が来るのが楽しみになった。

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