一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

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「ねえ、所々ゴツい人いるんだけど」

 

 現地に到着していの一番に、かなちゃんが護衛者さん達に気づいた。鍛えてるし身長も高い人が多いから、黒スーツで引き締まって見ててても他の人と比べるとかなり大きい。

 

「お爺ちゃんの所で働いてる人達だよ。物騒だから警備やってくれるんだって」

 

 手を振れば気づいた人達が返してくれる。ぱっと見は強面さん達だけど、良い人達ばかりだ。耳にインカム付いてるから、連絡を取り合ってるんだと思う。

 

 ほらねって振り返ったら、ちょっとかなちゃんは引いてた。

 

「過保護か。これだから金持ちのボンボンは」

「ルビーのお爺ちゃんってお金持ちなのぉ?」

 

 そういえば言ったこと無かったかも。

 

「うん。お爺ちゃんのお家って、お城みたいにすっごい大きいんだよ!」

 

 お爺ちゃんがお金持ちじゃなかったら、誰がお金持ちなんだろう。豊田さんとかも色々なところに別荘あるって言ってたからあの人とかかな。

 

「お城は流石に言い過ぎなんじゃ」

「私も一度連れてってもらったことあるけど、本当にデカいわよ」

 

 鞘香ちゃんと女子会した時に一緒に行ったことがある。あそこまで緊張していたかなちゃんを見たのは、あの日が最初で最後かもしれない。あの時の様子撮っておけば良かったなー。

 

「へぇ〜、今度私も言っても良い?」

「良いよ。このライブの打ち上げで行こうよ!」

 

 許可は前もって取っておかないとね。

 

「はいはい。その話はその辺にして楽屋に向かうわよ。龍鬼君も荷物運びありがとう」

「ううん。これくらい軽いし全然大丈夫だよ」

 

 ミヤコさんが手を叩いて私達の注意を向ける。龍鬼君は私達全員分の荷物を持ってくれてて、衣装とかだからそんなに重くないけどなんか申し訳なくなる。

 

「それにしても、俺初めてライブ?ってのに来たけど、こんなに人がいるんだね」

「ここまで規模が大きいのはこれくらいよ。普段はもっと少ないグループ数で一つの会場でやったり、一つのグループが会場を貸し切ってやる場合がほとんどなの」

「へえ、ライブにも色々あるんだ」

 

 出番はまだ先だけど、早めにお昼を食べたり衣装を着替えたり、最終確認したりとやることはある。外も暑いからじっとしてるだけでも汗が出てくる。日に焼けちゃうし、お化粧も落ちちゃうからすぐに移動を開始した。龍鬼君はこの独特の熱気が新鮮なのか、あたりをキョロキョロしながらも進む。

 

 建物内に入って、楽屋が並ぶ通りまで来ると、ある部屋の前に『苺プロダクション「B小町」様』と書かれた紙が貼ってある部屋があった。

 

「本来は他のグループと同じく一箇所に集められた雑多な所が楽屋になるところだったけど、スポンサーのムジテレビがご厚意で個室を手配してくださったからちゃんと感謝しておきなさい」

「それってウチが大手だからですか?」

「それもあるけど、先代B小町の時も早くから目をかけてくださった局だから、貴女達への期待と先行投資ってところね」

 

 ムジテレビだから熱海社長か。今度会った時に私もお礼言っておかないと。

 

「逆にプレッシャーかかるなぁ」

「頑張りなさい。売れていけばいくほど、それに比例して多くの人から大きな期待を寄せられることになる。このくらいで躓いていたら今後が大変よ」

 

 ミヤコさんからも発破をかけられる。屋上は流石に何万人も入らない。私達が売れて活躍していけば、ドームライブだってできるかもしれない。その時は何万人ものファンに囲まれて単独でやるんだから、負けてられない。

 

 楽屋に入れば、少し手狭だけど三人分のお弁当も用意してあった。

 

「荷物ここに置いておくよ。俺は光我と待ち合わせしてるから先に行くね」

「ありがとね! 光我君と一緒に応援よろしく」

「うん。三人とも頑張って」

 

 龍鬼君が部屋を出ていく。

 

「さあ、モタモタしていると時間がなくなっちゃうわよ。できる準備から始めましょ」

 

 準備をしていくと、時間なんていくらあっても足りないって思えるくらいにどんどん出番が近づいてくる。近づくたびに、鼓動が速くなってきたのを感じる。

 

「やばい、めちゃめちゃ緊張してきたぁ! このライブ配信でミスれない感じに似てるようで違う緊張感やばいよぉ〜」

「MEMちょの手冷たっ」

「緊張してるからねぇ。そういうルビーも冷たいよ?」

「バレた? 実は私も緊張してるんだー」

 

 武者震いだったら良かったのに。やっぱりするものはする。

 

「平気そうな顔してたのに、アンタでも緊張するのね」

「私をなんだと思ってるの? そう言うかなちゃんだって緊張してるじゃん」

 

 手を取って確かめる。

 

 MEMちょもかなちゃんも私も、皆の手が冷たかった。同じように緊張しているって思うと、なんだか安心する。

 

「緊張なんてしてな……くもないか。正直、こんなに目をかけてもらって、私のせいで台無しにしたら、失敗したらって思うとすごい緊張する」

 

 MEMちょと自然と目が合う。

 

 責任感があるのは良いこと。かなちゃんからしたら、一番業界人としての経歴が長いから、先輩として私とMEMちょを引っ張っていかないとって思ってくれているのかもしれない。ちゃんと私達のことを考えてくれているからこその緊張なんだろうけど、この責任感の感じ方は違うよね。

 

「もし失敗しちゃっても皆の責任。かなちゃんのせいじゃない。それに初めから失敗するかもって考えてもしょうがないよ。私達これまで頑張ってきたじゃん! どうせ考えるなら成功して、わーって盛り上がる方が楽しいって!」

「責任は三分の一で、喜びは三倍って感じ?」

「MEMちょ良いこと言う! そんな感じ!」

「緊張も三倍だけどね」

「せっかく良い感じになったのに余計なこと言わないでよ」

 

 でも、それがかなちゃんらしいって言えばらしいかな。可愛くて努力家で口が悪い。それが私が知っている有馬かな。それに私自身、少し緊張が和らいだ気がする。

 

「ねえ、一つやってみたいことあるんだけど」

 

 せっかく三人集まってるんだもん。円陣を組むには少ないかもだけど、一度やってみたかった事で、手の甲を上にして二人の前に出してみた。

 

 先にMEMちょが気づいて、上に手を乗せてくれる。それを見たかなちゃんがちょっと恥ずかしそうにさらに乗せてくれた。

 

「さっきと言っていること違うかもだけど、私達は今日が初! 失敗上等! 三人で楽しんで最高のライブにしようね!」

 

 私が手を挙げれば、上に重なってた二人の手も上がる。ハイタッチもして、一体感みたいなのが出て楽しい。

 

 前のグループが終わって、舞台から捌けてく。いよいよ本番。

 

 もらった時間はあんまり多くない。せいぜい三曲歌えるくらいで、前からあったB小町の二曲と、新曲が一曲。最初のセンターは私だ。

 

 イントロがかかると、合図もなかったのに三人とも同じタイミングで駆け出せた。

 

 一段高いところから、いっぱいお客さんを見る。不規則に並んだ三色のサイリウムが、音楽に合わせて右に動いたり左に動いたり、上下に動いたりする。綺麗な光景。

 

 あれだけあった緊張も、これを見ると改めて私はアイドルになったんだっていう高揚感が上回ってくる。

 

 これが憧れだった、ママが立ってた場所。

 

 イントロが進んで、歌い始める。

 

 次に何のフレーズを歌うか、どんな振り付けか。たくさん練習した甲斐があったからか、考えるまでもなく次々に出てくる。やばい、楽しい。

 

 努力の成果がわかると、余裕も出てきて視界が開けてくる。さっきの何倍も輝いて見える。大勢のファンの中には、ママとパパにお兄ちゃん、隣にニノちゃんもいる。ちょっと離れたところに龍鬼君たちもいて、手前の方にはエレナちゃんとカルラちゃんも来てくれてる。お爺ちゃんも見つけた。後ろの方には氷室さんや、大きいのは関林さんと春男君かな。私のファンになってねって春男君には言ったのに赤じゃなくて白を持ってる。護衛者さんたちも警備だけじゃなくてちゃんと見てくれてるんだね。

 

 振り付けの合間や曲の間に、ウインクしたり手を振ったりしてファンサをする。

 

 流石に全員の顔が見えるわけじゃないから見当たらないけど、センセもどこかにいるのかな。ねえセンセ、私、本当にアイドルになったよ。なったら推しててくれるって言ってたよね。顔も声も、あの時とは何もかもが違うけど、私だって気づいてくれるかな。私はこれからもずっとアイドルを続けるから、絶対見つけてね。

 

 

 

 

 

 

 アイドルも、女優も、緊張という点では同じ。ステージに立つまで、カチンコがなるまではどうしたって緊張するけど、一度始まればスイッチが切り替わるように冷静になる。

 

 私が思っていたよりも、たくさんの人が来ている。有名インフルエンサーのMEMちょが散々広告してくれたのもあるんだろう。ぱっと見、MEMちょのメンカラの黄色が一番多い、次に赤。なんとなく、ゴツい人が赤を持っている率が高い気はするけど気のせいかな。ただ言えるのは、白は一番少ない。

 

 当然よね。

 

 アイドルをやるって決めたのは、私自身の意思。押し負けたもあるけど、アイさんやニノさんのような身近にモデルケースもあったから、やって損はないって思った。後悔はしていない。二人からたくさんのことを学ばせてもらったし、ルビーとの距離も一層近くなって、友達みたいにバカやって遊んで、MEMちょにも色々話を聞いてもらって。敵しかいないと思ってたあの時よりも、本当に楽しい時間を過ごせた。

 

 それでもや、ファンからしたら打算的な考えて始めた私よりも、小さい頃からずっとやりたがってたようなルビーやMEMちょの方がきっと魅力的に見えるんだろう。私が二人を眩しいて思うんだから、ファンからしたらもっとだ。

 

 頭ではわかっていても、サイリウムの数が露骨にファン数の差を見せつけてくる。アクア達も、差別しないように箱推ししてくれているけれど、誰か一人を選んでって言ったら、きっと赤か黄を選ぶはず。

 

 まあ仕方ない。

 

 そう思っていたところで、盛り上がるファンの最後方から私を呼ぶ声がした。

 

 何あれ、でっか! 遠近法バグってんじゃないの!?

 

 両手に、っていうか指の間に白いサイリムが一本どころか何本も握られている。真ん丸い怪獣みたいな大きな人が、これでもかってくらい激しく振ってくれてる。

 

 かなちゃんはコッテリしたオタクの人気を稼げるよ!

 

 前にそう言ってたルビーの言葉を思い出す。

 

 いや、コッテリって言ったけどちょっと違くない? コッテリっていうか、コッテリした物をたくさん食べた人でしょ、あれは。何をどれだけ食べたらああなれるんだか。

 

 でも、あれだけ白を持ってくれるなら、私のファンってことよね子役時代(むかし)からかな。それともアイドル始めてからかな。希望を言えば今の私のファンであって欲しいけど。

 

 どっちでも良いか。これだけ大々的に推してくれる人、ルビーにもMEMちょにもいないでしょ。ちょっとした優越感を覚えた。

 

 にしても、アクアめ。

 

 自分でもチョロいことわかってるけど、散々それっぽいこと言ったりやったりした癖に私だけを推さないってどう言う事よ。よく見ればスカした顔して右手に持っているのは白だけで、赤も黄も持っているのは左手。恥ずかしいから箱推しの体だけど、本当に推してるのは私って事? 推すなら堂々と私だけを推しなさいよ。後ろのあの人見てみろ馬鹿。

 

 ……決めた。

 

 卒業までの残りの期間で、絶対に両手にいっぱいの白いサイリウムを持たせてやる。浮気なんてさせない、アンタが夢中になっちゃうようなすごい存在になって見せる。

 

 アイさんでも、ルビーでも、ましてや黒川あかねでもない。アンタの推しの子は私。

 

 絶対にそう言わせてみせる!

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