一番星の王子さま   作:160万のワインを飲み損ねた

115 / 171
感想、誤字訂正、お気に入り登録、評価ありがとうございます


31

 

 自分の部屋だった。家具の配置も並べてある本も同じ。ただ、そこが夢の中だとすぐに気づいた。椅子に座る白衣の男は、本来ならすでにこの世にいないはずの男だから。雨宮吾郎、俺の前世だった男が、ニヤニヤしながらこちらを見ている。それが自分だとわかっていても、何だかすげえ腹が立つ。

 

「なんだよ」

「いや、推しに叱られるって中々ない経験ができて良かったなって」

「怒られて嬉しいわけないだろ」

 

 まさか、一五にもなってあんなにも叱られるとは思ってもいなかった。いや、そもそも年齢なんて関係ない。叱られたいと思う方が稀だ。

 

「何言ってんだ。俺はお前だぞ? 思っていることは同じだろ」

「ロリコン医者が」

「全部自分に返ってくるってわかってて言ってるんだよな?」

 

 だいたい、何で今更こんな事になったんだ。今までこんな事一度もなかったのに。

 

「夢ってのは、脳に蓄積した新旧問わない記憶を整理するための現状ってのが医学会でも通説だな。俺の場合は特異な生まれだから、こうして俺とお前が別れて会話するように記憶の整理をしているのかもしれない。ちなみに、夢は毎日見ていてほとんどが覚えていないから、実際には何度もあったかもしれないぞ」

 

 医者の姿をしているから、俺であっても少し説得力があった。

 

「人の考え読むなよ」

「読みたくて読んでるんじゃなくて、勝手にわかるんだよ」

 

 吾郎が死後、なぜかほぼ同じ時期に産まれたはずのアクアマリンとして転生した。オカルト雑誌やネットに転生の話題は数あれど、どれもにわかには信じ難い内容ばかり。確かめようがない上に、この世の中で大々的に転生した、なんて言う連中は大概イカれ……普通ではない。

 

「だから、お前のピュアな恋愛観だって事細かにわかるし、今のところどっちに惹かれてるのかも仔細把握している」

「プライバシーの侵害も甚だしいな。絶対口にするなよ」

「どうせ言ったって覚えてねぇよ」

「だとしても絶対だ。言おうとしたらその顔面殴るからな」

「わかったわかった」

 

 降参と言わんばかりに両手を小さく上げる。何が面白いのか、その口角は常に上がったままだ。

 

「はぁ……親に怒られてこんな夢見るなんてどうかしてる」

「そうでもないさ。言っただろ? 新旧問わない夢だって。お前だってわかってるだろ」

 

 医者の俺は、ついに口角を下げ、癖になってしまったメガネのブリッジを押して位置を正した。

 

 きっときっかけは母さんに叱られた事じゃなくて、父さんと話したことの方だ。

 

「俺としても、最初見た時は若すぎるなんて思ったけど、日向君がちゃんと父親できてるみたいで良かったよ。裏格闘技にも驚いたが、まさかクローンなんて思わなかったよな」

「……俺が気になったのはそこじゃない」

「そうだな。クローンに関して、コピー元のオリジナルの認識や技術的な事は気になるが、自然発生は絶対にしない。俺たちの知らなかっただけで、現代の技術レベルがあれば可能だって事だ」

 

 医者の俺は、こちらの考えを的確に読んで言葉にしてくる。

 

 十鬼蛇王馬、臥王龍鬼、日向桂。知る限りこの三人は、とある人物をオリジナルとするクローン体。若干容姿や年齢に差があるのは、製造時期の違いか、クローンと言っても完全に複製するのは難しいのか。

 

「だから、こう考えたわけだろ。クローンが現実にあるなら、もしかして転生も人為的にさせる事ができるんじゃないかって」

「ああ。けど、そうだとしても何で一医者でしかない人間を転生させた?」

「実験サンプルとして誰でも良かったのかもしれないぞ」

「いや、あの時は偶発的に居合わせたから殺されたはずだ」

 

 非番だったにも関わらず、二人の事が気になったからこそ病院に向かっていた。

 

「ちょうど手元に転がってたなら使うかもしれないだろ。俺を殺した俺そっくりのアイツは多分蟲だろ。日向君がクローンなら、それ関連で近づいてた可能性がある」

「転生にも、その……鮮度が大事って事か?」

 

 死体の鮮度ってなんか嫌な表現だ。普段食べている肉や魚は特にそれが大事なのだが、人になった途端に忌避感が出る。

 

「かもな。それでちょうどタイミングよく産まれたお前に、俺を転生させた可能性はある」

「ならこの転生も蟲がやってるって事か? クローン作って転生までやって、不老不死でも作る気かよ」

「あくまで可能性の一つだ。ただそうなると、転生するには赤子の体も必要になる。日向君達クローンが作られたタイミングと、その周辺で蟲がまだ彷徨く理由には弱いな」

 

 夢の中なのに頭が痛くなりそうだ。整理するはずが逆に混乱してきた。

 

「なら、やっぱり別案件なんじゃないか? 仮にさっきの話が本当だとしても、双子にそれぞれ転生させる意味がわからない」

「本当に転生させたい奴が双子だったりしてな。……まあ、俺たちじゃこの範囲だろう。それこそ黒川あかねなら、この辺の情報があれば答えまで辿り着くかもな」

「だとしても巻き込むつもりはない」

 

 本来なら拳願会に関しても関わらせるつもりはなかった。派閥はある上に、散々黒川の件で弄られてきたが、まだ常識人達だ。話せばわかる。だけど、蟲は別。テロを頻発するような連中だ。危険度は段違いで、関わって欲しくはない。

 

「そうだな」

 

 医者の俺はどこか満足そうに呟いた。

 

 そのまま話す事はなくなり、俺の意識が覚醒するのか徐々に遠ざかっていく。

 

 最後の最後に目が合う。

 

「   」

 

 口を動かしていたように見えたが、何を言ったのだろうか。

 

 目を開ける。同じ空間なのに、今度は現実だと理解した。

 

 枕のそばに置いていたスマホを何気なく見れば、まだ五時台だった。このまま目を瞑ればまた寝れそうだ。

 

「……しっかり覚えてるじゃねぇか」

 

 夢の内容を覚えている事はある。レム睡眠のタイミングで見た夢は覚えている確率が高いと目にした事があるから、今回のはそれだったのだろう。色々とんでもない事を整理してくれたが、結局それをやったのも俺なのだから攻める先がない。

 

 また寝たら同じ夢を見そうで、まだ眠気覚めない体を無理やり起こす。布団から出れば少し肌寒さを感じて、着々と冬に向かっている事を実感させてくれた。

 

 一階に降りるも、時間もあってリビングはまだ暗い。リビングを抜けて洗面所へと行き、冷たい水で顔を洗った。ようやく目も醒め、内に残っていたモヤモヤも少し晴れた気がする。

 

 一旦部屋へと戻り、とりあえず目についた東ブレの原作を読み始める。

 

 脚本が御破算になったが、その後本当に原作者の鮫島先生が脚本を描いているのだろうか。漫画家としては一流でも、脚本家としてもそうとは限らない。仮に才能があったとしても、連載を抱えた状態かつ短期間でどこまで仕上げられるのかは気になるところだ。

 

 GOAさんが書いた脚本は、確かに原作とは差異があったが、個人的には悪い物とは思わなかった。演劇という限られた時間内で表現するために、と言われれば納得できるし、そもそも意図的に原作を悪く表現するような人ではないだろう。書き上げた物も当然チェックが入り、リライティングも何度もしているはずだ。ただあの感じだと、GOAさんと鮫島先生が直接やり取りをしていた訳ではなく、出版社の編集や今回のプロデューサーの雷田さんを介した伝言ゲームと、伝える際に角が立たないように噛み砕いた事で忖度文化が悪い方に作用したと言ったところか。

 

 前回の黒川の件のように、拳願仕合でどうこうできる話でもない。出版社側から鮫島先生に許諾するように言っても、あの人が素直に飲むとは到底思えず、強めに出ても「それなら別紙に移る」とまで言い出しかねない。他社に移って同じことを繰り返しても、結局はあの人が納得しなければこの問題は解決しない。

 

 さて、どうしたものか。

 

 個人的にも、せっかくだから万全を期して演じてみたかった。このまま先生が脚本を書き直したとしても、どこか不完全燃焼になる未来は見える気がした。

 

 考えながらも、漫画を読む手は止まらなかった。

 

 単行本の巻数も進んでいき、舞台でやるはずの渋谷抗争編が終わって別の章に入る。強大な敵を倒すためにがむしゃらに立ち向かうのではなく、周囲の力や搦手を使う事になっている。

 

「なるほど。将を射んと欲すれば先ずは馬を射よ、か」

 

 将は言わずもがな鮫島先生。馬はここで言えば、今日あまの吉祥寺先生だろう。師弟関係らしいから、編集がいうよりも言うことは聞いてくれる可能性が高い。

 

「……ただ、今日あまがな……」

 

 意図的に悪くしてやろうと言う感情は、いや、あれは顔売りのために利用しようとはいていたか、脚本が酷かったと言う点では吉祥寺先生も同じ被害者側。最後の最後には感謝されたが、最悪原作者コンビで徒党を汲みかねない。ストレートにお願いするのは少しリスクが高いか。となると、もう一つか二つ策があった方が良い。

 

 何となく、GOAさんの事を調べてみる。正直なところ、脚本を書くのは彼でなくとも良い。演劇をよく知っており、作者と納得した上で脚本を作ってくれれば俺としては十分だ。ただ、ちょうどスケジュールが空いている上で、鮫島先生と相性が良い脚本家などそうそういないだろう。そうなると、元々担当だったGOAさんが適任になるのか。

 

「評価高いな」

 

 以前黒川と見に行った物も、調べてみればGOAさんが脚本をしていた。他に担当していた作品も軒並み評判は良さそうだ。他の二.五次元の作品もあるから、苦手というわけでもなさそう。やはり根本の原因はディスコミュニケーション。一度今ある偏見を取り払ってサシで話し合えば解決しそうでもある。

 

 とは言え、この考えはあくまで俺個人の意見であって、演者の総意ではない。全員とはいかなくとも、主要メンバーの考えは聞いておきたい。

 

 幸いな事にグループチャットはあるから、それとなくどうしたいのかを聞いてみる。

 

 気がつけば日が上り始めていて、何人かはすぐに返事が来た。

 

 何でも良いよ。言われた役を演じるだけだ。それより、昨日はすまん。

 私はやるならちゃんとした脚本で演りたいわね。昨日の件ってアンタ達何したのよ?

 私も。もうちょっと内面に納得できるキャラだと嬉しいけど、、、昨日の件は私も気になるな。

 昨日の件か……

 

 一旦姫川が内容を書くために途中で投稿した文章を読んですぐに俺は姫川へのコールをしていた。

 

『なんだ?』

「なんだ、じゃないですよ。余計な事言わないでくださいよ」

『余計な事……?』

 

 しらばっくれてやがる。自然とスマホを握る手に力が入った。

 

「昨日一緒に理乃さんの店行った事ですよ」

『ああ、その事か』

 

 笑っているのがわかる。

 

『そんなに言うなら隠しとくが、直で会った時に質問攻めに会うぞ?』

「アンタのせいでな。ちゃんと考えようとしてたのに余計な事しやがって。説明するにしても、直接会って偏見のない状態で言うんで大丈夫です」

 

 敬語が外れたが仕方がないだろう。これから何とかして脚本家と原作者の蟠りを解こうとしようとしているのに俺が近い状況に陥りそうだった。勘弁してくれ。

 

『わかったわかった。そうムキになるなよ』

「誰のせいだと思ってんだ」

『そもそもはお前のせいだろ』

「……そもそもはな。でもあそこで言う必要なかったろ」

『それはすまん』

 

 そもそも論を言い始めたら俺なのだが、明らかに言う場面ではなかった。

 

『ってか、何やろうとしてんだ?』

「別に大したことは。待っているのもあれなんで、脚本家と原作者間でさっさと納得した脚本作って貰おうかと」

『良いんじゃね。このまま変な脚本になったり、お蔵入りになるよりかは良いと思うぜ』

 

 とりあえず主演俳優の合意は取れた。

 

 改めてあの件は他言無用だと念押ししてから、チャットの方にも話題になっていた昨日の件について返事をしようとした所で有馬と黒川からそれぞれ個別に連絡が来ていて手が止まる。

 

 何かを吐き出すかのように溜息が出る。

 

「……まずは朝飯食べるか」

 

 頭の回転をより良くするためにも、エネルギーは必要。現実逃避するかのように、それはそっとスマホの画面を消した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。