一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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「黒川……何でここに?」

 

 なんで、どうやって。そんなことばかりがぐるぐると頭を巡っている。

 

 人知れずやっている以上大々的な警備等はないが、素人が入り込める余裕があるとは思えない。

 

「実は前々からちょっと気になってて。今ガチも終わって自由になったから、調べてみることにしたの」

「気になる事?」

「うん。私が炎上して少しした後、一番燃えてたSNSのサーバーメンテナンスに突然なったり復旧するタイミングで政治家の汚職事件がニュースになったり、皆の注目が移ったでしょ? 最初は偶然だって思ってたんだけど、アイさんの演技をしようと情報を集めた時に同じような事があって。もちろん当時はSNSはまだ普及してなかったけど、探せる限りの資料を探してたらテレビで報道されてない事がわかったの。当時の人気を考えたら不自然だよね。アイさんと私じゃ知名度が全然違うけど、一つの仮説を立ててみたら、いろんな事が線で繋がってね」

 

 どうやら俺は、黒川の事を過小評価していたようだ。精巧とはいえ役作りのためのプロファイリング。その域を超える事はないとは思っていたが、とんでもないレベルだった。仮説を立て、おそらくは自分一人で検証し、本来なら絵空事としか思えないような答えにも辿り着く。単に頭が良いでは説明ができない、ある種の異能じみた論理的思考力は、超雌と呼ぶに相応しい。場所にしたって、固定の場所はない上にランダムのはず。それをピンポイントで当ててきたのは最早意味がわからない。

 

「にしたって入って来れないだろ」

「私も調べるだけで入るつもりはなかったんだけど……」

「それは私が許可しました」

 

 後ろからゆっくりと歩いて入ってきたのは山下さんだった。警備の人が通すなら、乃木さんか山下さん、あとは爺さん辺りの人たちの一声が無ければ無理だろう。乃木さんはあまりこの手のは迎合しないはずだから、可能性として残るのは二人。

 

「山下さん……」

「ご自分で気づかれたようですし、ここまで突き止められてしまったら誤魔化しても無駄かと思いまして。私って隠し事が顔に出ちゃうタイプですし、夜分に一人で突き返すのも危ないじゃないですか」

 

 それはそうだが、良いのかそれで。

 

「すみません」

 

 山下さんの言葉に謝る黒川を他所に、周りから、

 

 山下社長の知り合いか?

 あの子どこかで見たことあるな

 あれだろ、苺プロがアンダーマウント社と突如やる事になった例の件の

 じゃああいつの女か。女連れてくるのは血筋か?

 等と話す声が耳に入ってくる。

 

 入り込んだ異物が、敵ではなかったとわかったのか、次第に話題が入り込んだのは誰だと言うことから変わってくる。

 

「騒がしいから何かと思えば、山下さんとーーーあかね嬢か」

 

 父さんが、母さんとルビーと一緒にこちらに来る。

 

「あかねちゃんだ!」

 

 知り合いを見つけたルビーは嬉々として近づいては、黒川の手を取り上下に振る。そこだけ見れば平和な空間だ。黒川も心なしか緊張が和らいだように見える。とりあえず周りの空気から察すれば、露呈した事が大ごとにならずに済んだ感じだ。一目置かれている山下さんが来てくれたのが良かった。早まっていた俺の鼓動も、これで少しは落ち着きそうだ。

 

「あらら、やっぱり気づかれちゃったかー」

「アクアが呼んだんじゃねえのか?」

「呼ぶわけないだろ」

 

 母さんは黒川と会って実際に見たからか、この現状を予想していたようだ。

 

「アクアはケイと違ってそんな事はしないよ。アカネちゃんのプロファイリングだと思うなー。前に来た時にもしかしたらって思ったけど、まさかほんとにわかっちゃうとはね」

「……何にしてもすげえな。何をどうやったらここまで正確にわかるのかさっぱりわからねえけど、やっぱりあったら良い武器になるとは思うんだけどな」

「やめといた方が良いんじゃない? 借りた本読んでもさっぱりだったんだし」

「そうなんだよなあ。先読みの方がよっぽどわかりやすかった」

 

 俺からすればそっちの方が理解できない。気の起こりを読む、だったか。黒川のはレベルが違う気がするが、心理学として学問の一つになっているプロファイリングの方がまだ理解できる。

 

 山下さんが近づいてくる。見た目は人の良さそうなどこにでも居そうなおじさんだが、覇気というかオーラというか、やはり普通の人とは違う物を感じる。

 

「やあアクア君。随分と大きくなったね」

「ご無沙汰してます。あの、黒川の件ですけど……」

 

 何だかんだ山下さんと話すのは年単位ぶりだった。おそらく山下さんもその件で話があったのだろう。

 

「そうなんだ。自分で調べたって話は嘘じゃないと思うけど、何も無くそのままって訳にもいかないからね。一応、監視という名目で護衛を付ける予定だよ」

「本当にすみません」

「いやいや、アクア君が謝ることじゃない。私達もダークウェブの件があって気をつけてはいたつもりだけど、まさか推理されて突き止められるのなんて考えてなかったよ」

「効果があるかはわかりませんが、俺からも言っておきます」

 

 俺だって全部を把握しているわけじゃないが、これ以上関わらせるのは危険だ。ここから芋蔓式に揉めている蟲の件にまで興味本位で首を突っ込まれたら、今度こそ取り返しのつかない事になりかねない。そう考えると、できれば龍鬼さんや王馬さんとも会わせない方が良いはず。

 

「そうかい? あの世代の子は、きっと私達大人よりも同世代の君の言う事の方が聞いてくれるだろうから助かるよ。ましてや恋人関係なら尚更だ」

「いえ、俺達は別に付き合っているわけではないです」

「ええ!? そうなのかい? ……今の若い子はわからないなー」

 

 そんなに驚かなくても良いのにな。

 

 あの一件以降、どうやら拳願会では俺が黒川と付き合っているという嘘が広がっている。

 

 転生したと気づいた時と比べて、かなり肉体年齢に精神が引っ張られている気はするが、それでも、中身が三十超えたおっさんが未成年と付き合うのは色々とやばい。転生なんて埒外の事だから気にしなくても良いのかもしれないが、なんとなく憚られるのだ。

 

 それに、我ながら頑張っていると思う。

 

 自分で言うとただの自慢と言われるが、前世含めて女性にはモテてきた。特に今世は芸能人ということもあるのだろうが、顔が良い、運動ができる、頭が良い、大人びてる。そんな事はもう数えきれないほど言われてきた。肉体面に寄っているせいか相応に性欲だってあるのに、全ての告白を懇切丁寧に断ってきた清い身だ。前とは違って遊んで取っ替え引っ替えと言うのは、あまりやりたくない。

 

「そう言うわけなので、あまりそう言う体で話をされるのは」

「そうだね。一応私の周りでも誤解を解いておく様にするよ」

「ありがとうございます」

 

 山下さん、なんてできた大人なんだ。散々面白おかしく話のネタにしてきた人たちに爪の垢を飲ませたい位だ。

 

「そうだ、アクア君。斎藤社長はどこにいるかわかるかい? 黒川さんの件で斉藤社長にも話をしておこうと思ってね」

「社長でしたら、さっきまで向こうで商談をしてましたよ」

「ありがとう。助かるよ」

 

 左を向けば、まだその姿は見えた。

 

 苺プロは一気に大きくなった。それは拳願会に在籍したことや、仕合で勝ち続けたことも大いに影響しているのだろうが、それでも長年信頼を積み重ねてきたのは社長やミヤコさん達の尽力あってのもの。

 

 山下さんと社長の会話はそんなに時間が掛からなかった。

 

 二人の会話が終われば、俺たちは帰ることになる。

 

 普段は父さんが運転するが、仕合の後くらいは母さんが運転する。運転席に母さんが座り、座席を前にスライドさせ、ルームミラーを調整する際にミラー越しに俺と視線が合う。画面越しと鏡越しで違うが、やはりあの時の黒川の目は母さんにそっくりだった。五人乗りのセダンタイプの車だが、高校生が三人横で並ぶと少し手狭に感じる。ルビーも黒川も、平均よりも背が高い分よりそう感じるのかもしれない。

 

「すみません。押しかけた上に送ってまでいただいて」

「気にしないで良いよー。私達がヒントあげちゃったようなものだしね。仕合のことまで気づいたのはケイを見てわかったんでしょ?」

「はい。お義父さんの体付きって、ただ鍛えているにしては筋肉の付き方とかが違うなって思ったんです。もしかしたら、格闘技とかそれに通じる何かをやっているんじゃないかって」

 

 一般人と比べたら違うのはわかるが、普段から見ている様な人でもなければ、普通は筋肉の付き方で何やっているかなんてわからない。きっと俺が思っている以上に至る所にヒントは散らばっていて、そういう細かいところも綺麗に回収した結果なのだろう。

 

「だって。やっぱり私達、後でお爺ちゃんとか乃木さんに謝っといた方が良いかな?」

「山下さんも大丈夫だって言ってたし、大丈夫だろ。あかね嬢も多分山下さんから言われてるとは思うが、この事は他言無用で頼むぜ」

「は、はい……」

「心配しなくても、取って食ったりはしねえよ。親父さんも知ってるはずだし、自分で溜めきれなくなったら親父さんにまずは話してみな」

「お父さんも知ってるんですか?」

「前ハワイで会った時はもう警視正?だったろ。その時には知ってたよ」

 

 そういえば、警視監と言っていたな。ヤクザが仕切っている裏格闘技団体などもある以上、警察も裏格闘技の存在は知っていてマークしているはず。ある程度の階級からは知っているのか。

 

「にしても、最初にこの近辺でバレるなら、ルビーがポロッと余計なこと言った時だと思ってたんだけどな」

「ええ!? どういう意味!?」

「ああ、それは俺も思ってた」

「お兄ちゃんまで!? ちゃんと気をつけてるんだけど!」

「わかっているけど、お前危なっかしいし。有馬とかメムにいつか言うんじゃないかって思ってた」

 

 二人だけの秘密もいまだに守っているから本気でそう思っているわけではないが、やらかすなら誰だって言われると、ルビーや母さんになるんだよな。

 

「ひっど! ねえ、ママはそう思わないでしょ?」

「んー……もしバレちゃうなら、その時は私かルビーかなって思ってたよ」

「あかねちゃーん。私の味方がいないよー」

 

 真ん中に座る黒川にルビーが泣きつく。黒川も黒川で律儀にルビーの頭を撫でているが、ポロッと小声でかなちゃんは知らないんだ、って呟いた言葉を俺は聞き逃さなかった。

 

 黒川の家の前まで到着すると、まだ灯りは付いていた。俺が降りて、それに続いて礼を言った後に黒川も降りる。

 

「この時間に帰って大丈夫か?」

「どうだろう。一応友達と遊ぶって言って出てきたけど、遅くなっちゃたから怒られちゃうかもね」

「何言われたらウチで遊んでたって言っておけば良い。一応両親ともに顔見知りだしルビーもいる。多少は安心するだろ」

「ありがとう」

「それと、今日みたいは事はもうしないでくれ。今回は何もなかったけど、次回もそうとは限らない。今が物騒なのはわかってるだろ」

「うん、そうだよね。私もちょっとどうかしてた」

 

 黒川は気まずそうに目をそらす。申し訳なさそうな顔をされると、なんか罪悪感が出てくる。

 

「わかってくれたなら良い。……あんまり、心配させないでくれ」

「うん」

 

 黒川が開けるのを見送って、俺たちも帰ることにした。

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